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光の帝国 常野物語


恩田陸            集英社

 アメリカのSF作家ゼナ・ヘンダースンの「ピープル」シリーズを本歌とする連作短編集。本歌の「ピープル」シリーズも、あとがきで恩田さんもいっているが、穏やかで品の良い連作だ。アメリカSFというと小難しいハードSFやら能天気なスペースオペラばっかりと思っている人にお勧め。確かハヤカワ文庫の青背で出ているはず。表紙のイラストは小生の好きな新井苑子さんで、この作品のイメージにぴったり。
 で、この「光の帝国」だが、「ピープル」シリーズに負けず良い連作集だ。いや、小生は「光の帝国」の方が好きだな。
「常野」という所をルーツとする人々がいる。この人たちは様々な超能力を持っているが、その力を世の中に知られることを恐れ、ひっそりと暮らしている。しかし、この力は決して彼らに幸をもたらしはしなかった。
 10篇の短編が収録されているが表題作の「光の帝国」と「黒い塔」がいい。
まず「光の帝国」戦前の昭和時代。東北の山奥。ここに「ツル先生」という老人がいる。昔、昔、大昔から教師をしている。信じられない昔から、「ツル先生」は教師をしていたらしい。
「ツル先生」が学校をこしらえた。不思議な能力を持つ子供たちと、不思議な先生たち。この山奥でひっそり暮らす彼らにも暗雲がたれこめる。彼らの不思議な能力に目をつけた軍が、戦争に協力させようとやって来る。そして大きな悲劇が。「能力」を持つがゆえに不幸になった教え子と先生たち。あまりにも悲しいラスト。涙を誘う。
「黒い塔」時代は現代。平凡なOL亜希子は最近、自分に不思議な力があることに気付く。なにげない拍子に物が壊れたりする。それと同時に身の回りに不吉な予言めいたことをする人物が。
 父親の病気が悪化。亜希子は深夜バスに乗って故郷の秋田に帰る。その道中にバスが事故。
 亜希子も「能力」を持つがゆえに思い悩む。そしてある大きな流れに呑み込まれて行く。バスの事故のシーンが迫力。臨場感がある。このバスの事故がこの物語のキーとなる。
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1月29日(火) 働いた分は支払え

 マクドナルドの直営店の店長が、管理職とみなされて残業代を払わないのは違法だとして、日本マクドナルドを訴えていた。
 28日東京地裁で判決が出た。原告側の店長の訴えが認められて、裁判所は日本マクドナルドに過去2年分の残業代750万円の支払いを命じた。
 この店長、管理職とは名ばかりで、仕事上の権限はほとんどなく、待遇面でも管理職として遇されていなかった。以上のことを裁判所は考慮して、店長は「管理職」に当たらないと判断して、この判決をだした。
 この判決に対して日本マクドナルドは「控訴する方向で考える」とのコメントを出した。
 東京地裁はしごく真っ当な判決を出した。店長とはいいながら、営業時間、店のメニュー、店員の採用、出勤時間などの裁量権はなく、待遇面でも部下の平均収入より下回っていたとのこと。これでは誰が見ても「管理職」とはいえない。同店長はあきらかにタダ働きをさせられていた。労働基準法違反。人件費抑圧の方便としか思えない。
 未払いの残業代を支払うのはもちろんだが、店長に精神的な苦痛を与えたわけだから、慰謝料を支払うべきだ。それなのに「控訴」するとはもってのほかだ。いったい日本マクドナルドは何を考えているのか理解に苦しむ。この「控訴」するというアホなコメントを出した人。この人がこの店長と同じ立場に立って同じ仕事をした上で、かようなアホなコメントが出せられるか聞いてみたい。
 労働基準法ほど、ザルな法律はない。今の日本では採用する企業と、採用される労働者では、圧倒的に企業側が有利。特にリストラされた中高年は、どんな企業でどんな待遇でも採用してやっただけありがたいと思えということ。
 人を採用する時は年齢を選考基準にしてはいけないことになっている。確かにハローワークでの求人票は「年齢不問」となっているが、実際は年齢が一番大きな採用基準となっている。このあたりのことも、もっと法律の適正な運用をして、罰則を設けるべきだ。例えば、違反した企業の求人はハローワークで扱わないとか。
 小生はリストラ後5社を渡り歩いた。6社目の今の会社では法定どおりの残業手当をもらっているが、それ以前の5社はどこも残業手当は出さなかった。労働者は労働力を売って収入を得て生活している。その労働力を買った企業はその代金を支払うのは当然である。社員に残業させているのに残業代を出さない企業は労働力を盗んでいるのである。窃盗犯だ。このような窃盗犯は労働基準法だけではなく、刑法でも罰すべき。労働者から窃盗行為をしているのだから。
 ともかく「女工哀史」や「カニ工船」の時代よりましになったとはいえ、労働者は弱い立場だ。この労働者が頼るべき存在は労働組合と労働基準法。組織されていない非正社員の労働者、さらには求職活動中の人にとっては何も頼るべきものはない。企業の好き放題される。
 企業に正義はない。あるのは存続することと利潤を上げることだけ。企業の好き勝手を決して許してはいけない。企業と労働者。この両者は本来対等の立場であるべきだ。
 働いたら働いた分は給料を支払う。このしごくあたり前のことができない企業が多すぎる。
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