湘南発、六畳一間の自転車生活

自転車とともにある小さな日常

12/3 三浦山中での出来事・後編

2006年12月06日 | 自転車生活
12/3 三浦山中での出来事・前編より

 倒木と薮に行く手を遮られた沢を前に、どうしようかと少しのあいだ考えていた。林道の終点を出発してもう1時間くらいがたっている。予定ではもう山を出てる時間だ。それにそろそろ疲れも感じはじめている。う~ん、やはりこのまま来た道を引き返すのが無難なのかなぁ、残念だけど。そう考えはじめたときに、倒木の向うから長靴を履いたひとりのおじさんがあらわれた。いま思い返しても、それはまるで困ったときに都合よくあらわれる映画やテレビのなかのヒーローさながらのタイミングだったと思う。その日会った唯一のハイカーが、もっとも窮地に陥っていたまさにその瞬間にあらわれたのだから。

 詳細な地形図のコピーを持っていたそのおじさんに僕はこの先の道について訊ねてみた。そして僕が出たいと思っている場所までの道について訊ねてみた。僕はできたらこのままいまいる沢を詰めてみたかったのだけれども、その方が言うには自転車を持っているのならば少し手前の沢沿いにつけられた道で尾根にあがったほうが良いとのこと。いまいる沢も行けないことはないけれども、道があるわけでもないし、最後はかなりの急登になってしまうとのこと。でも少し前の沢沿いの道って・・・?

 おじさんは持っている地形図を僕に見せて、この沢を登っていくんだと教えてくれた。そしてその沢沿いにマジックで道を書いてくれた。ってことはかなり詳細な地形図にも載っていない道を登っていくってことなんですね(汗)。でも幸いなことにその沢との分岐地点は目星がついた。実は僕はそこでどちらに行くか迷ったのだ。で、その沢をつめる道も実は歩きで途中まで行ってみたのだ。ただあそこは途中でやはりかなりの急登になっていた。あそこを登るのか?でも、おじさんはやはりいまいる沢をつめるより全然マシだという。少なくとも道はあるわけだから。そして沢をつめた尾根からの道を教えてくれた。よし、それならじゃぁ行ってみよう!

 ということでおじさんにお礼を言って別れ、自転車のデポ地点まで戻り、教えてくれた沢沿いの道に入っていったのだけれども、



 やっぱり、結構すごい・・・



 この場所では自転車を担ぎ上げられるかいまひとつ自信がなかったので、まず空身で登ってみた。で、そのあとに気合を入れて自転車を担ぎ上げた。でも多分ここが一番の核心部だったのだとは思う。そのあとは比較的歩きやすく、担ぎやすい道になったので。

 で、そんなこんなで自転車を担ぎながら少しして、



 また峠のような場所に出た。とくに峠の碑はなかったけれども、帰ってから調べたところここは辻の神峠(148m)というところらしかった(この日ふたつ目の三浦半島の峠をゲット!)。この峠では尾根沿いに続く道と、沢に降りる道が交差していたが、さすがにもう沢に降りる気はしなかった。でもかといって尾根沿いに行けば目的の場所に出れそうかというとそういうわけでもなさそう。



 とりあえず、ここでも峠に自転車を置いて少し尾根沿いに偵察しに行ってみたのだけれども、別の尾根に続く道は発見できなかった。



 となると、沢沿いに下って、そこからまた別の尾根に登り返すしかなさそうですね。というわけで、峠からまた鬱蒼とした緑のなかに下っていった。



 そして途中から登り返し。



 さっきよりかは全然道はいいのだが、結構きつい勾配の登りで、押したり、担いだり、ママチャリみたいにシートチューブのところを持って移動させたりなんだりで、なんかだんだん疲れてきた。下半身にも上半身にも、明らかに普段はかからないような負荷がかかっている。



 そして少ししてようやく尾根に出ることができたのだけれども、この尾根道がまたアップダウンがきつかった。いつも走る尾根道のようにはいかなかった。



 そんななかで見た横横越しに見た東京湾は、少しだけれども確実に疲れた体に活力を与えてくれたと思う。僕はあの海に出ようと思っているのだ。ただ、この海を見てからなぜか上田正樹の『悲しい色やね』のメロディがやたら頭のなかにこだまするようになってしまった。

 なめたら あかん なめたら♪
 Hold me tight 大阪(湘南)ベイ・ブルース♪

 
 というくだらないフレーズがずっと頭のなかをこだまするようになってしまった。きっと、やはりかなり疲れが蓄積してきたのだと思う。そして本当に「なめたらあかん、三浦」と心から感じていたのだと思う。



 逃げたら あかん 逃げたら♪
 唇 噛んだけど~♪


 でももう早く山から出たくてたまらない。腹もすごい減ってきたし。逃げてぇ~。
 で、この橋でようやく横横を越えたのだけれども、まだもう少し山の中だった。



 そしてそこからもう少し押したり担いだり乗ったりして、ようやく山道の終わりを感じさせる場所に。最後のほうはかなりへこたれていたのだけれども、これでなんとか無事山を抜けることができたと思った。



 そして最後は豪快なダウンヒル!と言いたいところだけれども、階段を担いで住宅地にたどり着いた。降りる場所選びに失敗した感が少しあった。

 結局本日の行程の乗車率は・・・考えたくない。僕的には疲れはしたもののそれなりに満足だったけれども、決して人には勧めはしないと思う。時間も何だかんだで2時間以上かかったと思うし(まぁ時間そのものはたいしたことないんですが、でも疲れた)。ただ今後の覚悟のようなものはできた。「なめたらあかん場所なんだ、ここは」ということがとりあえずわかった。これからはそういうつもりで出かけることにしよう。

 住宅街へ降りてからは、R16を北上して吉村家系の横横家へ。何を食べようと思ったときに思い浮かんだのが、この味の濃いガツンとしたラーメンだった。



 幸い待ち時間なく店に入り、チャーシュー麺の中盛をガツンと頂きました。そして食べ終わって店を出ると・・・、西の空が薄っすらとオレンジ色に染まりはじめていた。それはどこか少し物悲しく、そしてとても美しい色だった。

 その空を見て、僕は狂ったようにペダルを漕いだ。六浦から池子の山を越えて逗子の駅前を通り、そして逗子の海岸へ必死になって走った。何としても日が沈む前に相模湾に戻ってきたかったのだ。「やれ行け、それ行け、夕日だぁ!」という気持ちだったのだろうか・・・?



 で、頑張った甲斐あって、なんとかギリギリ逗子海岸に着いた。



 そして波打ち際ギリギリのところまで歩いていって、その美しさに圧倒されながら相模湾に沈む夕日をみた。本当にこの日の夕日はきれいだった。思えばこんなふうに砂浜から夕日を眺めるなんていつ以来だろう?

 そんなことを思いながら夕日を見ていたら、どこかから「当たり前だい!夕日はいつだってきれいなんだい!10年後だって、20年後だって、50年後だってずっと夕日はきれいなんだい!」という少年の声が聞こえてきた気がした。まっ、冗談ですけど、実はちょっと本当だったりも。



 それからは日が落ちて、空が完全に暗くなる前に部屋に戻ろうとR134を走った。



 そしてなんとか暗闇に包まれる少し前に江ノ島に帰り着いた。夕映えの湘南海岸の風景は、ドタバタした1日の最後のちょっとしたご褒美だったのかもしれない。