その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ROH/ サンドリオン (マスネ)

2011-07-10 20:41:47 | オペラ、バレエ (in 欧州)
 ロイヤルオペラ今シーズンのラストプログラムはマスネの「サンドリオン(シンデレラ)」。きっと夏休みの家族向けも意識してのプログラムなのでしょう。私自身は、一昨年、「セビリアの理髪師」ロージナ役で、足を大怪我しながらも車椅子で出演し続けたジョイス・ディドナート(こちら→)がお目当てです。彼女のこの公演を、もうかれこれ1年心待ちにしていました。

 ところが・・・、思いもしない大ポカをしてしまいました。夜の公演に備え昼寝までして準備万端で出掛けたはずなのですが、オペラハウスに入る前に、水を買っておこうと思い地下鉄の売店に立ち寄ったら、なんと財布を部屋に忘れてきたことに気がつきました。ただの財布忘れなら問題ないのですが、そこにはチケットをボックスオフィスで引き取る際のクレジットカードが入っているし、免許証など私のIDが全て入っています。このままでは私が誰であるかは全く証明できず、チケットを引き取るができません。とりあえず出かけてごり押ししようかとも考えましたが、開演前の大混雑のBoxOfficeでそんな交渉がうまくいくとも思えません。やっぱり、財布を取りに戻って、出直すしかないとの結論に至りました。開演まであと40分。どう見ても開演には間に合いません。自分の情けなさに呆然と立ち尽くしてしまいました。気を取りなおし、取りに戻り、開演におくれること20分。こりゃ、途中休憩までバカ待ちだなあと思いながら、チケットを引き取り(係員から「もう始まっていますから、中間の休憩までシアター内には入れませんよ」と、傷口に塩を塗るようなことを言われ、更に傷つきながらとりあえずロビーへ入りました。

 しかし、人生、悪いことがあれば、良いこともある。ロビーの係のおばさんに「休憩まではどうしても入れないの?立ち席で良いから中に入れてよ」と話しかけたら、「貴方の席には休憩時間が始まる8時15分までは座れませんよ。でも、入りたければ、今日はボックス席に少し空席があるから、そこなら、今から案内してあげるわ。そのかわり、休憩時間になったら自分の席に移るのよ」と、神様のような返事が返ってきました。一挙に、地獄から天国にはい昇った感じ。そいて、懐中電灯を持ったお兄さんが、普段、一般客は入らない裏階段を通って、公演中さなかに、2階の舞台袖近くのボックス席に案内してくれました。もうロイヤルオペラハウスにはきっと30回以上は足を運んでいますが、ボックス席は初めてです。オーケストラや舞台を直ぐ目の前で、直ぐ上から見下ろす眺めの良さは素晴らしいです。全くのオペラグラスいらずで、顔の表情までが手に取るように分かるし、歌も楽器の音もダイレクトにぶつかってきます。加えて、ボックス席ということで、なんとなく漂うリッチな、ハイソサイティの香り。最初の25分を見れなかったのは残念でしたが、貴族様になった気分を味わえました。

(ピンボケですが、Box席からの眺め)


 というわけで、ボックス席から途中参加したオペラでしたが、公演も素晴らしいものでした。

 お目当てのジョイス・ディドナートは繊細かつ美しい歌唱です。決して美人ではないですが、チャーミングで舞台映えします。そして、今回ディドナートと並んで素晴らしかったのは王子役のAlice Coote (アリス・クート)。ディドナート顔負けの声量の上に透明感のある美しい歌唱でした。男役もとってもはまっていて、確かに彼女が王子役なら、ちょっとしたイケ面男性歌手よりもよっぽど格好いいです。その他の歌手陣も押し並べて出来で、とってもハイレベルでした。お母さん役のEwa Podlesの演技、お父さん役John-Owen Miley-Readの落ち着いた存在感も舞台を盛り上げていました。

 そして歌手に負けず素晴らしかったのはオーケストラ。指揮者のBertrand de Billy (ベルトランド・ドゥ・ビリー)は私には馴染みのない指揮者ですが、オーケストラのコントロール、音楽の引きだし方が素晴らしかったです。もともと美しいマスネの音楽をこれいじょうは無いのではないかというほど、うっとり優雅に演奏してくれました。

 演出も派手さはないものの、所々に工夫が見られ、感じの良い舞台でした。

 シンデレラはロッシーニのチェルネントラを通算4回は見ているので、どうしてもそっちのイメージにひきづられてしまうのですが、このマスネのシンデレラは確かに音楽は美しいですが、全体的にはやや冗長感が残ります。それが、これだけ素晴らしい歌手陣、演奏、演出がありながら、どうも時々ちょっと退屈してしまう一因かと思いました。まあディドナートを聴けたし、ボックス席にも座れたし、自分としてのシーズン締めくくりとしては十分でした。

(ジョイス・ディドナート)


(アリス・クート)


(お揃いで・・・)
 


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Cendrillon

Saturday, July 9 7:00 PM

Credits
Composer Jules Massenet
Director Laurent Pelly
Set designs Barbara de Limburg
Costume designs Laurent Pelly
Costume designs 2 Jean-Jacques Delmotte
Lighting design Duane Schuler
Choreography Laura Scozzi

Performers
Conductor Bertrand de Billy
Cendrillon Joyce DiDonato
La Fée Eglise Gutiérrez
Le Prince Charmant Alice Coote
Madame de la Haltière Ewa Podles
Pandolfe Jean-Philippe Lafont
Noémie Madeleine Pierard§
Dorothée Kai Rüütel§
Roi Jeremy White
Doyen de la Faculté Harry Nicoll
Surintendant des Plaisirs Dawid Kimberg§
Premier Ministre John-Owen Miley-Read
コメント (4)
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