毎日バッハをきいていこう!

一日一バッハ




野田浩資著『音楽家の食卓』は、2020年に誠文堂新光社から発刊されたレシピ本です。もちろんレシピ本といってもただの料理レシピの紹介ではありません。紹介されているのは、「ドイツ三大B」をはじめ、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、リスト、ヴァーグナーゆかりの料理レシピです。伝記でも言及されるハレ聖母教会のオルガン試奏での大ごちそうにもふれられています。ただし、これのレシピはありません。

音楽家の食卓

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『オルガンの芸術』は、2019年に道話書院から発刊されたオルガンの解説本です。「全5章で構成される本書は、第1章から順に読み進むことも、必要な章だけを読み進むことも可能」(刊行にあたって)で、辞書的な利用も楽しめます(読了までにまだまだ時間がかかりそう)。ところで、このブログのように、バッハばかりきいていると(じっさいはほかにもいろいろきいていますが)、オルガンというとバッハ、ドイツということになりがちです。しかし、同書ではドイツをふくめ、イタリア、ネーデルラント、スペイン、フランス、オーストリア・東欧諸国とスイス、イギリス、アメリカ合衆国、その他の地域(以上第4章)、そして日本(第5章)についても解説されています。ともすれば偏りがちな視座を大きく広げることができ、これは同書のすぐれた特色だと思います。

オルガンの芸術

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先日紹介した、礒山雅博士の遺作『ヨハネ受難曲』(筑摩書房)に続き、まだこのブログで未紹介だった同著者の『バロック音楽名曲鑑賞事典』(講談社学術文庫)について紹介しておきます。同書は2007年に発刊された文庫本で、バロック名曲100選について、作曲家や作品の解説ほのか、「個人的な感想や思い出話」が語られています。管理人の所持しているのはこれの第6刷(2018年)のもので、推薦CDやDVDは、古くはなってきているものもあります。バッハについては、「ヨハネ受難曲」をふくめ、23曲が選に入っています。比率としてはバッハは大きめですね。いっそのこと、バッハをのぞき100選でもよかったように思えるのですが、やはりバッハがあるなしでは、売り上げがちがってくるのでしょう。事典として実用的かどうかはともかく、おもしろい本であることはたしかです。

バロック音楽名曲鑑賞事典

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受難節にでも紹介しようと思っていた礒山雅博士の遺作『ヨハネ受難曲』(筑摩書房)。この『ヨハネ受難曲』は、博士論文「J・S・バッハの『ヨハネ受難曲』―その前提、環境、変遷とメッセージ―」の一般読者むけとでもいうべきもの。国際基督教大学に提出された学位論文(「内容要旨と審査結果要旨」による)の章立てと、『ヨハネ受難曲』のそれが同一なので、学位論文とはさほど大きなちがいはないとみられます。つまり、一般読者むけとはいえ、かなり専門的で、濃い内容であるこということです。とばし気味に読むというより、じっくり読むバッハ本ということになります。

個人的に興味深かったのは、第3部第10章の「《ヨハネ受難曲》第二稿」です。第2稿による録音が増えるなか、その解説書ぐらいしか概説がなかったのですが、この本では概説とともに、第2稿のみ採用の楽曲の歌詞および音楽についてのまとまった解説があり、愛好家にとっても価値は高いと思います。この労作でざんねんなのは、多くの愛好家が期待していた演奏史について、記述がないことでしょう。一般読者にむけてというなら、それは必須といえるのでしょうが、著者が亡くなっているので、それはもう望むことはできません。

ヨハネ受難曲

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『グレン・グールドは語る』(ちくま学芸文庫)は、グレン・グールドが死の前年(1981年)に「みずからの音楽や思想を、心を開いて語り尽く」したインタビュー本。心を開かせたのは、グールドの10歳下のジョナサン・スコットで、ふつうならききにくそうな質問もグールドにぶつけており、これにもグールドは真摯にこたえています。手もとの文庫は2016年の第7刷で、グールドの語りのほか、訳者である宮澤淳一のくわしい解説、さらに、ディスコグラフィー、フィルモグラフィーなどが付録されています。今週はグールドの「イギリス組曲」をきいており、本のほうもひさしぶりに手にとって楽しんでいます。なお、扉にスコットによる「グレン・グールドの思い出に」という献辞とともに、芭蕉の句が掲載されています。

鐘消えて花の香は撞く夕べかな(鐘消えて花の香は撞く夕哉)

