■Seychelles / 高中正義 (Kitty)
日本の夏といえば昭和40年代のベンチャーズ、そして昭和50年代からの高中正義で決まりです!
ともにギターメインで解放感満点の狂熱を提供してくれるその手際の良さは、まさに楽園的ですよねぇ~♪
本日ご紹介のアルバムは、その高中正義が昭和51(1976)年7月に出したソロデビューLPで、タイトルどおりの自然に満ちた南海の楽園をイメージ化したジャケットデザインと爽やかにして痛快なフュージョンっぽい演奏がジャストミートのヒット盤です。
A-1 Oh! Tengo Suerte
A-2 トーキョーレギー
A-3 蜃気楼の島へ
A-4 憧れのセーシェル諸島
B-1 Funkee Mah-Chan
B-2 サヨナラ……FUJIさん
B-3 バードアイランド急行
B-4 Tropic Birds
まずアコースティックギターと効果音的なエレキギターで作られたイントロからして爽やかな「Oh! Tengo Suerte」は、一転して低い重心のビートに支えられたメインテーマへ入るという展開も、その曲メロの楽園的な広がりが本当に気持良く、隠し味的なエレピも冴えまくりなんですが、なんといっても高中正義のエフェクターを使いながらもメロディ優先主義のギターが素敵です。またロリ系女性ボーカルも、たまりませんねぇ~♪
演奏メンバーは高中正義(g,vo,per,arr) 以下、今井裕(key)、後藤次利(b)、林立夫(ds.per)、浜口茂外也(per)、斉藤ノブ(per)、ジェイク・コンセプション(sax)、TANTAN(vo)、井上陽水(vo) 等々の参加を得ていますが、ご存じのとおり、高中正義のキャリアはここから始まったわけではありません。
一応の歴史としては、昭和46(1971)年頃に成毛滋&つのだ☆ひろが組んでいたフライドエッグというロックバンドにベース奏者として参加したのが、本格的なプロ活動の第一歩とされているものの、実はサイケおやじは当時のフライド・エッグのライプに接しているのですが、高中正義の印象は全く残っていません。
まあ、当時は成毛滋が圧倒的なスタアでしたからねぇ。お客さんは皆、その天才ギタリストを見ていたというわけですが、それでもまだ十代だった高中正義が、つのだ☆ひろという凄いドラマーとリズム隊を構成していた事実は侮れないと思います。
で、その後、高中正義が一躍メジャー(?)になったのが、加藤和彦のやっていた和製グラムロックのサディスティック・ミカ・バンドにギタリストとして加入した昭和48(1973)年以降でしょうか。
ただしサイケおやじは今だから正直に告白致しますが、ミカ・バンド時代の高中正義が時として目立ちまくるところに、幾分のイヤミを感じていました。それは失礼ながら小賢しいというか、確かにテクニックは凄いと思いましたが、なにかしらノリが大らかではなく……。
ですから、ミカ・バンド解散寸前の頃から、そのメンバー達が独立してやっていたサディスティックスが矢沢永吉のバックをやったりする姿勢も、なんだかスタジオミュージシャンのアルバイト的なムードが濃厚で、ロック魂云々なんていうバカらしい思いからすれば、なんだかなぁ……。
しかし時が流れ、このアルバムを初めて耳にした瞬間、まさに目からウロコというか、あまりにも気持の良い演奏と「高中正義」という名前が一致しないほどのショックを受けたのです!?!
う~ん、この開放的なノリの良さって♪♪~♪
それはニューミュージックとフュージョンの幸せな結婚みたいな「トーキョーレギー」、同じくオトボケも哀しい歌詞がついた「サヨナラ……FUJIさん」という、当時の呼び方ではシティミュージック風のトラックもイヤミなく心地良いんですから、困ったもんだなぁ……、とサイケおやじは悔しくも複雑な心境で楽しんでいたのが本音だったのです。
また、これも気持良すぎるコードの使い方がニクイばかりの「蜃気楼の島へ」や「憧れのセーシェル諸島」にしても、トロピカルな桃源郷への誘いを拒否出来るものではありません。そのゆったりとしたグルーヴ、ほどよいラテンビートとハミングコーラスのコラポレーションも全く間然すること無い仕上がりだと思います。
ちなみに高中正義が、このアルバム以降に推進していくギタリストとしての基本姿勢は、アドリブよりもメロディ優先主義というか、テーマメロディの快楽性はもちろんのこと、所謂間奏にしても、「即興」よりは「存在」のアドリブという感じで、徹底的に組み立てられ、作曲された部分を大切にしたソロパートを聴かせていくことにあります。
それは実際のステージライプでも大切にされ、もちろん「即興」のギターソロは飛び出すのですが、このあたりはベンチャーズと同じように、リスナーの耳に馴染んだ「お約束」のフレーズを弾くことにより、一層の親しみやすさと大衆性を獲得するという潔さは、もっと評価されていいんじゃないでしょうか。
ですから生真面目にフュージョンをやってしまった「Funkee Mah-Chan」や「バードアイランド急行」が、その熱気や凄腕揃いのメンバーによるテクニック披露宴という趣旨は理解出来るものの、残念ながらサイケおやじには面白くありません。
ただ、それゆえにオーラスのゆるやかな「Tropic Birds」が「憧れのセーシェル諸島・バート2」という趣向に仕上がっているのは、その余韻の残し方も含めて流石♪♪~♪
ここまでの全てが、この演奏に収斂するといって過言ではないと思うばかりです。
それとアルバム全篇で効果的に使われている女性ボーカルのハミング&コーラスは、TANTANこと、後の大空はるみ♪♪~♪ ご存じのように我国のラテンフュージョンでは第一人者の松岡直也グループでも活躍した実力派で、確か森野多恵子という芸名でGS時代にはホワイトキックスというバンドに参加していたと記憶していますが、このアルバムの気持良さは彼女の存在にも大きな秘密があるんじゃないでしょうか。
ということで、リアルタイムのお洒落な喫茶店やブティックとか、若者が集う場所では重宝されたアルバムでした。
特にA面の心地良さは、まさに絶品♪♪~♪
ちなみに高中正義のギタースタイルや音楽志向は、サンタナとの比較対照が避けられないところでしょうが、確かに音色やチョーキングの使い方、あるいはラテンフュージョンっぽい部分の共通的は否定出来ないでしょう。
しかし高中正義は、あくまでも自らのギターがメインであり、ボーカルは「たーへ」なこともあるんでしょうが、あえてそれほど歌わずに人気を集めたのは驚異的でした。そこには既に述べたように、アドリブが常識のギターによる間奏にも「作曲」を堂々と用いていたアイディアの冴えがあったからでしょう。
それはこのアルバムが出た翌月にシングル盤として発売された、アグネス・ラムのイメージ映画「太陽の恋人」のテーマ曲「Sweet Agnes」において、尚更に全開!
こうして高中正義は昭和50年代にギター青少年の憧れの存在になったのです。なにしろギターだって堂々と高中モデルとか売っていたほどだったんですよ。もちろん海辺のドライブには「TAKANAKA」印のカセットが御用達♪♪~♪
それでもひとつだけ、サイケおやじが今でも残念なのは、このアルバムを聴いて憧れたセーシェル諸島には、未だに行くことが叶わぬこと……。
そこで毎年夏には、これを取り出すことも多いというわけです。
やっぱり夏はギターインスト!
最後になりましたが、暑中お見舞い申し上げます。