YS Journal アメリカからの雑感

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Justice: Michael J. Sandel 『これから「正義」の話をしよう』

2010-09-05 23:57:23 | 書評
高校や大学での青臭い議論を、適切な具体例を豊富に揃え、大人の知性をまぶしたらこんな本になる。今更(良い年をした大人がという意味で)、こんな事を本質的に考えなければならないのであれば、非常に幸せな人生のまっただ中で、今まで何も真剣に考えた事が無い証拠である。つまり大学生にとっては非常に役に立つが、まともな大人に取っては、何を今更といった類いの本である。(幼稚なマーケティングに乗せられて本を購入した大人な私は、不甲斐なし)

俯瞰的で抜群なのは池田 信夫の書評で、これ以上の事は誰にも書けないだろう。ついでに、彼のブログエントリーで「リバタリアン対コミュニタリアン」「アメリカ現代思想」を読むと、現代の政治思想の背景が体系的に理解出来る。

読む価値があるかと聞かれたら、自分としては「ある」というほか無い。本の内容より、読むまでに予習した事、特に上記の池田信夫を読む事で元が取れている。

個人レベルでは、高尚なよた話の域を出ないものである。しかし、政策決定、代議士選挙、代議士の政治信念の点検という意味では、決して我々の生活と無関係ではないのである。

私の正義 (Justice) の話を2つしよう。非常に個人的であるが、結論は日本人の英知が凝縮されていると思っている。(歪んだ手前味噌な持論肯定ではあるが)

1つは、死刑の問題。私は賛成論者である。殺人罪の罰して死刑はもっと適用されて良いと思っている。精神鑑定で責任能力が問われる事があるが、罪に変わりはないので責任能力は関係無いと考えている。

2つは、自殺幇助に賛成である。本人が明確に死にたいとの意図があれば、合法的に自殺する術はあっても良いのではないかと考えている。

日本では先進国の例に習ってという場合が多いが、死刑は先進国で廃止、中国でさえ廃止議論が出くらい反対の方法へ進んでいる。一方で自殺幇助については、北欧(確かノルウェー)では合法、アメリカもオレゴン州では認められている。つまり、歴史や文化の違う他の国には答えは無いのである。

これらの考え方の根底には、経済合理性や潔い生死観有り、社会秩序や後世への負担を軽減する知恵があると思う。正しい答えは無いと思うが、政治が判断しなければならない時に、薄っぺらな人権擁護的な議論や判断先送り的な政策については、批判的でなくてはならない。そうでなければ、死に対する究極の判断が、他人の手で決定される日が来る事を覚悟しておいた方が良い。そしてその決定は、安上がりである死を常に指向するものである事も。


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2 コメント

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Unknown (ビット)
2011-05-16 03:18:10
Twitterで目にした「debt ceiling」が分からず検索したらここに来ました。辞書の訳語ではよく分からなかったのですが、こちらの記事を読んで飲み込めました。

日本ではサンデル氏がちょっとしたブームになり、NHKで彼のシリーズが放送され、今はその二番煎じが放送されています。

テレビで少し彼の講義を見ただけですが、私の感想もこの書評の最初の段落と全く同じです。

若い人がああいう哲学的で高尚な議論に惹かれるのは(自分もかつてそうだったので)分かるのですが、分からないのはサンデル氏です。
あの年齢になって、あんな身のない話をあんな自信満々に出来るとは、いったいどんな身のない人生を生きてきたんだろうと思わずにいられません。
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リベラルばか (ysJournal)
2011-05-16 07:13:42
ビットさん、コメントありがとうございます。
最近、ハーバードなどのエリート大学の実務以外の授業内容については、私も疑問があります。

先生も生徒も頭が良いのでしょうが、故に、啓蒙的な思考、つまり人間の理性(頭が良い自分たちの考え方という、只の自惚れだとおもってますが)を信じ過ぎています。

アメリカは、未だ比較的、自分の事は自分でやるといったワイルドな人が多いので、全体としては救われ手いる様な気がします。

アメリカではサンデル氏など全く話題になっておりませんので、尚更日本の酷さが際立ちます。

タイトル通り、アメリカから手当り次第に目についた事を取り上げています。お役に立てて幸いです。
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