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今年読んだ本は、118冊。過去最高冊数となった。
振り返ってみると、1月に読んだ「頭のよさは国語力で決まる」という本の中に、外国の小説を翻訳で読むのは大変頭の体操になる・・と書かれていたことを切掛に、今まで全く手をつけないでいた外国文学にチャレンジした。
・モンテ・クリスト伯 7巻
・ジェイン・エア 2巻
・レ・ミゼラブル 5巻
・アンナ・カレーニナ 4巻
文庫版とはいえ、1巻が大変分厚いし、読みづらいので、結構骨だった。特にレ・ミゼラブルとアンナ・カレーニナには主たるあらすじとは違うと思われるところに猛烈に細かい記述があり、そこに作者のものの見方が含まれているらしく感じるので、読みづらいながらも頑張って読んだ。
吉村昭さんのノンフィクションもよく読んだ。「破獄」「破船」「生麦事件(上下)」「赤い人」「雪の花」「漂流」「ポーツマスの旗」全て面白かった。特に「漂流」はジョン万次郎と同じところに流されながら、アメリカ船等に助けられることなく、後から漂流してきた人と協力して船を作って帰って来たというすごい話で、実話なのでもっと知られても良い話だと思った。
漂流の実話と言えば「コンチキ号漂流記」の子供用と大人用両方読んで、こちらも感銘を受けた。
浅田次郎さんの中国もの「蒼穹の昴①〜④」と「珍妃の井戸」も面白かった。続編の満州モノを読み残しているので来年読みたいと思う。
あと池上彰さんの「知らないと恥をかく世界の大問題」も第1巻(リーマンショックの頃)から第8巻(トランプ登場)までを読み、現代史をトレース中。引き続き来年も続きを読むつもり。
ということで、読みやすい本ばかりではなく、読みづらい本も含めて頑張って読んだ1年だった。
トルストイ/望月哲男訳/光文社古典新訳文庫
最後までアンナに共感を持てないまま読み終わった。
カレーニンが離婚してくれない。ヴロンスキーの愛が冷めてきている(他の女を愛し始めたと激しく嫉妬)。味方だと思っていた人も、自分の嫌いな人の味方であることがわかって本心を打ち明けられない。結局どうして良いのか分からず、周囲はどうしてあげたらいいのか本人以上にもっと分からない。唯一の味方であるはずのヴロンスキーに悪口雑言並べ立てて喧嘩してしまう。・・・
う〜ん、こうなってはいけないのだ・・と思いながら読み続けた。こうなってしまったのはやはり周囲からの孤立が原因で、その孤立をさらに深めるような行動をとってしまい、自分で自分の傷口を広げてしまうのだ。追い込まれて誰が敵で誰が味方なのか分からなくなる。助けてあげようとした人にも心を閉ざしてしまう。言っていることが支離滅裂になる。筋道だったことを指摘されると癇癪を起こしてしまう・・・そうなってしまう男性を私も見たことがある。
アンナが飲んでいたアヘン入りの薬もよくなかったのであろう。それが直接の原因ではないにしても。
同じような気質を持っている人にリョーヴィンが挙げられる。彼の発言はあまり理路整然としておらず、頭の良い異母兄コズヌイシェフにいつも論破されてしまい、そのたびに最後は癇癪を起こしてしまう。キティと結婚し、子供まで生まれているのに、なぜか幸せを感じられず心の迷子になってしまう。兄ニコライの死が大きな影を落とし、我が子の誕生ですら、素直に喜べないほど生と死のボーダーラインを彷徨い続ける。でも最後は何かしらのものを掴んで落ち着いた。女性であるアンナと男性であるリョーヴィン・・性別も立場も生活環境も違うが、両者は紙一重であったと私は睨んでいる。それを分けたものはリョーヴィンにはしっかり取り組んでいるものがあり、孤立しておらず、周囲にたくさんの人がいたこと・・彼らが助けてくれたわけではないが、自らの気付きの機会を与えていてくれた・・ということなのだろう。
本作は決して道徳を外れた女性の末路を描こうとしたものではないのではないか・・と私は感じる。なぜならアンナに関する記述よりもリョーヴィンに関する記述の方が多いように感じるからだ。アンナが鉄道自殺をした後もリョーヴィンの物語は延々と続くからだ。トルストイ自身が生と死の問題に相当悩み、克服した人間なのではないか? そういう意味では本当の主役はリョーヴィンなのではないか・・という気がする。
トルストイの顔見知りで近隣の女性でやはりアンナという名前の人が鉄道自殺をした事件があったらしく、トルストイは遺体の様子も見ている。本作を書こうと思う切掛になったであろうことは想像に難くないが、それゆえに遺体を見た時のヴロンスキーの動揺が大変リアルに表現されている。
ヴロンスキーは最初、クズのような人間のように描かれているが、アンナとうまくいかなくなった時も愛が冷めていたわけでも浮気をしたわけでもなかった。支離滅裂なことを言い、癇癪を起こすアンナに対してよく我慢しているなぁと、思いながら読んでいた。アンナの死に際し、ショックで廃人同様となり、立ち直って自費で一個中隊を率いてセルビアに出征するという行動に出た。周囲からは賞賛されているが、本人の心の中は実は立ち直っていないことがわかる。戦争へ死に行くつもり・・つまり自殺行為的出征なのだ。そんなら一人で行けばいいのに。そんな人に率いられていく兵隊さん達は可哀想だなぁ。
アンナの兄のオブロンスキーも本作の最初が彼の浮気から始まることからして、後先考えない人間である。社交性が高く、愛すべき人物のようであるが、金欠病である。描かれていないが彼にもきっと辛い未来が待っているだろう。
ということで登場人物が多い割には、いただけない人も多い。私の中での推しはやはりリョーヴィンの異母兄のコズヌィシェフだなぁ。考え方が正しいかどうかは別として、コズヌィシェフのような理論家であれば、結婚はできないかもしれないが、破綻することはないだろう。
蛇足だが、アンナ・カレーニナとアレクセイ・カレーニンの息子のセリョージャは長じてセルゲイ・アレクセーヴィチと呼ばれるようになっていた。〜ヴィチって〜の息子って意味のようだが、娘ならヴナなのだな。セルゲイ・カレーニンではなく・・無論カレーニンという苗字は引き続き保持されているようであるが、父親のファーストネームにヴィチをつけた名で呼ばれることが面白いな。カレーニンもヴロンスキーもファーストネームはアレクセイだっていうところが、本作に悩ましさを添える工夫の一つになっていると思われる。