グレン・グールドは語る

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先々週から先週にかけてきいてきた、ロベルト・ロレッジャンの「J.S. BACH / Violin Sonatas & Partitas / Cello Suites」。副題に「Transcribed for Harpsichord by Gustav Leonhardt」とあるように、グスタフ・レオンハルトの編曲版にもとづく演奏なのですが、楽譜もすでに出版されており、CDの収録順も楽譜の掲載順と同じです。楽譜はベーレンライター社から2017年に出版されたもので、校訂はシーベ・ヘンストラ。序文はスキップ・センペが執筆しています。二人ともレオンハルトに学んだチェンバロ奏者ですね。おもしろいのは、少ないながらも挿入されたレオンハルトの手稿写真。連桁のカーブのつけかたが、バッハの手稿から筆写したからなのか、バッハのそれにちょっと類似しています。

BACH-LEONHARDT · Suiten, Partiten, Sonaten

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日本チェンバロ協会の年報、『日本チェンバロ協会 年報 2019 第3号』が5月に発行されました。第3号はすでに紹介した創刊号、第2号より60頁ほど頁数が増え、内容も充実したものになっています。第2巻に収録された、ヨーハン・ペーター・ミルヒマイアー『正しいピアノフォルテ奏法』(1797年)の第1章、第2章の訳に続き、楽しみにしていた、のこりの第3章から第6章までの訳出も予定どおり掲載されています。

第3号で興味深かったのは、荒木紅の海外レポート「古楽×モダン──ベルリンから見た現在と未来」です。このブログでは、ピリオド楽器中心にさまざまなバッハをきいているのですが、いわゆるモダンの若い世代の演奏家や団体が、ピリオド・アプローチについてずいぶん研究していると感じることもしばしば。モダンの奏者からの拒否反応が強かったころからすると、隔世の感があります。

日本チェンバロ協会 年報 2019 第3号

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ベルンハルト・モールバッハ著の『バロックの音楽世界』(法政大学出版局)は、「当時を代表する理論家マッテゾンをはじめデカルト、キルヒャー、ライプニッツらの音楽論を参照し、多数の譜例と図版によりバロック音楽の楽理的特徴と歴史的・社会的背景を解き明かす」大著です(著者の『中世の音楽世界』と『ルネサンスの音楽世界』をふくめ三部作が完結しました)。

もともと600頁ほどの大著なうえに、CD-ROMも付属しており、楽譜や資料が多数収録されていて、PCさえあれば、ながめているだけもおもしろいですね。ただし、中世、ルネサンスには音楽もふくまれておたのですが、バロックについては音楽がなくなっています。これは「この時代の音楽は付録のCDにふさわしくないのと、そもそも、それは一般のCDで入手可能なものが多いから」だとのことです。

訳はほかの『音楽世界』と同じく井本晌二。たいへんな労作に感謝したいところですが、手持ちの初版第1刷には誤りと思われるたいへんな訳語があります。訳語というより、カナ表記なので訳ともいえないのかもしれませんが、それは44頁に3度でてくる「アルカイダ」です。おそらく(というよりまちがいなく)、これは「アルカディア」でしょう。どうしてこうなったかは推測するしかありませんが、なぜかはともかく、ちょっと考えられないまちがいです。

バロックの音楽世界

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先週、その創刊号(2017年)を紹介した日本チェンバロ協会の年報。すでに第2号(2018年)も発刊されているので、そちらも紹介しておきます。第2号でいちばん興味をもって読んだのは、ヨーハン・ペーター・ミルヒマイアー『正しいピアノフォルテ奏法』(1797年)の第1章、第2章を翻訳した研究ノート。小沢優子、久保田慶一の労作で、第3章から第6章までは第3号に掲載予定ということですから、これで第3号の購入が決定しました。

日本チェンバロ協会 年報 2018 第2号

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まえまえから紹介しようと思っていた日本チェンバロ協会の年報。いまきいている桒形亜樹子が2017年の創刊時に副会長を務めていたことでもあり、そろそろ投稿すべき時期がきたようです。年報は2017年の発刊(アルテスパブリッシング)。創刊号のつねとして、会長の久保田慶一のあいさつにはじまり、小林道夫のインタビュー、フローベルガー生誕400年にちなんだ論文が3本など、152頁の充実した年報となっています。ちなみに、個人的には、「ジローラモ・フレスコバルディは献呈相手をどう選んだか(副題省略)」(大岩みどり)を、いちばん興味深く読みました。ともかく、こうした年報が発刊されるということは、一愛好家としてもうれしいかぎり。すでに年報は2018年のものも発刊されていますから、これが2019年、2020年と、ずっと続いていくよう期待したいところです。

