毎日バッハをきいていこう!

一日一バッハ




『J.S.バッハ:《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》』は、音楽之友社の「ON BOOKS advance もっときわめる! 1曲1冊シリーズ」として、2023年8月10日に出版された良書。著者は那須田務で、第1章「《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》の魅力と楽しみ方」、第2章「《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》の楽曲について」、第3章「《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》の演奏史・名盤」と、無伴奏ヴァイオリンのための6曲が新書100頁ほどに平明に解説されています。

6曲についてのまとまったほかの解説といえば、専門的な本をのぞくと、「J.S.バッハ(作曲家別名曲解説ライブラリー)」(音楽之友社)でしょうが、15頁の解説中、譜例がけっこう紙幅をとっているため、どうしても情報が薄く感じられます。ほんらい紹介は、ボヤン・チチッチの「Bach / Partitas & Sonatas」をきいているさいに紹介するべきだったのですが、うっかり忘れていました。今日はギター編曲ながら、アルカディ・イヴァンニコフによる無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番をきいたので、忘れないうちに紹介しておきます。

J.S.バッハ:《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》

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日本チェンバロ協会の年報、『日本チェンバロ協会 年報 2023 第7号』が2023年6月に発行されました。第7号の特集は、(1)2012年の日本チェンバロ協会の設立、(2)創立10周年、(3)ウィリアム・バードの没後400年の3つ。個人的に興味深かったのは、(2)にかかわる2022年5月21日の座談会で、コジマ録音の小島幸雄がパネリストを務められていたことです(いわゆるハイレゾなどについての発言)。録音についてはハイレゾに関係して、「耳に聞こえない高周波が音楽の感動を高める」という、とてもおもしろい講演(2022年5月20日)も掲載されています。(3)のバードの没後400年としては、このブログでも何度もきいているピーテル・ヤン・ベルダーによる寄稿が掲載。このベルダーの論文は、わたしたちにバードのすばらしさを教えてくれます。また、チャールズ3世の戴冠式で、バードの「われらを導きたまえ、おお主よ」が歌われており、日本でも耳にされたかたが多いのではないでしょうか。

日本チェンバロ協会 年報 2023 第7号

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全音楽譜出版社から発刊された、二部からなる『正しいクラヴィーア奏法』(東川清一訳)。著者はカール・フィリップ・エマヌエル・バッハで、『正しいクラヴィーア奏法に関する試み』(1753年)と『正しいクラヴィーア奏法 伴奏と自由なファンタジーの教則が論じられる第二部』(1762年)が、それぞれ、第一部、第二部とされています。ずいぶんまえから同書を紹介しようと思っていたのですが、今週きいているアンドラーシュ・シフの「J.S. Bach: Clavichord」で、シフがこの教則本に言及していたため、この機に紹介しておくことます。シフは同書を、イギリスの鍵盤楽器奏者、ジョージ・マルコムからのクリスマス・プレゼントとしてもらったらしく、同書を「最上で最重要な書」(「J.S. Bach: Clavichord」解説)と述べています。同書の著者エマヌエルも同書第一部において、クラヴィコードきわめて高く評価。すでに通読はしていますが、この機会にクラヴィコード関連の言及個所だけでも、ひろい読みしておくことにしましょう。なお、写真は『正しいクラヴィーア奏法に関する試み』第一部です。

