OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

光る眼のグラント・グリーン

2010-07-18 16:36:48 | Soul Jazz

Visions / Grant Green (Blue Note)

すっかり日射しが強くなって、サングラスが必要となる皆様も多かろうと推察しておりますが、そこでフッと聴きたくなったのが、本日ご紹介の逆効果サングラスな1枚です。

もう、ほとんどR&Bシンガーのアルバムみたいなデザインからして、これはグラント・グリーンが露骨にソウルジャズやジャズロックを演じてくれた歓喜の人気盤であることが一目瞭然♪♪~♪

しかしそれゆえにリアルタイムの1970年代前半には、特にジャズ喫茶において完全無視の代表格でしたし、フュージョンブームの頃になっても、それほど再評価されたという事は無かったと記憶しています。

それでもサイケおやじにとっては、「ゴーイン・ウエスト」に続いて買った2枚目のグラント・グリーンで、それは中古で値段が捨値に近いほどの安さだったことによりますから、これが如何に白眼視されていたか、ご理解いただけるでしょう。

しかし内容は完全にサイケおやじの好みへ直球がど真ん中!

録音は1971年5月21日、メンバーはグラント・グリーン(g)、エマニエル・リギンズ(key)、ピリー・ウッテン(vib)、チャック・レイニー(el-b)、アイドリス・ムハマッド(ds)、レイ・アルマンド(per)、ハロルド・ガドウェル(per) という、モダンジャズでは裏街道の面々なんですが、所謂レアグルーヴなんていうジャンルがお好きな皆様には、血が騒ぐ編成かと思います。

A-1 Does Anybody Really Know What Time It Is
 う~ん、いきなり、これですよっ!
 ご存じ、邦題が「いったい現実を把握している者はいるだろうか?」という、原題に劣らない長~いタイトルがつけられたシカゴのヒット曲を、実にグルーヴィな4ビートで演じるという、これがグラント・グリーンの良いところ♪♪~♪
 もちろん十八番の針飛びフレーズもやってくれますし、なによりもブラスロックという、ジャズミュージシャンからすれば生意気とも受け取られそうなジャンルを易々と、それもホーンセクション抜きで軽快に料理するあたりが、流石です。
 これは立派なモダンジャズ!

A-2 Maybe Tomorrow
 なかなか思わせぶりなパラード演奏で、クインシー・ジョーンズも絡んで作られたメロウな曲メロが、このメンツの手に掛かるとミステリアスなムードも濃くなるようです。とにかく纏まりの良いバンドのスロ~グルーヴは膨らみがあって、しかもタイト!
 後半で繰り広げられるナチュラルなテンポアップが殊更に素晴らしい思います。

A-3 Mozart Symphony #40 In G Minor, K550, 1st Movement
 さてさて、これが臆面も無いというか、誰もが一度は耳にしたことがあるはずのモーツァルト「交響曲第40番ト短調」を、正面からジャズロックで演じてしまった憎めなさです。
 実はこうした仕事は洋の東西を問わず、成人映画のサントラでは頻繁に使われている手口ですから、サイケおやじは今でも聞く度に様々な暗闇の中の名場面を思い出したするんですが、さりとてグラント・グリーンとバンドの面々がそれを意識していたか否かは、知る由もありません。
 ただ、ガチガチのジャズ者からすれば、ドC調!? なぁ~んて非難されかねないアレンジとストレートな演奏は、確かに気恥ずかしいところもあるでしょう。
 それでもアドリブパートに入ってからのグリグリにドライヴするチャック・レイニーのエレキベース、疑似オクターブ奏法も使うグラント・グリーンのギターはツボをしっかり押さえていますし、エレピやヴァイブラフォンが演じる彩りも良い感じ♪♪~♪
 ズバリ、お洒落でイナタイ!
 そんなこの時期ならではのグラント・グリーンの魅力が横溢していますよ。
 ドラムスやパーカッションも熱演する終盤、バンドが一丸となったファンクなノリを聴いてくれっ! 

A-4 Love On A Two Way Street
 所謂甘茶のスウィートソウルグループだったモーメンツの大ヒット曲ですから、ここでのメロウファンクな仕上がりは「お約束」以上の気持良さ♪♪~♪
 グラント・グリーンのギターはもちろん、ヴァイブラフォンやパーカッションの使い方の上手さ、さらに低い重心で蠢くエレキベースと小技も巧みなドラムスの存在感は流石の一言です。
 真っ黒というイメージが強いグラント・グリーンの意外なほどにソフトな歌心も、要注意だと思います。

B-1 Cantaloupe Woman
 そしてこれはサイケおやじがこのアルバムの中で一番に好きなジャズロック演奏の極みつき! しぶとく跳ねるビート&リズムに気持良く乗ったグラント・グリーンのギターが、これぞの名演を堪能させてくれますが、ピリー・ウッテンのヴァイブラフォンやエマニエル・リギンズのエレピによるアドリブが、またまたイケてます♪♪~♪
 あぁ、これはもう当時の日活ニューアクションか東映バイオレンスの映画サントラのような雰囲気が、たまりませんねぇ~~♪ 実際、サイケおやじは車の中の定番ミュージックのひとつとして、ハードボイルドを気取ったりするほどです。
 もう、こんな演奏だったらLP片面でも、全然OK!

B-2 We've Only Just Begun
 これまたご存じ、カーペンターズが1970年にヒットさせた素敵なメロディを、実に素直にソウルジャズ化した名演だと思います。
 いや、ソウルジャズ云々よりも、所謂イージーリスニングジャズって感じでしょうかねぇ~。とにかくフィール・ソー・グッドは保証付きですよ。

B-3 Never Can Say Goodbye
 う~ん、これもヤバイほどツボという選曲は、アイザック・ヘイズがリアルタイムでヒットさせていたニューソウルのメロウパラードですから、グラント・グリーンのギターも心置きなく歌いまっくています。
 そしてここで凄いのはバックの面々の自由度の高い演奏で、おそらくはきっちりとしていない、その場のヘッドアレンジでやってしまった感じが結果オーライ♪♪~♪ 後のフュージョンブームの真っ只中には、こういうやり方が主流となった先駆けかもしれません。

B-4 Blues For Abraham
 さて、オーラスは新主流派がファンクをやってしまったような、実にミョウチキリンなブルースという感じなんですが、アドリブパートの充実度はピリー・ウッテンのヴァイブラフォンが先発で示すとおり、手抜き無し!
 ですからグラント・グリーンも昔取ったなんとやらの快演ですし、こうなると、フェードアウトが如何にも勿体無い……。

ということで、サイケおやじがこのアルバムをゲットしたのは昭和47(1972)年末でしたから、まだまだ新譜の時期だったんじゃないでしょうか。実際、ジャケットも盤質も綺麗でした。

それが既に述べたように、中古で千円していなかったんですから、我国での扱われ方が知れようというものです。

しかし本国アメリカでは相当に売れていたそうですね。同時期に残されたライヴ盤を聴いても推察が容易なところから、この時期がグラント・グリーンにとっては第二の黄金期だったのかもしれません。

今日では日本でもレアグルーヴとかフリーソウルとかの範疇を設けたことにより、この手の演奏が再発見され、堂々と聴かれるようになったのは好ましいと思いますが、その反面、こういうサウンドが肩身の狭い時代があったということを忘れないで欲しいなぁ……。

なぁ~んて、天の邪鬼なサイケおやじは意地悪い中年者の本性を現すのでした。

コメント (2)
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