■Little Red Rooster / The Rolling Stones (Decca / キング)
これは私が「Jumpin' Jack Flash」の次に買ったストーンズのシングル盤です。
曲はご存じ、アメリカの黒人ブルースをストーンズ流儀でカパーし、見事にチャート1位の大ヒット! 発売はイギリスで1964年11月、我国では翌年の2月でしたが、私が入手したのは昭和44(1969)の1月です。
そのきっかけは、直前に買ったアルバム「決定版! ローリング・ストーンズ・デラックス」に収録されていたブルースカパー曲「I Can't Be Satisfied」の名演にシビレきっていたからで、特にブライアン・ジョーンズが弾くスライドギターの魔法に憑かれていたのです。
そしてストーンズの同系演奏を求めていた私の前に現れたのが、このシングル盤というわけですが、買ったのはレコード屋ではなく、所謂「ヒッピー」のお兄ちゃんがやっていた露天でした。
当時は、そうしたヒッピー族が日本でも増えていた頃で、もちろん欧米のサイケデリック文化のひとつとして、自由な生き方を求めたドロップアウトの人種だったんですが、特に我国では学生運動からの脱退組やまともな就職を嫌った人達、あるいは流行に流されていた者も含めて、二十代の男女が多かったように思います。
そして彼等は盛り場の路上で手作りのアクセサリーや古本、あるいは輸入ポスターの粗悪なコピー品、自作の詩集やアンティーク等々を売っていることも多く、私がこのシングル盤を買ったのも、そんな彼等のひとりだったというわけです。
で、そのお兄ちゃんは様々な古着やレコードを商っていたのですが、みかん箱に入れられたシングル盤の中にはストーンズのブツが幾つかあり、そこで意を決した私は「スライドギターが聴けるストーンズは、ありますか?」と質問し、勧められたのが本日の1枚だったというわけです。
ちなみに値段は50円でしたが、決して中古ではなく、ピカピカだったのには吃驚♪♪~♪ おそらくはデッドストックだったんでしょうねぇ。
そして帰宅して針を落とした瞬間、そこにはドロドロにエグイ、ブルースの世界がありました。
オリジナルはブルース界の雄=ハウリン・ウルフが1961年に吹き込んだ名作で、その凄みのあるボーカルとギスギスしたスライドギターが強烈な印象ですが、ストーンズの演奏はブライアン・ジョーンズのまろやかで深みのあるスライドギターを要に、ミック・ジャガーがレイジーな黒っぽい語り口という、今聴けば白人らしさが隠しようもない仕上がりです。
しかし当時は、そんな事は知る由もありません。
曲調は決してメロディアスではなく、むしろ語りっぽい歌なんですが、それを彩るブライアン・ジョーンズのスライドギターが千変万化♪♪~♪ これがクセになるんですよ。
ちなみにスライドギターとは説明するまでもありませんが、弦を抑える方の手の指にガラスビンの口の部分や金属製の筒を装着し、弦の上を滑らせながら音をコントロールする技法で、当然ながら弦を弾くやり方はフィンガーピッキングを主体としているものの、これは各人の企業秘密というか、独自の奏法が個性に繋がるところです。
もちろんサイケおやじも後年、スライドギターに挑戦したのですが、どうやっても上手く音やフレーズがコピー出来ません……。なんと、それもそのはず、ギターのチューニングがレギュラーではなく、オープンチューニングだったという秘密も知ることになりました。
まあ、それはそれとして、こうした黒人ブルースの技法をロックという白人音楽に取り入れる現実については、リアルタイムの1960年代では非常に珍しかったと思います。
それは人種差別が当然の本場アメリカでは、ブルースという音楽は黒人専門の分野であり、白人層で聴いたり、演奏している奴らは「変わり者」でした。そうした事情はイギリスでも同じだったというよりも、黒人音楽そのものに対する知識や素養があまりなかった時点で、既にブライアン・ジョーンズが自在にスライドギターを演じていたという事実は、行き過ぎたものだったかもしれません。
今となってはスライドギターがロックでは当たり前に使われていますので、このあたりの事情は要注意でしょうね。
とにかくスライドギターには、ある種の魔力が秘められていると思います。
そうじゃなければ、こんなメロディの無い曲がチャートのトップになるはずもなく、また別の意味ですが、実は歌詞に秘められたエロい比喩を使った表現と中身を鑑みれば、やはりストーンズならではの世界なのでしょう。
ブライアン・ジョーンズのスライドギターはオリジナル演奏のフレーズを参考にしているとはいえ、その豊かな響きは最高♪♪~♪
ちなみに録音されたのは、ストーンズが2度目のアメリカ巡業を行った1964年秋、それも聖地シカゴのチェス・スタジオを訪れてのセッションでしたし、現場には作者のウィリー・ディクソンが立ち会っていたそうですから、それでも臆することなく、これだけの歌と演奏をやってしまったストーンズは、おそるべし!