正しいクラヴィーア奏法

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春秋社から2022年10月31日に発刊された『チェンバロ大事典』。紹介しようと思いつつ、はや発刊から半年がすぎてしまいました。ほぼ500頁の事典ですが、ソフトカバーということもあり、手に取って読むぶんにも、さほど重くはありません。「チェンバロ、クラヴィコード、ピアノフォルテなど歴史的鍵盤楽器をとことん知る一冊!」で、「鍵盤楽器の500年に亘る歴史を一望」(ともに帯のコピー)するものとなっています。同事典は日本チェンバロ協会10周年記念誌として企画されたということ。執筆者にはチェンバロ奏者を中心に、研究者、調律師、製作家と多彩な名がならんでいます。構成は多岐にわたっていて、チェンバロ/クラヴィコード/ピアノフォルテ/作曲家・演奏家/演奏法/記譜法/通奏低音/教則本/曲集/ジャンル/音楽理論/楽器製作者/音律と調律/メンテナンスの14章です。また、付録として、「種々の鍵盤楽器の仕様・音域の一覧表」が第14章のあとにおかれています(付録執筆者のイニシャルは「WY」とあるのですが、巻末の執筆者プロフィールに該当者はいません。タイプミスなら「WT」の渡邊孝の可能性も)。同事典、チェンバロ愛好家は必携でしょう。

チェンバロ大事典

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アンドルー・パロットの『The Essential Bach Choir』は、じつにおもしろい著作です。同書は2000年にBoydell Pressから出版されたのですが、手元にあるのは2001年の再版。書名は「本来のバッハ合唱団」と訳せるかと思いますが、バッハが想定した合唱団がOVPP(One Voice Per Part)、ないしは2VPPであったことをさまざまな資料から考証したものです。紹介がずるずる遅れて、すでに出版から20年が経過してしまいましたが、まだまだ読む価値はあると思います。

著者のパロットは1947年生まれのイギリスの指揮者、研究者で、このブログでもOVPPや2VPPでの録音を紹介しています。2008年の投稿「OVPPによる演奏」でふれたOVPPでの録音はさらに増え、あのジョン・エリオット・ガーディナーも、BWV198を2VPPで演奏するようになっています。演奏会場の規模や作品などを考慮した上での例外的な適用と思われますが、ジョシュア・リフキンやパロットが投じた一石は、いまも波紋を広げつつあります。

The Essential Bach Choir

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日本チェンバロ協会の年報、『日本チェンバロ協会 年報 2022 第6号』が今年も5月に発行されました。第6号の特集のひとつは「レクチャー・コンサート:ルッカースのチェンバロの世界」(渡邊順生/聞き手:鴨川華子)。ちょうど、アンドレアス・ルッカースのチェンバロを弾く、トン・コープマンとモニカ・ハジェットとのヴァイオリン・ソナタ集をききはじめたということもあり、遅ればせながら紹介しておきます。ルッカース関連では、「ルッカース・ファミリーの歴史と楽器(その1)」(野村滿男)という研究論文も掲載されており、日本チェンバロ協会の年報にふさわしい、充実したものとなっています。個人的におもしろく読めたのが、渡邊温子の「講演:故国をはなれて活躍した音楽家たち」です。メキシコや中国に赴いた2人の音楽家が紹介されていますが、織田信長が天下統一していたら、日本にもすぐれた音楽家が派遣されることになっていたかもしれません。

日本チェンバロ協会 年報 2022 第6号

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日本チェンバロ協会の年報(第5号)の紹介でふれたハリー・ハスケルの『古楽の復活』。同書は有村祐輔の監訳で、1992年に東京書籍から出版。副題として「音楽の『真実の姿(オーセンティシティ)』を求めて」とあるように、同書では、歴史の中での「古楽」の定義や「オーセンティシティ」の意味、そして19世紀から20世紀までの「古楽」の復活史が解説されています。原書は1988年に出版されており、その後「古楽」はますます進展(あるいは解体)し、著者もその展開を想像することはできなかったと思います。このブログの関連でいうと、第9章は「バッハを『彼の流儀で』弾く」とバッハに割かれています。また、監訳者のあとがきも充実しており、読みごたえがあります。

