ベルンハルト・モールバッハ著の『バロックの音楽世界』(法政大学出版局)は、「当時を代表する理論家マッテゾンをはじめデカルト、キルヒャー、ライプニッツらの音楽論を参照し、多数の譜例と図版によりバロック音楽の楽理的特徴と歴史的・社会的背景を解き明かす」大著です(著者の『中世の音楽世界』と『ルネサンスの音楽世界』をふくめ三部作が完結しました)。
もともと600頁ほどの大著なうえに、CD-ROMも付属しており、楽譜や資料が多数収録されていて、PCさえあれば、ながめているだけもおもしろいですね。ただし、中世、ルネサンスには音楽もふくまれておたのですが、バロックについては音楽がなくなっています。これは「この時代の音楽は付録のCDにふさわしくないのと、そもそも、それは一般のCDで入手可能なものが多いから」だとのことです。
訳はほかの『音楽世界』と同じく井本晌二。たいへんな労作に感謝したいところですが、手持ちの初版第1刷には誤りと思われるたいへんな訳語があります。訳語というより、カナ表記なので訳ともいえないのかもしれませんが、それは44頁に3度でてくる「アルカイダ」です。おそらく(というよりまちがいなく)、これは「アルカディア」でしょう。どうしてこうなったかは推測するしかありませんが、なぜかはともかく、ちょっと考えられないまちがいです。