OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

嵐を呼ぶリッチとローチ

2009-02-03 11:25:07 | Jazz

Buddy Ruch versus Max Roach (Mercury)

日本屈指の音楽映画「嵐を呼ぶ男(昭和32年・井上梅次監督)」は、石原裕次郎の代表作にして日活を経営危機から救った大ヒット作ですが、そのハイライトはドラム合戦でした。

チンピラドラマーの石原裕次郎が、華麗なテクニックを誇る人気ドラマーの笈田敏夫と対決するステージでは、喧嘩で手を痛めている石原裕次郎が肝心な時にスティックを落としてしまい、窮余の一策で「おいらは、ドラマ~、ヤクザなドラマ~♪♪」と即興で歌うシーンが、もう最高でしたよねぇ~♪

というように、映画「嵐を呼ぶ男」は、モダンジャズが全盛期だった当時の我が国芸能界を舞台にしていたので、ナイトクラブではカッコ良いバンド演奏やセクシーなダンサーのバックの仕事とか、とにかく素敵な場面がいっぱいという、サイケおやじが大好きな作品です。

さて、本日ご紹介の1枚は、そんなドラム合戦の興奮を楽しめる豪快なアルバムで、主役は神業ドラマーのバディ・リッチとモダンジャズの創成に大きく関与した剛腕ドラマーのマックス・ローチが、各々のハンドを率いて全面対決!

しかもステレオ録音の特性を活かしきった左右からの一騎打ちが痛快至極です。

まず左チャンネルに位置するのがバディ・リッチ(ds) のバンドで、メンバーはウィリー・デニス(tb)、フィル・ウッズ(as)、ジョン・バンチ(b)、フィル・レシン(b) という凄腕揃い! そして右チャンネルに位置するマックス・ローチ(ds) のバンドは、トミー・タレンタイン(tp)、ジュリアン・プリースター(tb)、スタンリー・タレンタイン(ts)、ボビー・ボズウェル(b) というレギュラー陣です。

ちなみに録音は1959年4月7&8日、アレンジをジジ・グライスが担当しているのも、セッションをビシッと引き締めた要因でしょう。

A-1 Sing, Sing, Sing
 ベニー・グッドマン楽団の十八番にして、人気ドラマーのジーク・クルーパーが大活躍する代名詞ですから、まさにドラム合戦には、これしかないの演目ですねっ!
 グルーヴィなイントロからウキウキするテーマリフを挟みつつ、まずはバディ・リッチが挨拶代わりのストレートなドラムソロ! すると最終パートからマックス・ローチが滑り込み、ウォーキング・ベースを従えてのポリリズムドラミングで応戦するという展開ですが、もう、このあたりで2人のドラマーのスタンスの違いを鮮明にさせたプロデュースは流石だと思います。しかも違和感が全く無いのは、ジジ・グライスの秀逸なアレンジの賜物でしょうね。

A-2 The Casbah
 ジジ・グライスが書いた日活キャバレーモードのラテンジャズですから、エキゾチックなメロディと妖しいムードが横溢した名演が楽しめます。とにかく2人の天才ドラマーが敲き出すラテンビートの混濁した楽しさは、流石ですねぇ~♪ 今にも白木マリが踊りながら出てきそうな雰囲気が最高です。
 メンバー各人の出番も用意され、テーマメロディをリードするフィル・ウッズやスタンリー・タレンタインは素晴らしい魅力を発散していますし、ジュリアン・プリースターも好演です。
 そして肝心のドラム対決は互いに相手の出方を見極めての協調性も感じられる、なかなか全体を大切にした展開ではないでしょうか。

A-3 Sleep
 今度はアップテンポで両ドラマーがブラシの妙技を競った痛快演奏!
 アドリブパートではフィル・ウッズ、ウィリー・デニス、スタンリー&トミーのタレンタイン兄弟からジョン・バンチのピアノへとソロがリレーされますが、その背後ではバディ・リッチとマックス・ローチが匠の技を完全披露していて、やはりそちらに耳がいってしまいます♪~♪♪ 

A-4 Figure Eights
 これは完全なるドラム合戦のトラックで、バディ・リッチが先発で華麗な技を披露すれば、それをマックス・ローチが受けて立つというか、かなり挑戦的なドラミングで対決姿勢を露わにする展開がスリル満点!
 まさに両者の意地とメンツが激突していますが、お互いに尊敬の念と信頼関係があるのでしょう、決してギスギスしていない素直な興奮が生まれていると感じます。
 う~ん、それにしてもステレオ録音の素晴らしさ! このレーベルならではの明るくパンチの効いた音作りは迫力がありますし、こういうセッションこそ、ステレオミックス盤を入手して正解だと思います。

B-1 Yesterdays
 原曲はちょいとブルーなムードの有名スタンダードですが、それを豪快なハードバップにアレンジし、両バンドが親分のメンツをかけて激しく対決した名演になっています。まずはテーマ合奏のアンサンブルからしてワクワクしますねぇ~♪
 そしてマックス・ローチのヘヴィ級ドラムソロにはバディ・リッチがカウベルで絡み、それがラテンビートへと変質したところで、いよいよバディ・リッチが爆裂のスティックを披露すれば、今度はマックス・ローチが怖いアフリカンビートで背後から襲いかかるという、実に濃密な展開です。
 そして後半はフィル・ウッズ、ウィリー・デニス、スタンリー・タレンタイン、ジュリアン・ブリースターが短いながらも瞬発力鋭いアドリブを聞かせてくれますから、最後のアンサンブルからのフェードアウトが勿体無い限りです。
 いゃ~、凄い演奏だと思います。

B-2 Big Foot
 チャーリー・パーカーが十八番のブルースは、これぞモダンジャズ本流のグルーヴィなハードバップが存分に楽しめます。もちろんマックス・ローチは得意分野ですから、ポリリズム系の4ビートは痛快ですし、バディ・リッチのほとんどドラムソロというパッキングもジャストミート! バンドメンバー達の熱いアドリブにも対決姿勢が鮮明です。
 そして、いよいよ始まるドラム合戦は、ヤケッパチ寸前という両者の勢いが逆に微笑ましく、ラストのバンドアンサンブルもジャズという娯楽の醍醐味を満喫させてくれるのでした。

B-3 Limehouse Blues
 これもジャズスタンダード曲ながら、例えばキャノンボール・アダレイとジョン・コルトレーンのバトルアルバムでも演じられたように、けっこう対決セッションには欠かせない演目かもしれませんね。
 ここでも火傷しそうな両バンドの対決が実に強烈! 親分のドラムスがイケイケですから、子分達も手抜きは厳禁というアドリブが激ヤバです。かなり危なくなっている場面もありますが、流石はリズムとビートの大御所が敲いているだけに、ビシッとしたスジの通し方は見事だと思います。

B-4 Toot, Toot, Tootsie Goodbye
 そしてオーラスも、これまたアップテンポの全力疾走で、マックス・ローチのシンバルとバディ・リッチのスネア対決から両者の激烈ドラムバトルが、これでもかと楽しめます。
 その丁々発止の技の応酬、意地のぶつかりあい、テクニックとビュアハートの対決は、まさに嵐を呼ぶ男状態ですよっ!

ということで、ジャズの演奏におけるドラムソロは、長すぎると飽きたりする私にしても、このアルバムで聴けるドラム合戦には素直に心が踊ります。

とにかくバディ・リッチの強烈なマシンガンドラミングは圧巻ですし、マックス・ローチのヘヴィでシャープなビート感の強さも流石の名演!

う~ん、またまた「嵐を呼ぶ男」が観たくなりました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする