なんか、今日は寒かったですよ、身も心も……。
こういう時は安心感満点のアルバムを聴く他ありませんです――
■`S Wonderful / Bosso Meets Basso Quintet (Philology)
今やすっかり人気者になったイタリアの若手トランペッターと言えば、ファブリッツィオ・ボッソ! 抜群のテクニックを駆使して、時には尖がった演奏もやってしまいますが、柔らかな歌心を追及するという近年の姿勢は、私のお気に入りです。
しかも親子以上に年齢差があるベテランのテナーサックス奏者=ジャンニ・バッソと組んだハードバップ路線のアルバム製作は、事勿れ主義というよりも、安心感優先の大衆的モダンジャズ♪ 実はこういう姿勢が潔くて貴重じゃないかと思います、決して居直りじゃなくて!
さて、本日の1枚は、このバンドによる最新作で、録音は2006年1月6日、メンバーはファブリッツィオ・ボッソ(tp)、ジャンニ・バッソ(ts)、Andrea Pozza(p)、Luciano Milanese(b)、Stefano Bagnoli(ds) という、ほとんどレギュラー化している面々です。
しかも演目がスタンダード中心であり、いずれもジャズの歴史を作ってきた名人トランペッター&サックス奏者によって決定的な名演が残されているという、なかなか油断出来ない選曲です――
01 What Is This Thing Called Love
コール・ポーターが書いた名曲で、ハードバップではブラウン&ローチのバンドによって決定的な名演が残されていますので、なかなか勇気ある挑戦だと思います。
で、結論から言うと、もちろん敵うはずもない仕上がりなんですが、それなりに快適でグルーヴィな演奏を聞かせてくれます。特にファブリッツィオ・ボッソが大奮闘! ただし、クリフォード・ブラウンの優れたアドリブが耳タコになっている所為か、虚しいものを感じてしまうのですねぇ……。
それはジャンニ・バッソにも言えることで、全盛期のソニー・ロリンズに比べてしまうこと自体が不遜なんでしょう。
ですから、虚心坦懐に聴くことが要求されるという、煮え切らなさが……。
02 Withchcraft
和み系のスタンダード曲ですから、ここではジャンニ・バッソがリードしたソフトな演奏になっています。ちなみに、この人のスタイルは西海岸派のビル・パーキンスがベン・ウェブスターを真似したような感じで、つまりコルトレーンのフレーズなんて、間違っても出てきません♪ あくまでも歌心とムード優先という非常に好ましいもので、ここでもその魅力が全開です。
また没個性派のピアニストと私が勝手に決め付けている Andrea Pozza が、良い味出しまくりです。
気になるファブリッツィオ・ボッソはテーマ部分でミュートで絡む他は出番が無いんですが、これがかなりイケていますよ♪
03 Quo Vadis Samba
欧州の人気トランペッター=ダスコ・ゴイコビッチが書いたラテンビートの楽しい曲ですから、このバンドには相性が良いんでしょうか、躍動的な演奏に終始しています。
アドリブ先発はウネリとヒネリがたっぷりのジャンニ・バッソ! するとファブリッツィオ・ボッソが偉大なる先輩トランペッターに敬意を表しつつも、かなりアグレッシブなフレーズを駆使して過激にブッ飛ばします。
ただし残念なのが、リズム隊に冒険心が足りないというか、安定主義なのが勿体ない限りです……。Andrea Pozza も Stefano Bagnoli も、かなり頑張っているのですがねぇ……。
04 On A Slow Boat To China
これまたソニー・ロリンズ(ts)、あるいはフィル・ウッズ(as) の決定的な名演が残されている名曲ですからねぇ。しかし流石はベテランのジャンニ・バッソは素晴らしい♪
悠々自適のテーマ吹奏から唯我独尊のアドリブまで、全く自分の「歌」に撤しています。それは柔らかな情感であり、熱き心の独白♪ あぁ、これがジャズを聴く喜びだと思います♪
またファブリッツィオ・ボッソが、余裕で楽しいフレーズを吹きまくり! やや流麗過ぎるというか、コブシが足りない雰囲気も感じられますが、凄まじい難フレーズを楽々と吹ききってしまうあたりは、聴いていてスカッとします♪ テーマをリードするジャンニ・バッソに絡むフレーズの妙も素晴らしいです!
05 If I Were A Bell
ゲッ、マイルス・デイビスの決定版に挑戦ですかぁ! う~ん、ファブリッツィオ・ボッソ、大丈夫か!?
と思わずにはいられないのですが、恐いものみたさ的に聴いてみると、これが味わい深い仕上がりになっています。
まず、イントロは例のレッド・ガーランドの演じたものと同じであり、しかもファブリッツィオ・ボッソはミュートで勝負しているんですねぇ! う~ん、またまた唸ってしまいますが、ちゃ~んと、マイルス・デイビスの味を残しつつ、ファブリッツィオ・ボッソだけの個性を表現しているところは立派というか、驚愕させられます。いや~ぁ、なかなか良いですねぇ~♪ ラストテーマの思わせぶりも憎めません♪
そして負けず劣らずに良いのが Andrea Pozza のピアノで、安定感抜群の伴奏からアドリブではレッド・ガーランド風の味わいから新感覚のフレーズまでゴッタ煮にして、和みの時間を提供してくれるのでした。
06 With A Song In My Heart
これも人気スタンダードなんですが、ここではジャンニ・バッソを主役に、ボサノバにアレンジして聞かせてくれます。あぁ、和みますねぇ~♪
もちろんブリッツィオ・ボッソも素晴らしく、ここではアート・ファーマーのようなソフトで濃密なアドリブを披露♪ バカテクの激烈アドリブばかりではなく、こういう柔らかな歌心があるのも、この人の持ち味だと思います。
07 `S Wonderful
アルバムタイトルになっているだけあって、物凄いエネルギーに満ちた演奏になっています。曲はもちろん、ヘレン・メリル(vo) とクリフォード・ブラウン(tp) が共演した決定的なバージョンが残されているスタンダード!
それをここでは快適なハードバップにしていますが、バンド全体のノリが素晴らしいかぎりです。ジャンニ・バッソはモタモタしていながら、決してリズム隊に置き去りにされることなく、ジャズの基本的な部分で勝負しているようです。
しかしブリッツィオ・ボッソが素晴らしい! 豊かな歌心と激烈フレーズのバランスは、もう最高!!! まあ、基本はウィントン・マルサリス(tp) なんでしょうが、如何にも欧州人らしい愁いとスマートさがイカしています。
そしてどうやら、バンドもこの曲からエンジンが全開してきたようです。
08 Candy
うへぇ、これはリー・モーガンが絶対的な名演を残しているんですよっ!
それに挑戦するブリッツィオ・ボッソは、何、考えてんだぁ……!
しかし、この演奏も凄いです!
ゆったりしたテンポなんですが、テーマメロディに含まれたソフトな情感と粋なフィーリングを完全掌握したボッソ&バッソのコンビネーションが、まず最高です。
アドリブパートでは、先発のジャンニ・バッソが心の中の底から湧き上がる歌心を余さずに披露すれば、続くブリッツィオ・ボッソは、なかなか上手いタメとモタレでコブシの無さをカバーしつつ、全てが「歌」という最高のフレーズを連発していきます。もちろん超絶テクニックによる倍テンポ吹きも披露しますが、あくまで「歌」に拘った姿勢が潔いですねぇ~♪
09 Oh, What It Seemed To Be
あぁ、和みます♪ ジャンニ・バッソが一人舞台の名人芸♪
このキャバレー・モードと申しましょうか、ナイトクラブで美女といっしょにグラスをかたむけ……、さあ、その後は♪ という部分も良し、さらに独り感傷に酔ってしまうのも、また良しというムードの醸し出し方は、凡百のプレイヤーには無理です!
まさにベテランの味わいというか、そのあたりを咀嚼したリズム隊の地味な良さも、味わい深い演奏になっています。
10 Quo Vadis Samba (alternate)
オーラスはオマケでしょう、「03」の別テイクですが、甲乙付け難い仕上がりです。個人的には、こちらがリズム隊にワイルドな感じがして好きですが♪
ということで、これは安易な企画と受け取られがちなアルバムではありますが、中身は濃いです。実際、今、これだけ安心感のあるハードバップ~モダンジャズをやってくれるバンドがあるでしょうか。
ただし残念ながら、このCDは録音の按配がベースに甘く、モヤッとした音なんですねぇ……。もう少しゴリゴリした音が出ていれば、また印象も変わるかもしれません。
それと噂では、ブリッツィオ・ボッソが名門ブルーノートと専属契約をかわしたらしいですが、さもありなんとは言え、妙な背伸びとか妥協をしない姿勢を貫いてほしいものです。