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3月31日(土) エースとはこういうのをいうんだよ

 エースとはこういうのをいうのだよ、井川くん。あ、いまさらキミにこんなこといったってせんのないことか。いや、なに、昨日の広島の黒田のこと。見事なピッチングであった。去年FAのさい阪神からの誘いを断り広島に骨を埋める覚悟で臨んだ開幕。で、見事に阪神打線を抑え込んだ。あっぱれ。  
 今日の朝食は鯛茶漬け。ごまをすり鉢でごりごり。そこに醤油とみりんを入れて作ったたれに薄切りにした鯛の刺身を漬け込む。漬け時間は20分。熱々ご飯の上に刺身をのせて熱いお茶をかけて食う。刺身が半煮えになってうまい。
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啓示空間

アレステア・レナズル 中原尚哉訳   早川書房 

 文庫本で1000頁を超える。しかも分冊ではない。まるでレンガみたいな本だ。京極夏彦のまねをしたのではあるまいか。カバンに入れて通勤の電車で読んでいたのだが、文庫本のくせにかさ張って重くて。
 ところが重厚長大は本のハード面だけで、中身はそれほど重厚長大な感じを受けなかった。読み終えたとき、長大な物語を読了した時のフーという独特のため息が出なかった。どうもお話が軽いのである。なぜだか考えた。登場人物が少ないのがその要因の一つでは。主人公で考古学者のシルベスタ。シルベスタの父でシュミレーションだけの存在のカルビン。シルベスタの妻のパスカル。シルベスタの殺しを請け負う女殺し屋のアナ・クーリ。近光速宇宙船の兵器担当士官のイリア・ボリョーワ。主要な登場人物はこの5人。あとは宇宙船の乗組員とシルベスタの政敵が出てくるだけ。この少人数でこの長い話を進めていく。確かに各キャラクターはよく書かれているが。
 SFファンの心の琴線に触れるようなガジェットやアイデアがワンサと出てくるが、詰め込みすぎの印象は否めない。小生がSFを一番喜んで読んでいた十代のころならともかく、40年もSFファンをやっている中高年のおっさんが読んでももうひとつピンとこない。使い古されたアイデアやガジェットを使っても良いが組み合わせの方法に工夫して欲しい。
 最後に編集者に注文。扉に登場人物のイラストは不要。キャラのイメージが固定されてしまう。
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3月30日(金) 童話は難しい

 4時起床。昨日ブログを開設したのがうれしくて、なによりも先にパソコンの電源をON。うわっ、自分のブログが映る。あたりまえ。映らなかったらおかしい。
 3月中に童話を2本ほど書いて、どこかの童話賞に応募しようと思うのだが、なかなかアイデアが出ない。あきらめる。童話は難しい。何度か書いて新人賞に応募したことがあるが、いつも大変しんどい目をして書いているが、かすりもしない。自分で読んで不出来なんだから当然。小生が童話を書いてなんらかの結果を残そうと思えば大変な勉強が必要と自覚する。いっそのこと童話を書くのを止めようかとも考えるがふんぎりがつかない。困ったもんだ。
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地獄八景亡者戯2(後編)

