11月1日、萩生田文科大臣は20年4月からはじまる予定だった民間英語試験について、「来年度からの導入を見送る」と表明した。入試においてもっとも重視すべき公正公平がいちじるしく脅かされることが関係者から指摘されても、知らんぷりで実施すると突き進んできた政府文科省がついに折れた。
萩生田氏は、延期の決定は「私の発言が直接原因となったということではありません」といった。直接ではないが、間接的にはそうだ。この試験の問題性については英語教育の専門家からはずいぶん前から厳しい批判が出されてきた。だが、民間試験を共通テストに取り入れることで莫大な利益を生むことが大きな動機となってこれが推進されてきた。そもそも民間試験導入の決定過程が闇の中というのが腐臭ふんぷんだ。利害関係者だけで決めるのだから、とても教育的な議論としては表に出すことができるレベルではなかったのだろう。だから議事録もない(あってもないことにしているのか)というどす黒いことになっているのだ。萩生田氏の「身の丈」発言は、この民間試験の問題性を見事に、短い言葉で現わしてくれた。試験の実態はいいものだが、萩生田発言が悪いというのは正しくない。この民間試験そのものが、「身の丈」でしか受けられない差別的なもので、それを正直に表現したのが萩生田氏なのだ。
専門家がくりかえし指摘してきたにもかかわらず、マスメディアレベルでは問題にならず、このまま実施へ突き進むかに見えたが、ついに萩生田氏のみごとな、本質を突いた表現によって、この試験の差別性をえぐりだすことができた。ようやく火がついたということだ。共通ID申し込みの1週間前で情勢が急展開した。もうだめかと思っていたが、あきらめなくてよかった。安倍内閣の不祥事閣僚たちの相次ぐ辞任のダメージと重なって、ぎりぎりの段階で見送りへと舵を切らざるを得ないところに追い込んだ。不公正不公平な制度に待ったをかけることができてよかった。