いわき鹿島の極楽蜻蛉庵

いわき市鹿島町の歴史と情報。
それに周辺の話題。
時折、プライベートも少々。

カケス婆っぱ (22)

2009-02-08 07:35:29 | Weblog
 旅館を出ると露地でも人通りは多かったが、上野の駅前へ出て行くと比較にならないほど人も車も往来が激しくなっていた。
 人それぞれの思いでうごめく都会の喧騒な一日が、慌しくそして何かを追い求め合ってスタートしたようだ。
 和起はキクの歩調に合わせるようにして、広小路側から広い階段を上がり西郷隆盛の銅像前を横切って上野界隈を一望できる場所のベンチに腰を下ろした。
 周囲の人達の会話から地方出であることが窺えたし、身なりや持ち物からも一見して判断できた。
 キクも和起もここが何故か都会でありながら、気が休まる空間であるような感じを受けた。
 キクが立ち上がってアメ横から広小路辺りを黙視していたが、車の渋滞や電車が絶え間なく発着する光景から和起に語りかけた。
「人間て面白いもんだなあ、みんな自分のために働いているように見えるけどもこうしてジッと見ていると他人さまの役に立たないことには生きていけねえんだな」
 何気ない言葉だったが和起の心情を捉えた。
 述懐にも似たキクの言うことは確かに的を射ていた。
 働いて給料を得るということは他人の役立った証としての報酬であって、店や会社は中継点なのだ。
 根本的には人と人とは皆、何らかの関連性を持って共に生き合っているものだと和起には理解できた。
 風もなく日当たりの良い場所で寸暇を惜しんだが、汽車に乗る時間に合わせるようにして駅に向かった。駅舎の中も例外なく乗降客や送迎の人たちで混雑していたが和起は手際よく乗車券を購入してきた。
 ホームに入る前にキクが富田の家へ持っていく土産物を買うと言って売店のケース棚を覗きはじめた。
 和起が、その間に駅弁と娯楽雑誌を購入した。
 常磐線の各駅停車仙台行きは八番ホームから発車する構内放送が流れて、間もなく列車が入線することを告げている。
 ホームの時計は十一時十五分を指していた。 《続く》
 
コメント
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