OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

西海岸ハードバップ

2007-01-25 14:50:04 | Weblog

新車にしてからカーオーディオを増強したので、またまたCDを買うことが多くなりました。車の中じゃアナログ盤、聴けませんからねぇ。というのは実は言い訳でもありますが、最近のCD復刻には愕くべきものが多々あります。

それは紙ジャケット仕様の忠実度とかマスタリングの進歩で、特に後者については思わず唸るものも少なくありません。

しかし音質面の復刻状況については、何を基準にするかで拘りが違うというのも、個人差があるでしょう。

例えばピカピカのオリジナル盤を発売時リアルタイムの最高級オーディオで鳴らした際の音に近づけるのか、あるいはミックスダウンをしたスタジオモニターの音を基準するのか、はたまたマスターテープそのものの音を忠実に再現するのか……等々、結局はリマスター担当エンジニアの思惑が反映されるのが、本当のところでしょう。

一番良いのは、例えば現在のブルーノート復刻のように、録音時のエンジニアだったルディ・ヴァン・ゲルダーがCD化のリマスターを担当することなんでしょうが、最終的にはオリジナル盤の価値は不滅という結論に達してしまうんでしょうか……?

という考えすぎは別にして、最近のアトランティック盤復刻における紙ジャケット仕様の日本盤は、本当に素晴らしいと思います。本日もその中から、これを――

West Coast Wailers / Conte Candoli & Lou Levy (Atlantic)

西海岸ハードバップの傑作盤です!

ウエストコーストのジャズと言うと、直ぐにアレンジ重視の爽やか系か、短くてさっぱりした演奏を思い浮かべてしまいますが、ジャズ本来の暴力性とかエグミを持った黒っぽいものがあったのも、また事実です。

もちろんミュージシャンは白人中心だったかも知れませんが、彼等は優れた黒人ミュージシャンとの共演を立派にやっていますし、黒人ミュージシャンにしても遠慮無しに烈しい姿勢を貫いているのですから、悪いわけがありません。

このアルバムは中でも特に強力な1枚で、リーダーの2人は白人ですが、やっている事はモロに黒いフィーリングがたっぷりという優れものです。

録音は1955年8月、メンバーはコンテ・カンドリ(tp)、ビル・ホールマン(ts)、ルー・リヴィー(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、ローレンス・マラブル(ds) という白黒混成バンドです――

A-1 Lover Come Back To Me
 スローでテーマを変奏していくルー・レヴィーのビアノが思わせぶり、一転して烈しいドラムスに導かれコンテ・カンドリのトランペットが火の様熱く炸裂するところから、もう最高です!
 そしてビル・ホールマンの滑らかなテナーサックスが、どこまでも止まらないアドリブに突入すれば、コンテ・カンドリはラフな一面も聞かせて大ハッスルです。
 しかしここで本当に凄いのはリズム隊でしょう。グイノリのベースとドラムスに爆発的なルー・レヴィーのピアノは快感です。それはホレス・シルバーとバリー・ハリスの良いとこ取りかもしれませんが、間違いなくルー・レヴィのスタイルになっていると思います。
 思わずボリュームを上げてしまう快演ですねぇ~♪
 ラストテーマをセカンドリフ的に入れ替えているあたりも楽しいです。

A-2 Comes Love
 ちょっとエキゾチックなテーマが楽しく演奏される、これも快演ハードパップです。
 特にアドリブ先発で登場するルー・レヴィーは最高で、初っ端のブレイクのスリルは満点♪ ここだけで畢生の名演でしょう。もちろん続くアドリブだって最高にファンキーで躍動的です!
 またコンテ・カンドリは思わせぶりに登場しておきながら、忽ち猛烈なツッコミを聞かせてくれるんですから、たまりません。
 さらにビル・ホールマンも熱演ですが、ソロが短いのが減点でしょうか……。
 ただしラストテーマの合奏とアンサンブルは、流石に西海岸派の醍醐味があるのでした。

A-3 Lover Man
 リラックスした早いテンポで演じられるので、原曲に含まれた哀愁はどうかなぁ……? と不安になるのですが、心配はご無用です。
 コンテ・カンドリが一人舞台のテーマ吹奏、そして素晴らしい歌心に満ち溢れたアドリブは、見事です。ファンキーなフレーズも出ますし、テーマの裏メロみたいな変奏も隠し味になっています。特にラストテーマ代わりのアドリブは良いですねぇ。
 もうひとりの主役、ルー・レヴィーも粋なイントロにビートの強い伴奏、さらに短いながらもキラリと光るアドリブで魅了してくれますよ♪

