今週末は久々に自分の時間が取れそうなんで、ワクワクしています。
中古屋巡り、古書店回り、最新映画鑑賞、食べ歩き……、様々に思惑だけが先行していますが、願わくば、このまま行って欲しいところ!
ということで、本日は――
■Overseas / Tommy Flanagan (Metronome)
ビアノトリオでは言わずもがなの名盤です。
しかし、あえて述べさせていただければ、1957年にJ.J.ジョンソンが行った北欧巡業時のバンドからリズム隊だけをピックアップして、地元スウェーデンのメトロノームというレーベルが作った1枚なので、スウェーデン盤がオリジナル!
ですから各国で発売されているものは、オリジナルでは無い、マスターコピーのテープから作られているわけです。
もちろん、今では当たり前の緑色に「C」が沢山並んだオリジナルジャケットも、実は発売各国で違うものが使われていた時期がありました。
例えば我国では、トミー・フラナガンが叫んでいるようなモノクロジャケットでしたし、アメリカ盤は掲載したようなデザインで、当時のJ.J.ジョンソンのバンドメンバー全員が写っているジャケットでした。しかも擬似ステレオ仕様!
しかし、これが侮れません。当時の日本盤より、遥かに私好みの音がしています。これはアナログ盤を作る際のカッティングマスター製作に拘りがあった所為か、あるいはカッティングレベルの高さの所為か、諸説あると思いますが、とにかくハードバップどっぷりのエグイ音が聴けたのは確かです。
ただしオリジナル盤と比較出来なかったので、あくまでも個人の好みとご了解願いたいところではありますが、1970年代のジャズ喫茶でもオリジナル盤を置いているところは少なかったと思われますから、日本盤を使っていてもオーディオ装置の優秀さでフォロー出来たのかもしれません。
肝心の中身は1957年8月15日の録音で、メンバーはトミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という今では伝説の面々です。
そしてこの演奏が凄いのは、エルビン・ジョーンズの奔放で粘っこいビートを軸にして3者が執拗に絡み合うインタープレイ、さらにトミー・フラナガンの協調性とウィルバー・ウェアの頑固さが最高に上手く機能したからでしょうか? 何時聴いても、やっぱり良いですねぇ――
A-1 Relaxin' At Camarillo
ノッケからエルビン・ジョーンズのブラシが冴え、トミー・フラナガンが珍しくもバリバリと弾きまくった快演です。というか、トミー・フラナガンにはジェントルなイメージがありましたから、これを初めて聴いた時には驚いたものです。
またウィルバー・リトルの突っこんでくるベースはブレイクでのスリルもあり、もちろんエルビン・ジョーンズは重量級でありながら、シャープなノリがあって素晴らしいと思います。
A-2 Chelsea Bridge
一転して優しさ優先の和みモードが全開します。もちろん曲はデューク・エリントン楽団のヒット曲ですから、幻想的で優雅な雰囲気を壊してはならず、しかしハードバップ的なグルーヴも大切にしているあたりが秀逸だと思います。
それはありがちな演奏テンポよりも、やや早くて強いビートが用いられているからで、トミー・フラナガン本来の持ち味である歌心が発揮されているのは言わすもがな、勢いという点でも聴き易いものがあります。
ただし現代の感覚からすれば、やはり王道のスローテンポが好ましいような気もしていますが……。
A-3 Eclypso
タイトルどおり、カリプソ風味があるトミー・フラナガンのオリジナル曲です。そしてこうなると、エルビン・ジョーンズが嬉々として大活躍! 思わせぶりな前奏からテーマに入ってのウネリには独自のものがありますねぇ。もちろんトリオ全員のノリが統一されていますから、たまりません。
アドリブパートは快適な4ビートとなって、哀愁の歌心を存分に発揮するトミー・フラナガンに対し、頑固一徹なウィルバー・リトル、そして変幻自在なエルビン・ジョーンズという美しき構図がたっぷりと楽しめるのでした。
A-4 Beats Up
ビバップでは定番のリフを使ったトミー・フラナガンのオリジナルで、アップテンポでお約束の演奏には、ブレイクで各人の妙技が使えるような仕掛けもあります。
全体には小気味良いトミー・フラナガンのアドリブが冴えていますが、ウィルバー・リトルの骨太ベースとエルビン・ジョーンズのドラムソロも聞き逃せません。
短いのが残念という不満が残ります。
A-5 Skal Brother
イントロからファンキー節が冴える、これもトミー・フラナガンのオリジナル曲です。もちろんエルビン・ジョーンズは唸りながらの粘着ビートを敲き出しています♪ いゃ~、素直に良いですねぇ~♪ 合の手の入れ方なんか、そこで次にトミー・フラナガンがどんなフレーズを出してくるか、完全に読みきったような雰囲気になっていますから、見事なもんです。
B-1 Little Rock
これが凄い演奏です!
まず初っ端からウィルバー・リトルの軋んだベースが雰囲気を設定し、フゥ~、と入ってくるトミー・フラナガンを、ビシッとタイトなエルビン・ジョーンズのドラムスが後押ししてスバッと決まる! そんな静かな熱気をトリオ全員が益々沸騰させていくのです。
あぁ、この粘りの雰囲気! 「間」と「余韻」を活かしきったエルビン・ジョーンズとウィルバー・リトル! ジェントルな雰囲気を大切にしつつも真っ黒なトミー・フラナガン! 決してゴスペルではない、純正ハードバップの黒さを堪能出来る名演だと思います。
B-2 Verdandi
短くも快適に疾走する演奏ですから、エルビン・ジョーンズのブラシもサクサクと止まりません! 曲そのものも、キメがクラシック風のメロディみたいで素敵です。
B-3 Dalarna
これがまた和みの極致のようなトミー・フラナガンのオリジナル曲です。
緩やかなテンポと優しい曲調が最高に上手く融合しており、演奏そのものも雰囲気を大切に、しかも刺激的に展開されているという素晴らしさです。
う~ん、トミー・フラナガン畢生の名曲・名演でしょうか、アドリブメロディも良い節が出まくりです。ウィルバー・リトル助演も良い感じですし、途中から倍テンポになるあたりは泣けるほどにゾクゾクしてきます。もちろんテンポを戻すところも絶妙♪
B-4 Willow Weep For Me
オーラスはブルースっぽい感覚がモロ出しになるスタンダード曲なので、このトリオも存分に自己主張と心情吐露に専念しているようです。
特にウィルバー・リトルは地味に良いですねぇ。この人はあまり有名ではありませんが、このセッションで永遠に歴史に名を残したのは単なる員数合わせの結果ではありません。素晴らしい実力者だと、私は思います。
そしてトミー・フラナガンは切れ味するどいフレーズを連発して硬派な一面を強調していますし、エルビン・ジョーンズも容赦無い雰囲気でガチンコ体質を露わにしていますから、名演も必然のトラックだと思います。
3分47秒目あたりからのキメの連続には、何時も熱くさせられてしまいますねぇ~♪
ということで、何処を切っても名演しか出ないのが、このアルバムです。
トミー・フラナガンにしても、死ぬまでこのアルバムの呪縛から逃れられなかったのが現実で、演目の再演を熱望され、実際にそれを行って、またまた名演を残してはいるのですが、どうしてもオリジナルセッションの一期一会には及ばないのも、また現実でした。
今更、名盤を聴くのは恥ずかしい……、という気分が、ある時期のジャズ者には訪れるのですが、これはそんな思い込みを軽くいなしてくれる、真の名盤だと思います。