■It's In Her Kiss c/w ビンと針 / The Searchers (Pye / 日本コロムビア)
「リバプールサウンドの貴公子」として人気者だったのが、本日ご紹介のサーチャーズです。実際、このグループのスマートな音楽性と爽やかなルックス&ファッションセンスは、全く相応しいものでした。
そのキャリアは1957年頃からスタートし、最初はエレキインスト、次いで有名歌手のバックバンドを経て、1962年には地元のリバプールで既に大スタアとなっていたビートルズを追う存在になっていたようです。ちなみに同地を仕切っていた興行師のホルスト・フィッシャーのブッキングにより、ドイツのハンブルグへと巡業に出される経緯も、当時のスタア街道ではお約束の修行でした。
そしてついに1963年にパイレーベルから、トニー・ハッチのプロデュースでレコードデビュー! メンバーはジョン・マクナリー(g,vo)、マイク・ペンダー(g,vo)、トニー・ジャクソン(b,vo)、クリス・カーティス(ds,vo) という4人組で、全員が歌えるというのが、大きな強みだったようです。
それはエレキサウンドにファルセットコーラスも交えたボーカルパートのコンビネーションの上手さが、ロックというよりもポップス寄りの味わいとなり、加えて素晴らしい選曲のセンスが、時には有名フォークソングをエレキ化した名演となり、また本来は真っ黒なR&Bが脱色されたソフトロックに変換されるという、まさにポップス好きには琴線に触れまくりのスタイルでした。
例えば本日ご紹介のシングル盤A面の「It's In Her Kiss」は元々、「The Shoop Shoop Songs」として黒人歌手のベティ・エベレットが1964年に大ヒットさせていた人気曲ですが、それをさらにせつないマージービートの神髄でカパーすれば、絶妙のファルセットを裏ワザに使ったボーカルコンビネーションが、もう最高の胸キュンフィーリング♪♪~♪ 力強いビートとエレキギターのペラペラの音色が、これほどジャストミートした名演も珍しいと思います。
本当に絶妙なアレンジによる歌と演奏、サビでの「シュ~、シュ~」というコーラスパート、あぁ、何度聴いても飽きないですねぇ~♪ 山下達郎が時折やるポップス系の歌にも通じるものがあると感じるのは、私だけでしょうか。
実はサーチャーズの背後には、ご推察のようにエヴァリー・ブラザースとかバディ・ホリーあたりの、所謂元祖フォークロックのエッセンスがあるような気がしています。
そして告白すれば、私がサーチャーズにグッとシビレたのは、そうしたスタイルの結晶体ともいうべきザ・バーズが大好きだったからだと自覚しているのです。
その意味でB面収録の「ピンと針 / Needles And Pins」は、1964年にアメリカでも大ヒットしたサーチャーズの代表曲なんですが、おそらくはダブルトラックでダビングされたエレキギターが、ザ・バーズを印象付けるエレキの12弦ギターの響きに近づいているのは、偶然にしても出来過ぎかもしれません。もちろん後年になると、サーチャーズの2人のギタリストはエレキの12弦を使って、この路線を推し進めるのですが、果たしてザ・バーズのロジャー・マッギンは、これを聴いていたんでしょうか? 非常に気になるところです。
またサーチャーズのスマートなコーラスワークは、時にモヤモヤした感性も前面に出したりして、それが「ピンと針」でも顕著なんですが、もちろんザ・バーズとの強い共通点がありますし、全篇に強く打ち出されるフォークロックの味わいは絶品♪♪~♪
当時は十代だったサイケおやじがリアルタイムで「ピンと針」をラジオから聴いた時は、既にザ・バーズを好きになった後でしたから、てっきりサーチャーズが後追いのバンドだと思っていた笑い話も、ご理解願えると思いますが、今となっては額に汗が滲みます。
そして昭和41(1966)年に買ったのが、このシングル盤というわけですが、他にもサーチャーズには素敵なヒット曲、名唱&名演が山のようにあり、特に初期の真っ白なスタイルから少しずつ黒っぽさを滲ませていった1960年代中頃あたりまでが全盛期として最高!
残念ながら時代の趨勢というか、1960年代後半になるとサーチャーズのスマートなセンスが逆に足枷となって活動は失速するのですが、そこは潔く、1970年代からはナツメロショウ中心のライプで人気を維持♪♪~♪ 私は1982年の某日、実際にライプを体験しましたが、これがなかなか往年のフィーリングを大切にしたヒットパレード大会で、最高に楽しかった思い出になっています。
ただし、どうやら最近はバンドそのものが分裂したか、解散したか、そんなこんなでサーチャーズを名乗るグループが複数存在しているのも気になるところですが、復刻CDも充実しているようですし、ぜひ、皆様にもお楽しみいただきたい素敵なバンドがサーチャーズです。