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とつぜん上方落語 第31回 除夜の雪

 師走です。師走の落語もいろいろおますが、桂米朝師匠が、この時期にようやらはった噺に「除夜の雪」という噺がおます。
 大晦日です。雪が降っております。寒いです。とある小さなお寺。3人の小僧さんが除夜の鐘をついてます。ひとつづつ数えながらついてます。寒いからはよ終わらせようと思って途中でやめると、檀家にヒマ人がおって数えとる。「おっすさぁん、除夜の鐘85しか鳴らへんかったで」と和尚にいいつけよる。寒いけどちゃんと108打たなあかん。
 3人の小僧さんのうちの珍念はちゃっかりした小僧さん。和尚が使うとる上等の炭を持ってきよる。火鉢にいれたら温かい。この珍念、お茶も和尚のをくすねてきた。玉露や。ええ炭で温まって、おいしいお茶飲んで。「こうなりゃ、お菓子が欲しいな」そこは珍念、ぬかりおまへん。「お菓子やおまへんけど、こんなんがおます」出したのが和尚が酒の肴にしとる丸干し。と、その時、戸をたたく音が。
「ちょっと、ここをお開け」こんな夜半にだれぞ来ました。伏見屋のごりょんはんです。家柄が違うと反対されて結婚したため、お姑はんとはごっつい折り合いが悪いお人です。
「気になってましたんや。年内にこれを返えさなあかん思うて」以前、お寺で貸した提灯を置いていきました。
 ごりょんはんは帰って行きました。庭の雪には足跡がありません。ちょうどその時刻、ごりょんはんは首を吊ってました。
「つりあわぬ縁は組むものやない。ごりょんはんが教えてくれたはる」
 そこに提灯と釣鐘がおます。
 と、いう落語でおます。米朝師匠が演じると、しっとりとした雪の除夜の情景が展開します。前半は、ケチな和尚(噺には出てきませんが)ちゃっかりした小僧の珍念の対比が面白いです。
ジョン・スタージェス監督の「大脱走」同じくジョン・スタージェスの「荒野の七人」のスティーブ・マックィーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームス・コバーンと3人が両方の映画に出てますが、両方ともワシの大好きな映画でおます。その大脱走に出てくるのがジェームス・ガーナー演じる調達屋ヘンドリー。どんなもんでもちゃかり調達してくる。さしずめ、珍念はこのお寺のヘンドリーということになりますな。ちなみに、このヘンドリーといっしょに脱走したのが偽造屋コリン。このコリンを演じたのが「刑事コロンボ」で人気投票やればいつも上位に来る「別れのワイン」の犯人エイドリアンをやった名優ドナルド・プレザンス。しかしドナルド・プリザンス芸域の広い役者さんですね。「ミクロの決死圏」ではうさんくさい悪役の博士。「大脱走」では目が見えなくなった人のいい書類の偽造屋。「別れのワイン」では妥協をしらぬワインの醸造家。「007は二度死ぬ」では悪の頭目ブロフェルド。ほんと名優です。
で、「除夜の雪」ですが、悲劇的な結末ですが、ここはひとつ上方落語どうしでクロスオーバーストーリーを創り、この伏見屋のごりょんはんを救ってやろうじゃおまへんか。「堪忍袋」をこのごりょんはんにやるんや。で、ごりょんはんに、思いっくそ「死ねええ、このくそばばあ」と堪忍袋にどなってもらうんや。すっきりして、その後お姑はんと折り合いがようなるんとちゃうか。  

