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1月も終わりですが困ったもんです

 早いもので、新年になったと思ったとたん、1月も終わる。困ったものだ。今年の正月は酒ぬきの正月であった 。毎年、正月は、おせちを肴に、おとそがわりに桜正宗か呉春を、お宝の備前の酒器でいただくのだが、今年はなし。
 三が日だけ家でゆっくりして4日には入院、5日に手術して、10日に退院した。11日は自宅で静養、12日から出社して仕事している。
 と、いうわけで今年は冒頭から非日常であった。手術は前立腺肥大の手術で、さいわい術後の経過も順調で、尿もれはまだ少しあるが、出血はほぼ止まった。
 18日に術後の最初の診察を外来で受けた。その時はまだ尿に少し血が混じっていた。自転車と飲酒はまだダメですかと医者に聞くが、OKは出なかった。
 禁酒はつらいが、自転車禁止もつらい。またがって乗る乗り物の振動がいけないそうだ。小生、足を痛めているので自宅からJRの駅まで自転車に乗っているが、今は歩いている。それはいいのだが、足に負担をかけないよう散歩を自粛している。健康のため会社からの帰りは、ひと駅分は歩くことにしている。それに小生は散歩が好き。自転車禁止もつらいわけだ。次回の診察日は2月15日。さすがにこの日で酒も自転車も解禁されると期待しておる。
 それにもうひとつ心配事が。西宮生まれの小生は毎年、十日戎の参拝は欠かさない。ところが去年はあまりの人出で参拝を断念。今年は入院で断念。2年続けて十日戎に行けなかった。毎年、阪神タイガース優勝をえべっさんにお願いしている。去年は4位。今年の阪神タイガースは最下位が予想される。困ったもんだ。
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団地


監督 阪本順治
出演 藤山直美、岸部一徳、石橋蓮司、大楠道代、斎藤工
 
 ヒナ子、清治の山下夫婦は団地で暮らしている。関西は大阪と思われる、古い昭和な団地である。東淀川あたりにありそう。大阪のおばちゃん連が井戸端会議をしている。ゴミ出しに関してごちゃごちゃ。
 山下夫婦は老舗の漢方薬局を経営していたが、いまは店をたたんでいる。店は閉めたが清治は、薬の原料は持ってきて保管している。清治の薬でないとダメという客がいる。その客、真城はへんな日本語をしゃべる。
 清治は真城のために薬を作って宅急便で送る。集荷に来る宅急便のにいちゃんはお腹が弱く、いつもトイレを借りてウンコをしていく。
 団地の自治会の会長選挙があった。清治は立候補したが落選。すねた清治は床下にかくれてひきこもる。もう、2か月も清治さんを見ない。どうしたんや。きっと殺されたんや。ヒナ子は殺人犯にされてしまう。
 真城がやってきた。重大なお願いがあるという。
 と、ここまであらすじを紹介してきたが。この映画は紹介が大変に難しい。どう書いてもネタばれになる。
 後半は驚愕の展開になる。あぜん、ぼーぜん、奇絶怪絶、また壮絶!どう驚愕なのか。そんなことはいえん。自分で観るべし。
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酒粕定食

 
 昨年買った酒粕が残り少なくなった。せっかくだから酒粕の定番料理をそろえて酒粕定食といこう。まず汁だ。もちろん粕汁。いつもの小生の粕汁だが、今回は目先を変えて鉄小鍋を使った。そしてメインはブリの粕漬け
 小生はいま禁酒中で酒は飲めんが、酒の香りを楽しむぐらいはいいだろう。酒粕料理は日本酒の香りを楽しむもの。それになんといっても、あったまるのがありがたい。さて、残った酒粕は甘酒にしよう。
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姫路おでん


