■Stan “The Man” Turrentine (Time)
「タイム」レーベルの復刻は1970年代の我が国ジャズファンにとって、非常に嬉しい事件でした。そしてその中でも代表的な傑作名盤の「Booler Little」や「Sonny Clark Trio」と並んで人気を集めていたのが、本日ご紹介のアルバムです。
主役のスタンリー・タレンタインはR&Bに近い演奏からフュージョンやモード系のスタイルも楽々とこなす名手であり、その骨太で真っ黒なテナーサックスの魅力は、特にアメリカでは絶大な人気を得ています。
そして日本でも1970年代からはCTIでの売れセン狙いが一部で人気を呼んでいましたが、このアルバムの復刻を契機として、ブルーノートでの諸作を中心に再評価が進んだように思います。
そのあたりの事情に関して、実はこのアルバムには全盛期ソニー・クラークと名盤請負人として定評のあるトミー・フラナガンという、2人の人気ピアニストの参加がミソでしょう。サイケおやじにしても、それが目当てという部分は否めません。
録音は1960年、メンバーはスタンリー・タレンタイン(ts)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、マックス・ローチ(ds)、そしてソニー・クラーク(p) とトミー・フラナガン(p) が曲毎に交替参加しています。
A-1 Let's Groove
タイトルどおり、豪快なスタンリー・タレンタインのテナーサックスがグイグイり演奏をリードしていくハードバップのブルース大会! 思わせぶりなファンキーフィーリングが最高のテーマから最初はベースとドラムスだけを従えてムードを設定するスタンリー・タレンタインの上手さ、そして絶妙に入り込んで職人技の伴奏を披露するトミー・フラナガン♪♪~♪ マックス・ローチのタイトに躍動するドラミングも最高です。
う~ん、それにしてもこのグルーヴィな雰囲気の良さは特筆ものですねぇ~♪
絶好調のトミー・フラナガンは言わずもがな、ジョージ・デュヴィヴィェのツボを押さえたペースワークやヘヴィなマック・ローチのドラムスというリズム隊の好演を聴いていると、このトリオでアルバムが作られなかったのが本当に悔やまれますね。
A-2 Sheri
前曲と同じくスタンリー・タレンタインが書いたオリジナル曲で、ワルツビートで演じられるテーマメロディの真っ黒なムードが、まずは最高です。マックス・ローチのポリリズムなドラミングが、アドリブパートではビシバシの4ビートに変幻するあたりのスリルも満点です。
そしてここではソニー・クラークが絶品のファンキーアドリブとエグイ伴奏で高得点!
もちろんスタンリー・タレンタインもワルツ&4ビートを巧みに乗り分けながら、実にハードで男気に満ちたタフテナーを聞かせくれます。
A-3 Stolen Sweets
躍動的なリズム隊の好サポートで演じられるキャッチーなメロディのテーマが良い感じ♪♪~♪ もちろんこれしか無いの黒人感覚が横溢していますから、スタンリー・タレンタンイには十八番のアドリブ展開なんでしょう、これでもかというほどにキメのフレーズが出まくっています。
マックス・ローチのドラミングも冴えていますし、トミー・フラナガンがジェントルなムードで、これまた憎たらしいほどに素敵なアドリブを聞かせてくれますよっ♪~♪♪
あぁ、最高ですねぇ~~~♪
A-4 Mild Is The Mood
そういう良い雰囲気を受け継いで始まるのが、この豪快なハードバップ!
ベースとドラムスがピンピン、ビシバシにキメるイントロからブリブリに炸裂するスタンリー・タレンタイの任侠テナーは、とにかく最高の魅力を発散しています。もちろんジョン・コルトレーンのような音符過多なスタイルとは無縁ですから、それが一時の我が国では過小評価に繋がっていたのでしょう。しかしこれにだって不滅のジャズ魂が変わらずにあることは、聴けば納得の名演だと思います。
気になるピアニストはソニー・クラークで、その粘りながら飛び跳ねる独特のスイング感はファンを狂喜させるものです。あぁ、これは同レーベルの人気盤「Sonny Clark Trio」と同じですよねっ♪♪~♪
B-1 Minor Mood
スタンリー・タレンタンのオリジナル曲で、タイトルどおりにマイナー感覚の覚えやすいメロディが名曲名演の極みつき! その「泣き」を含んだ旋律が作者自身のアドリブへと変転していくところは、全てのジャズファンが大好きな展開だと思います。
ハードエッジなリズム隊の煽りも素晴らしく、バンドが一丸となったドライブ感が素晴らし限り! ピアニストはソニー・クラークとされていますが、アドリブには「トミフラ節」に近いフレーズも出たりして、なかなか興味深いと思いますが、真相は?
しかし、それはそれとして、スタンリー・タレンタインの黒っぽくてメロディ優先主義のテナーサックスが、その魅力を最高度に発揮した名演だと思います。
B-2 Time After Time
これはお馴染み、和みのメロディが有名なスタンダード曲ですから、スタンリー・タレンタインのタフテナーが「優しくなければ生きている価値がない」という、チャンドラーの名文どおりにハードボイルドな雰囲気を堪能させてくれます。
寄り添うトミー・フラナガンのピアノも素敵なイントロから抜群の伴奏と流石の名手を証明し、またジョージ・デュヴィヴィェのペースも味わい深いところでしょう。
短い演奏ですが、数多い同曲のジャズバージョンでは屈指の名演かもしれません。
B-3 My Girl Is Just Enough Woman For Me
あまり有名では無いスタンダード曲ですが、オリジナルメロディの魅力をたっぷりと活かしたスタンリー・タレンタインの吹奏、そしてリズム隊の堅実なサポートがありますから、何度でも聴きたくなる名演じゃないでしょうか。私は大好き♪♪~♪
またソニー・クラークの参加が、この演奏をピリッとファンキーにしている要因かもしれません。アドリブでの「ソニクラ節」の痛快さは言わずもがな、シンプルな伴奏にも独特のハードな味わいが滲んでいます。
ということで、アルバム全体に捨て曲無しの充実盤だと思います。
スタンリー・タレンタインのテナーサックスのスタイルは、既に述べたようにジョン・コルトレーンのモード系とは無縁ですから、けっこう好き嫌いがあるかもしれませんが、そのジャズの本質に根ざした音色とフレーズ展開は、やはり魅力です。
そしてアドリブスタイルもメロディフェイクの上手さと独自のフレーズをキメに使う決定的なもので、それがこのセッションでは見事に出まくっていると思います。
また当時のスタンリー・タレンタインのボスだったマックス・ローチのサポートも特筆もので、その躍動感溢れるドラミングがセッションの成功に大きく関与したのは明らかでしょう。交代参加した2人の人気ピアニストとベースのジョージ・デュヴィヴィェも全く期待どおりの良い仕事でした。
まあ、こうしたスタイルはある意味、古い「侠義」かもしれませんが、その魅力は男の生き様の憧れかもしれません。そのものスバリのアルバムタイトルが眩しいですね。