今日、わが家からピアノが消える。ピアノは私の家内の古くからの趣味で、サラリーマン時代には、私が転勤を繰り返すたびに、大きなグランドピアノが後からついてきた。社宅がマンションの場合には、大きなクレーンでつりさげられて、ベランダから侵入してきたこともあった。サラリーマンを止めて、東京に戻ってきたときに、さすがのわが家内も、再びグランドピアノをとは言わなった。私にとって幸運だったのは、家内の友達からアップライトピアノをわが家におかしてくれないかと頼まれたことだった。彼女は住まいの関係から、彼女が実家のある信州に帰るまでの間、わが家で保管してほしいということになったのである。ただ、家内は引き放題と言うわけにはいかなかった。マンションの騒音問題である。できるだけ音量を下げて、時間も昼間の無難な時間に引いていたのだが、時々、私の部屋に来ては「聞こえる?」と確認に来るほど注意していたのである。そして、上下の住人とエレベーター内で会った時には、すかさず「ピアノの音がうるさくありませんか?」とジャブを繰り出したのであった。そんなわが家のピアノが今日、わが家を去る。持ち主が信州に帰り、彼女は自由に個人音楽会を開くことができるからである。さて、残されたのはわが家の家内である。すかさず後続のピアノを捜し始めたのである。しかし、私は言うのである。「いつ、老人ホームに入るか分からないのだから、子供用のおもちゃのピアノでいいじゃないか。」わが家では、通常、私の意見は採用されない。今回も私の意見は無視される。ただ、さすがにピアノは無理と判断したのだろう。家内はキーボードを捜し始めている。(2018.06.05)