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【書評】幸せの条件 誉田哲也 ★★★★★ (ネタばれ多少あり)

誉田哲也氏の「幸せの条件」の書評

ミステリーを読まないので、「ストロベリーナイト」を読んで面白かったのだが、ミステリー属性ではじいていた、続編や他シリーズに手を出さず。しかし装丁と帯に惹かれて購入。

この小説のウリは(1)「お話」が面白いところ、(2)お仕事(紹介)小説、(3)環境問題の喚起といったところか。すごく面白かったのと、お仕事小説として優秀なのでドラマ化を望む。

(1)お話
文庫の背面表記では「単身赴任に赴き、新燃料・バイオエタノール用のコメを作れる農家をさがしてこい」という長期出張から話が始まる。
主人公はクズで仕事ができない若い女性 梢恵。その成長記である。容姿がよく愛されるキャラではあるが覇気がないOLである主人公のクズっぷりが成長する軌跡である。 
主人公梢恵は、たとえば有川浩の「フリーター家を買う」の主人公よりましな程度にクズだ。そのクズが周りに愛されキャラクターが変わっていく。その成長が微笑ましい。やる気のないOLが農業と農業法人コミュニティにやりがいを見出すお話で、周りの魅力的なキャラクターに支えられて梢恵が奮闘する物語である。筆者の筆力でグイグイ読まされるのである。

登場人物が魅力的である。クズの梢恵がバイオエタノール用米作農家を探していてうまくいかないのであるが、話を聞いてくれる農業法人夫人と娘によくしてもらう事から話は進む。ラストの疾走感と読後の「ここで終わり?」という不満というか、その後は読者が想像するというか、の終わり方もいい。梢恵の未来を想像してニヤニヤするのである。

(2)お仕事
舞台は農業法人である、米作と野菜を営む農業法人の紹介がちょっと堅い(説明口調な)のであるが、梢恵が「農業用語」を「カタカナ」から「漢字」へと説明するくだりが多い、これが有効だと感じた。そして「米作り」「野菜農家」のお仕事を具体的に感じられる。
例えば池井戸氏の銀行業務説明よりも柔らかく感じる。 

(3)環境問題
登場人物達が環境問題、その実現方法を語って未来を模索する表現がところどころ出てくる。その上で食料自給率や環境問題を説明口調ではあるが「基本」が述べられていて好印象である。環境問題の理念と現実的な折合においてSF要素は少ない。

 

僕は農業の実務を全く知らないのであるが、巻末の引用文献を見ると実務についてはある程度真実に足るのではないかと感じた。それだけでも有用であると感じた、その上で「お話」も、環境理念の問題点など、娯楽小説・お仕事系小説として超お勧めである。

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