「閻魔の出御、下におろう」
 閻魔様でございます。手に笏を持ち赤ら顔で真っ黒い髭をはやし頭に王というマークをつけた帽子をかぶっております。「閻王の口や牡丹をはかんとす」という句がございますが、真っ赤な口をカアッと開いて、実に怖い顔でございます。
「地獄は変わったけれど、閻魔はんは昔のままでんな」
「いやあ、閻魔はんも変わりましたんや」
「どんなふうに」
「最初は裁判官が着てるような黒い法衣を着てはりましたんや。そんで検事の鬼も弁護人のお地蔵さんも司法試験通った連中でお裁きしてましたんや。そしたら、娑婆の裁判所の影響が出ましてな、お裁きにえらい時間がかかるようになりましたんや」
「へえ影響されまんねやな」
「裁判所みたいにするからあかんのや、ゆうて次に江戸時代の奉行所にモデルチェンジ。あれやったら『お咎めなし』とか『打ち首獄門』でお裁きが早よおまっしゃろ。閻魔はんも月代を剃りあげた頭に、裃に長袴というファッションで仕事してましたんや。そしたらお裁きを早よかたづけるため、とっとと自白させてしまお、ゆうて鬼どもが亡者にえらい拷問するようになりましたんや。特に昔新撰組の副長やった土方歳三ゆうやつがなんの恨みか鹿児島県と山口県出身の亡者にごっつい
拷問してえらい問題になりましたんや」
「へえ」
「これでもあかんゆうて、閻魔はん背広にネクタイでお裁きしてましたんやけど、これも亡者の評判がもうひとつようない。そんで閻魔は閻魔らしいかっこうが一番ゆうことになったんやて」
 そうこういうておりますうちに閻魔さんがお仕事を始めました。
「あー、私語は慎むように。亡者全員揃っておるな」
「おん前に」
「死人出入帳を持て」
「そのフロッピーが死人出入帳でございます。そこのパソコンの右側のスリットに入れてマウスでクリックしたらエクセルの画面に今月の亡者の一覧表が映ります」
「赤鬼、お前やってくれ。わしゃパソコンはようわからん」
「ああ映った映った。赤鬼もうよい。あとはわしがやる」
「男はこれだけ女はこれだけ。先月よりまた減ったではないか」
「規制緩和で外国の地獄の進出に加えて、地獄の株式会社が認可されまして、民間からの地獄業界への参入がぎょうさんありましてな」
「困ったもんじゃ。なんでもかでも規制緩和やりゃええもんでもない。あいわかった」
 パソコンの画面から目を上げた閻魔さん、亡者一同を見回して厳かにお裁きを言い渡し始めました。ほとんどの亡者が極楽行きです。そして亡者たちが極楽へ移送された後、がらんとした閻魔の庁の中庭に数人の亡者が残されました。いずれも娑婆では大きな会社のエライ人であったと思われる人たちです。
「その方らリストラと称して従業員を解雇し、彼らに塗炭の苦しみを味わわせたる罪軽からず地獄送りとする」
「閻魔様に申し上げます。会社を存続させるためしかたなかったのでございます」
「だまれ。従業員の頭数を減らしたいのであるなら、なぜ上の者から切っていかぬ。下の者から切り、お前らはぬくぬくと会社に居残っていたではないか」
「私らも辞めとうございました。しかし私らは責任ある立場ゆえ会社に残り、業績回復に全力をつくしたのです」
「業績が悪化したのは誰が悪いのじゃ。お前たちが切り捨てた従業員たちか。彼らは上の者の指示に従ってまじめに働いておった。彼らが会社の方針を決定したわけではない。お前たち会社の経営にあたる者どもがアホだったから会社が傾いたのじゃ。この者どもをリストラ失業地獄に落として、クビにされた者の苦しみをたっぷりと味わわせるのだ」
 娑婆の会社のエライさんの亡者たちは鬼どもに追い立てられるようにリストラ失業地獄へ連れて行かれます。その時閻魔が声をかけました。
「あー、待て。ヒサコメ電機の山本米三と秋津蓬莱食品の永田久雄。両名の亡者はここに残るように」
「なんでっしゃろ。なんであんたと私だけが残されたんでっしゃろか」
「さあ、私らだけ特別に極楽に行けるんとちがいまっか」
「ヒサコメ電機の山本米三前へでい。その方要らぬ本社ビルを建てるなど、己の先見性の無さと無能を棚に上げ、永年会社に貢献したる中高年の社員を多数解雇したる罪軽からず。他の者と違う地獄へ落としてやる」
「秋津蓬莱食品の永田久雄。その方輸入の牛肉を国産の牛肉と偽り、政府の補助金をだまし取り、なおかつなんの落ち度も無い有能な社員を解雇するなど、その罪軽からず。その方も他の者と違う地獄へ落としてやる」
 極楽あるいは地獄と、亡者の衆はそれぞれの落ち着き先へと連れて行かれ、広いお白州に山本、永田の二名の亡者がポツンと残っております。両名ともどんな恐ろしい地獄に送られるのか、もう生きた心地がしません、というかここはあの世ですから、死んだ心地がしません。
「さて、両名の者、近こう寄れ」
 閻魔様が二人を手招きしますが、恐ろしくて近寄れません。モジモジしていると。
「何をしておる。早ようワシの元へこんか」
 閻魔様、大声を出して二人を一喝しました。飛び上がって青い顔をして、大慌てで閻魔様のお膝元まで駆け寄りました。
「どうかおゆるしください。向こう先が見える社長になるよう努力します。会社が傾けば
私の首を一番に切ります」
「うへえ、ご勘弁ください。もう二度と私の個人的な感情と独断で社員の首を切りません」
 二人とも小さくなって、額を地面にこすり擦り付けてひたすら閻魔様に頭を下げます。
「もうよい、もうよい。両名の者面を上げい」