 おでんである。ここ関西ではかんとだきともいう。時間がつくる料理だ。さしてむつかしいことはない。ことことと時間をかけてゆっくりと煮る。鍋を火にかければ、あとは鍋まかせにしておけばいい。
 こんかいは姫路風でいただく。おでんにはからしというのが定番だが、姫路風はしょうが醤油でいただく。
 さて、煮ていこう。大根、牛すじ、がんもどき、ちくわ、厚あげを用意した。具材は多い方がおいしくなる。味付けはさっぱりと仕上げたいので、鰹節は使わず昆布だけ、醤油は使わず塩と酒をほんの少し使った。具材からうまみが出るので調味料はサポート役に徹すべし。最低、2時間は煮よう。
 煮えたぞ。熱燗がほしいところだが、まだ禁酒なのだ。ノンアルコールビールを飲む。まず、大根、牛すじ、ちくわをしょうが醤油をつけていただく。うん、これはうまい。さっぱりしている。
 
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冬の地下鉄はありがたいのだ

 きょうは会社の仕事の都合で早出する。早朝5時には家をでる。きのうより少しマシになったとはいえ、たいへん寒い。いつもは最寄のJRの駅まで自転車で行くのだが、前立腺の手術後につき、自転車とかバイクとかまたがって乗る乗り物は医者に禁じられている。振動が悪いのだ。
 早朝の街をてくてく歩く。まだ暗い。寒い。小さな動物が前を横切った。猫ではない。ネズミより少し大きい。イタチだと思う。
 JRの駅に着く。1番電車を待つ。六甲山から吹く風が冷たい。電車が来た。1番電車とはいえ、けっこう乗客は多い。神戸で地下鉄に乗り換える。地下に入ると暖かい。ほっとする。冬の地下はありがたい。会社の正門の前から家の前まで地下鉄が通じていればいいな。
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とつぜんSFノート 第85回

 そういうわけで、小生たち3人は機上の人となった。ガタガタゆれる飛行機であった。YS-11は乗り心地が悪いのである。
1984年7月27日、われわれは北海道は千歳に降り立った。北海道、小生にとっては初めての北海道である。夏である。北の大地、北海道。さぞかし涼しいだろうという期待は、YS-11を降りたとたん裏切られた。むし暑い。夏の北海道は夏の大阪よりよっぽど暑かった。
とりあえず、千歳から札幌へ移動。札幌市内観光をする。有名な札幌の時計台を見る。小生は土佐の高知のはりまや橋も行ったことがある。これで日本の3大がっかりのうちの二つを見たわけ。それ以外、どこを観光したのか忘れた。時分時になった。腹がへった。どこぞで昼食を食べよう。で、せっかくだから北海道らしいモノを食べようということになった。なにを食べよう。石狩鍋だ。こんな真夏に鍋なんかしてる店ないやろ。とかいいながら手近の店に入る。メニューを見ると石狩鍋が書いてある。
「おばちゃん、石狩鍋でけんのか」
「できますけど、おめしあがりになる?」
「頼むわ」
外はカンカン照りの真夏。関西なまりの酔狂な客だと思われただろう。石狩鍋が出てきた。店内はクーラーが効いているから、びっくりするほど暑くはない。北海道の石狩鍋はうまかったと記憶する。満腹して店の外に出る。さすがに暑かった。
この時のSF大会は、第23回日本SF大会EZOCON2。会場は定山渓ホテル。日本SF大会はおおざっぱな分類で2種類ある。東京や大阪などの大都市の会館やホールで行う都市型コンベンション。リゾート地のホテルや旅館で行われるリゾート型コンベンション。都市型は会場と合宿場所が違うが、リゾート型は会場と合宿場所が同じところ。リゾート型の場合、たいていホテル旅館を1軒まるごと借り切る。そりゃそうだろう、ガサツなSFファンどもが一晩中の飲めや歌えやのドンチャン騒ぎをくりひろげるのだから、他の一般客はうるさくておられんだろう。もちろん、この時のSF大会も定山渓ホテル借り切りだった。
札幌からホテルのバスで定山渓まで移動。ホテルに到着。緑のきれいな山の中だ。ロビーで受付。小生の名札はゲスト用のモノであった。実は事前に大会実行委員会から企画に協力してくれといわれていた。企画というのが全国のSFファンジン同人誌のパネルディスカッションにパネラーとして出てくれといわれていた。小生は星群の会連絡人であったから、その立場で同人誌の事務作業などについてしゃべれということ。
部屋に着いて旅装を解く。ホッとして、旅の汗を流そうということで風呂に行く。定山渓温泉。混浴であることは聞いていた。少々、ヨコシマな期待を抱いだて大浴場へ。しかし、期待は裏切られた。女性たちは全員水着を着用していたのである。小生たちも海パンをはいていたが。
さて、ヌードではないが女性SFファンの水着姿で目の保養をした小生たちは、この北海道旅行の最大の目的、大阪でのSF大会立候補のため、日本SFファングループ連合会議の部屋へ行ったのである。  
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SFマガジン2017年2月号