古楽の復活

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日本チェンバロ協会の年報、『日本チェンバロ協会 年報 2021 第5号』が5月に発行されました。入手してからずいぶん月日が経過してしまいましたが、第5号につてかんたんに紹介しておきます。第5号の特集は「古代ギリシャ・ローマと音楽」と「ルッカースのチェンバロ」。どちらも興味深いのですが、個人的には、「カミーユ・サン=サーンスにとっての『古楽』と『古典』」が楽しめました。古楽復興におけるサン=サーンスの業績は、ハリー・ハスケルの『古楽の復活』(東京書籍)でも断片的にしか言及されておらず、まとまった研究レポートを読んだのはこれがはじめてです。

日本チェンバロ協会 年報 2021 第5号

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『バロック音楽を読み解く252のキーワード ア・カペッラからサルスエラまで』は、音楽之友社から発刊(2012年)された「バロック音楽に関係する基本的な用語の解説集」です。著者はシルヴィ・ブイスー、訳者は小穴晶子で、ともにフランス・バロック音楽の研究者。原書はとうぜんながら、フランスの読者にむけられており、やはりフランス・バロック音楽関係の用語に精彩があります。

「エール」などは関連用語として、「愛のエール」「イタリアのエール」「エール・ド・クール」「酒のエール」「宗教的なエール」「真面目なエール」が項目としてあげられています(原書はアルファベット順でしょうから、これらがまとまっているはずですが、日本語は50音順なのでバラバラになっているのはざんねんです)。項目の解説では音楽の実例が示されていて、その気になれば音としてきくことも可能です。

「エール」のほかにもバッハをきくさいに有用な解説もあり、一例として「舞曲」をあげることができます。この項目ではさまざまな舞曲の拍の表示、テンポと演奏法、構造、リズムの性格、時代、背景が一覧表にまとめられており、バッハをきくうえで、とても役にたつかと思います。なお、訳者は「最初から最後まで通読する人は少ないだろう」と述べていますが、この事典、通読してもけっこう楽しめます。

バロック音楽を読み解く252のキーワード ア・カペッラからサルスエラまで

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かねて紹介しますといってまだだった礒山雅の大著『マタイ受難曲』。この機をのがすとだらだらいってしましそうなので、受難週のうちに紹介しておきます。紹介するのは筑摩書房(ちくま学芸文庫)から2019年に発刊された『マタイ受難曲』で、これは東京書籍から1994年に発刊された上製本を文庫本として再刊したものです。管理人は東京書籍からの第1刷を所持しており、これにもとづき著者にいくつか指摘していたことがあったため、再刊後、すぐに入手しました。

筑摩書房第1刷と東京書籍第1刷を比較するとそのちがいは、東京書籍第1刷でみられた誤植(閉鎖された著者のウェブサイトにも正誤表が掲載されていました。これは画期的だったと思います)が修正れていたこと(第2刷以降で修正されていた可能性も)。また、補章の「レコード/CDによる演奏の歴史」に2007年までの分を2度にわたって補遺されていることです。ただ気になっていた誤植以外の指摘については、修正や補筆はありませんでした。

指摘したのは187頁の第8曲のソプラノ・アリアの説明で、著者がレチタティーヴォなしに「福音書記者の語りから直接導入されるのは全てのアリアのうちでもこのアリアと〈憐れんでください〉のアルト・アリア(第39曲)だけ」としているところ。じっさいには、「福音書記者の語りから直接導入される」アリアには「こうして、私のイエスは、今捕らわれた」(第27曲)があり、聖句からの「直接導入」ということだと「私のイエスを返してくれ!」(第42曲)があります。

4曲ともユダとペトロの裏切り(とその悔悟)にかかわる聖書の場面の直後で、バッハ(あるいはピカンダー、両者)の意図を感じます。メールでのやりとりでは、「まったく正当なご指摘で、気づきませんでした」ということだったのですが、なにせ20年近くまえのやりとりです、らしいといえば失礼なのですが、うっかり失念されたのか、それとも考察のうえのことなのか、いまとなっては著者が亡くなられたので不明です。