「ははー」
「どうじゃ。自分のしたことを充分に反省したか」
「はい。閻魔様のいわれるとおり、私たちが間違っておりました。解雇した社員たちには謝罪したいと心から思います」
「少しは殊勝な心がけになったようじゃな。ではあるが、お前たちの犯した罪は許しがたき重罪ゆえ極楽に送るわけにはいかん。とはいうものの少しは反省しておるので、地獄送りは許してやる」
「ははー。ありがたきしあわせ。恐れながら閻魔大王様にお尋ね申し上げますが、それで私たちはどうなるのでございますか」
「その方らはワシの部下となるのじゃ」
「閻魔様の部下というと、私たちは鬼になるのですか」
「そうではない。人間のままでよい。それにお前たちはすでに鬼になっておるではないか。ほら聞こえるじゃろ。クビを切られてオニオニとお前たちを呼ぶ元社員たちの声が」
「うへえお許しを。それで私たちは何をすれば良いのでございますか」
「知ってのとおり閻魔の庁も民営化されての、株式会社になったのじゃ。娑婆から来た亡者をお役所仕事で極楽だ地獄だと振り分け、地獄に落ちた亡者どもをエスカレーター式にお仕置きをしていくだけでは成り立たなくなったのじゃ。閻魔の庁も市場開放で民間の業者が参入して亡者の奪い合いが激しくなっての。最近ワシんとこへ来る亡者がえらく少なくなって、このままじゃいずれ経営が破綻する。ところが肝心の社員の鬼どもは役人気質が抜け切らない。そこでお前らにワシの補佐役になってもらい、閻魔の庁と地獄の効率化を推進してもらいたい。どうじゃ引き受けてくれぬか。結果しだいで極楽行きにしてやるぞ」
 こうして地獄の取締役に就任した二人の亡者大張り切りで仕事を始めました。慣れた仕事でございます。実績を上げれば極楽へ行けます。張り切るのは当然でございます。ところが困ったのは鬼たちです。なにせ彼らは鬼というのですから、それぞれの仕事に頑固一徹、自分のやり方を変えようとはしません。そこに娑婆から来たどこの馬の骨ともわからぬ亡者があれこれ指図を始めました。悪いことに彼らは閻魔様の直々の命を受けて仕事をしてますので、逆らうことができません。
「大王様、大変です」
「どうした赤鬼」
「とにかく針の山を見に来てください」
 閻魔様が針の山を見に行くと、こんもりとした山全体に有った針が無くなり禿山になっております。針が全部無くなったわけではなく山の中央に幅十メートルほどに帯状に針が残っております。まるでモヒカン刈りみたいな針の山になっております。
「これはどうしたことじゃ」
「こんど来た二人の亡者の指示です。針の山全部を使うわけではない。亡者を歩かせる部分だけに針があれば良いということで、こんな針の山にさせられました」
「二人を呼べ」
「社長お呼びですか」
「社長ではない。ワシは閻魔大王じゃ」
「ここは昔の閻魔の庁ではありません。れっきとした民間企業の株式会社ですぞ。トップがそれでは何時まで経ってもお役所根性が抜けませんぞ。外国の地獄に亡者を取られても良いのですか」
「分かった分かった。今からワシは社長じゃ。山本と永田、お前らは部長じゃ。赤鬼、青鬼、黄色、紫、お前らは課長じゃ。黄緑、黄土色、灰色、ピンク、お前らは係長じゃ。ところで、なぜ針の山をモヒカンの山にしたのじゃ」
「確かに昔は大勢の亡者が針の山全山にあふれておりましたが、今は亡者の数も減りました。それなのに針の数は昔のまま。状況に即応して行かなくては効率化はできません。針の数を七十パーセント減らすことにより、針の山の維持費を五十パーセントカットできました」
「そうか。よくやった」
「ですが大王様」
「なんじゃ青鬼課長。社長と呼べ社長と」
「閻魔社長。針の山は山全体に恐ろしい針がびっしり有るから亡者に恐ろしがられるのです。これではフィールドアスレチックです」
「青鬼課長。要は目的を果たせば良いのでしょう。ムダな設備を維持する経費はないはずです」
 ここは地獄の電車、獄鉄の駅を出た高架の下、とある串カツ屋でございます。串カツで生ビールを飲みながら二人の鬼がブチブチいっております。
「なあ、青鬼。今度来た二人の部長、うっとおしいな」
「そやな」
「なんでワシらがどこの馬の骨とも知れぬ亡者のいうことを聞かなあかんねん」
「しゃあないやんか。あの二人は閻魔さんから直々に命をうけとるんやから」
「なんでも効率化と経費節減や。そんなこと気にしとったら地獄の仕事なんぞできるか」
「そやな。地獄の仕事が亡者なんかに分かってたまるか。餅は餅屋。地獄のことは鬼にまかせときゃええんや。そやろ」
「鬼が信用ならんから閻魔さんはあの亡者二人に部長職をやらせたんやろ」
「地獄の仕事に鬼が信用ならんかったら誰が信用なるねん」
「鬼より亡者のほうが信用なるんやろ」
「しかし地獄というところはなんでも閻魔さんのいうとおりやな」
「そやな。ちょっとでも閻魔さんに逆らうとクビ。地獄おいだされて極楽行きやで。鬼やめて菩薩やらにゃしゃあない。極楽なんか地獄やで。ワシらあないな退屈な所一分でもおるのイヤやで」
「ワシかてイヤや」
「誰も極楽なんかに行きとうないもんで閻魔さんに建設的な意見いうもん一人もおらへん」
「なんでも閻魔さんのいうとおり。閻魔さんが間違ったら地獄全体がまちごうてしまう」
「地獄の業績が落ちてきたんは閻魔さんのせいやで」
「こうなったら鬼は鬼どうし団結せなあかん」
「そやそや。組合つくろ組合。あ、ソースの二度づけはあかんで」

