山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

背筋凍るTPPの真実

2016年11月02日 22時21分34秒 | Weblog
TPP問題のもっとも鋭い論説を発表して警鐘を鳴らしてきた東大教授・鈴木宣弘氏の「背筋凍るTPPの真実」という論文が『前衛』11月号に載った。教えられるところが多い。その一部をほぼそのまま引用して紹介したい。国会では明日にでも採決を強行しようとしている。ろくに中身の審議がされていないのに。

◆TPPはバラ色で農業への影響は軽微?
内閣府の2013年の試算では、TPPによってGDP国内総生産は3・2兆円増えるとしていた。それがTPP批准をめざす再試算で、13・6兆円の増加と4倍以上にはね上がり、農林水産業の損失は3兆円から1700億円へと20ぶんの1に圧縮された。政府の公式発表のこれほど意図的な修正は過去に例がない。農林水産業への影響も軽いから、少し国内対策をすれば、TPPはバラ色の明日を約束してくれると言っているようなものだ。農水省は2013年ではやや過大な数字を出してTPPに抵抗していた。だが今回は首相官邸に屈服しなければ官僚たちは差別的人事をされるため完全に屈服した。
鈴木教授は、農業4品目のTPPによる影響を論文で紹介した。以前の農水省、鈴木研究室、今の農水省の試算を比較した。コメは、以前の農水省10,100億、鈴木研1,197億円、今の農水省0円。生乳は、以前2,900億、鈴木研972億、今198~291億。豚肉は、以前4,600億、鈴木研2,827億、今169~332億。肉用牛は、以前3,600億、鈴木研1,738億、今311~625億という具合だ。このようにして、農業への被害を少なく表現した。
2016年5月、米政府はTPPの米国への影響試算を発表した。実質GDPは0・15%4・7兆円しか増えない。日本政府はTPPでバブルが訪れるというのと大違い。農業では、日本への輸出増4000億円、全体の輸出増8000億円。製造業では生産も雇用もマイナスとした。アメリカ政府は冷静だ。安倍首相の盟友・黒田日銀総裁は先日2%インフレを放棄した。アベノミクス公式敗北宣言だ。だが、TPPをやればアメリカを完全に凌駕する経済成長がやってくるというのだ。それなら、TPPを新アベノミクスといったらいい。国民の誰一人として、TPPで空前の経済成長が来るとは思っていない。TPPがチャンスだというのはグローバル企業だけだ。国民経済を犠牲にして栄えることをねらっている。
 アメリカの対日農業輸出増4000億円に加え、カナダ、オーストリア、メキシコ、ベトナムなどを含めたらその2倍になる。日本の農業生産の減少が1700億円ですむはずがない。日本政府は、冷静なアメリカ政府試算がウソだといっているようなものだ。
 ◆TPPによって食の安全性はどうなる?
 TPPによって関税が下がれば、安い肉が入ってくる。しかし、関税を下げれば関税収入は減る。日本の関税収入は税収60兆円のうちの1・2兆円だ。これがなくなれば、どこに税を求める?消費税増税だ。消費者の負担だ。
 さらに問題なのは、米国では牛の肥育のために女性ホルモンのエストロゲンなどが投与されている。これは発がん性があるとして、EUでは国内での使用も輸入も禁止されている。日本では国内使用は認められていないが、輸入は許可されているので出回っている。またラクトパミンという牛や豚の成長促進剤にも問題がある。日本でも国内仕様は禁止されているが、輸入は素通りだ。さらに米国の乳牛には遺伝子組み換えの牛成長ホルモンが注射されている。米国ではこれが認可された1994年から数年後には、乳がん発生率が4倍、前立せんがん発生率が7倍という論文がだされたため、スターバックスでもわざわざ「成長ホルモンを使った乳製品は使っていません」と表示している。もちろん日本では認可されていないが、輸入を通じて入ってきている。さらに、アメリカ牛には狂牛病の危険性がある。発症例がほとんどない20か月以下の牛に限定して輸入していたのを、30カ月に弛めてしまった。米国では検査率は1%未満だ。日本政府はTPPをひかえ、30カ月の月齢制限を撤廃する準備をすでに終えている。
 ◆さらに遺伝子組み換えなど危険満載 
 米国は、遺伝子組み換えを使用していないと表示することは消費者をまどわす誤認表示だと主張している。遺伝子組み換えが安全でないという科学的根拠が示せないならやめろと迫るだろう。
 しかし、フランスのカーン大学の実験では、2年間ラットにM社のGMトウモロコシを食べさせたところ、ラットはガンだらけになった。強力な除草剤であるグリホサート系薬剤をかけても枯れないGMトウモロコシや大豆には、その薬剤がかけられている。しかも耐性雑草がふえたため散布量がふえている。残留農薬濃度は高まっている。
 防かび剤も問題だ。日本では収穫後に農薬をかけることは禁止されているが、米国レモン・オレンジなどく果物や穀物には、日本への長期輸送でカビが生えないよに農薬(防かび剤)をかけている。腐らずピカピカのものは危険な証拠だ。これは米国からの圧力に屈し、防かび剤を食品添加物に分類することで、日本への輸出を許可することにしているからだ。ところが、食品添加物は食品パッケージに表示する義務があるため、米国はそれが不当な差別だといいはじめた。そのため、TPPの日米二国間交渉で、日本はさらに規制を緩めることを約束した。政府はそんなことは約束していないと言い張ったが、TPP付属文書に書かれている。
 輸入農産物は、成長ホルモン、成長促進剤、GM、除草剤の残留、収穫後農薬などのリスクがあり、安ければいいというのは命を削ることになりかねない。
 外食や加工品もふくめて、食品の原産国表示を強化することが求められるが、表示に関しては「国産や特定の地域産を強調した表示をすることが、米国を科学的根拠なしに差別するもの」としてISDSの提訴で脅される可能性がある。
 一昨年秋、米国議会で、オバマ大統領に一括交渉権限を与える法案が1票差で通った。あのとき、日本政府はロビイストを使って、民主党のTPP反対議員に多額のお金を配って賛成を促したという。
 政府は、「規模を拡大してコストダウンで輸出産業に」といって空論をふりまいている。マスコミもTPP賛成で政府にすりよっている。だから新聞・テレビすべてTPPの真実は報道しない。報道の前提となる真実を探る気さえない。農業は甘やかされている、既得権益にひたっているという報道で、おおくの国民の認識もゆがめられている。
 たしかにごくごく一部の農家・農業企業で輸出農業をしているものがある。一部の桃やりんご、ごく一部の米、ごく一部の牛肉など。でも強いと思われるりんごでも輸入が53%台になっている。なぜか。リンゴ果汁だ。すべての野菜ジュースの中身の過半が輸入りんごジュースなのだ。テレビがこぞって取り上げるごくごく一部の輸出農産物の陰で、日本農業が崩壊させられ、食の安全が骨抜きにされようとしているのだ。
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