iPS細胞作成の成功から一気にSTAP細胞作成へと生命科学、とくに幹細胞研究の大きな進展がありました。今回の発見は多くの幹細胞研究者が一度は夢見ていた、あるいは心に抱いた現象だったのではないでしょうか。しかし、これまでの長い生命科学の研究の歴史を一気に書き換えるものであり、「そんなことはありえない」との「常識」に阻まれ、発見には長い年月がかかりました。
今回の快挙にまずは賞賛を送りたいと思います。発見者の小保方さんだけではなく、彼女をフォローした若山さん、笹井さんも本当に立派だと思います。それもこれもカドヘリンの発見者である、竹市雅俊先生が率いる理研再生・発生科学総合研究センターであったからこそ、成し遂げられた仕事だと思います。
さて、私が今回の発見で何をそんなに興奮しているか、といいますと、これは再生・発生科学のみならず、がん研究への大きな影響を確信するからです。細胞のがん化とはなにか、がん幹細胞とはなにか、といいますと結局は細胞の幼弱化といえます。受精卵から始まり、万能細胞は多細胞生物の身体を構成するべく幾度もの分化をへて、それぞれの組織の特殊な細胞になって行きます。
がん細胞はその分化の最終段階にある細胞が突然先祖帰りしたようになり、分化の圧力をはねのけ、増殖浸潤する性質を獲得した細胞です。制御不能の分化増殖過程では染色体分配、遺伝子変異チェックなどの機能も失われさらに制御不能の性質が進化し、「悪性度の高いがん細胞」となっていきます。
がん細胞の誕生とはまさしく今回のストレスによる分化細胞の幹細胞化、ともいえるのです。これからそのメカニズムの詳細の研究が進むことによって、分化の本質、がん細胞制御の技術が生まれてくることを予想します。本当に楽しみな状況になってきました。