「なんですと部長。熱湯の釜をガスで」
「そうです。いつまでも薪で釜を焚くなんて効率の悪いことしてたらダメです」
「熱湯の釜は昔から薪で焚くと決まっておるんですが。ガスなんかで焚いたら地獄の刑罰の道具がご家庭のお風呂になってしまいまんがな」
「もうガス会社と契約しました。燃料を薪からガスに変えるだけで大変な経費節減になります。薪を集めるだけが仕事の鬼が五人もおりました。ガスに代えたらこの五人分の人件費がうきます」
「その五人の鬼はどうなります」
「地獄を辞めてもらいます。最終的には地獄全体で鬼の数を半分にする大リストラを実施するため早期退職制度を発足します。今月中に応募した者は退職金を八十パーセント上乗せします」
「鬼が地獄を出ても行くところがありませんがな」
「極楽へ行ってもらう。極楽のトップのお釈迦さんとは話がついてます。あそこは新規事業を立ち上げて菩薩の数が足りないとのこと。地獄の鬼は即戦力になるので重宝されますよ」 

「人呑鬼さんちょっと応接まで」
 永田部長が人呑鬼のヒザを叩きました。本来なら肩を叩くところが、なにせ人呑鬼は大きな鬼です。普通の人間の亡者の永田部長の手は人呑鬼の肩に届きません。肩叩きならぬヒザ叩きです。今まで何人もの鬼が肩叩きにあって地獄を去っております。ところが人呑鬼は自分だけは肩叩きは無いと安心しておりました。肩叩きならぬヒザ叩きにあったわけです。
「人呑鬼さん。あなたは来月から極楽に行ってもらいます」
「なんでワシが」
「いや、あなたが地獄の仕事にむいてないというわけではありません。極楽の大日如来さんから電話があって、あなたにどうしてもやってもらいたい仕事が極楽にあるそうです」
「なんの仕事でんねん」
「ハスの池の底さらい」
「へ」
「あそこは貴重なハスがいっぱいあって建設機械が使えない。地蔵さんが極楽に来た子供の亡者を使って人海戦術で工事やってたけど人の手じゃラチがあかん。そこで鬼の手を借りることになって、一番大きな手を持っているあなたに白羽の矢がたったのです」
「ワシ極楽なんか行きとうない」
「そうか。あー部長です。例の四人の亡者をここへ」
 応接室のドアが開いて四人の亡者が入ってきました。医者の山井養仙、山伏の螺尾福海、
歯抜師の松井源水、軽業師の和屋竹の野良一の四人です。
「久しぶりでんな。人呑鬼はん。またわたいらを呑んでくれまっか」
「うへえ、どうぞご勘弁」
「そんなんいわんと。わたいらあれから肥っておいしおまっせ」
「もう懲り懲り。お前らを呑むと、えずいて、
くっしゃみ出て、笑ろうて、腹痛おこして、屁こいて、えらいめにあう」
「極楽へ行かへんのやったら、地獄で人呑鬼としての仕事してもらわな。さあ仕事です。この四人の亡者を呑んでください」
「わかりました。極楽へ行きます。極楽のハスの池で底さらいしますから、この四人を呑むのだけはご勘弁」

「大王様、いや社長。今期の決算の概算がでました」
「で、地獄の業績は前期に比べてどうじゃ」
「亡者の数が三十パーセント増えました。収益は二十パーセント増。コストは四十パーセント減です」
「ようやった。コスト節減が大きいな」
「はい。人件費を大幅に抑えました。地獄の鬼の数を半数にしました」
「そうか。最近鬼どもの数が減ったように思うのはそういうわけか。よくやった。お前ら二人を部長にして地獄の改革に取り組んだのは正解だった」

