その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

塩野七生 『ローマ人の物語 16 パクス・ロマーナ (下)』

2010-10-31 19:39:49 | 
 ローマ帝国の繁栄の礎を築いたアウグストゥスが58歳から76歳で死ぬまでの統治後期を描きます。

 政治家にとって「必要な資質は、第一に、自らの能力の限界をすることもふくめて、見たいと欲しない現実までも見据える冷徹な認識力であり、第二には、一日一日の労苦の積み重ねこそ成功の最大要因と信じて、その労をいとわない持続力であり、第三は、適度の楽観性であり、第四は、いかなることでも極端にとらえないバランス感覚であると思う。六十代に入ってのもアウグストゥスは、このすべてを持ちつづけていた。」(p24)

 というアウグストゥスですが、後継者については、あくまでも「血」に執着しながらも血縁の後継者すべての死なれ、結局、一度は袂を別ったティベリウスを後継者指名することになります。筆者はこのアウグストゥスの血へのこだわりを「執着」よりも「執念」、さらに「妄執」とまで呼んでいますが、卑近な例ながら、現在の経営者、政治家、いろんなところでまだ「血」へのこだわりは続いていますので、人間の本性というしかないのでしょう。

 ティベリウスという最適な後継者を得て、アウグストゥスは76歳で死を迎えます。欧米歴史家たちの古代ローマへの評価は必ずしも良くないらしいのですが、筆者は正面から異を唱えます。「カエサルが考え、アウグストゥスが・・・確立に努めた帝政とは、効率よく機能する世界国家の実現であった」。「効率よき国家の運営と平和の確立という時代の要求の前に、」カエサルとアウグストゥスは、「共和政を廃止帝政をウツ建てる」という選択をしたのです。

 本巻最後の一文は、現代社会を生きる我々にも深く考えさせられます。「物産が自由に流通してこそ、帝国自体の経済力も向上し、生活水準も向上するのである。そして、それを可能にするのが、『平和』なのであった。」(p123)

 蛇足ですが、ドッキとした一文を紹介します。

 「著作の理解度とは、所詮はそれを読む人の資質に左右されずにはすまない。」(p105)

 その通りですよね。
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