SFマガジン2017年2月号 №719 早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 博物館惑星2・ルーキー 第一話 黒い四角形 菅浩江
2位 セキュリティ・チェック 韓松 幹遥子訳
3位 力の経済学 セス・ディキンスン 金子浩訳
4位 新入りは定時に帰れない デイヴィッド・エリック・ネルスン 鈴木潤訳
5位 裏世界ピクニック ステーション・フェブラリー  宮澤伊織
6位 交換人間は平静を欠く(前篇)          上遠野浩平

連載
プラスチックの恋人(新連載) 山本弘
小角の城(第42回)      夢枕獏
マルドゥック・アノニマス(第13回) 冲方丁
幻視百景(第6回)       酉島伝法

近代日本奇想小説史(大正・昭和篇)(第29回) 横田順彌
SFのある文学誌(第50回)長山靖生
アニメもんのSF散歩(第14回) 藤津亮太
現代日本演劇のSF的諸相(第23回) 山崎健太
にゅうもん!西田藍の海外SF再入門 特別篇 西田藍

オズの国の一駅手前―第74回世界SF大会ミダメリコンⅡ日記 巽孝之
人間廃業宣言 特別編 第49回シチェス・ファンタ レポート 友成純一

 ディストピア特集である。久しぶりにSF専門誌らしい特集を企画した。それは評価してもいいだろう。ディストピアSFなるモノの解説。ディストピアSFブックガイド、関連エッセイなど、特集企画としておさえるべき所はちゃんとおさえてある。
 で、それはいいだけど、また伊藤計劃がらみの企画。「虐殺器官」がアニメ映画化。今回の特集ディストピア企画もそれにちなんだもの。しかし、早川もいいかげん伊藤計劃を成仏させてやれよ。もう亡くなってから7年もたっているんだぞ。「虐殺器官」も「ハーモニー」も小生は読んだ。確かに後世に残すべき傑作だ。それで早川もじゅうぶんうるおっただろう。しかし、こうしょっちゅう伊藤計劃ネタをやると、とことんまで絞りつくすという感じで感じは良くない。こら早川いいかげんにしろ。
 菅浩江が「博物館惑星」の新作を始めた。喜ばしい。前作は傑作だった。今回は学芸員ではなく博物館の警備員が主人公。どういう展開になるか楽しみ。小生が冗談でSFマガジン2015年3月号(SFマガジンにそんな号はない)の紹介をやったとき、ネタで新連作シリーズ開幕.「新・博物館惑星」と記したが、それが実現するとはうれしいかぎり。少し前に掲載していた「誰に見しょとて」は小生にはもひとつピンとこなかったので、今回は期待しておるぞスガちゃん。  
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調味料は変えない

