無知の知

ほたるぶくろの日記

終わらせると若返る!

2018-02-05 07:08:42 | 生命科学

うっかりしていたら、もう2月です。

今年はもう少し役に立ちそうなサイエンスネタを紹介したい、と決意表明しました。また、今年は「何かを終わらせること」について考えたい、とも書きました。

するとなんと早速その二つの課題にぴったりの話題が出てきました。しかも全くの偶然にこれを見つけました。心のどこかで探していると、ふと見つかるんですね。若いときにはよくありましたが、最近ではほんと久しぶりのことでした。何だか若返ったようで(?)うれしくなりました。

それはさておき、早速その話題を紹介します。

昨年10月のNatureのNews Featureに下記のニュースがありました。

『To stay young, kill zombie cells』 in Nature 550: 448, 2017



Killing off cells that refuse to die on their own has proved a powerful anti-ageing strategy in mice. Now it's about to be tested in humans.



Megan Scudellari

(仮訳)

『若さを保つには、ゾンビ細胞を除去せよ』 ネイチャー550巻、448ページ 2017年

それ自身で死のうとしない細胞を死滅させることは、強力なアンチエイジング戦略であることがマウスで証明された。さて、人間ではどうなのか。

ミーガン スカデラリ

(ここまで)

見出しだけの翻訳です。全文はかなり長くなりますので、要点を以下に説明します。

Jan van DeursenらはBUBR1という染色体分配と細胞分裂の時期を制御するたんぱく質の変異マウスを2000年に作製しました。人間でがん等を多発する遺伝的症候群の原因遺伝子です。そこで、これの発現量を低くなるように遺伝子を改変したマウスを造り、この病気のモデルマウスを作ろうとしたのでした。ところがこのマウスはがんを作らず早い時期の老化を示しました。

(Baker DJ, et al. BubR1 insufficiency causes early onset of aging-associated phenotypes and infertility in mice. Nature Genet. 2004;36:744–749)

そしてその老化したマウスをよく観察すると傷害を受けて分裂することができない、でもアポトーシス(自爆)もしない細胞=セネッセンスに陥った細胞が組織に大量に溜まっていることが分かったのです。この不活性な細胞をこの記事では「ゾンビ細胞」と呼んでいます。

「ゾンビ細胞」=セネッセンスに陥った細胞というものは単に増殖をしなくなってじっとしている細胞ではなく、どうやらいろいろなサイトカインを分泌しているらしく、生物学的には活発に活動しているようなのです。また、ゾンビ細胞の周辺ではそれが分泌したサイトカインによって局地的な炎症反応などが起こっており、それが全身状況へまた影響し、個体の老化を進めているらしいのです。

そこで、この「ゾンビ細胞」を選択的に死滅させることができればひょっとして老化が止まるのでは?という期待が出てきたのです。

最近この「ゾンビ細胞」は組織ごとにある特徴があることが見つかりました。そしてそれをうまく応用したセノライト(一般名、最近の造語、セネッセンス細胞を溶解する物質、の意味か)と名付けられた薬剤の開発に成功したそうです。これを早速老化を示しているモデルマウスに投与し、セネッセンスに陥った細胞を除いてみると、、、なんと、老化していた臓器が若返り、機能が改善されたのだそうです。

そして、この選択的に死滅させるための特徴は臓器ごとに異なるらしく、それぞれに異なった薬剤が必要らしい。

そんなことで製薬会社の一部は非常に興味を持っているらしい。非常にシンプルに過ぎる考えではありますが、うまくすると若返りの薬ができるかも、ということだからです。さらに一種類ではなく臓器ごとに異なった薬が必要、となれば製薬会社が興味を持つのもよくわかります。

ただ、もちろんそう楽観的な意見だけではなく、人への応用に関してはかなり難しいのではないか、という意見も多いようですが。

以上が記事の要約。

なんといいますか、これは多細胞生物の個体という細胞集団社会の老化、の話しなわけですが、人間社会そのものの老化現象の本質を顕しているようでもあって、大変興味深い。ゾンビ細胞ならぬ、本当のゾンビが社会のあちこちにいて、局地的な炎症(トラブル)を起こし、それがまた全身(社会全体)状況に影響している、など、身につまされます。