OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マイルス究極4ビート映像

2007-04-15 20:28:01 | Weblog

今日から復帰です。

激励、お見舞いのコメントを入れてくれた大勢の皆様には、ただただ感謝でございます。

ということで、本日は基本に帰った、これを――

Miles Davis Ouintet European Tour 1967 (Impro-Jazz)

 
なにはともあれ、最近、お宝映像発掘は良い仕事が続いてますね。

本日ご紹介のブツは、これまでマイルス・デイビス関連ブートの世界では有名だったものですが、ようやく正規のライセンス契約があって発売されたようです。

内容は所謂黄金のクインテットによる、1967年秋の欧州巡業からスゥエーデンとドイツにおけるライブ演奏をテレビ収録したものがソースになっています。

もちろん両方ともにモノクロ映像で、画質は正直「-A」だと思いますが、あまりにも濃密な内容の前では問題にならないと思います。

ちなみに時代は、あの超絶の名盤「ネフェルティティ」が出された直後! ということは究極の4ビートジャズが堪能出来るということですねぇ~♪

言わずもがなのメンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という今では夢の面々が烈しく躍動しています――

※1967年10月31日、スゥエーデン
 以下の演目が切れ目無しに演奏されていきますが、パッケージ記載のチャプターリストは間違っているので、訂正しておきました。

01 Introduction - Agitaiton
 司会者の紹介に続きメンバーが登場しますが、リーダーの方針でしょうか、全員、全く愛想がありません。でも観客から大きな拍手!
 で、メンバーがセットアップの確認をしているのに、いきなりテーマを吹き始めるマイルス・デイビスが、やっぱり異様にカッコイイ! もちろんリズム隊は瞬時に反応し、爆発的なトニー・ウィリアムス、どっしり構えたロン・カーター、味わい深いハービー・ハンコック♪ 途中のテンポ落しや自在のノリにも全く破綻していないあたりは、怖ろしいばかりです。
 続くウェイン・ショーターも唯我独尊というか、好き放題吹きまくりなんですが、ややバランスが悪いというか、ソロの終りが煮えきらず、また本人も納得していない按配なんですねぇ……。このあたりの終りなき日常が、ジャズそのものかもしれません。
 しかし、繰り返しますが、リズム隊は絶好調ですねぇ~♪ 静謐なムードからグルーヴィな展開に持っていくハービー・ハンコックの周到さなんか、呆れるばかりですし、トニー・ウィリフムスの神経質でシャープなドラミングも冴えきっているのでした。
 もちろんラストテーマに入ってくるマイルス・デイビスのカッコ良さは極みつきでしょうね!

02 Footprints
 そして前曲のラストテーマに続けて提示されるのが、ウェイン・ショーター畢生のオリジナルです。初演バージョンにあったミステリアスなムードを残しつつも、ここではかなりアグレッシブな演奏に踏み込んだマイルス・デイビスの姿勢が流石だと思います。
 背後で蠢動するリズム隊ではハービー・ハンコックが素晴らしく、それはウェイン・ショーターが作者の強みを活かした完璧なアドリブを披露している時でさえ、容赦無い雰囲気です!
 それはもちろん、トニー・ウィリアムスの千変万化の爆裂ドラムスやロン・カーターの度量の大きいベースがあっての事なんですが、このあたりまでやってしまうとマイルス・デイビスも困っていたのが本音かもしれません。スローな部分も含めて、非常に味わい深い演奏だと思います。

03 Around Midnight
 前曲でやや生硬で難解な雰囲気に陥った会場を和ませるのが、このモダンジャズそのものという名曲・名演です。
 残念ながらマイルス・デイビスはミュートではなく、オープントランペットなんですが、これが意外と良い味♪ じっくりと綴られるハードボイルドな世界は、やっぱり魅力的です。
 そして、お約束というブリッジ部分からは烈しく熱いパートになって、ウェイン・ショーターが大爆発すれば、トニー・ウィリアムスもテンションの高いプレイで応戦するという、本当にこちらが期待する黄金のクインテットが現出するのでした。
 また当時のバンドは演奏中に自在にテンポを変えていくのが常套手段でしたが、何か合図があるというわけではなく、ちょっとしたアドリブフレーズのビート感とかリズム隊相互の気分やテンションの相互感応による自然体というのが、映像を観て納得出来ました。
 
