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いわき鹿島の極楽蜻蛉庵

いわき市鹿島町の歴史と情報。
それに周辺の話題。
時折、プライベートも少々。

小説 カケス婆っぱ(3)

2013-02-26 06:32:08 | Weblog
                                            分類・文
     小説 カケス婆っぱ
           第31回 吉野せい賞奨励賞受賞          箱 崎  昭

 トンネルを通り抜けると左側にバラック建ての華奢(きゃしゃ)な家が4,5軒寄り添うようにして建っている。
 山の斜面に危なっかしく張り付いたような家は、おそらく流浪の炭礦夫が勝手に建てて居座っているのだろうと思われる。
 このバラック小屋を最後に、暫らくの間は人家が無くなくなり道幅も極端に狭くなって、山と山が2人を圧迫するかのように身近に迫ってきていた。
 土砂道の両端にリヤカーが通った痕跡があり、その凹みが人家のある方へ案内しているように思えた。
           
 薄暮の陽射しは弱々しそうに山の中腹を照らしているが、どこからか山鳩が日暮れの早いことを知らせて啼いている。
「随分遠いんだな、おらあ足が痛くなってきたよ」
 和起が眉間に皺を寄せて訴えた。
 キクは和起の顔を見ながらウン、ウンという仕種をして頷いた。
「だから婆ちゃんが駅に着いたときに最初に、頑張って歩くべなと言ったっぺ。頑張れえ」と元気付けて笑って見せた。
 和起は本当に足が痛くなっていたし、キクもそれは充分に承知していた。
「もう少し歩くと農家がポツンポツンと見えてくっから、そうしたら着いたも同然だ。暗くなんねえ内に行けるようにすっぺな」
 米田まで来ると確かに農家が散在し田圃も一段と広がりを見せてきた。走熊(はしりくま)に近いことを知らせている。
 和起は道端にしゃがみ込んでしまいたい心境だったが、キクが「もう少しだ」と言うので我慢して歩いた。
「和起、見えてきたぞ。あそこが婆ちゃんたちが住む所だ」
 キクが大きな声を張り上げて前方に見えてきた小高い山の上を指差して言った。
 2人は山峡の道を辿り歩いて、やっと総福寺を目前にした。
 寺は雑木林に全体が覆われていて裏山からは見えなかったが、落葉樹の隙間から僅かに数基の墓石を確認することができた。
 三和橋を渡り右方向に曲がって半周するように進むと、中腹に鹿島村役場があり、その下の道を100メートルほど先へ行ったところに寺へ上る階段があった。
 切り通しに出来た階段は粒子の粗い大谷石で、どの石も湿気を含んで隅々には青苔をを蓄えていた。
 両側の法面が熊笹で覆われている。
 境内に上るまでに幾つも泥土の踊り場があって、踊り場ごとに出来て間もない複数の足跡が境内に向いて付いている。すでにの人たちが集まり、2人を待ってくれているのが分かった。
 石段を上り切ると境内に入るが、その入口に松福院総福寺と刻まれた白御影の石柱が彫りを深くして迎えているようだった。

     (二)
 キクと和起が境内に顔を見せたのと同時に、本堂正面にいた何人かの内の1人が叫んだ。
「中村さんが来たぞー」 (続)
            
コメント
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