市原市議会議員 小沢美佳です

市政や議会の報告、日々の活動や想いを綴ります。
一番身近な地方政治の面白さが、皆さんに伝わりますように・・・

重度の自閉症者が地域で暮らすために (札幌市視察報告)

2012-05-12 | 障がい者
今回の札幌市視察の目的は、大きく分けて二つでした。

ひとつ目は、強度行動障害の自閉症者に対する地域移行支援の取り組み。
二つ目は、地域医療の取り組み。
市民ネットが属する千葉県議会会派「市社無(ししゃむ)」の県議4名プラス私と船橋の市議、総勢6名での視察となりました。

今日は、一つ目の取り組みについて報告します。

 
一日目の9日、
札幌市に着いてすぐに訪れたのは、社会福祉法人「はるにれの里」が開設する生活介護事業所「生活館さりゅう」。

社会福祉法人「はるにれの里」は、昭和62年に障がい者支援施設を開設以降、石狩市や札幌市に次々と施設や事業所を開設。
普通なら一生施設の中でしか暮らすことができないような(それどころか、施設でも暮らすのが難しいほどの)最重度の知的障がい者でも、地域でその人らしく生活ができるような専門的な支援を多角的に行っています。

生活介護事業所「さりゅう」は、発達障がい者が日中過ごす場です。


定員は30名。
ここに通う方々は、パニックや自傷・他傷行動が激しく、最重度と判定されている方がほとんどです。
基本的な身辺自立と、余暇活動を身に着けるためのプログラムが、一人一人の個性に合わせて提供されています。

建物の中に入ってまず驚いたのが、余計なものが何一つない非常にすっきりとした空間、そして静けさでした。
普通このような施設では、奇声や叫び声、職員の制止する声などが聞こえるものなのですが、こちらでは一度たりとも耳にすることはありませんでした。
通所者・支援員共に皆さんとても穏やかな表情で、最重度の方がほとんどだなんて全く信じられませんでした。



ここは、食堂です。


料理・選択・掃除など、家事は一通り行っています。
階段の踊り場には、モップをかける方向が矢印で示されています。


テーブル拭きは、テーブルの上一面にわざと小麦粉をまいて、きれいに拭けたことが視覚的にわかりやすいようにすると、上手にできるのだそうです。

この写真は、トイレットペーパーの1回分の分量と、使用するときの折りたたみ方をわかりやすく示したものです。


一般的によく使用されている絵カードも、写真を好む人、イラストの方ががよくわかる人、立体的で実物に近い形でないと認識できない人などと、人それぞれです。


一人一人に対するアセスメント(状態の把握、評価)を徹底的に行い、自閉症特有のこだわりや独特の認知能力に合わせて、さまざまな工夫や仕掛けがいたる所に施されていました。

「はるにれの里」では、ケアホームも30か所に開いています。
ケアホームとは、比較的障害の重い方が地域で支援員の援助を受けながら少人数で暮らす家のことです。

そのうちの一つ、「うたたね」を訪ねました。

ご覧のように、ごく普通の住宅街の中にある一軒家です。
ここで4人の女性が共同生活を送っています。
日中はそれぞれ福祉施設などに通い、帰宅した夕方から朝にかけては職員やパートの世話人の方から食事など身の回りの世話を受けながら暮らしています。

個室です。こちらもすっきりと整頓されています。


こちらの個室には、うちの長男も大好きなバランスボールが置いてありました(^^)


洗面所です。歯磨きの手順などが視覚的にわかりやすく掲示されています。




そしてもう一か所、翌日10日に訪れた場所は、札幌市自閉症自立支援センター「ゆい」。
建物の2階は、札幌市自閉症・発達障がい支援センター「おがる」です。



「ゆい」は、札幌市が設置し「はるにれの里」が運営している自閉症者の入所施設で、定員は30名です。
こちらも、入所者は強度行動障害を持つ方ばかり。
強化ガラスをも割ってしまったり、釘などを大量に飲み込んだりしていた方もいるのだそうです。
しかし、契約期間はおおむね3年間。通常の入所施設に見られるように、「一度入ったら、死ぬまで」ではないのです。
あえて期限を区切り、目標を明確にして、その後の地域生活へとつなげていきます。
平成17年の開設以来、これまでに31人もの方が地域で暮らせるようになりました。

一方「おがる」では、相談事業や研修企画、機関支援、支援コーディネートなど、総合支援事業を行っています。
障がい者が地域で暮らすための支援として、物件の確保や経済シュミレーション、週末の体制づくり、職員や保護者への対応など、様々な支援を行っていました。


「はるにれの里」では、支援対象をあえて重度の発達障がい者に特化し、非常にスキルの高い支援体制を確保していました。
そして、施設入所はあくまでも地域で安定して暮らすための一時的な準備期間との位置づけで、
将来のために、問題行動の軽減だけでなく生きがいを持って暮らすための支援も取り入れていました。

しかしそうは言っても、私も長男が重度の判定を受けているのでわかるのですが、
親の気持ちとしては、重度であればあるほど、親亡き後のことを考えるとやはり施設入所で一生面倒を見てもらう方が安心だと思いがちです。

ところが、そのことを質問すると、こんな答えが返ってきました。

「自閉症は、人刺激に対しとても敏感でストレスを受けやすい。ですから、入所施設の中での集団生活は、彼らにとって苦痛でしかありません。
私たち健常者だって、一生涯集団生活を送るなんて嫌でしょう。
実際、地域で暮らし始めると、彼らの行動は驚くほど安定してきます。
われわれ支援する側にとっても、入所施設内で管理するよりも、ケアホームでの管理の方が楽なくらいなのですよ」

考えてみれば当然のことなのですが、実際にこれを実践するためには、日本ではまだまだ時間が必要なのかもしれません。
このブログでは正直伝えきれませんでしたが、「はるにれの里」の事業は、この分野では間違いなく最先端でした。
ここでの取り組みが一刻も早く全国の福祉施設で展開されるよう、
国の適切な制度設計や自治体の取り組みが必要であることはもちろんのこと、事業者の支援ノウハウがさらにスキルアップされることを強く望みます。


トップの写真は「さりゅう」にて、お話しいただいた木村施設長・サービス管理責任者の中野さんと。

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