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とつぜん上方落語 第30回 片棒

 大阪は船場へんの、さる大店のだんさん。しまつして財産をたくわえた金満家でございます。ワシ1代で築いたこの財産、ワシの目の黒いうちにだれに継がそうか決めておこう。この家には3人の息子がおります。この3人に、ワシが死んだらどんな葬式を出すか聞いて決めよう。と、いうことになりまして、3人の息子、それぞれ葬式の企画をおやだんさんにプレゼンするわけですな。
 一方、こちらはSFの大コレクター。公にはアメリカのF・J・アッカーマン氏が世界一のSFのコレクターといわれておりますが、まったく無名の人ですが、アッカーマンに優るとも劣らないコレクターです。
 アメージング・ストーリーズ、アナログ、アスタウンジング、スリリング・ワンダー、ギャラクシー、ウィアード・テールズ、などのアメリカのSF雑誌はすべてコンプリート、SFのハードカバーにソフトカバーの単行本すべて。もちろん日本のSF関係では、SFマガジン、奇想天外、SFアドベンチャー、SF宝石、幻想と怪奇などの雑誌類はすべて全巻揃い。ハヤカワSFシリーズ、ハヤカワSF文庫、東京創元社の文庫、サンリオSF文庫などは全巻、他の出版社のSFはいうに及ばず、宇宙塵、星群、イスカーチェリ、科学魔界といったファンジン同人誌もすべて。しかも、なんとおどろくことに、それらの雑誌書籍類をそれぞれ100セットづつ保有しているのです。アッカーマンと野田昌宏大元帥と石原藤夫博士の3人分のコレクションを合わせて100倍したぐらいのコレクションです。
 そのコレクター氏、もうずいぶんのお年で、自分の死後、この膨大なコレクションをどうするか決めかねてます。まず長男にどうするか聞きました。
 これだけのコレクション。散在してしまうのはもったいない。記念館を作ります。おとうさんの、この偉業、記念館を作って、SFに興味のある人はだれでも自由に閲覧できるようにします。
 長男は熱心なSFファンです。では次に次男。次男は作家です。でも、SF作家ではありません。
 おとうさんはなんで、こんな具にもつかない本をバカみたいにたくさん集めたのか判りませんな。ぼくの書く小説のネタにも資料にもならないし。こんな紙クズの山は要りません。
 3男は古書店を経営しています。自分で引き取るといいました。おとうさんは、古書店主なら本の扱いを熟知しているだろうと判断して、結局、この大コレクションは3男が継ぐことになりました。
 3男は、おとうさんの遺産のコレクションをぜんぶ焼却してしまいました。
 ぼくは古本屋です、こんなコレクションが世に出ると、SF関係の市場価格に大きな影響がでます。そんなことは古本屋としてできません。
 大コレクター氏が亡くなって3年。3回忌の法事で久しぶりに3兄弟がそろいました。そこで3男がいいました。「お兄さん、実は」
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とつぜん上方落語 第29回 七度狐

 ここにございますのは大阪の気のあいました、喜六、清八の二人づれ。お伊勢参りの旅の途中でございます。道中、ハラが減って、とある煮売り屋に入りました。酒は水くさい酒やのうて酒くさい水しかおません。食べもんは、みんな売りもんやない。この二人、食い逃げして、逃げる途中で、イカの木の芽和えのすり鉢をそのへんの草むらに投げ捨てました。それが、そこにいたキツネの頭に当たりました。このキツネ、七度キツネという、一度アダされると7へん仕返しをするという悪いキツネです
 それから、時代はぐっと下がって、ここはとある病院のデイルームです。
「おい、あの看護師さん、知ってるか」
「石原さとみに似たべっぴんやな」
「うん、べっぴんや。べっぴんやけどワシの担当看護師になってもらいとうないな」
「なんでや」
「あの看護師はな、七度看護師ゆうねん。1度気にくわんことがあると七度意地悪するんや。ほれ、あそこにおる竹内さん。あろうことか七度看護師のお尻をさわりよった」
「で、どうなった」
「採血の注射、なんども失敗された」
「どんなふうに」
「プスと針刺して、痛いか痛いか。痛いぞ痛いぞ。痛いか痛いか。痛いぞ痛いぞ。と何度も何度も。それから竹内さん、懲りて2度と看護師へのセクハラせえへんようになった」
「ふうん」
「あんたと同室の中川さんな。こっそり病室でタバコ吸うとんのを七度看護師に見つかった」
「そら中川さんが悪いな」
「中川さん、頭から水かけられた。あら、スプリンクラーが感知したのだわって」
「907号室の長谷川さんな。時間を守らん人やねん。3時から胃の内視鏡ですからね。というのに病室におらへんことがたびたび」
「ああ、あの人、内視鏡はつらい、ゆうとったわ」
「で、七度看護師がどんな手品使ったんか判らんが、長谷川さんの胃の内視鏡する先生、この病院で一番ヘタな先生になったんや」
「ふうん。長谷川さん苦しんだやろ」
「ゲーゲーゆうてたいへんやったんやて」
「ひじの手術で入院しとる河合さんな。2軍やけどプロ野球のピッチャーやねん。まだひじを動かしたらあかんと主治医がゆうとんのに、こっそり病室を抜け出して投球練習しとる。今年あかんかったらクビやゆうてな。それを七度看護師に見られた」
「で、どうなった」
「血圧測定の時、間違ったふりして手術のあとにコンと血圧の道具のカドを当てよった」
「どうなった」
「痛くなって、しばらくおとなしくしとった。結局それが良かったんやけどな」
「そんな看護師やのになんでクビにならへんねん」
なんでも院長のコレやちゅう噂やで。それに彼女が担当した患者は予想より早く完治して退院しよる。それに七度看護師が担当した患者で死んだ人は一人もおらへん」
「ふうん」
「おい、あれ、あの小さいじいさん。あれをだれか知ってるか」
「しってるで、有名やん。この病院一番のモンスター患者」
「うん。この病院の看護師のケツはみんなわさったった。セクハラし放題。ナースコールせんと、四六時中大声で看護師を呼ぶ。食事がまずいゆうて厨房にどなりこむ。研修医に診察させたら、こんな若僧にワシを見せるんかと院長室にまでおしかける。同室の人とはしょっちゅうケンカ。夜中にイアホンなしでテレビを見る」
「そや、そのモンスター患者がこの階の病棟に移ってきた」
「すると」
「そや。七度看護師VSモンスター患者。どっちが勝つ。あんた、どっちに賭ける」

