あぁ、明日から華麗なる連休を楽しむ皆様もいらっしゃるのでしょう。
私は仕事、バンド練習、その他の野暮用でいっぱいです。
しかも先日の人間ドッグ騒ぎから、家族が赴任地にやって来ていますので、監視されているようで……。
はい、バチアタリなのは自分でも分かっているのです。しかし単身赴任というか、久々の独り暮らしを楽しんでいた身分としては、ねぇ……。
ということで、本日は――
■Here Comes Earl“Fatha”Hines (Contact)
ジャズ喫茶の隠れた楽しみが、居眠りです。あの大音量の中で気持ち良いビートに身をまかせて落ちて行く居眠りモード♪
そして、もうひとつの快楽が、そんな夢見心地の中でブイブイと耳を刺激し、ズバ~ンと脳天に杭打たれるジャズの衝撃です。
本日の1枚は、私にとって、当にそうしたブツで、けっこうジャズ喫茶に通い始めた初期の頃に出会ったアルバムです。
もちろんその時も居眠りモードの真っ只中でしたが、ゴリゴリのベースとビシバシのドラムスが心地良く響き、躍動的なビアノがガンガン迫ってくるという、本当にジャズ喫茶ならではの音が快感でした。
で、ドラムスはエルビン・ジョーンズかなぁ……? と思って目を開け、飾ってあるジャケットを眺めると、そこにはアクの強い笑い顔の黒人オヤジが写っていたのです。そして、この人こそ、ジャズの基本を作り上げた偉大なピアニストだったというのは、後に知るわけですが――
録音は1966年1月17日、メンバーはアール・ハインズ(p)、リチャード・デイビス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、異端の強力トリオです――
A-1 Save It Pretty Mama
如何にも古臭い曲ですが、ラテンビートを使った楽しい演奏になっています。
アール・ハインズは既に述べたように、ジャズ創成期から活動してきた黒人ピアニストで、ルイ・アームストロングと共に今日まで続くジャズの基本を作り上げた偉人ですが、そのスタイルは歯切れの良い単音弾きとガンガン迫るブロックコード弾き! つまりナット・コールやウイントン・ケリーらに継承発展された不滅のスタイルが特徴で、ここでもその魅力が全開!
山場で炸裂する打楽器のようなピアノに対抗するエルビン・ジョーンズのシンバルが強烈ですし、終始、真っ黒な蠢きに撤するリチャード・デイビスのベースも流石だと思います。
A-2 Bye Bye Baby
一抹の哀愁を含んだ楽しい名曲を、このトリオは徹頭徹尾スインギーに聞かせてくれます。あぁ、エルビン・ジョーンズのブラシの粘っこさ! リチャード・デイビスの絡みつくベースも秀逸です。
肝心のアール・ハインズは歌心いっぱいの飛跳ねフレーズを連発していますが、「間」の取り方も絶品で、そこを埋めていくリチャード・デイビスのベースも上手いですねぇ~♪ ズバリ、快演です!
A-3 Somke Rings
これも1930年代の曲らしく、演奏は日活酒場のような雰囲気に満たされていますが、リチャード・デイビスのベースワークはモダンそのもの♪ しかしアール・ハインズは全くペースを乱さないのですから、貫禄も実力も完全に上というところでしょうか。
こういう悠然たる態度こそ、偉人の証ですが、全然威張っていない楽しいピアノが、たまりません。
A-4 Shoe Shine Boy
いきなり猛烈に疾走するエルビン・ジョーンズのブラシが鳴り響きますが、アール・ハインズは全く動じることがないマイペースです。もちろんスピード感に満ちたピアノを聞かせてくれますが、大ハッスルするドラムス&ベースを尻目に、緩急自在の思惑が見事に完結し、若い2人は翻弄されっぱなしなのでした。
B-1 The Stanley Steamer
これが、前述した私のアール・ハインズ初体験演奏です。
重量級のドラムスとベースを従えたアール・ハインズは哀愁のテーマを力強く弾きまくり、アドリブパートもその変奏に終始しますが、そこへ襲い掛かっていくのが、リチャード・デイビスとエルビン・ジョーンズですから、強烈です。
曲はアール・ハインズがアルバム・プロデューサーのスタンリー・ダンスに捧げたものですから、必然的に熱も入ろうというもんですが、それにしてもリチャード・デイビスの力強いグルーヴとエルビン・ジョーンズの怖ろしいシンバル!
アドリブパートでもリチャード・デイビスはフリー寸前の烈しいベースソロを聞かせてくれます。しかしアール・ハインズは、それ以上にアグレッシブなんです。あぁ、こんな文章を書いている自分が歯がゆいというか、虚しくなるほどの演奏です。
全てのジャズ者は必聴! と決めつけましょう!
それと実はこれ、最初、居眠りモードで聴いた時は、ウイントン・ケリーのピアノかと思ったんですが、後に1920年代から第一線でやっていた人と知って、尚更に驚愕したわけです。
B-2 Bernie's Tune
続けて演奏されるのは、ジェリー・マリガンで有名な、これも楽しい名曲ですが、ここでも猛烈なスピートと黒いグルーヴが両立した快演になっています。
まず、とにかくアール・ハインズのピアノに勢いと質量があります! もちろんリチャード・デイビスのベースも激烈ですし、エルビン・ジョーンズのブラシも必死の形相なんですが、どうにも止まらないピアノの真正スイングには、お手上げ状態! う~ん、この躍動感には完全降伏です。
B-3 Dream Of You
これまた有名スダンダードですが、前2曲から一転して和み優先モードなので、ホッとします。と言うか、こんな演奏ばっかりでも、充分にアルバム1枚を傑作に出来るはずなのが、アール・ハインズの実力でしょう。
全く、真似の出来ない楽しい歌心の妙は、実は予測不可能というスリルがありますし、神妙なエルビン・ジョーンズ、また機を見て敏なるリチャード・デイビスのベースワークも秀逸です。
本当に何時までも聴いていたアルバムの終焉に相応しい演奏だと思いますねぇ。
ということで、これもジャズ喫茶の人気盤♪ 特にB面が定番ですが、自宅ではA面のリラックス感にシビレたりします。
ちなみに主役のアール・ハインズは、このセッション時には還暦を過ぎていたはずですが、その若々しさは驚異的! 全盛期のエルビン・ジョーンズが子ども扱いですからねぇ♪ しかもモダンだとかスイングだとか、そういうジャンル分けが不可能なジャズそのものの楽しさ、凄さが存分に味わえるという、真の名盤だと思います。