04 Gingerbread Boy - The Theme
 さて、ラストはちょっとハードバップっぽい猛烈な演奏です。
 それはトニー・ウィリアムスのドラムスが要となっているようで、マイルス・デイビスも安心して激烈モードを吹きまくり! かなり早いテンポなんですが、グイッと一気に突進していくマイルス・デイビス!
 しかし続くウェイン・ショーターは一筋縄ではいきません。突如、急ブレーキを踏んだようなフレーズから入って好き放題に音符を吹きちらし、あくまでも自分本位でリズム隊を翻弄しようと画策しているようです。
 もちろんそんな手に引っ掛かるような奴は、このバンドに居るはずも無く、ロン・カーターは余裕のグルーヴを生み出し、トニー・ウィリアムスは若気の至りかもしれませんが、ハービー・ハンコックはピアノを弾いていない時さえあるのです。
 そして後半はキレたウェイン・ショーターがフリーに接近してトニー・ウィリアムスと烈しく対峙! 吹くだけ吹いて退場するテナーサックス奏者の悪あがきが潔い感じです。するとハービー・ハンコックが最高にグルーヴィなムードに持っていくんですねぇ~♪
 これにはマイルス・デイビスも内心ニヤリでしょうか、ラストテーマに入る前の表情が印象的♪ バンドはこの後、テーマを短く演奏して引っ込みますが、最後まで愛想のカケラも振り撒かないあたりは徹底しているのでした。演奏時間は全部で33分ほどです。

※1967年11月7日、ドイツ
 さて、ここからは1週間後のドイツでのライブです。
 拍手の中、メンバーがひとりずつステージのカーテンの中から登場し、トニー・ウィリアムスなんかドラムセットの点検に余念がありません。そして短いチューニングがあって、いよいよマイルス・デイビスが登場! おぉ、この日のバンドリーダーは機嫌が良い雰囲気です。そして演奏がスタートしますが、演目は前半とほぼ同じです――

05 Agitation
 これもメンバーのことなんかお構いなしにマイルス・デイビスが、自分勝手にテーマを吹き始めます。しかしそんなことは百も承知のリズム隊が、やっぱり痛快です。まあ、リーダー自身が毎度お馴染みのフレーズばっかり吹いていますからねぇ……。 しかしウェイン・ショーターには全く油断なりません。結論から言うと、この日のウェイン・ショーターは異常にテンションが高く、後は野となれ状態! ここでも激烈なブローから予想外の展開に連れて行かれるリズム隊の心情は!?
 ご安心下さい。トニー・ウィリムスなんか、もうそんな状況を楽しんでいるかのような雰囲気ですし、揺ぎ無いロン・カーターとハービー・ハンコックの余裕は、新たな高みへバンドを押し上げていくのでした。
 あぁ、ついついボリュームを上げてしまいますねぇ~♪

06 Footprints
 ここでも切れ目無く繋がった演奏になっていますが、スゥエーデンのバージョンに比べて明らかにテンションが高い雰囲気になっています。まず、リズム隊の動きが尋常ではありません。
 マイルス・デイビスも本気度が高いというか、何時に無く力みが感じられます。
 ちなみに後半の映像はバンドメンバーが複数映り込むようなカメラワークなので、演奏時のインタープレイが相手を充分意識しているのが確認出来ます。弾きながらチューニングするロン・カーターも良い感じ♪
 そしてウェイン・ショーター! いったいどうしたんだ!? というほどに過激なんですが、その演奏姿勢は派手なアクションも無く、いたって冷静というアンバランスが映像作品の楽しみです。余所見ばっかりしているハービー・ハンコックの集中力には???
 で、肝心の演奏はテレビ放送時間の関係でしょうか、ウェイン・ショーターのアドリブソロ終りでブッツリ切られて、次曲に繋がります。