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とつぜん上方落語 第28回 米あげいかき

 いかき。なんのこちゃわらんでしょうな。笊と漢字で書いてもわかりまへんやろ。いかき、ざるのことです。ざるっちゅうても阪神タイガースの内野守備のこととちゃいます。細い竹や針金で編んだ、水気をきったりするのに使う容器のことでんな。
 昔は、このいかきを「大間目、中間目、小間目に米を上げる米揚げいかき」という売り声でもって行商人が売りに来てたんですな。
 ある日いかきの行商人が、米相場がたつ堂島へんにやってきましたんや。強気の相場師の店の前で「米をあげる米揚げいかき」とゆうたんですな。この相場師、強気も強気。「上げる」「のぼる」という言葉が大好き。いかき屋の売り声を聞いて大喜び。店に入れて歓待するんです。
このいかき屋、こんどは別の大店の前を通りかかりました。「米をあげる米揚げいかき」この大店のだんさんはむちゃくちゃ阪神タイガースファンです。ちょうど前の道が工事中で大きな騒音がしてたんですな。「トラをあげる米揚げいかき」と、この店のだんさんの耳に聞こえました。
「なに、トラを上げる。ええことゆう。呼んでいかきを買うてやれ」
 いかき屋、喜んで勢いよくドアを押して入ってきたからドアが倒れました。
「すんません。ドアを押し倒しまして」
「なに、ドラを押し倒す。いかき、全部買うてやんなさい」
「全部買うていただける。こら数えんでええからじゃまくそうない。助かります」
ジャイない。財布ごとやるぞ」
「うれしいです。これで今晩はコイの洗いで一杯飲めます」
コイの新井を呑む」
「これ、いかき屋さんに甲子園の巨人戦の切符10枚ほど上げなさい」
「うわあ。10枚も。甲子園行く前にウチに集まらなあきませんけど、そんなにようけ来たらウチのふすまがベリべりと破れますな」
ベイを破る。金本監督のサインボールあげます」
「金本さんのサイン。こりゃ家宝にして床の間に飾ります。毎日、前でスワって厄を落します」
スワを落す」
「これ、うちにある阪神電鉄の株券みんなあげなさい」
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とつっぜん上方落語 第27回 動物園