日本チェンバロ協会 年報 2017 創刊号

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樋口隆一著の『ドイツ音楽歳時記 民謡とバッハのカンタータで綴る』(講談社)は、1987年10月に発刊されたエッセイ。もともとは、「ドイツ音楽歳時記」(「朝のミュージックライフ」)というシリーズ名で放送されたラジオ番組で、これをもとに書き下ろされたものです。歳時記の軸となる教会暦は待降節からはじまるわけですが、日本の読者を意識して、新年から春夏秋冬の順で進められる構成。教会暦の背景となる四季が概観でき、バッハのカンタータやオラトリオをきく副読本として、なかなか楽しめるエッセイです。

ドイツ音楽歳時記

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『バロックのヴァイオリン奏法』(シンフォニア)は、『The Art of Playing on the Violin』(冒頭のみ。長題なので省略)の全訳本です。1751年、ロンドンで出版された譜例多数の原著は、アルカンジェロ・コレッリ(1653~1713年)の高弟、フランチェスコ・ジェミニアーニ(1687~1762年)の手になるもの。訳本には原著にくわえて、サイモン・モリス(イギリスのチェロ奏者)による「ジュミニアーニの『ヴァイオリン奏法』について」という解説が付されており、一愛好家にとってはジェミニアーニの原著部分より、モリスの解説のほうが有用かもしれません。

ジェミニアーニの原著でおもしろいのは「まえがき」のくだり。つまり、「おんどり、かっこうどり、ふくろうなどの鳥の鳴き声、ドラム、フレンチ・ホルン、トロンバ・マリーナなどを真似たり、また変な格好をして指板の一方の端から他の端まで手を急に移動したりするなど、音の芸術というよりもむしろ手品師や格好のよさを好むといった類いの音楽愛好家は、この本からは何も期待してはならない」との言です。アカデミックで品のよい音楽家だったコレッリの弟子らしい「いかにも」な批判で、ヴィヴァルディや、のちの時代のパガニーニ、さらには現代のパンクロッカーまで(そのファンたちも)耳が痛そうです。

バロックのヴァイオリン奏法

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『ヴァイオリン・ハンドブック』は、2013年、ミュージックトレード社から発刊された、題名どおりのヴァイオリン解説本です。著者の山口良三による月刊「ミュージックトレード」での連載を再構成しまとめたもので、ヴァイオリンの購入しようとされているかた、すでに所持されているかたに便利な本となっています。ヴァイオリン音楽のきき手にとって有用なのは、第1章の「ヴァイオリンの誕生と歴史」と第5章の「音色の秘密~オールドヴァイオリンの魅力」ぐらいでしょうが、それはこの本の主たる読者を「ヴァイオリンに興味をお持ちの方、ヴァイオリンを勉強されている学生の方、アマチュア奏者の方、総合楽器店のご担当者、スクールオーケストラの弦楽器指導者の方々」としているためです。

ヴァイオリン・ハンドブック

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『パイプオルガン入門 見て聴いて触って楽しむガイド』(春秋社)は、オルガン奏者、椎名雄一郎が著したオルガンの入門書。「15歳の時にオルガンの美しさに魅せられ」(まえがき)た著者が、5章にわたってオルガンについて平明に記しており、オルガン音楽を楽しむための良質のガイドブックとなっています。バッハはもちろん、それ以外の作曲家、またドイツ以外の地域のオルガンやその音楽についても幅広くあつかわれています。オルガン音楽というと、ともすれば、バッハ以外、ドイツ以外を軽視してしまいがちです。しかし、そうした広い視座はバッハ、そしてその演奏を理解するうえで、とても重要なことだと思われます。

パイプオルガン入門 見て聴いて触って楽しむガイド

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『楽譜から音楽へ』は、フルート奏者バルトルド・クイケンの著作で、2018年、道話書院から出版されました。副題として「バロック音楽の演奏法」とありますが、「古楽(Early Music)をどのように演奏するかを解説した実践的な手引書ではない」(同書「はじめに」)とのこと。このブログで紹介したトン・コープマン著の『トン・コープマンのバロック音楽講義』との共通性は、ここに唯一無二の「こたえ」がないところでしょうか。ともかく、一愛好家にも読みやすく、さまざまなテーマが論じられ、「聴衆の態度」という項目もあります。なお、この本で一番驚かされたのはⅢ頁にある、松尾芭蕉の「古人の跡を求めず、古人の求めたるところを求めよ」のことば。バルトルドが、これを前々から知っていて引用したものなのか、とても気になるところです。

楽譜から音楽

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