無知の知

ほたるぶくろの日記

内部被爆、低線量被ばくについて

2011-06-12 00:51:50 | 生命科学

この間、内部被爆に関してどこまで研究が進んでいるのか、調べておりました。いわゆる疫学調査ではなく、生化学や細胞生物学の分野での研究論文を検索していたところ、ちょうどよいHPをみつけました。「放射線と健康を考える会」だそうで、近藤宗平先生も名を連ねておられます。HPの作りが今ひとつで使い勝手はよくありませんが、内容はかなりよいと思います。低線量の放射線による健康への影響についてFocusしており、なにより論文の日本語による要約と、元論文がきちんと示されている(対応させるのに少し努力が必要なのは問題)のは信頼性があります。

低線量放射線被ばくや内部被爆に関するHPの殆どはちょっと問題のあるものでした。「かくかくは科学的に証明されている」とか書かれていたときに、その「証明書」である原著論文を示してありませんと、信用することはできません。「科学」を持ち出せば「信用する」という人々の信頼を逆手にとって詐欺を働いているとしか思えません。さらに論文がないと「学会は当研究者を無視し、抹殺し」ということになりますが、学術誌は今や星の数ほどあり、よほどひどくない限りどこかには掲載されるものです。論文のない説、というのは学説=仮説=物語であるということです。

そいういう意味でペトカウ理論に関しましては重視しません。あの効果は「放射性物質の入った水溶液中の活性酸素が脂質二重膜を破壊した」ということだと思います。少なくとも完全に試験管内の反応であって、生物の中ではあのような単純なことは起こらないと考えられます。

バイスタンダー効果もあちこちのHPでよく取り上げられています。こちらはかなりしっかりとした論文が多数あり、じつに興味深い現象だとおもいます。「放射線を一つの細胞に当てると、放射線の当たっていない周りの細胞にもさまざまな傷害が現れる」というものです。これが現在の内部被爆評価は現実を過小評価しているという論の根拠に使われています。

現在の放射線被爆の評価は、実際に放射線の当たった細胞に対する傷害についてのみが考慮されています。しかし、バイスタンダー効果のことを考えますと、実際には放射線の当たっていない周りの細胞にも影響を及ぼしていることになり、その影響は現在の評価より大きくなるとおもわれます。それではその影響とはどういうものなのでしょうか? いまのところはおそらく放射線によって傷害された細胞から発せられたシグナルによる活性酸素、液性因子(IL8)によるものと考えられています。それは最終的にはどういう効果をおよぼすのか、といえば細胞の酸化的傷害でしょう。これは最終的には細胞老化につながっていきます。また、この効果は免疫系にも影響すると思います。