「あーあ、やっと終わった。おい終電までちょっと時間あるから軽くいっぱいいこか」
「そやな賛成」
「お疲れ。乾杯」
「お疲れ」
「それにしてもたまらんな。今月残業百時間超えるで。半数の鬼で倍の亡者をさばかなあかんのやからな。赤鬼おまえ組合の委員長になったんやろ。なんとかしてえな」  
「そやな今度の団交でいうわ。場合によってはストライキや」
 それからしばらく月日が流れたある日のことでございます。
「ご隠居はん。ここが閻魔の庁でっか」
「そや」
「ここで閻魔さんのお裁きを受けて地獄か極楽か、行き先が決まりまんねんな」
「そや」
「それにしても亡者の数がえらい少のうおまんな。パラパラとしかおりまへんやんか」
「そやな。なんか様子がおかしいな」
「閻魔の庁の門前いうと、お裁きを待つ亡者で黒山の人だかりとちゃいまんのか」
「ワシもそう思うねんけど、三途の川を渡ってまっすぐ来たとこやから、ここは確かに閻魔の庁に間違いないはずなんやけどな」
「そういえばしょうずかの婆の茶店でいっしょやった団体さんがおりまへんな」
「そういやワシ知り合いから聞いたことがある。今時のあの世は地獄が選べるらしい」
「その人あの世から戻ったんでっか」
「そやねん。いっぺん死んだけどブラックジャックとやらいうモグリの医者に助けられ蘇生したんやて。その人のいうことにゃあの世には地獄がぎょうさんあって、好きな地獄が選べるんやて」
「地獄ゆうと、閻魔さんがおって赤鬼青鬼がおって、血の池地獄や針の山、無間地獄や熱湯の釜がある地獄だけとちゃいまんのか」
「そんなクラシックな地獄もあるけど、最近は絶叫マシーンや映画の世界を体験できる地獄もあるねんて」
「地獄で映画が体験できるのでっか」
「そや。冥土インUSAゆうてな」
「なんでんの。それ」
「冥土で作ったウルトラ・スーパー・アホらし映画や」
「そういや三途の川の渡し舟の上からえらい派手な看板がようけ見えたけど、あれみんな地獄の看板やったんでんな」
「で、どうする。どこの地獄に行く?」
「あんまり混んでて行列せなあかん地獄はいややな。ここでええんとちゃいまっか」
「そやな。ここに入ろか」
 中に入るとがらんとしております。前に小高い小山があります。いろんな金属のガラクタが山腹に突き刺してあります。きたない木の板切れにきたない手書きの字で「針の山」と書いてあります。 
「これが有名な針の山かいな」
「あっち見てみなはれ。あれが血の池地獄らしい」
「なんや、雑然としていて妙に素人っぽい地獄やな。それでいて、さびれていてもの悲しい所やな。こんなとこ娑婆のテレビで見たことがあったで。まてよ、そやパラダイスや。探偵ナイトスクープで見たパラダイスや」
「そうでんな。確かにパラダイスでんな。小枝はんにいわなあきまへんな」
「しかし地獄がパラダイスになってるとはぜんぜん知らんかった。なんで地獄がこんなことになったのか、あそこのおじいさんに聞いてみまひょ」
「あ、あの人、頭に角はえてまっせ。鬼や」
「そや鬼や。そやけど想像してたより怖そうやおまへんな」
「鬼さん。ちょっとお伺いしますが、なんで地獄がパラダイスになったんでっか」
「いらっしゃい。ようお越し。ワシがこの地獄の園長赤鬼だす。ほな案内しまひょか」
「ちょっと待っとくんなはれ。鬼さん。なんで地獄がこないになったんでっか」
「だいぶん昔のことですけど。ああ、まあお掛け。市場開放や民営化やゆうて、誰でも自由に地獄がやれるようになりましたんや。それで外国の地獄や大手私鉄がどっと地獄の経営に乗り出しましたやろ。ちょうどその頃娑婆は不景気であちこちの遊園地やテーマパークが閉鎖されましたんや。あの世で地獄が自由に作れる。手付かずの巨大な市場がパッと開けたわけでっさかい、よおけの地獄がどっとオープンしましたんや」
「そないにぎょうさんの地獄があってやっていけまんのか」
「理屈ではなんぼ地獄があってもええはずでしたんや。娑婆は人口が増えたり減ったりしまっしゃろ。ところがこっちは亡者が増えるいっぽうで減ることはおまへん。需要は無限にあるはずでしたんや」
「そしたらなんでこの地獄がこないに閑古鳥が鳴いとるんでっか」
「原因の一番は極楽に亡者とられたことです。昔は亡者を地獄極楽に振り分けるのは閻魔さんの仕事で、娑婆で良いことをしたら極楽、悪いことをしたら地獄と決まってましたんや。ところが裁判員制度が冥土でも導入されましたんや」
「裁判員制度いうと一般市民が裁判に参加するとゆうアレでっか」
「はい。亡者もお裁きに参加するようになって閻魔さん一人で決められんようになりましたんや」
「それでとうとう地獄極楽どっちへ行くかは亡者自身で選べるようになりましたんや」
「そんなことしたらみんな極楽へ行ってしまいますやろ」
「そう思いまっしゃろ。ところが極楽は退屈でおもろない、ゆう亡者が結構おって、地獄も盛況でしたんや。そうこうしてるうちに地獄極楽双方とも民営化されましたんや」
「あの世はお役所でしたんか」
「そうでんねん。ここでトップの力量の差がでたんでんな。極楽のお釈迦さんは早々に極楽改革を断行して、極楽を一大エンターティメントのアミューズメントパークにして大勢の亡者をあつめましたんや」
「地獄も負けんようにやったらよろしいやんか」
「あんたもそうおもいまっしゃろ。ところが閻魔さんがもたもたしているうちに、外国の娑婆のテーマパークが地獄に進出して、これまたえらい人気。この地獄に来る亡者は減る一方。さすがの閻魔さんも危機感を持ち始めて、二人の亡者を担当部長にすえて 遅まきながら地獄の改革に手をつけましたんや」
「それが成功しなかったんでっか」
「はい。リストラで鬼の数が半分になる。効率一辺倒で亡者をベルトコンベア式に右から左に流すだけ。こんな地獄に来る亡者なんておりますかいな」
「で、どうなりました」
「閻魔さんはとっとと地獄から足を洗い、たんまり退職金もろて、ちゃっかり外郭団体へ天下り」
「地獄の外郭団体でっか」
「いいや極楽の団体で極楽天国道路公団ちゅうとこの総裁におさまりはったんやて」
「なんでんのそれ」
「仏教徒向けの極楽とキリスト教徒向けの天国の間に高速道路通そうちゅう公団でんがな」
「うまいことやらはったんやな」
「コネや、コネ」
「閻魔さん、そないに強力はコネありまんのか」
「なんでも極楽のトップのお釈迦さんとは遠い親戚で、奥さんが天国の重役の大天使ミカエルの妹さんとは女子大のクラスメートやったんやて」
「二人の部長はどうなりました」
「働きすぎて過労生きしたんやて」
「へえ。今娑婆でなにしてまんのや」
「こんどは平サラリーマンに生まれ変って、リストラにおうて毎日ハローワーク通い。自分らがどんな酷いことしたか身をもって知って反省の日々送ってまんねんて」
「で、あんた誰でんねん」
「わては赤鬼だ。だれもおらんようになったこの地獄を退職金代わりにもらいましたんや。
ほんで老後の楽しみに昔懐かしい戦前の地獄をこつこつ手作りしてまんのや」
「話聞いてみると地獄も紆余曲折があったんでんな」
「そうでんねん。わても歳でっさかい、そないぎょうさんの亡者のお相手はできまへんけど、時々懐かしいゆうて来てくれはる亡者をわての手作りの地獄に案内するのが生きがいでんねん」
「そうですか。そしたらわたしらもあんたの地獄見せてもらいますわ」
「どうぞどうぞ」
「あれ、ここの針の山、紙に描いた絵でんがな」
「破ったらあきまへんで」
「最初から破れてましたで」
「破れ目から覗いたらあきまへんで」
「何が見えまんねん」
「極楽」
「紙の向こうは極楽でっか」
「へえ、地獄極楽紙一重いいましてな」

