私は猫が好きです。理由は無いんですが。また猫=キャットとはジャズ者の意味も含んでいるとか♪
ということで、本日はこれを――
■The Cat / Jimmy Smith (Verve)
ジャズはアドリブ命なので、ある意味では自分勝手、自己満足の音楽ですから、なるべく自由にやったほうが良い演奏が生まれると思われがちですが、超一流の演奏者には何の関係もありません。
例えばチャーリー・パーカー(as)、アート・ペッパー(as)、ウェス・モンゴメリー(g) といったアドリブの大名人は、ガチガチにアレンジされたストリングスやオーケストラとの競演しても、名盤と絶賛される作品を作っています。
では何故、個人芸のジャズにアレンジされたバック演奏が必要かと言えば、大衆性の追及が主なところでしょう。つまり口当たりを良くして売りたいという思惑です。ただし、ジャズ者は天邪鬼が多いので、あまりにも売れセン狙いだと逆効果! ですからその中で主役になろうとする者は、尚一層、アドリブ芸に命をかけねばならないというわけです。そしてこれは超一流の者だけが成しえることです。
本日の1枚の主役であるジミー・スミスは、その存在からして既に合格でしょう。なにしろモダンジャズにオルガンを持ち込んだ革命児として1950年代からブルーノートに夥しい録音を残し、その驚異的なアドリブ能力とジャズ魂、さらにゴスペルやR&B感覚がたっぷり染みこんだ演奏で、忽ち人気者になりました。
このアルバムは1960年代に入って移籍したヴァーブ・レコードで製作されたもので、ラロ・シフリンが作編曲したオーケストラをバックに、演奏は臨時のメンバーが主体ですが、ジミー・スミスが大爆発している人気盤です。
録音は1964年4月27&29日、リズム隊はケニー・バレル(g)、ジョージ・デュビビェ(b)、グラディ・テイト(ds) が中心となり、トランペットとトロンボーン、フレンチホルンを主体としたブラス陣がついています――
A-1 Theme From “Joy House”/ 危険がいっぱいのテーマ
アロン・ドロン主演による同名映画の主題曲です。もちろん作曲は、このアルバムのアレンジを担当したラロ・シフリンということで、ここでの演奏も抜群の仕上がりです。
ハードボイルドに蠢くリズム隊に導かれ、静々と登場して燃え上がっていくジミー・スミスのオルガンは、そのバックで咆哮するブラス陣との対比も鮮やかです。
ラロ・シフリンは1970年代の「燃えよドラゴン」や「ダーティ・ハリー」のサントラで一躍有名になりますが、1960年代にも良い仕事を沢山やっています。
A-2 The Cat
これもラロ・シフリンのオリジナルで、スピード感満点のテーマ・メロディは最高のカッコ良さです。リズム&ブラスのアレンジも秀逸ですし、ジミー・スミスのオルガンも完全無欠の物凄さ! ジャズロックとかソウルジャズとか論争する余地が全く無い、当にしなやかな猫の身のこなしを思わせる名曲・名演です。確か当時、シングル盤としても発売されていたので、皆様一度は聴いたことがあろうかと思いますよ♪ 切れ味鋭いブラス陣にもKOされるはずです。
A-3 Basin Street Blues
ジャズの古典曲をじっくりと演奏するジミー・スミスのオルガンは、やはり最高です。元メロディの哀愁を大切にしつつ、要所で咆哮するブラス陣を振り切るようにアドリブに専念するジャズ魂は流石!
ラロ・シフリンもそのあたりを充分把握して抜群のアレンジを施しており、全てが名演のこのアルバム中でも上位の仕上がりになっています。
A-4 Main Title From “The Carpetbaggers”/ 大いなる野望
これも当時公開されていた映画から、エルマー・バーンスタインが作曲したテーマを演奏しています。
ここでのアレンジはラテンビートも導入し、重苦しいブラスとシャープなリズムの対比の中で、スリルとサスペンスに満ちたジミー・スミスのオルガンが躍動します。そのアドリブはかなりハードで、全くアレンジに負けていません。
B-1 Chicago Serenade
ケニー・バレルのギターがリードするテーマ・メロディは、何となく昭和歌謡曲です♪ フランク永井の「君恋し」を連想するのは私だけでしょうか♪ いゃ~、本当に良いですねぇ~♪
主役のジミー・スミスも楽しそうにアドリブしてくれますが、もちろん日本人の琴線に触れまくりの泣きを連発! おそらく黒鍵モードなんでしょうねぇ♪ 絶妙な思わせぶりも交えて大サービスの演奏になっています。
ケニー・バレルにレコード大賞をっ!
B-2 St.Louis Blues
これもジャズの古典曲ですが、アッと愕く高速演奏にアレンジされています。もちろんジミー・スミスにとっては、かえって十八番のテンポですから大暴走はお約束! 指も体も動いて止まらないアドリブが展開されていくのでした。
ラテン・パーカッション入りのリズム隊も躍動的です。
B-3 Deion's Blues
タイトルどおり、俳優のアラン・ドロンに捧げたブルースです。アルバムの解説によれば、ジミー・スミスは欧州巡業の際にアラン・ドロンと交友があったらしく、ちゃんとアラン・ドロンのポートレートまでも載せています。もちろんそれはアルバム冒頭に収めた「危険がいっぱい」の関連もあるのでしょう。
肝心の演奏はミディアム・テンポのグルーヴィな出来で、当にジミー・スミスが本領発揮! ラロ・シフリンのアレンジもツボを外していないカッコ良さです。
B-4 Blues In The Night
確か「夜のブルース」というアメリカ映画のタイトル曲で、ダイナ・ショウの名唱があまりにも有名です。曲そのものはブルース形式ではありませんが、緩やかなブルース感覚がたっぷりなので、ジミー・スミスにとっても十八番の展開がたっぷり楽しめます。ドヨヨヨヨヨヨ~~、というタメのあるオルガン・フレーズが頻発され、また驚異の早弾きとプログレ感覚まである炸裂弾きは痛快ですねぇ♪ これがジミー・スミスです!
ということで、このアルバムは分かり易い演奏ばかりです。しかもキーワードはカッコ良さ♪ これにはどんな堅物の評論家の先生も、ケチをつけるスキなど有りはしないと思います。なにしろアレンジはシャープで厚みがあり、その中で奔放に弾けるジミー・スミスのオルガンは完璧! 1964年に発売されるや、忽ち世界中で大ヒットしています。
演奏技術的には相当に高度な部分が多々あると思いますが、ちっとも難しく聴こえてきません。むしろウキウキ、ワクワク、スリル満点、何度も言うけどカッコ良い! 私なんか高速ドライブの必需品としてカーステレオに常備しています。アクセル踏みすぎにご用心の1枚なのでした。
やっぱり猫は良いなぁっ♪