OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スティーヴィー・ワンダーの心の詩

2009-02-06 11:47:05 | Soul

Music Of My Mind / Stevie Wonder (Tamla)

スティーヴィー・ワンダーを私が強く意識したのもまた、ストーンズの所為でした。

それは1972年、ライブ最強時代のストーンズが敢行した北米巡業の前座がスティーヴィー・ワンダーであり、しかも興業のフィナーレでは両者がジョイントで「サティスファクション」と「アップタイト」をメドレーで演じているというニュースを知ってからの事です。

う~ん、そういえば「アップタイト」は「サティスファクション」を焼き直したR&Bだしなぁ~!

今となっては、全くの贅沢で豪華なライブなんですが、ただし当時のスティーヴィー・ワンダーは今ほどの大物ではなく、特に我が国ではモータウンに所属している盲目の天才少年歌手というイメージしかなかったと思います。

実際、私が知っていたヒット曲にしても、前述の「アップタイト」とか「涙をとどけて」等の正統派R&Bでした。

しかしそのニュースは、前座ながらストーンズに負けない歌と演奏を聞かせているとして、大人気を伝えていたのです。

そして当時、我が国ではストーンズの大名盤アルバム「メインストリートのならず者」が発売され、ラジオでもその中から何曲かを流すのが音楽番組の常でしたから、それ関連してスティーヴィー・ワンダーの新作アルバム、つまり本日ご紹介の1枚から数曲が放送されたのを私が聞き、忽ちグッとシビレたのです。

しかも驚いたことに、歌やコーラスはもちろん、演奏のほとんどを盲目のスティーヴィー・ワンダーが各種のキーボード、当時はシンセサイザーと呼ばれていた楽器で作りだしていたのですから!

 A-1 Love Having You Around
 A-2 Superwoman
 A-3 I Love Every Little Thing About You
 A-4 Sweet Little Girl
 B-1 Hppier Than The Morning Sun / 輝く太陽
 B-2 Girl Blue
 B-3 Seems So Long
 B-4 Keep On Running
 B-5 Evil / 悪魔

とにかく全編、殊更にR&Bに拘っていない姿勢が非常に新鮮でした。

まず冒頭「Love Having You Around」は、ほとんど白人ブルースロックというノリがあって、しかし緻密でありながら骨太のグルーヴが心地良い演奏は、各種のキーボードとコーラスを巧みに積み重ねて作りだしたものでしょう。個人的には、このアルバムの中では一番つまらない曲だと思いますが、全体をトータルな構成として聴けば、やはり最初はこれしか無いと納得しています。

そして続く「Superwoman」は今やスタンダードとなった名曲のオリジナルバージョン♪♪~♪ 爽やかなエレピに彩られた優しいメロディはポール・マッカートニー系の甘さがたまらず、さらにこのアルバムでは少ない助っ人のパートを演じるバジー・フェイトンのメロウなギターの心地良さ♪♪~♪ スティーヴィー・ワンダーの歌とコーラスの味わいは言わずもがな、完全ソロアルバムとしては無残な姿をさらしたポール・マッカートニーの単独初リーダー盤「マッカートニー」は、もしかしたら、こんな音作りを目指していたのかなぁ? なんて妄想も浮かんでくる完成度です。

そうした同系の歌と演奏ては、「I Love Every Little Thing About You」も最高の極みつきですし、これも多くの歌手にカバーされている「輝く太陽」の爽やかフォークの香りは絶品です♪♪~♪ キーボードがギターのアルペジオっぽいスタイルを演じているのも高得点でしょう。

また後年、昭和歌謡のAORで存分に焼き直された「Girl Blue」の胸キュン度も相当に高いですねぇ~♪ その意味では泣きの歌いまわしが心に染み入るスローな「Seems So Long」も良い感じ♪♪~♪ これはジャズっぽさも隠し味になっています。

気になる黒っぽさというあたりは、「Keep On Running」でクラビネットがグビグビに唸り、ドラムスがモータウン所縁のファンキーなピートを再現して、まさにスティーヴィー・ワンダー流儀のファンクな世界が原石で提供されています。

あと開放的なメロディが楽しく、さらに曲構成にも凝った「Sweet Little Girl」は、白人AORやファンキーロックとして多くの追従者が出たほどの隠れ名演だと思います。

そして大団円は厳かにして涙そうそうという「Evil」が、何ゆえにこの世の不幸を作り出すのか、せつせつと悪魔に語りかけるスティーヴィー・ワンダーの熱い歌唱とせつないメロディの完全融合という、実に感動の名曲名演です。

ちなみにこうしたアルバムを制作したスティーヴィー・ワンダーの意図は、つまり自分の好きな音楽をやりたいということでした。そして長年在籍していたモータウンとの契約が終了した1971年、あえて自主制作でこのアルバムの音源を録音し始めたのです。

それには当時の妻で歌手でもあったシリータ・ライト、またシンセサイザーや各種キーボードを新規開発していた数名のスタッフの協力もあって、それまでの本拠地だったデトロイトからニューヨークへとスタジオも代え、あくまでもスティーヴィー・ワンダー自身の音楽を追求していく、新しい挑戦でした。

このアルバムがそれほどR&Bになっていないのは、おそらくはその所為でしょう。しかしそれこそが、新しい時代のソウルミュージックであったことは、以降、次々に発表されていく傑作で明らかです。

その意味からしても、このアルバムにはスティーヴィー・ワンダーの本質が絶対にあるはずで、まさに聴かず嫌いは勿体ない!

もちろんスティーヴィー・ワンダーはキーボードの他にも得意のドラムスや泣きのハーモニカを存分に聞かせてくれますし、なによりも全編に満ちるハートウォームな雰囲気の良さは最高だと思います。

制作当時、スティーヴィー・ワンダーは21歳!

邦題「心の詩」に偽り無しの世界が、このアルバムには確かに感じられ、私はスティーヴィー・ワンダーの全作品中、これが一番好きなのでした。

コメント
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