星群ノベルズ22にて発表ずみ
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地獄八景亡者戯2(前編)

 地獄八景亡者戯という話をご存じでんな。人間国宝桂米朝師匠が持ちネタとされていますが、米朝師匠以外にもいろんな噺家が演じております。四人の亡者が地獄で大暴れする落語ですが、あの事件以後地獄も様変わりしまして、これはあれから一年後のお話し。
「もうし、そこへ行くのは秋津蓬莱食品の永田さんやおまへんか」
「なんや、ヒサコメ電気の山本はん。あんたがなんでこんなとこにおりまんねん」
「遅うまで残業してて、さて帰ろかとイスから立ち上がったとたん、クラッときて気がついたらここにおりますねや。あんたこそなんでこんなとこに」
「私痔が悪うおましたやろ。それをこじらせておいどの穴からバイ菌がはいって」
「そらえらいことでしたな」
「私らやっぱり死んだんでっしゃろか」
「そうでっしゃろ。周りを見てみなはれ」
 前を行く者、後ろから来る者、額に角帽子、首から頭陀袋、手に麻(お)幹(がら)の杖、白帷子の死に装束に身をかため、糸より細い声をあげ、なんまいだぶ~。
 しばらく歩きますと閻魔の庁に着きました。
門前の広場には黒山の人だかりができております。
「えらいようけの人でんな」
「これお裁きを待つ亡者の群れでんな。こないにようけ待たなあかんのは段取りがわるいからでっせ。お役所仕事やっとんのとちゃいまっか」
「なんでも半日待って一分のお裁きらしいでっせ」
「病院かいな」
 そうこうしているうちに亡者の群れが動き出しました。色んな集団がおります。中でも一番うるさいのが黄色いメガホンを持ち虎柄の法被を着た連中。こいつらが騒ぐのでここは閻魔の庁か甲子園かわからんようになってます。いつぞやの優勝以来名古屋でも広島でも横浜でも冥土でも、どこでも甲子園になってしまいます。ここ賽の河原スタジアムも同じです。
「今日は一段とヒートアップしてまんな」
「なんでも久々に村山が先発。藤村が四番打つそうでっせ」
「で、相手の先発は」
「沢村」
「村山、沢村の投げあいか。こんなん娑婆では見れまへんな」
「もし、それ、どことどこの試合でんねん」
「針の山タイガースと血の池ジャイアンツ。ネリーグの天王山でんがな」
「ネリーグ?」
「念仏リーグや」
 時間となりましたので、閻魔の庁の大門が開きました。門が開くとボックス。そう博覧会やテーマパークの入り口にあるようなボックスがあってそこで「うる星やつら」のラムちゃんみたいなかわいい鬼のねえちゃんが会場案内図を手渡してくれます。道の両側にはホテルのドアボーイみたいなかっこうした赤鬼青鬼たちがズラリとならんで満面の笑みをうかべて「おはようございます。いらしゃいませ」
「なんか話に聞いてた地獄と様子がだいぶちゃいまんな」
「そうでっしゃろ。地獄も民営化されてテーマパークになりましたんや」
「テーマパーク。地獄が遊園地になりましたんかいな」
「へえJSKいいまんねん」
「地獄の沙汰も金しだい、の略や」
「えらい広いでんな」
「不景気で閉園になったあちこちの遊園地がみんなこっちへ来てますからな」
「あんた関西の人でっしゃろ。そこが宝塚ファミリーランドで隣が阪神パークや」
「うわ、なつかしいな。レオポンもおりまんな。ところであんたくわしいでんな」
「わたし前来たことありまんねん」
「地獄を見て生き返りましたんかいな」
「へえ臨地(りんじ)体験いいましてな」
「臨死体験?」
「いやいや。地獄を体験してきたから臨地(りんじ)体験。ほら見てみなはれ、いろんな地獄がおまっしゃろ」
「ほんまでんな。血の池地獄、針の山、炎熱地獄。熱湯の釜。それにしてもなんか博覧会のパビリオンみたいでんな。あれなんか平べっちゃいドーム型で昔大阪であった万博のアメリカ館みたいでんな」
「あれアメリカ館でんねん。実物でっせ。あっちにあるのは花博のパビリオン。こっちは神戸であったポートピアのパビリオン。閻魔が関西人でっしゃろ、関西であった博覧会のパビリオンばっかりになりましたんや」
「うわっ、万博のアメリカ館。懐かしいでんな。私三時間並んで月の石見ましたんや」
 わーわーいうとりますうちに広いまっすぐな通りに出てまいりました。正面に大きな建物が見えます。
「あの建物はなんでんねん」
「あれが閻魔の庁でんがな」
「閻魔の庁いうたら大きなお寺というか、東洋風の建物想像しとったけど、様子がちゃいまんな。ディズニーランドのお城に日光の陽明門と『千と千尋の神隠し』の温泉場とベルサイユ宮殿をたしたみたいな建物でんな」
「地獄も昔は親方日の丸でいばってましたんやけど民営化されましたんや。それに外国の地獄が進出してきましてな。亡者をだいぶそっちに取られとるらしいで」
「外国の地獄?」
「へえ。向こうは閻魔やのうて大天使が裁いてくれまんのや。聖母マリア様が弁護についてくれてこれがえらい別嬪で。地獄巡りかてSFXを駆使した一大エンターティメント。ジェイソンやらフレディ、人気のキャラクターがいっぱい出てくるし、まるでバイオハザードのゲームみたいな地獄巡りらしいで」
「へえ。そっちの方がおもろそうでんな。そっち行きまひょか」
「ところが負けじとこっちの地獄が回転念仏やら一〇〇均念仏を始めたらえらい人気で」
「リピーターを増やさなあかんゆうてどこの地獄も必死やねん。ま、競争してもろたほうが亡者にとってはええことやねんけどな」
「ほな念仏買いに行きまひょか」
「ここが一〇〇均念仏でっか。広いでんな。これみんな一〇〇円でっか。信じられまへんな。この念仏なんか先代閻魔の時代には何百万としたんとちゃいまんのか。それがびっくり念仏やいねむり念仏より安う買えまんねんな」
「企業努力でんな。この一〇〇均ショップあちこちに店おます。こないだはとうとう極楽にも店だしたらしいでっせ」
「極楽でも念仏売りまんのか」
「極楽で売るのは蜘蛛の糸でんがな」
「一〇〇円で蜘蛛の糸を買うてハスの池にたらしまんねん。あの池は地獄の血の池につながってまっしゃろ。糸に亡者がつかまって上がってきまんねや。釣り上げた亡者によって、どらえもんやポケモンのぬいぐるみをもらえます」
「UFOキャッチャーみたいでんな」
「亡者キャッチャーゆうて、極楽の仏さんらにえらい人気で、ゲーム代ほしさに万引きする菩薩や観音さんの子供が出て、大日如来やお釈迦さんやら極楽のエライさんらは禁止を検討してるらしいでんねん」
「極楽の遊びも変わりましたんやな」
 一〇〇均やら回転念仏、また懐に余裕のある者はブランド物の念仏などを買いまして、亡者一同は閻魔の庁の中庭に入りました。広い中庭には四方に白黒のまん幕がはってありパイプ椅子が並べてあります。
「なんや葬式の焼香の番を待ってるみたいでんな。閻魔のお裁きの場ゆうから時代劇の奉行所のお白州みたいに、玉砂利の上に筵(むしろ)ひいた上に座らされるのかと思とったけど」
「民営化されて亡者の扱いがマシになりましたんや。係員の鬼も昔は鉄棒持った怖い鬼が亡者を追い立てるように扱っていたんやが、今は紺色の制服着て胸に名札つけた若い女性の鬼がにこやかに案内してくれまっしゃろ」
「ますます葬式でんな。やっぱり互助会が経営してまんのか」
「そうでんねん。娑婆の大手の葬儀社が経営に参画して第三セクター作りましたんやて。極楽では結婚式場もやってるらしいでっせ」
 そうこうしている間にいよいよ閻魔様がお出ましになりました。
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とつぜんコラム№64 プロをなめるな

