OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

雰囲気だってジャズ

2006-05-24 18:10:04 | Weblog

仕事の現場には先頭に立ってバリバリやる者ばかりでは無く、その環境をやり易くする雰囲気作りに長けた者が必要かと思います。

本日はそんな人の1枚を――

Benny Golson And The Philadelphians (United Artists)

ジャケットは素っ気無いんですが、中身はバリバリのハードバップです。

録音は1958年11月17日、メンバーはリー・モーガン(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、レイ・ブラアント(p)、パーシー・ヒース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、タイトルどおりにフィラデルフィア出身者を集めてのセッションです――

A-1 You're Not The Kind
 レイ・ブライアントが粋な風情のイントロを弾き出してスタートする快適なハード・バップですが、仄かに漂う暖かい作風と演奏姿勢がたまりません。
 アドリブの先発も当然ベニー・ゴルソンで、ハスキーな音色でモリモリブリブリと吹きまくります。このあたりの音数の多さはジョン・コルトレーン(ts) と同じことをやっているのですが、聴くと決定的に違うのが、基本スタイルがビバップ以前のテナーサックスに根ざしていることで、ベン・ウェブスター(ts) とかドン・バイアス(ts) がハードバップを吹奏すると、こうなるの? なんて雰囲気です。故に私はベニー・ゴルソンのソフトバップ説に加担しているのですが、軟弱ということでは、もちろんありません。
 それは続くリー・モーガンの負けじと張り切るトランペットを聴けば明らかで、背後ではフィリー・ジョーのドラムスが叩き過ぎの美学でオカズを入れまくりです♪
 う~ん、それにしてもリー・モーガンは凄すぎますねぇ~♪
 演奏はこの後、レイ・ブライアントのピアノから、やたらにカッコ良いセカンド・リフが提示され、ラストテーマが導かれるのでした。最高です!

A-2 Blues On My Mind
 これもベニー・ゴルソンが作曲したファンキーなブルースで、まるっきりジャズ・メッセンジャースしているテーマからして、最高です。
 そしてアドリブ先発ではレイ・ブライアントが本領発揮のソフトな黒っぽさをたっぷり聞かせてくれますし、背後から迫ってくるハードボイルドなリフも雰囲気を盛り上げます。
 こうなるとベニー・ゴルソンは十八番の展開ですから、ふふふふふふぅ~というサブトーンにヒステリックな高音の泣きを混ぜ合わせて、当に自作自演のブルース魂を吐露していきます。
 するとリー・モーガンはフィリー・ジョーとグルになって、擬似倍テンポの輝かしいアドリブを披露♪ あぁ、こんなにジャズどっぷりのアドリブを聞かされると、全くこの人は天才以外の何者でも無いと思いますねぇ。
 またパーシー・ヒースも巧みなベースソロを展開しますが、その背後に潜むフィリー・ジョーの抑えたドラムスが、意想外の素敵さです。

A-3 Stablemates
 ベニー・ゴルソン作曲によるハードバップで、当時からモダンジャズでは定番としてマイルス・デイビス(tp) やミルト・ジャクソン(vib) 等々、素晴らしい演奏が残されていますが、これは作者の自作自演とあって、ケチのつけようが無い名演だと思います。
 その要はリズム隊の的確なサポートでしょう。イントロからフィリー・ジョーが妙技を披露してテーマをお膳立てすれば、パーシー・ヒースは安定感抜群の土台作りです。
 それがあるからこそ、リー・モーガンがミュートで煌くソロを披露し、レイ・ブライアントが洒落たタッチで歌心を発揮、さらにベニー・ゴルソンがブリブリと押出していけるのです。
 全く、素晴らしい演奏♪ 本物の名曲・名演です!

B-1 Thursday's Theme
 B面は暗い哀愁が満点というベニー・ゴルソンのオリジナルでスタートします。そしてこのサスペンスがいっぱいの曲調で、もう名演は約束されたようなものです。
 なにしろリー・モーガンのミュート・トランペットとベニー・ゴルソンのハスキーなテナーサックスの相性が抜群ですし、控えめながらもビートの芯がクッキリしたリズム隊が最高です。
 アドリブ・パートでも、ベニー・ゴルソンが珍しくも歌心を前面に出して、全く飽きないソロを展開すれば、続くリー・モーガンもジンワリと心情吐露♪ 文句のつけようがありません。
 レイ・ブライアントのピアノも忍び泣きの風情がありますし、背後で鳴り続けるフィリー・ジョーのブラシが、本当に不思議な魅力で余韻を残すのです。これこそジャズ者必聴の名演かもしれません。

B-2 Afternoon In Paris
 一転、明るい曲調の演奏で、所謂ゴルソン・ハーモニーと愛されたテーマ処理が、まず素敵です。
 ベニー・ゴルソンのアドリブは何時どおりのゴリ押しスタイルなので、やや嫌味があるというのが正直な感想ですが、リー・モーガンの明朗闊達なトランペットと躍動的なフィリー・ジョーのドラムスで救われるという、ちょっとミもフタも無い仕上がりです。しかし憎めないんですよねぇ~、これがっ!

B-3 Calgary
 オーラスはピアニストのレイ・ブライアントのオリジナルで、なかなかの名曲が溌剌と演奏されます。
 先発のアドリブ・ソロはもちろん作者自身ですが、すぐにリー・モーガンが待ちきれない雰囲気で突っ込んでくるあたりが痛快です。
 そしてこの演奏で一番目立つのがフィリー・ジョーの頑張りでしょう。全篇にこれぞっ! という名人芸を聞かせてくれます。

ということで、これは偏見無く、ハードバップの名盤と断言致します。とにかくメンツも曲も魅力たっぷりで、聴く前からこちらが想像していたとおり以上の演奏と音が出てきますよ♪

オリジナル盤は希少でしたが、幸いなことにジャケット違いのCDとして復刻されています。おまけにベニー・ゴルソンがパリのミュージシャンと共演したボーナス・トラック付きで、これが「ブルース・マーチ」とか「モーニン」といった人気曲なんですから、ルンルンです♪

主役のベニー・ゴルソンはテナーサックス奏者としては、それなりの評価しか得られないのが本当のところで、好き嫌いが別れる人なんですが、作・編曲者としては超一流! 個人的には雰囲気作りの名人だと思います。このアルバムでも「Thursday's Theme」は特に秀逸で、あぁ、モダンジャズを聴いているなぁ……、という雰囲気にどっぷりと浸かれること、請け合いです。

ハードバップ好きには欠かせないアルバムだと思いますので、ジャケ写からネタ元をチェックしてみて下さい。

コメント
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