 料理は小生の趣味である。土曜日日曜日は包丁を握って楽しんでいる。男の料理である。いまでこそ男の料理なんて珍しくもなんともないが、小生が料理を始めたころは、雑誌Dancyuは創刊されたばかり、漫画「クッキングパパ」もモーニングに連載されはじめて時間がたってなかった。
 さて、男の料理というと、アレはコレでないといかん、コレはアレでないといかんとやたら、こだわるムキもいるが、小生はあまりこだわりが少ない。メインの包丁だけはこだわって有次の包丁を使っているが他のモノはそうではない。ただ、調味料だけはこだわっている。濃い口醬油はキッコーマン、薄口醬油はヒガシマル、塩は伯方の塩、ウスターソースはイカリ、とんかつソースはオリバー、などなど調味料のメーカーは決めている。
 なんだ、そのへんに普通にある調味料じゃないかと思われるだろう。その通り、普通の調味料である。こだわりの特選素材の手作り調味料ではない。
 小生の料理を食べるのは自分と家族だけ。だから小生は、自分と家族の口にあった料理だけ/しか、しない。小生は料理のプロではない。不特定多数の人に食べさせる料理ではない。だから味も不特定多数向けにする必要がない。自分と家族の口にさえあえばいいのである。
 自分と家族は上記の調味料で味つけした味が口にあっているわけ。その味を変えたくない。だから調味料は変えないのだ。へんに凝った調味料だと入手が難しい。だから確実に入手できる普通の調味料を使っているというわけ。とはいいつつも、よりうまいモノを食べたい。そんなときは素材の味を大切にしたい。普通に流通している、野菜、魚、肉は本来はうまいものだ。それを100パーセントひきだしてやればいい。30パーセントや40パーセントのうまみしか出せないからまずいのだ。調味料は素材の味を引き立てるサポート役だ。サポート役は固定したほうが味も安定するわけだ。
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帰ってきたヒトラー


監督 デヴィッド・ヴェント
出演 オリヴァー・マスッチ、ファビマン・ブッシュ、カッチャ・リーマン

 20世紀の人物で絶対的な極悪人は誰だと問わば、ヒトラーはその代表だろう。ヒトラーは悪人かと100人に聞けば100人がYESというだろう。1000人に聞けば1000人が、10000人に聞けば10000人がヒトラーは悪人だというだろう。ヒトラーを擁護することさえ悪だ。そんな絶対的極悪人のヒトラーが、この21世紀に、しかもドイツにやって来た。
 ヒトラーは死んでなかった。陥落直前のベルリンから2014年のドイツにタイムスリップ。ひょんなことから、クビになったテレビ制作者のザバァツキと知り合う。ザバァツキはヒトラーをモノマネ芸人だと思い、テレビ界復帰を期して売り出す。ザァツキのもくろみは大当たり。本物そっくりと人気を得る。なんせ本物なんだから。
 ヒトラーは現代のドイツを見て、思うがままをいう。若者の貧困、出生率の低下、難民流入、このドイツをデブ女に任せておけない。このままではドイツは奈落に落ちるぞ。人々の前でヒトラーそっくりの演説をぶつ。わー、本物そっくりと大うけ。なんせ本物なんだから。
 人気いろもん芸人となったヒトラー。彼は一度も自分を芸人だとは認めてない。自分はあくまでナチスドイツ総統アドルフ・ヒトラーだといいはる。その通りなんだけど、その徹底ぶりがますます人気に拍車をかける。そして、人々はヒトラーのいうことも一理あると思いだす。賛同者が出てくる。そして彼、アドルフ・ヒトラーはドイツの現状を憂いて動き出す。この間、彼を本物と思ってののしったのはアウシュビッツの生き残りの認知症の老婆だけ。ヒトラーはいう。私はドイツ国民の一部だ。ドイツ国民が私を選んだのだ。
 いちおうコメディー映画となっているが、笑い事ではない。ものすごく怖いブラックな映画である。なんせ、こういうことが現実に起こったのだから。某国の某不動産屋の暴言オヤジがあれよあれよという間に大統領になってしまったのだから。笑い事ではない。
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大分りゅうきゅう