はじめに。
この「とつぜんコラム」は星群の会のHPで連載していました
事情により星群のHPは更新がストップしております。
と、いうわけで当ブログで引き継ぐことにしました。
  
 小生はリストラされた経験を持つ。定年を待たずに職を失ったわけだが年金受給年齢までまだ間があるので無収入というわけにはいかない。で、就職活動を懸命に繰り広げた。面接もゲップが出るほど受けた。この面接だが、就職支援会社や人材銀行主催の再就職セミナーなどで面接のポイントとかいって色々教えてもらった。また中高年の再就職についての本を読んだり、インターネットでその関係のサイトを見たりした。こちらもなんとか採用してもらいたいので、これらの面接に臨む際の心構えを肝に銘じて面接を受けた。
 小生が集めた面接に関する情報は、一言でいって「いかに表面を取りつくろうか」というもの。第一印象を良くするにはどうしたらいいか。やる気を面接官に訴えるにはどうしたらいいか。自分がこの会社に入社したがっている事をいかに表現するか。と、いったことばかり。見た目と口でしゃべる言葉ばかりを気にせよといっている。ようは面接官の目をいかにくらませ言葉でいいくるめるか、ということ。中身はあまり気にしなくてもいいらしい。
 就職試験の面接はもちろん初対面同士である。時間は長くて1時間程度。短ければ15分で終わる。こんなんで応募者の中身まで面接官に見抜けというのは酷な話だが、面接に出てくる企業の担当者はたいてい人事の管理職だ。いわばその関係のプロ。それで会社からお金を取っている人である。そこをどうにか応募者の中身を見抜くのがプロじゃないのか。こう考えると上記に上げた面接に関するノウハウはなんとも人事のプロをなめたものだ。本物のプロにかかるといかに表面をとりつくろおうと、いかに口でうまいこといっても中身を見抜いてしまうものだ。ただしその会社の人事の管理職がプロであればという話。中には人事のアマが人事の管理職をやっている会社もある。
 昔いた電機会社では時々発注元の親会社の視察というのがあった。いついつに視察があるというと、もう大変。会社中大掃除。デッドストックの物は廃棄し、破損した機械は修理、汚れた壁はペンキを塗り、見て汚い所は覆いで隠す。会社全体を視察モードに切り替える。こうなると仕事がしにくくて困る。視察モードはあくまで観賞用で見た目がきれいなだけ。視察が終わったら大慌てで元の実用モードに戻す。
 これも先の面接の話と同じで、なんとも人をなめた話だ。表面だけとりつくろってごまかそうというわけ。小生が視察する人間ならば、馬鹿にするなワシの目はフシ穴と違うといいたい。とはいうもののフシ穴の目のエライさんがほとんどだった。
 三日かけて視察モードを作っても、さっさと通り過ぎるだけ。夜は北新地あたりで接待を受けるのだろう。で、数日後の朝礼で課長が先日の視察の結果を報告する。「大変に整理整頓が行き届いています」アホか。実態を知りたければ抜き打ちで来るべし。視察を予告するなんて接待を要求しているとしか思えない。
 表面だけとりつくろってごまかそうとするヤツ。それにごまかされるヤツ.しかし世の中こんなアホばかりではない。本物のプロもいる。彼らにかかると、どんなに表面をとりつくろっても中身を見抜かれてしまう。油断してはいけない。

