連休前に仕事の追い込み!
あんまりケツを叩くのは好きではないですが、これも仕事だ! ゼニ儲けだぜっ!
と言い訳しながら、ガツガツやったのが本日です。
そこで――
■The Three (East Wind)
フュージョン全盛期だった1970年代後半には、モロジャズ側から様々な反抗があり、それゆえにジャズ喫茶も最後の黄金期を迎えていたと思います。
このアルバムも、そうした中の花形的な1枚でしょう。
なによりも企画が純粋ジャズの極北にあるダイレクト・カッティングという、前時代的な手法を用いていましたし、同時に参加メンバーが新鮮でした。
録音は1975年11月28日、メンバーはジョー・サンプル(p)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds)! もちろんジョー・サンプルは当時バリバリに人気があったフュージョンバンド=クルセイダーズの主要メンバーであり、またレイ・ブラウンとシェリー・マンはモダンジャズの大御所という組み合わせが、あざといと言う以上に興味深々でした。
つまり表向きはフュージョン対モダンジャズという趣であり、しかし深層には新主流派の隠れ実力者であるジョー・サンプルのモダンジャズ魂と、時にはスタジオの仕事でロックやフュージョンをやっていたレイ・ブラウン&シェリー・マンの物分りの良さが、如何なる演奏を聞かせてくれるのか!?
またダイレクト・カッティングという、所謂一発勝負が、これまたジャズの真髄に迫っているという部分もウリでした。
このダイレクト・カッティングというのは、テープレコーダーが実用化される前の録音手法で、スタジオで演奏された音を直接、レコーディングマスターのラッカー盤に刻むというのがミソです。
つまり塩ビのレコードをプレスする時のハンコを直に作る作業になるわけですから、レコード片面を一気に演奏して、尚且つミスは許されず、もちろんオーバーダビングも出来ませんので、ジャズという瞬間芸には最適のスリルが記録されるという目論みです。またテープを介在していないので、音の良さも抜群でしたが――
A-1 Yearnin'
オリバー・ネルソンが書いたゴスペル風味満点の名曲です。
実はこのアルバムのプロデュースにはオリバー・ネルソンも関わっていたのですが、なんとセッション直前に急逝! そこでメンバーはこの曲を追悼の意味で演奏したそうです。まあ、そういうエピソードを知らされると、尚一層、ソウルフルな気分に満たされるわけですが、なかなかどうして、このグルーヴィな味わいは素晴らしいと思います。
特にジョー・サンプルは真っ黒! とは言え、これはクルセイダーズでのプレイと本質は変わっていないのですから、侮れません。
またレイ・ブラウンとシェリー・マンは気心の知れたコンビネーションで絶妙のリラックス感を生み出しており、流石だと思います。
A-2 On Green Dolphin Street
モダンジャズでは幾多の名演が残されている定番スタンダード曲ですから、安易な姿勢は許されないということで、特にジョー・サンプルが大ハッスル! 初っ端からベテラン組のベースとドラムスをリードしてインタープレイからテーマに入れば、もうスピード感満点の展開にシビレまくりです♪
シェリー・マンのブラシも最高の気持ち良さで、途中から持ち換えるステックもスマートですし、全篇で烈しくも痛快なドラムスを聞かせてくれます。
もちろんジョー・サンプルも烈しく疾走し、モード系のフレーズからハードバップ丸出しのコード弾きまで、ジャズ者の琴線を刺激しっぱなし!
あぁ、この曲にまたひとつ、名演が生まれたというわけです。
A-3 Satin Doll
お馴染み、デューク・エリントンの代表作のひとつ♪ まあ、ビアノトリオ盤には欠かせない人気曲ですから、ここでもリラックスしつつグルーヴィに演奏されますが、前2曲のインパクトがあまりにも強かった所為か、個人的にはイマイチという感じ……。
それでも出来は平均点以上で、中でもレイ・ブラウンの落ち着いたベースワークが秀逸だと思います。
ただしダイレクト・カッティングという企画では、ここまで一気に16分強を押し切って演奏していますから、緊張感に疲れが滲んでいるような……。
B-1 Manha Do Carnaval / カーニバルの朝~黒いオルフェ
さてB面も、ここからの3曲がスタジオで一気に演奏されています。
まずはボサノバの名曲ですが、なんとボサロック調のリズムが強く、それゆえにジョー・サンプルのピアノからはファンキーなフレーズが溢れ出るという趣向に好き嫌いが分かれると思います。
正直、個人的は???
B-2 Round About Midnight
セロニアス・モンクが書いたモダンジャズを代表する名曲です。
ここでの主役はレイ・ブラウンで、最初から繊細な表現でペースを設定し、ジョー・サンプルも幻想的なピアノプレイで応じていくあたりが新鮮です。
そしてこういう静謐な演奏になると、ダイレクト・カッティングのウリである音の良さと緊張感が存分に活かされていると感じます。シェリー・マンの小技の妙もしっかりと録音されていますねぇ。素晴らしいと思います。
B-3 Funky Blues
オーラスはトリオ3人の共作という、タイトルどおりの楽しい演奏です。
シェリー・マンのメリハリの効いたドラムス、絶妙の「泣き」を交えたジョー・サンプルのファンキー節、そして蠢くレイ・ブラウンのベースが一体となっていますから、たまりません♪ 私がこのアルバムの中では一番聴いた演奏が、実はこれです。
ちなみにシェリー・マンのこういう演奏って、意外に上手いので、ちょっと驚きでした。終盤のブレイクなんか、もう、たまらんですよ♪
ということで、これは当時、忽ち大ヒット! アッという間に初回盤が売り切れでした。というのも、ダイレクト・カッティングだけに、作られたラッカー盤に限界がくれば、もうプレスは出来ないわけですからねぇ。
そこでレコード会社は同じ演目・曲順でテイク2を作っていて、つまり再プレス分からは別テイク演奏が発売されています。
残念ながら、そっちは所有していないのですが、友人から聞かせてもらったところ、甲乙つけ難い出来でした。
このあたりは流石に一騎当千の名人ばかりの成せる技でありましょうが、実はこのセッションには綿密なリハーサルがあったと、私は推察しています。というのも、ダイレクト・カッティングの録音には、各楽器の音的な特性やプレイヤーが演奏する際のクセから生じる音の大小に対して、極めて繊細な調整が要求されるからです。しかも演奏されるのが即興がウリとジャズとあっては、尚更、リハーサルが要求されたと思うのですが……。
ただし、それだからといって、モダンジャズのスリルが失われていることはありません。オリジナル盤もテイク2盤もそれぞれに素晴らしく、当に企画の勝利が生み出した人気盤だと思います。
ただしCD時代になってからの再発では、同時に録音されていたテープからリマスターされた音源を使っているようですね。当然ですが、機会があれば、このダイレクト・カッティングからプレスされたアナログ盤を聴いてみて下さいませ。