■Arthur Or The Decline And Fall Of The British Empere / The Kinks (Pye)
歴史を遡り、辿って過去を知ることは、いろいろと興味深く、リアルタイムでは決して気がつことも無かったと思われる事象にハッとさせられ、思わず唸ったり、感服したり、時には失笑したりと、それが Old Wave の精神的な支柱でもあります。
と、またまた大仰な書き出しではありますが、本日の主役たるキンクスの場合、何故か我国では一時期、リアルタイムでの契約発売が途切れていた所為もあって、後追いで聴く全盛期のレコードは、なかなか味わい深いものがありました。
例えば本日ご紹介のアルバムは、本国イギリスでは1969年10月に発売された、キンクスにとっては初めての本格的なロックオペラ作品として、非常に充実した仕上がりの名盤だと思います。
もちろん日本でも翌年に発売され、なんとアルバムタイトルをモロに直訳した「アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡」という、凄過ぎる邦題がつけられていました。
しかもミュージックライフ等々の音楽マスコミは、大袈裟なのに没個性とか、リバプールサウンドの残党が云々とか、決して好意的な評価はしていませんでしたから、これでは、ねぇ……。
ただしアルバムからシングルカットされた「Victoria」が、局地的ではありますが、ラジオの深夜放送で人気を集めていたのが僅かな救いでした。もちろんサイケおやじにしても、気になる作品ではあったのですが、当時は乏しい小遣いに欲しいものがどっさりという……。
こうして時が流れました。
そして昭和40年代末、つまり1970年代中頃になって、私はようやく、これをゲットしたのですが……。
A-1 Victoria
A-2 Yes Sir, No Sir
A-3 Some Mother' Son
A-4 Drivin'
A-5 Brainwashed
A-6 Australia
B-1 Shangri-La
B-2 Mr. Churchill Says
B-3 She's Bought A Hat Like Princess Marina
B-4 Young And Innocent Day
B-5 Nothning To Say
B-6 Arthur
まず最初に目からウロコだったのが、その中身の庶民的なところでした。
と言うのも、前述した大袈裟な邦題ゆえに、私はロックオペラというアルバムの内容が、それこそ円卓の騎士とか、イギリスの歴史を時代劇調に扱ったものだと思い込んでいたのです。しかし実際には、アーサーという絨毯屋の小市民が、家族や兄弟、親戚と平凡に暮らしつつ、その人生と共に変貌していく自国イギリスを嘆いたり、女王陛下に忠誠を誓ったりしながらのあれこれを歌っていたのですねぇ~。
ただし英語が自然に理解出来て、なおかつイギリスのドメスティックな事情に通じていれば、その歌詞の中身はヘヴィな皮肉と真っ黒にユーモアで埋め尽くされているということですが、少なくともそれを演出するサウンドは力強いロック、十八番のホンワカメロディ、さらにブラスを導入したロックジャズやサイケデリックの抽出改良型ポップス等々、なかなかに聴き易く、ワクワクしてウキウキ、そこはかとない哀愁、そして大衆音楽を聴く喜びが詰まっていると思います。
またリアルタイムで没個性とされた点については、なんと他のバンドのヒット&人気曲の美味しい部分が、パクリとまでは言いませんが、それなりに上手く利用されているところに、思わずニヤリ♪♪~♪
というか、もしかしたら、こっちがオリジナル? と思わせる部分まであるのです。
例えば「Drivin'」は、最初っから1968年頃のビーチボーイズ調ですし、骨抜きスタックスサウンドのような「Brainwashed」、ジョージ・ハリスンの元ネタばらし的な「Shangri-La」はシングルカットもされた、せつない名曲♪♪~♪
またレノン&マッカートニーな「Mr. Churchill Says」、ポール・マッカートニーがイーグルスしたような「Young And Innocent Day」、ウイングスの元ネタかもしれない「Nothning To Say」等々、もうニンマリがとまらないですよ♪♪~♪
という感じで、それもこれも、結局は後追いの喜びが尽きないトラックが多いのですが、その中にあって、キンクス十八番のホンワカロックが混濁したロックジャズに変化融解していく「Australia」は、その演奏の充実度が従来のキンクスのイメージを良い方向へと覆した素晴らしさ!
それと「Victoria」と「Arthur」は、これぞ楽しくて力強い、キンクスだけの表現が存分に楽しめる、永遠の名曲・名演だと思います。極言すれば、これ以降に我国でも一部でウケていたパブロックなんていう分野に通じるかもしれません。
ちなみに当時のメンバーは、ベース奏者がピート・クウェイフからジョン・ダルトンに交代した時期ですが、グループの結束は揺らぐ事が無く、セッションプレイヤーも参加したこのアルバムでの演奏は、決定的に自然体で充実しています。特にデイヴ・デイビスのギターはナチュラルなトーンでロックやカントリー、ブルースやR&Bはもちろんのこと、ジャズっぽいリックやコードを随所で多用する大健闘! ビートバンドのイカシたギタリストだった初期の姿からは、ちょっと意外なほど飛躍していると思います。
ということで、書きたいことはもっとあるんですが、それは歌詞の問題やイギリスの歴史云々に関してが多すぎますので、とりあえず、ここまでで逃げておきます。ご容赦下さい。
しかし、その点が曖昧だとしても、このアルバムで聞かれるサウンド作りと歌の魅力は、なかなか素敵だと思いますねぇ~♪ 既に述べたように、それは後追いゆえの楽しみに満ちているのです。
とにかくA面ド頭の「Victoria」は、一緒に歌いたくなりますよ♪♪~♪
ヴィクト~~~リァ~♪