光学顕微鏡ではどの程度のものを見ることができるのでしょうか。私はもっぱら数μmから100μmくらいのモノの検出をしているため、それ以下の大きさのものの視覚化は電子顕微鏡くらいしか思いつきません。しかし電子顕微鏡は電子線を使用するため対象は特別な物質の中に埋め込んだり、表面を薄くコーティングする必要がありました。最近では未処理でも大丈夫なようです。とはいえ電子線を対象に照射する必要があるため、対象は生きている状態で観察というわけにはいきません。
光学顕微鏡でも対象を生きたままで観察するためにはいくつかの条件があります。対象を痛めないためには可視光範囲でしかもある程度弱い光でなくてはなりません。また大抵の生物構造は透明です。病理標本などは固定した組織を薄くスライス(3~7μm)し、見えやすいように染色したものを観察しています。生きた生物の構造は染色しなければ透明な物質が重なり合っているだけです。それをうまく見えるように位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡、偏光顕微鏡などが開発されました。私もこれらの顕微鏡には日常的にお世話になっています。
さらにもっと小さな細胞内小器官や分子の動き、細菌やウイルスなどの微生物を生きている状態で見ることはできるのでしょうか。光学顕微鏡ですと約3000倍が限度。それはだいたい0.1μm位のものが見える程度です。従って細菌(0.1~数μm)は見ることができますが、ウイルス(10~500nmまたは0.01~0.5μm)の生きている状態を観察するのは現在のところ非常に難しいのです。
ところで今回いろいろ調べていて、全反射照明蛍光顕微鏡というものが90年代に開発されていることに改めて気がつきました。これまでに論文などで目にしたことはありますが、分野の異なる方たちの論文とあって理解できない部分が多く、写真をみてすごいものだなと思った程度で済ませていました。
この顕微鏡ですと数万倍でモノを見ることができるので一分子(数nmいわゆるナノテクノロジーの世界です)の動きさえも観察したりもできます。しかし励起した光からの蛍光を捕まえるものですから、ウイルスと生細胞でも使える蛍光色素で染色する必要があります。または蛍光タンパク(例のGFPタンパク)でウイルスと細胞を光らせる。そうすればウイルスなどが生細胞に感染するのを観察できるかもしれません。しかし、この顕微鏡は医学、生物学分野ではまだ一般的ではありません。使用目的が限定されるためごく限られた分野の方が購入、使用されるようです。ちなみに私も存在は知っているものの、自分で扱ったことはありません。
今回この記事を書きましたのは、これから書こうとしていますある学者さんたちの説や治療法についての論説のためです。この稿で皆さんに理解して頂きたいのは、生き物を生きたまま観察するには
1)生き物が生存できる環境(水の存在、37度程度の温度、毒物のないこと)で
2)ある程度の可視光(強い光では生き物は死にます)
で観察する必要があるということです。
この条件を保ちつつ、『通常の可視光』を使った顕微鏡観察では、最高倍率は3000倍程度で0.1μmのモノの観察が限度であるということです。