A-4 Pete's Alibi
 如何にも西海岸派らしい軽快なテーマが、素敵なハードバップになっていく爽快な演奏です。
 アドリブ先発のビル・ホールマンは、所謂レスター派と称される滑らかなフレーズとノリが信条ですが、ここでは少~しですが、ハンク・モブレー風のタメとモタレが感じられる黒っぽいフィーリングが素敵です。
 するとコンテ・カンドリは、当然という顔でクリフォード・ブラウン(tp) の雰囲気に挑戦しているようです。
 そしてやっぱり良いのがルー・レヴィーですねぇ♪ 全く迷い無い独自のファンキー節は短いながらも最高で、ベース&ドラムスとの相性も抜群です。

B-1 Cheremoya
 やや翳を帯びたテーマが魅力的なビル・ホールマンのオリジナル曲が、力強いテンポで演奏されます。
 アドリブ先発の作者は、もちろん曲のキモをしっかり掴んだ好演ですが、ここでもハードエッジのリズム隊が実に良いですねぇ~♪ 続くコンテ・カンドリも気持ち良さそうです。

B-2 Jordu
 あまりにも有名なデューク・ジョーダン(p) の名作オリジナルと言う以上に、クリフォード・ブラウン(tp) &マックス・ローチ(ds) が残した強力ハードバップ・バージョンが聖典となっているハードバップ曲です。
 もちろんここでは、その美しき流れを大切にした演奏を目指しているようで、まずテーマ部分では独特の翳がきちんと表現されていますし、アドリブ先発のビル・ホールマンも、かなり灰色なソロを聴かせてくれます。
 またコンテ・カンドリは、嫌でもクリフォード・ブラウンと比較されてしまう宿命を素直に受け容れて大健闘! ルー・レヴィーのファンキーピアノも負けていません。
 思えば前述のブラウン&ローチのバンドは、このセッションの1年ちょっと前に西海岸で旗揚げしたのですから、当地のミュージシャンには多大な影響を残しているはずで、こういうハードバップが西海岸にあっても不思議では無いと、ひとり納得しているのでした。

B-3 Falmingo
 これは素敵な出来栄えです♪
 ネタは美しいメロディのスタンダード曲ですが、安らぎのテンポと黒いビートで演奏して立派なハードバップに仕上げられています。なんといってもコンテ・カンドリの歌心満点というトランペットが最高ですねぇ~♪ 自身にとっても畢生の名演ではないでしょうか! 何度聴いても素晴らしい限りです。
 もちろん自分達の役割を心得ているバンドメンバーも誠実なサポートで、好感が持てます。

B-4 Marcia Lee
 オーラスは楽しいウエストコーストジャズの真髄が、見事にハードバップとして解釈された名演です。あぁ、聴くほどに爽快な気分になってしまいますねぇ♪
 アドリブパートでも滑らかにドライブするビル・ホールマン、丁寧にフレーズを積み重ねていくコンテ・カンドリ、そして明るくファンキーに弾けるルー・レヴィーと充実♪

ということで、もちろんニューヨークやシカゴあたりのドス黒い演奏とは違いますが、これも立派なハードバップだと思います。その原動力はルー・レヴィーでしょうか? 同時期ではスタン・ゲッツのリーダー盤、例えば「ウエストコーストジャズ(Verve)」でも大活躍が記録されていますが、私はそのライトなファンキーピアノにゾッコンです。

また同時にリロイ・ヴィネガーとローレンス・マラブルという、西海岸きってのリズムコンビが生み出す強烈なグルーヴも、どこか明るさが滲んで捨てがたい魅力があると感じます。

ただしフロントの2人がちょっと軽い雰囲気なので……。まあ、そこがこのアルバムの特徴でもあるんですが、失礼ながら、これでテナーサックスがテディ・エドワーズあたりだったらなぁ……、という我侭を、つい言いたくなります。

さて冒頭で述べた、このCDのリマスター状態ですが、やはり秀逸だと思います。

実は私は、一応、オリジナル盤を持っていますが、残念ながらレコードの材質そのものが粗悪というか、特に盤面が痛んでいるわけでは無いのに、アメリカ盤特有のメリハリの強い音がしていません。その点、今回の復刻CDは、なかなか良いセンだと思います。

ちなみに、ここで再現されている音は、恐らくマスターテープの忠実な再生を狙ったものでしょうか? 好きな演奏なだけに、一度でいいから、スタジオモニターでオリジナルマスターテープを聴いてみたいものです。

コメント
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