OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジャマルへの目覚め

2007-04-24 18:56:01 | Weblog

このところ、連夜のバンド練習で気合が入っています。まあ、仕事もこの位の熱心さが出ればいいんですが……。

ということで、本日はウルトラ和みの愛聴盤を――

But Not For Me / Ahmad Jamal Trio At The Pershing (Argo)

殊更にピアノトリオ愛好者が多い日本、という事情からしても、これが名盤と認定されたのは何時頃からでしょう。

私がジャズを聴き始めた頃は、マッコイ・タイナーとかチック・コリア、ハービー・ハンコックが御三家で、別格がビル・エバンスという雰囲気でしたし、そのまた上にバド・パウエルとセロニアス・モンクという厳しい神様が君臨していました。

しかし本日の主役=アーマッド・ジャマルという名前は妙に有名で、それはマイルス・デイビスがお気に入りのピアニストであり、その演目&アレンジを借用したり、自己のバンドのピアニストの座を用意していたというエピソードだけが先行していたのです。

実際、1970年代前半のジャズ喫茶で、アーマッド・ジャマルなんて鳴らしていた店がどのくらいあったでしょうか? それが何時の間にかガイド本にも堂々の名盤として掲載されるようになり、再発盤としても定番になったのですから、時の流れは分からないものです。

さて、このアルバムはアメリカでアーマッド・ジャマルの名前を決定的にしたヒット盤で、1958年秋にはアルバムチャート3位にランクされる快挙! もちろんそれはポビュラーチャートなんですから、驚愕です。また同じ音源からはシングル盤が幾枚か発売され、ジュークボックスを中心に売れていたようです。

しかし私には、この作品のどこが良いのか、しばらく理解出来なかったのが本音です。それが1990年代に至り、忽然と目覚めたというか、今では聴く度に快感を覚えるようになってしまいました。

録音は1958年1月16日、シカゴのパーシングホテル内にあったラウンジでのライブ録音で、メンバーはアーマッド・ジャマル(p)、イスラエル・クロスビー(b)、パーネル・フォーニア(ds) というシブイ面々です――

A-1 But Not For Me
 アーマッド・ジャマルのピアノは隙間だらけです!
 トツトツとテーマメロディを弾くんですが、それでさえも端折りがあるというか、メロディのキモの部分しか弾いておらず、その隙間をベースとドラムスが埋めていくという論法が、このトリオの持ち味かと、ひとり納得するしか無い演奏です。
 このあたりはマイルス・デイビスが1950年代に散々やった、例の思わせぶりと同じなんですが、また同時にレッド・ガーランド風のオカズを主食にしたアーマッド・ジャマルの妙技が、一度目覚めると抜け出せない魅力になっています。
 ちなみにこれは逆もまた真なりで、自分のバンドにアーマッド・ジャマルを迎えられなかったマイルス・デイビスが、レッド・ガーランドにアーマッド・ジャマルの物真似を強要した結果だと言われています。

A-2 Surrey With The Fringe On Top / 飾りのついた四輪馬車
 これもマイルス・デイビスの演奏で有名なスタンダード曲ですが、それとアーマッド・ジャマルの演奏は似ても似つかないものです。
 ここでは烈しいアップテンポで疾走するトリオ全体のグルーヴが痛快で、なんとテーマメロディは断片しか弾かれていませんが、演奏全体がキメの連続! そしてその中でバーネル・フォーニアのブラシを中心としたドラムスが最高という出来です。
 あぁ、これはマイルス・デイビスのリズムセクションが常用していたキメと同じじゃないですかぁ~! う~ん、と唸っていたら、最後のオチが和みモードになり、これもレッド・ガーランドが十八番にしていたキメという怖ろしいネタバレがあるのでした。

A-3 Moonlight In Vermont / ヴァーモントの月
 これはスタン・ゲッツのバージョンがあまりにも有名な和み系スタンダードの極みつきですが、この演奏も素晴らしい♪ ゆったりしたテンポで「間」を活かした演奏でありながら、ダレるどころか不思議な緊張感と和みが両立しているんですからねぇ!
 もちろん途中ではワルツテンポを入れたり、アレンジされた部分もありますから、ジャズにおけるアドリブの楽しみというよりも、アーマッド・ジャマルを信じきって救われる演奏だと思います。

A-4 Music, Music, Music
 これはリラックスし過ぎたレッド・ガーランドという雰囲気なんですが、それは逆というのが本当でしょう。トリオ3者の巧みな絡みと自己主張が頂点に達したような演奏で、終始快適なテンポのベース&ドラムス、そして隙間だらけのピアノが絶妙に混じり合って化学反応したとしか、書けません。
 とにかく最高です♪
 
A-5 No Greater Love
 一抹の哀愁を感じてしまう、私の大好きなスタンダード曲を、アーマッド・ジャマルはなかなか抽象的に解釈で聞かせてくれます。あぁ、こんなフェイクはありでしょうか!?
 当にレッド・ガーランドの元ネタがびっしり詰まっていると思います。
 もちろん歯切れの良いドラムスと伴奏が「歌」になっているベースも存在感がありますねぇ♪

B-1 Poinciana
 私が、ある日、忽然とアーマッド・ジャマルに目覚めた演奏がこれです。
 それは1994年の夏でしたねぇ、某海水浴場の海の家でうたた寝していた私の耳に、有線から流れこんできたのです。最初はラテン風のリズムに気を惹かれ、次いで隙間だらけのピアノに快感を覚え、ついには有線局に電話して演奏者を教えてもらったという、ふっふっふっ、です。
 なにしろラテンビートを逆手にとったようなトリオの絡みが素晴らしいビート感に溢れていますし、ふんわりしたメロディフェイクとの相性もバッチリです。
 ちなみにこの演奏はリアルタイムのアメリカでは編集バージョンのシングル盤として発売され、爆発的に売れたそうですが、わかりますねぇ♪
 とにかく一度ツボを刺激されると、何時までも浸りきっていたい演奏なのでした♪
 冷静に聴くと、けっこうプログレというか、今日でも進歩的だと思いますが、それで和んでしまうのですから、アーマッド・ジャマルという人は凄いと思います。

B-2 Woody'n You
 これまたマイルス・デイビスのバンドでは定番演目になっているビバップ曲ながら、ここでのアーマッド・ジャマルは暑苦しい部分をスッパリと切り捨てて、爽快に聞かせてくれます。
 もちろん隙間だらけのピアノをドラムスとベースがサポートするという、このトリオならではの展開が存分に楽しめるのですが、ほとんどレッド・ガーランド・トリオというパートさえありますから、そこは聴いてのお楽しみ♪

B-3 What's New
 オーラスは如何にもという有名スタンダード曲が、そのまんまに演奏されます。
 それは聴き手がこのオリジナルのテーマメロディを知っていることを前提にした演奏であり、端折りの部分やオカズだけ弾いているところを、リスナー自らが補完しなければならないという、言わば参加型の演奏というのがミソ!
 ですからトリオは、かなりあざとい事をやっているんですが、ちゃ~んと和みも提供してしまうんですから、これは一体!?

ということで、かなり抽象的な演奏が多いと思います。通常のスタンダード中心のピアノトリオ物とは明らかに違う仕上がりなんですねぇ~。だから何時聴いても新鮮です。う~ん、これが名盤と認定され、一般的にも爆発的に売れた理由がなんとなくわかったような……。

ちなみにアーマッド・ジャマルというピアニストは、ここでは隙間だらけですが、1970年代に入ってからのリーダー盤ではモード手法も取り入れ、バリバリと音数の多いフレーズやオスカー・ピーターソン風の両手フル使いの演奏も聞かせていますから、土台はテクニシャンなんでしょう。

ここでも隙間だらけなのにダレ無い演奏に纏め上げるところは、流石だと思います。またトリオとしての一体感というか、三位一体の演奏姿勢は、ある意味、ビル・エバンスのトリオと双璧の凄みがあるのかもしれません。

そして実は、私はこのアルバムが名盤と知って、目覚める前に買っていたのですが、2~3回聴いても、どこが良いのか分からずにレコード棚のお邪魔虫にしていたのが、真相! ですから、しっかり愛聴するようになったのは、ここ10年ほどのことですが、けっこう集めたアーマッド・ジャマルのアルバムの中では、やはりこれが好きです。

コメント
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