 どうです。おいしそうな丼でしょう。これは、りゅうきゅうの丼です。りゅうきゅうといっても沖縄の丼ではありません。りゅうきゅう大分の郷土料理です。なぜ、大分なのにりゅうきゅうなのかはわかりません。
 調理方法はいたって簡単です。まずお刺身を手に入れてください。どんなお刺身でもいいでしょう。近くの魚屋とかスーパーで買ってくるのが一番手間が少ないです。手間を惜しまない人なら、自分で釣ってきてもいいでしょう。漁船を仕立てて自分で漁に行って捕ってきた魚でもOKです。海にいけすを作ってハマチなんかを養殖してもいいでしょう。
 私は若いころ水産学科でハマチの養殖の実習をやったことがあります。白浜までハマチをもらいにいくのは、さすがにめんどう。今回は近くのスーパーでハマチのお刺身を買ってきました。
 さて、まず、ハマチのお刺身をボールに入れます。そこにしょうがのすりおろしを入れましょう。多い目がいいですね。醤油と味醂を同量、お刺身がつかるぐらい入れます。
 あとは、これをほかほかご飯の上に乗っけて、青ネギとゴマをパラパラすればできあがりです。半分ほど食べたら、あとはお茶漬けにしてもおいしいですよ。
 ね、簡単でしょ。スーパーでお刺身を買ってくるだけですから。手間をおしまない人なら、自分で漁に行ったり養殖したりしましょう。
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醤油カツ丼

 
 カツ丼はワシの大好物や。前立腺肥大の手術を受けなあかんトシやねんけど、カツ丼みたいなもんが好物やねんから、ワシもまだまだ若いちゅうこった。
 三宮で外食するときにゃ、吉兵衛でカツ丼食うことが多いな。自分でもよう作る。いろんなカツ丼作るな。普通のカツ丼みそカツ丼おろしカツ丼ドミカツ丼ソースカツ丼などなど。
 さて、きょうはどんなカツ丼にしようぞ。ソースカツ丼があんねんから醤油カツ丼もええやろ。ちゅうわけできょうの昼食は醤油カツ丼や。ほとんど他のカツ丼とおんなじや。メシの上に乗せる野菜は、定番のキャベツに大根の千切りを混ぜたで。で、トンカツをその上にのっけて、醤油、味醂、砂糖で作ったタレをかけるんや。このタレ、メシにもちょっとかけておこう。
 うん、これはうまい。ソースよりさっぱりしててええで。日本人はやっぱり醤油味がホッとするな。
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落語やめますか