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かもめ食堂

監督 荻上直子
出演 小林聡美 片桐はいり もたいまさこ

 なんと心地よく時間が過ぎていく映画だろう。画面が澄んでいる。登場人物の心構えが良く非常に好感が持てる。
 サチエはフィンランドのヘルシンキで日本食の食堂を経営している。看板メニューはおにぎり。客の入りはさっぱりで、常連は日本アニメおたくの青年だけ。それでもサチエはどうにかなる、と前向きに考え毎日食器磨きにいそしむ。
 そんなサキエの元に2人の日本人女性が転がり込む。ミドリとマサコを加えた3人の日本人女性がきりまわすヘルシンキの日本食レストラン「かもめ食堂」はだんだんと客が増えてくる。何組かの常連さんもできた。
 ナゾの人物が2人でてくる。店の外から中をにらみつける恐そうなおばさん。サチエにおいしいコーヒーの淹れ方を伝授するひげのおじさん。この2人の正体やいかに。と、いってもそんな大層なものではありません。この2人と3人とはいいお友達になります。
 3人の日本人女性はいずれも決して若くない。もう中年のおばさんといってもいいお歳。3人ともワケありで日本を離れたらしいが、深くは追求しない。
ともかくきれいな映画だ。「かもめ食堂」は大変にきれいなレストランで客席のインテリアは趣味が良く、厨房もこぎれい。経営者のサチエのセンスが表れている食堂といえよう。ヘルシンキの街角、フィンランドの自然、風土もきれい。それに登場人物の心がきれい。非常にあと味の良い映画だ。二重丸でお勧め。

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日本沈没第二部

小松左京+谷甲州  小学館


 30年前に大ベストセラーとなった「日本沈没」の続編である。前作は日本列島が一夜にして海に没するメカニズムを最新の地球物理学でシミュレーションした、ある意味ハードSFであった。また大地震の描写は阪神大震災の被災者である筆者としては、決しておおげさではないことがよく分かる。
 この第二部を実際に筆を立てて執筆したのは谷甲州である。この作品に特定の主人公はいない。物語を動かしている主要な登場人物は、農業技術者の篠原、日本政府の連絡員山崎、国連高等弁務官難民事務所員の阿部玲子、首相秘書の渡桜など。彼らを中心にいくつかの話が同時進行で進む。それぞれの話は独立していて、お互いに有機的にからみあうことはない。それぞれのパートを描写することによって国土を失った日本人がいかにして生き、そして国としての体裁を保っていくかを追求していく。日本列島はもうないのだから、当然、話の舞台は海外ばかり。この海外での描写はさすが海外体験の豊富な谷甲州。特に山崎のカザフスタンのくだりは冒険小説の名手でもある谷の独断場といえよう。
 首相の中田と外相の鳥飼の二人の考え方の違いがこの作品のテーマを表している。つまり、あくまで日本人としてのアイデンティーを保ち日本再建をめざすか、避難先の現地に溶け込み、現地人として生きていくか。苦労して日本人となるか、日本人でなくても個人が一人一人が幸せならそれでいいのでは、という問いかけがなされる。
 話は未だ半ばという感じ。第三部が読みたい。
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3月29日(木) ブログ開設のごあいさつ

ごあいさつ
ブログを開設しました。雫石鉄也(しずくいしてつや)と申します。今後ともよろしくお願いします。
 日記は毎日更新するつもりです。しかし飲みすぎて二日酔いの時などは更新できないかもしれません。その時はどうぞご勘弁を。
「とつぜん読書室」は読んだ本の紹介を、「とつぜん映画館」は観た映画の紹介をします。ネタバレなきよう充分注意して書きます。本、映画とも新作とは限りません。その時に私が読んだ/観た、作品を紹介します。
「とつぜんコラム」は月に一回、思いつくままにエッセイを書いていきます。
「雫石鉄也作品集」は私が今まで書いてきた小説を展示します。どうか読んでやってください。

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