「動物園」という噺がおます。力仕事はしとうない。口べた。朝が弱い、10時ごろから仕事。ぶらぶらしとって昼がきたらええもん食わしてもろて、4時ごろ仕事終わり。それで日当1万円くれる仕事おまへんやろか。
 これがあったんですな。移動動物園の虎になるゆう仕事が。虎の皮かぶって檻の中でうろうろしとるだけで1万円。こりゃええゆうんで虎になってたら、聞いてない猛獣ショー「百獣の王ライオンVS密林の王者虎」ライオンがやって来る。ちゅう噺ですが、異能落語家桂春輔さんは、何を思ったのか、この噺に象を出しはった。この時、春輔さんの後に、桂枝雀さんが出はったやんけど、枝雀さん衝撃を受けて自分の落語ができなかったとか。
 ま、それはそれとして、この噺の主人公、動物になるアルバイトにすっかりはまってしまって虎やら象やら、パンダ、アリクイ、センザンコウにナマケモノ、あちこちの動物園に呼ばれていろんな動物になってました。そして、とうとう海外からお声がかかりました。場所は南米の島です。
「こんちは。ジンベはんの紹介で来ました。園長のクライトンさんは」
「あー、私が園長のユンケル・クライトンですが。ああたが恐龍になってくれるんですか」
「え、なるんは恐龍ですか」
「はい。わがハクアキ・パーク最大のスター、ティラノザウルスが死にましてな困っとたんですわ」
「あれ、クライトンさんアメリカ人やのに関西弁でんな」
「ワシ、若いころ十三で下宿してましたんや」
「そんでティラノザウルスの皮はおまんのか」
「はい。これ」
「うわあ、おおきいなあ。ワシが入って動かせるかな」
「アクチュエーターがついとるから、あんたが中で動いたら、その通り動きま」
「どれどれ」
「歩いてみなはれ。うん、あかんあかん。ゴジラやないねんから、直立してシッポを引きずって歩いたらあかん」
「どないしまんねん」
「ティラノザウルスはな、身体を水平にして首とシッポを前後に伸ばして、後ろ足を支点にやじろべいみたいにするんや」
「うわっ、こりゃしんどいわ。おっとと」
「あかん。またゴジラやがな」
「むつかしいな。ゴジラやったらあきまへんのか」
「そんなにゴジラがやりたいんやったら、ハリウッドに行きなはれ。ゴジラ映画の撮影やっとって、ゴジラの着ぐるみに入るスーツアクター探しとるで」

「はーい。OK。ゴジラの動きなかなかいいよ。あんたの師匠は中島春雄さんかいな。さあ、次、キングコングとのバトルや」
「え、そんなん聞いてへんで。うわっ出てきた。大きな猿やな。でかいゲンコツやな、あんなんでどつかれたら死んでまうで。ゴジラの武器はなんもあらへん。最強の武器は口から吐く放射能やけど、あんなんあとでCGでつけるんや」
「うわっうわっ、よってきよった」
「心配すな。ワシも1000ドルで雇われたんや」
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とつぜん上方落語 第26回 禁酒関所

 酒がもとで家臣同士がケンカ。一方が斬り殺され、もう一方は責任をとって切腹。酒のため大切な家臣を二人も失った。殿様から、これより、わが家中にて飲酒は禁じるとのおふれ。
 かようなお達しではあるが、飲みたい人はがまんできぬ。家中一番の大酒飲みの松本という武士。なじみの酒屋に酒を一升届けてまいれ。酒代のほか1両出す。
 酒屋、松本の役宅に酒を届けようとする。関所を通らなければならない。水かすていら、だとか油だとかいってごまかそうとするが、役目がらあらためるといって関所の役人に酒を飲まれてしまう。頭にきた酒屋、小便といって、酒ではなくほんとうに小便を一升徳利に入れてもっていった。役人は役目がらあらためるといって小便を口に。
 これを国中でやったアホな国がアメリカ。宗教上の理由や酒は身体と精神を蝕むなどといって1920年から1933年禁酒法が施行された。この間、アメリカでは飲酒は違法行為となった。過激な禁酒運動家にキャリー・ネイションというおばさんがいる。片手に聖書片手にマサカリを持って酒場に乱入、そこにある酒瓶を叩き壊すといったパフォーマンスを繰り広げた。
 法律で禁じられても松本の旦那みたいな人はいるもので、いろいろ工夫して酒を飲んでいた。スコッチのラフロイグなどは独特のピート香がするから、これは薬品である。薬だといってアメリカに持ち込まれていたとか。バッファロートレースなどバーボンは薬用といって製造が認められていた。ノブクリークというバーボンは禁酒法時代の瓶のデザインを今も残している。
 この禁酒法でいちばんもうかったのはアル・カポネたちマフィア。密造酒で大もうけ。この法律けっきょくヤクザを太らせただけであった。
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とつぜん上方落語 第25回 つる