そんな指摘はともかく、安価(税込1980円)で入手しやすくなったので、バッハ・ファン、「マタイ受難曲」ファンでまだお持ちでないかた、必携です。

マタイ受難曲

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「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」シリーズ『バッハ』は、「10歳から読めるクラシック音楽入門書」。購入したのはQRコードを読むことで、じっさいの音楽をきくことができる、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス(YMM)から2019年に発刊された伝記本です。もともとは、リブリオ出版の作曲家物語シリーズ『バッハ』として発刊されたもの。YMMからの発刊は、その増補改訂版というべきもので、伝記というより、「作曲家物語」というほうがしっくりきます。リブリオ出版で発刊されてから、40年近くを経ての増補改訂ということですが、近年の定説からすると、古い研究をもとに記述している部分があります。それを補うのが、著者ひのまどかの強い思い。偏ったバッハ観という批判もできるかと思いますが、「物語」として読むぶんには、けっこう楽しめます。

『音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バッハ』

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日本チェンバロ協会の年報、『日本チェンバロ協会 年報 2020 第4号』が5月に発行されました。第4号の特集は「音律をめぐって」で、桒形亜樹子・藤原一弘・横田誠三「座談会 鍵盤楽器の発展と調律」(司会は大塚直哉)のほか、中川岳「ソーヴールの43分割音律とその適用」と、大岩みどり「作品と音律の関係についての一考察──フレスコバルディはなぜバルベリーニ枢機卿に平均律を推奨したのか」の2本の研究論文が、特集にそったものです。じつは第4号については、まだフレスコバルディの研究論文をざっと目を通したていどで、ざんねんながら、しっかりとは読めていません。しかし、発行から時間がかなり経過したので、とりあえず紹介まで。

日本チェンバロ協会 年報 2020 第4号

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野田浩資著『音楽家の食卓』は、2020年に誠文堂新光社から発刊されたレシピ本です。もちろんレシピ本といってもただの料理レシピの紹介ではありません。紹介されているのは、「ドイツ三大B」をはじめ、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、リスト、ヴァーグナーゆかりの料理レシピです。伝記でも言及されるハレ聖母教会のオルガン試奏での大ごちそうにもふれられています。ただし、これのレシピはありません。

音楽家の食卓

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『オルガンの芸術』は、2019年に道話書院から発刊されたオルガンの解説本です。「全5章で構成される本書は、第1章から順に読み進むことも、必要な章だけを読み進むことも可能」(刊行にあたって)で、辞書的な利用も楽しめます(読了までにまだまだ時間がかかりそう)。ところで、このブログのように、バッハばかりきいていると(じっさいはほかにもいろいろきいていますが)、オルガンというとバッハ、ドイツということになりがちです。しかし、同書ではドイツをふくめ、イタリア、ネーデルラント、スペイン、フランス、オーストリア・東欧諸国とスイス、イギリス、アメリカ合衆国、その他の地域(以上第4章)、そして日本(第5章)についても解説されています。ともすれば偏りがちな視座を大きく広げることができ、これは同書のすぐれた特色だと思います。

オルガンの芸術

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先日紹介した、礒山雅博士の遺作『ヨハネ受難曲』(筑摩書房)に続き、まだこのブログで未紹介だった同著者の『バロック音楽名曲鑑賞事典』(講談社学術文庫)について紹介しておきます。同書は2007年に発刊された文庫本で、バロック名曲100選について、作曲家や作品の解説ほのか、「個人的な感想や思い出話」が語られています。管理人の所持しているのはこれの第6刷(2018年)のもので、推薦CDやDVDは、古くはなってきているものもあります。バッハについては、「ヨハネ受難曲」をふくめ、23曲が選に入っています。比率としてはバッハは大きめですね。いっそのこと、バッハをのぞき100選でもよかったように思えるのですが、やはりバッハがあるなしでは、売り上げがちがってくるのでしょう。事典として実用的かどうかはともかく、おもしろい本であることはたしかです。

バロック音楽名曲鑑賞事典

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