07 I Fall In Love Too Easlly
 で、突如始まるのがマイルス・デイビスが十八番のスローな歌物♪ 抽象的なテーマ解釈に寄り添うハービー・ハンコックが秀逸な存在感を示しています。
 そしてインテンポしてからは力強いリズム隊がリードするグルーヴィな展開という、全くたまらない世界になります。あぁ、これがジャズです! マイルス・デイビスのカッコ良さは世界最大級でしょう。トニー・ウィリアムスが、いとも簡単に爆裂ビートを敲き出すのも、映像作品ならではの秘密の解明です。
 さらにウェイン・ショーターのミステリアスなムード設定、そこにきっちりと合わせてくるリズム隊の瞬間芸も流石ですねぇ~♪ 全く意味不明なフレーズしか吹かないのに歌心の極北を感じさせるアドリブは、永遠の謎としか言えません。
 とにかく全ジャズファン必聴・必見のトラックだと思います。その意味でハービー・ハンコックのパートで画像が若干乱れるのは、残念かも……。

08 Walkin'
 これまたマイルス・デイビスにとっては長年の演目とあって、はっきり言うとアドリブは煮詰まっています。しかしリズム隊の溌剌とした活躍がありますから、グイグイと惹きこまれてしまいます♪
 烈しいアップテンポで躍動するバンドは、やっぱり究極の4ビートを体現していると思います。演奏は中盤になると、お待ちかね♪ トニー・ウィリアムスのドラムソロとなって、おぉ、あのリックはこうやって敲いていたのか! という長年の謎が解ける瞬間を存分に堪能出来ます。ステックの逆持ちとか思わせぶりなハイハットの動かし方なんか、憎めないですよ♪
 しかし本当に凄くなるのは、この後、登場するウェイン・ショーターのパートです。最初は予定どおりに激烈アドリブで入ってくるんですが、中盤からは最高のリズム隊でさえも入り込めない世界となっていくのです。それはフリーとかデタラメとかいう雰囲気もありますが、猛烈な吹きまくりから、ついにはリズム隊もサジを投げたというか、孤高の一人アドリブとなってしまうのでした。
 う~ん、これにはマイルス・デイビスも仰天というか、ステージの後で思案の首という映像が確認出来ます。ただしハービー・ハンコックが動じていないのは流石ですねぇ。最終的にモダンジャズにベクトルを修整する力量は半端ではないと思います。  気難しいリーダーも安心したのではないでしょうか?
 ただしお客さんの中には唖然として拍手出来なくなっている人も散見されるのでした。

09 Gingerbread Boy - The Theme
 そして前曲の熱気を継承して烈しくブローされるのが、この演奏です。
 マイルス・デイビスも吹っ切れたように吹きまくり、いきなりアドリブを止めてウェイン・ショーターにバトンタッチ! もちろん残された4人組は烈しく突進していくのです。
 あぁ、こんな演奏を生で体験出来たら、もう完全に気を失うかもしれません。いや、発狂かなぁ~~~。特にトニー・ウィリアムスのブチキレ方なんて、何時だって4ビートなんか辞めてやる! という意思表示さえ感じられます。

ということで、後半も33分ほどの演奏時間ですが、トータル75分間、たっぷりとモダンジャズの黄金時代が堪能出来ます。

内容はモード~フリーな展開なんで、素直に楽しめない皆様をいらっしゃるかもしれませんが、スーツでビシッとキメたメンバーの姿は本当にカッコ良く、テレビ時代の映像ですから、クロスフェードとかの映像処理もなかなかです。

それとトニー・ウィリアムスの凄さ! 音質的にはノーマルだと軽い感じなんで、ベースパートをオーディオ再生の時に補正してやると、もう最高になります。ロン・カーターのベースもしかりです。

ちなみに演奏時間がワンステージ30分ほどなのは、当時の巡業システムがパッケージショウスタイル、つまり複数のバンドとの共演ライブ形式だった所為かと思われます。これはジャズばかりでなく、ロックの世界でも同様で、1968年位までは、ひとつのバンドの演奏時間は30分ほどが一般的でした。

それでも良い時代でしたねぇ。

ジャズ者ならば、あぁ、生きていて良かったと思う作品かと思います。

コメント (2)
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