無知の知

ほたるぶくろの日記

アレルギーに関する最近の混乱

2017-07-09 21:57:56 | 生命科学

食物アレルギーについて、2015年、NEJM(医学雑誌)にある論文が発表され、ちょっとした衝撃が走りました。
Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy
(仮約:ピーナッツアレルギーのリスクがある乳幼児におけるピーナッツ摂取の無作為試験)
George Du Toit, M.B., et. al.
NEJM vol.372, 803-813
幸いなことにこの論文は全文をPDFファイルでダウンロードできましたので、内容を精査できます。以下、論文のアブストラクトに沿って、内容をみて行きます。


この研究はピーナッツアレルギーの発症率が西側諸国ではここ10年で倍になっていること、アフリカやアジア諸国に比べても非常に高いことから始まったそうです。英国では1998年から、米国では2000年から、離乳食におけるハイリスクアレルゲンとしてピーナッツを乳児には与えない、また妊婦さんと授乳期間もピー ナッツを食べない。という指導方針にしたそうです。

ところが、この方針は全く功を奏さないどころかますます患児は増え続けたため、2008年にこの方針は撤回されました。しかし、その後も「乳児にアレルゲンを与えるべきか避けさせるべきか」の決着はつかないままとなっていました。


そこでこの研究が計画された、という経緯です。
ロンドン・キングズカレッジ小児アレルギー学研究室と聖トーマス病院、サウスサンプトン大学など英国の著名な医学校と米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校、メリーランド、ベセスダのグループ、等々大規模な共同研究で行われた(時系列的に)前向きのコホート研究です。いずれも小児科のアレルギーを専門としている医師が協力し、行われたことが分かります。

今回のコホート研究は次のように行われました。重症の湿疹か卵アレルギー、または両方の症状をもつ乳幼児、640人をランダム(無作為)に選び、4〜11ヶ月齢で二つのコホートに分け、60ヶ月(5歳)までピーナツを与えるか、避けるかしてもらいました。研究開始時にピーナッツ抽出物の皮膚テストを行い、腫れが観られないか、直径1~4mmの腫れが観られるかを観察することでピーナッツに対する感受性を調べ、ピーナッツ感受性を持っている乳幼児の割合をチェックし、試験終了時の60ヶ月後にも検査し、腫れの観られる割合を試験前後で比較しています。


さて、640人の被験者中、530人の幼児は最初の皮膚テストでネガティブの結果でした。これらの幼児の60ヶ月時のピーナッツアレルギー発症率を比較したところ、ピーナッツを避けたグループでは13.7%、ピーナツを与えたグループでは1.9%でした。試験前にピーナッツに対する感受性が観られた98人では、ピーナッツを避けたグループで35.5%、与えたグループでは10.6%でした。これらの数値の差はいずれも統計的に有意でした。しかし、その他の重篤な症状、疾患(ピーナッツアレルギーに関係なく治療が必要とされた症状)が観察された割合には差はなかったそうです。さらに死亡例はゼロでした。

ピーナッツ特異的IgG4抗体の上昇は与えていたグループで主に観られましたが、ピーナッツ特異的IgE抗体の増加は避けていたグループで多く観られました。皮膚テストでより大きな腫脹がみられること、とIgG4:IgEの比が低いこと(=IgG4が低く、IgEが高くなること)、はピーナッツアレルギーに随伴する兆候です。
これらの結果をまとめると、ピーナッツの早い時期からの摂取はアレルギーに対してハイリスクの子どもたちのピーナッツアレルギーの発症を有意に低下させ、ピーナッツに対する免疫反応を抑制するといえます。


以上がこの論文の大筋です。
つまり、ここ数十年、アレルゲン性の高いもの(アレルギーをおこす可能性の高いもの)を乳児期には与えない、というのが離乳食の基本とされていたのですが、実は逆?ということだったのかもしれない、ということです。
こういうことをやっているから「医者の言うことって、、、」ということになります。
なんせイスラエルでは離乳食としてピーナッツペーストを古代から使ってきたのに何の問題もなかったのです。それなのに、米国や英国では離乳食から排除し、ピーナッツアレルギーの患者さんを増やしてしまったのでした。


ピーナッツもそうですが、もう一つよく問題になるのが卵アレルギー。こちらはどうなのか、というと、やはり別の研究がおこなわれており、同様に遅く摂取を始めるとアレルギー発症の可能性が高まる、と言うことが報告されました。今、日本のアレルギー学会も卵アレルギーに関して考えを変え、このような提言をしています。

現代科学、とはこのようなものです。子育てに関しては古代から行われてきた各地の知恵が集積されているはず。これらをもう少し早く分析して欲しかったです。あまりに現代科学が驕っていることの証左です。


4 Comments

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ひ~ (Unknown)
2017-07-10 22:19:40
研究の主題ではない部分ですが、
一か所、解らないところがありまして、
>これ以上の重篤な症状が観察された割合には差はなかった<
これは、摂取群と 非摂取群に 差はなかったということを意味するとおもいますが、
ということは、どちらの群にも 重篤な症状があったということになりそうで、
摂取群は 摂取のせいでなったと いえそうですが、
非摂取群は、摂取していないのに 何故なったの?
ここが わかりません。
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not against ピーナッツ (ほたるぶくろ)
2017-07-11 07:28:31
ひ〜さん ご質問の件ですが、これはピーナッツに対する重篤な症状ではありません。

ピーナッツとは関係なく、何らかの重篤な疾患に罹患したもの全ての集計です。
最近論文にはサプリメントデータがついていますが、この論文にもかなり膨大なデータがあって、その中の一つに詳細が記述されています。
それを良く観ますとピーナッツには関係しない様々な症状が列挙され、かかった病児の数が挙げられています。
その数(正確には割合)に両グループで差がなかった、と言うことを意味しています。

ということで、疑問は解消されたでしょうか?
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了解でし (Unknown)
2017-07-11 09:11:05
「これ以上」→「ピーアレを除く 疾患での」
要するに、
ピー摂取有り無しは、ピーアレ以外の 重篤な疾患の発症又は防止には影響を及ぼしていませんでした。ということですね。
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記述を変更しました (ほたるぶくろ)
2017-07-12 06:58:47
当該部分、誤解を避けるため、加筆修正しました。
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