 カラン。カウベルが鳴った。男が入ってきた。
「いいかな」
「どうぞ」
「マスター、ごぶさた」
「ひさしぶりですね。長谷川さん。あ、いや清太さん」
 40代後半か50代前半。生真面目な感じの男である。鏑木は知っている。この男、長谷川清は鏑木の目に見えるような生真面目な男であることを。ところが本人はその生真面目さをかくそうとしている。鏑木は長谷川とのつきあいは古い。この街の出身だが、ときどき、この海神にやってくる。
「公演ですか」
「うん。燕雀にいさんの独演会なんだ。それの前座を頼まれて」
 鏑木は桂燕雀独演会のポスターを見たのを思い出した。たしか今度の日曜、S市文化会館だ。知人に落語家がいる。桂清太。目の前の男がその落語家だ。本名長谷川清。鏑木の高校の後輩だ。長谷川はS市立高校を卒業して、上方落語の大御所桂麦秋に弟子入りした。長谷川が弟子入りする三日前に入門したのが桂燕雀だ。燕雀は関西爆笑王と呼ばれ、上方落語界きっての人気落語家である。
「おれ、麦秋師匠に入門して32年。こんど50になるんだ。もう落語家をやめるんだ」
 桂清太。確かに売れっ子の落語家ではない。テレビにめったに出ない。もちろん独演会などやったことはない。老人ホームの慰問、小学校や中学の課外学習、パチンコ屋の新装開店の余興、地方の温泉場の演芸、結婚式の司会などで糊口をしのいでいる。
「そうですか。で、清太さん、落語を止められますか」
「やめてくれ。オレはもう桂清太じゃない。オレは長谷川清だ」
「長谷川さん。なにを飲みます」
「オールド。水割りで」
 鏑木がカウンターにグラスを置いた。長谷川が一気に飲む。
「ふう~っう。鏑木さんの水割り飲むのも久しぶりだ」
「私の問いに答えてください」
「なんだ」
「落語やめられますか」
「そうだな。やめたいな。おかわり」
 鏑木は2杯目の水割りは少し濃くした。長谷川は、また一気に飲んだ。3杯目の水割りは2杯目より濃くした。
「麦秋師匠にはいいましたか」
「いったよ」
「師匠はなんと」
「お前は五〇を過ぎると一皮むける。あと5年がんばれと」
「オレより三日前に入門した燕雀はオレより年下なのに売れっ子で芦屋の豪邸に住んでる。オレの弟弟子の燕麦はNHKで番組持ってる『燕麦の家族でドン』見たことあるか」
「あります」
「で、あいつの芸はどう思う」
「素人さんをイジらせたら燕麦さん、うまいですね」
「だろ、結局、オレにはなんもないんだ。おかわり」
 鏑木はうんと濃い水割りを出した。
「ふうん。で、長谷川さん、いや、桂清太さんの落語は、桂燕雀さんや桂燕麦さんのより劣ってるんですか」
「いくら鏑木さんでも怒るぞ。オレは芸では燕雀や燕麦には決して負けてないぞ」長谷川はかなり酔ってきた。
「燕雀さんや燕麦さんは落語家をやめないでしょう」
「売れっ子のあいつらがなんでやめるんだ」
「だったらなんで清太さんはやめるんです。もう一度聞きます。落語やめられますか」
 長谷川はカウンターにつっぷした。酔いつぶれる寸前だ。
「やめたくない。オレから落語をとったらなんも残らん」
「麦秋師匠」
 鏑木が店の奥に声をかけた。70代の老人が出てきた。上品で知的な老人だ。清太の師匠、桂麦秋である。
 麦秋がやさしく清太の肩に手をかける。
「清太」
「うう、うん、師匠!」
 清太の酔いは一瞬で覚めた。
「師匠、どうしてここに」
「鏑木さんに頼んでいたんだ。お前が来たら酔っぱらわせてくれと」
「オレ、酔ってなんかいいましたか」
「いったぞ。落語やめたくないとな」
「燕雀にいさんの独演会のサプライズゲストですか」
「燕雀の独演会にワシの出番はない。お前に大事な用だ」
「なんですか」
「お前、来年、桂文朝襲名だ。お前は5代目桂文朝だ」
 桂文朝、長年、空き名跡になっている上方落語の大名跡である。清太の師匠桂麦秋の師匠が桂文朝だ。
「なんで、オレが」
「名は人を創るという。お前はそれだけの落語家だ」
「オレなんか」
「ワシの目に狂いがあるというんか」
「いえいえ」
「だったら5代目桂文朝OKだな」
「はい」
「おうい。燕雀、燕麦」
 二人が奥から出してきたのはウィスキーのケースだ。中にはサントリーの山崎が24本入っている。
「これを鏑木さんに預かってもらう。このボトルがみんな空になったころ、この街の文化会館で5代目桂文朝独演会をやるんだ」
「にいさん、その時はぼくが前座をつとめます」燕麦がいった。
「オレはお茶子にでも使ってくれ」燕雀がいった。
 長谷川清、いや桂清太、いやいや5代目桂文朝は、またカウンターにつっぷした。酔っているのではない。泣いている。

