目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

謎が解明?『死に山』

2018-11-10 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

 『死に山――世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件の真相》』ドニー・アイカー著、安原和見訳(河出書房新社)

先日朝日新聞読書面で、横尾忠則氏が結局真相はわからずじまいで残念、的な書評を書いていたのがこの本。ただ、これが真相なのではないかという著者の鋭い分析(後述)が巻末に書かれていて興味深い。

事件は、1959年の冬に起きた。冷戦下のソ連・ウラル山脈に山登り好きのウラル工科大学の学生たちを中心にした9人のパーティが食糧とテントをもって入った。ある日彼らは一斉に命を落とすことになる。発見された死体は異様だった。ある者は肋骨を何本も折り、ある者は頭蓋骨骨折、ある者は舌がなくなっていた。一方では、服が焼け焦げていたり、火傷を負っていたり、まるで強風から身を守るように木につかまった状態で見つかった者もいた。不気味なのは、全員から放射線が検出されていることだ。そしてほぼ全員の死因は低体温症。テントは残されているものの、皆登山靴もはかず、しかも薄着だったという。いったい何が起きたというのか。

この本では、時系列で事件までのウラル工科大ディアトロフ一行の足跡をたどるとともに、事件直後の捜索隊の動きを並行して描く。同時に著者ドニー・アイカーが現地に入り両者の行動を忠実にたどって検証作業を進めていく過程も克明に描写する。この3つのストーリーが交錯して書かれていて、読者にどうだといわんばかりに、たたみかけてくる臨場感を生んでいる。

最終的には、この事件の原因と思われるもの、引き金になったと考えられるものや背景を消去法で一つひとつ、つぶしていく。
●この土地と深い関わりをもつマンシ族のしわざ
●雪崩に巻き込まれた
●強風に急襲された
●武装集団に襲われた
●兵器実験(ロケット実験/放射線関連の実験)の現場に知らずに進入していた
●火球が降り注いだ
●エイリアンが襲来した
●機密扱いになっている?

著者は理由を挙げ、上記をすべて否定する。しかし、取材過程で科学者から得た仮説に関心を抱き、ある結論に達することになる(ここからネタばらしなので、これからこの本を読もうという方はご注意を)。

それは、特定の気象条件下で生じる超低周波の影響の可能性が高いというものだった。左右対称のドーム型の地形で起きやすいとされているカルマン渦列と呼ばれる2本の竜巻。その2本の竜巻の間に超低周波は発生する。そのカルマン渦列がテントの両側を通過したのではないかと著者は推測している。真の暗闇の中で、超低周波で引き起こされる胸を圧するような不快な事態に遭えば、恐怖にかられ、本能的に咄嗟にテントからの脱出を試みるのではないか。テントの周りは雪の下に岩が隠れているところもあり、転倒したり、滑落すれば、大怪我につながる場所だった。また零下30度の気温で、テントから軽装で飛び出せば、無論長居はできず、低体温症になり動けなくなる。見つかった死体には、火傷のあとがある者がいたが、それは、乾いた枝を見つけ、懐に縫い付けてあった非常用マッチで焚き火をしたのではないかと推測している。ただ火が弱ければ、外気にさらされた体からは容赦なく体温は奪われていき、あっという間に低体温症に陥る。意識を失えば皮膚が火にさらされ続け、火傷を負う。

私には十分納得がいく仮説だったが皆さんはどうだろう。詳細は本を読んでほしい。

それにしても、こんな特殊な気象条件に偶然にも遭遇してしまった不運は、呪うべきものだったといえる。冬とはいえ、こんな目に遭わなければ、トレッキングを続け計画どおりに帰還するだけの力量を彼らはもっていたのだから。未知なる自然現象は、もしかしたら気づいていないだけで、まだまだ私たちの目の前に横たわっているのかもしれない。

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
クリエーター情報なし
河出書房新社

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高潮ってなんだ? | トップ | 愛車フォレスター、やっぱり... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

山・ネイチャー・冒険・探検の本」カテゴリの最新記事