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とつぜん上方落語 第8回 池田のしし買い


 さむおまんな。こないに寒い時は、シンからぬくとまりたいでんな。そんなときは鍋がいちばんや。あたたまる鍋。ししの鍋やな。ぼたん鍋ともゆうな。ししの身は薬食いとゆうてな、身体がほこほこぬくとまりますでな。
 さて、鍋の用意や。まずしし肉を手に入れなくてはならんわい。落語やったら池田まで行って、山猟師の六太夫さんに頼んで猪を鉄砲で撃ってもらうねんけど、いまの池田に行っても六太夫さんはおらへんし、猪もおらんやろ。
 ワシは神戸は東灘の住民や。ほんまは猪なんざ珍しくもなんともあらへん。そのへんになんぼでもおるけど、神戸の街中で鉄砲撃つわけにもいかん。
会社のおっさんで北区のおっさんがおる。そのおっさん、毎年、冬になるとさ176号線を通って三田までしし肉を買いに行くとか。ワシも三田まで買いに行こうと思うた。実は三田は「海神」があるS市のモデルや。「三田のしし買い」やな。実は三田、ワシが学生のころよう行った街や。オヤジが西宮市山口町で工場をやっててワシも手伝いによう行った。で、完成した製品の納品場所が三田にあったちゅうわけや。「海神」のS市はあのころの三田や。三田もとんと行ってないな。いまの三田はよう知らん。久しぶりに三田へ行こうと思ったけど、めんどうになってやんぴや。ネット通販で買った。で、ぼたん鍋にして食うた。しし肉はうまおすな。
池田のしし買い。桂米朝師匠、桂枝雀師匠、笑福亭仁鶴師匠、いろんな噺家がこの噺を得意としてるけど、ワシの持ってる枝雀師匠の「池田のしし買い」ヘタしてぐちゃぐちゃやど、ごっついおもろい。マジで師匠がヘタしたんか、計算ずくかわからん。サゲのあとであやまってはったからマジかもしれんが、ワシは計算ずくやと思うな。 
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2016年に読んだ本ベスト5

小生の読書の時間は次の四つ。まず、朝。小生の朝は早い。きっちり4時には目を覚ます。ブログをざっと見て、朝食まで朝の読書にかかる。そして電車の中も大切な読書の時間だ。面白い本だと乗り過ごす時がある。
 会社に着く。人より30分は早く着く。CEタンクの点検とバルブ開放のあと始業時間まで少し間がある。この時も読書の時間。そして1日の最後、寝る前。しかし、寝る前の読書は数ページ読んだだけで寝てしまう。さて、昨年読んだ本のベスト5は次の5冊だ。

1位 コロンビア・ゼロ 谷甲州  早川書房
 久しぶりの航空宇宙軍である。現場SFの第一人者、甲州の真骨頂。戦争を始める止めるは政治家の決めること。われわれはなすべき任務を果たすだけ。

2位 戦場のコックたち 深緑野分 東京創元社
 第2次世界大戦ヨーロッパ戦線のコック兵たち。出色の戦争小説であり、青春小説で、お仕事小説で、そして反戦小説でもある。

3位 シャンタラム グレゴリ-・デイヴィッド・ロバーツ 田口俊樹訳 新潮社
 2720円のインド旅行。ただし観光旅行ではない。インドの裏をたっぷりと見せてくれる。

4位 桜花忍法帳 山田正紀 講談社タイガ
 かの甲賀忍法帖の続編。風太郎の衣鉢継ぐのは正紀で決まり。読み進むにしたがってだんだん風呂敷がでかくなる。

5位 神樂坂隧道 西秋生 西秋生作品集刊行委員会
 出色の短編幻想小説集。あの筒井康隆をして「完璧」といわしめた「マネキン」も収録。かえすがえすも早世が惜しまれる。

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阪神大震災から22年。

 あれから22年たった。もうふた昔以上の年月が流れた。阪神大震災を知らない大人が増えてくる。あの22年前、神戸を襲った大震災は「歴史」となろうとしている。しかし、あの大震災はまだまだ「歴史」となってはいけない。まだ終わってないからだ。
 6434名の方々が亡くなった。この中には小生の友人知人もいる。彼らのことを想いだす。小生の中では、あの地震はまだ続いているのだ。だから、あれは決して「歴史」ではない。まだまだ現実なのだ。今でも、神戸の街を歩くと「がんばろう神戸」の文字を見ることがある。路面に小さな亀裂が残っている道もある。小生の自宅でも、地震で揺れた蛍光灯が天井につけた傷が残っている。ベランダの壁面はスジが入っている。よその土地に人にとっては阪神大震災は半分「歴史」かも知れないが、ここ神戸ではいまも現実なのだ。
 東日本、熊本、鳥取、あれからも日本は大きな地震にみまわれ続けた。南海トラフ大地震が明日起こってもおかしくない。天災は忘れないうちにやってくるのだ。そして地震は終わらないのだ。
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