 いま、神戸新聞の朝刊に「ひょうごの野鳥」というコラムが連載されています。なかなか面白いコラムで毎日愛読してます。
 さて、野鳥の名前がそのまま落語の演目名なった鳥がいます。鶴です。鶴というと笑福亭一門で使われている漢字です。松鶴、仁鶴、鶴光、鶴瓶など。
 それはさておき、つるという落語ですが、おなじみの男が、横町の甚兵衛さんに「つる」の語源を聞きに行く噺です。で、町内の生き地獄、あ、いや生き辞引の甚兵衛さんの説明。昔はつるをつるとはいわなんだ。首長鳥といっておった。
 昔、ひとりの老人が浜辺に立って、はるかもろこしの方をながめていたら、はるか西方より、オンの首長鳥がツーとやってきて、松の木にポイととまった。そしてメンがルーとやって来て松の木にポイととまった。これを見て、首長鳥はつるというようになった。
 と、あるが、この甚兵衛さんは間違ってます。鶴は木にとまりません。首が長い鳥で木にとまるのはコウノトリかサギです。鶴、コウノトリ、サギ、よく似た鳥ですがサギだけが飛び方が違います。サギは首を曲げて飛ぶ。鶴、コウノトリは首をまっすぐ伸ばして飛びます。だからよく日本画で松の木にとまった鶴の絵がありますが、あれは鶴ではなくコウノトリでしょう。
 コウノトリ、日本では特別天然記念物の絶滅危惧種ですが、昔はたくさんいたのでしょう。鶴とコウノトリ、似てるから間違えて絵に描いたのではないでしょうか。
 ところで西洋のコウノトリは赤ちゃんを運んで来ますが、日本のコウノトリはなにを運んでくるのでしょう。日本のコウノトリは老人を運んでくるのです。なんか知らない間に、日本はやたら老人が増えたと思いませんか。これはコウノトリがせっせと老人を日本に運んでくるからです。若いころなにをしてたのか、親はだれなのか、子供はいるのか、身寄りはあるのか、なんにも判らない老人がよくいるでしょう。あれはみんなコウノトリが運んできた老人です。
 昔、姥捨て山に捨てられた老人をせっせとコウノトリが、時空をこえて、この21世紀の日本に運んできているのです。え、そんなん見たことないって。満月の夜、月をよく見てください。何かが月を横切るのが見えます。それが老人を運んでくるコウノトリです。
 
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とつぜん上方落語 第24回 試し酒

 NHK「日本の話芸」で桂塩鯛さんの「試し酒」を観る。絶品であった。塩鯛さんの「試し酒」はなんども観た。落語会で生で観た事も何度かある。そのうちでも、昨夜観た「試し酒」は特に良かった。
 商家近江屋のだんさんが、別の商家のだんさんを訪問する。用があるという近江屋を当家のだんさんがムリいって酒の相手をしてもらうことに。おもてに供の者がいるというと、お供の人にも入ってもらえとなる。この近江屋のお供久蔵がとんでもない大酒のみだという話。
 なんぼ大酒のみでも5升も飲めんやろ。いや久蔵なら飲める。と、いいあらそいに。で、賭けをすることになった。だんさん、久蔵に聞く。どや5升飲むか。ちょっと外で考えさせてくれと久蔵外にでる。
 帰って来た久蔵。おらやりますだ。5升の酒を飲み始める。1升入りの大杯で5杯久蔵が飲めば近江屋のだんさんの勝ち。
 大酒豪久蔵がひたすら大杯で酒を飲んでいるだけの噺だが、ヘタな落語家がやると退屈な話である。塩鯛さんは、5杯の酒、1杯1杯に違う演出をほどこしてあきさせない。また、久蔵は飲みながら双方のだんさんに話しかけるわけだが、この久蔵、田舎者ではあるが、なかなかの教養人で話題も豊富。塩鯛さん演じる、この久蔵の人物造詣が見事。田舎者で言葉はぞんざいだが、二人のだんさんには、それなりの敬意を払っているようでもある。実に魅力的なキャラである。
 上方落語の噺家さんには極めつけというべき噺がある。例えば四天王なら、桂米朝師匠なら「百年目」笑福亭松鶴師匠なら「らくだ」三代目桂春団治師匠「いかけや」5代目桂文枝師匠「たちきれ線香」また、現役の第一線の噺家なら桂南光「初天神」桂雀々「手水まわし」桂ざこば「子はかすがい」など。これらの中に桂塩鯛「試し酒」はまちがいなく入るだろう。
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とつぜん上方落語 第23回 堪忍袋

 えー、落語に「堪忍袋」ちゅうのんがありますな。しょっちゅう夫婦喧嘩しとる夫婦がおりまして、今日も今日とてはでな夫婦喧嘩。家主の平兵衛さんが仲裁に入りますな。で、平兵衛さん、夫婦にアドバイス。「堪忍袋」ちゅうもんを作りなはれ。そんで、ハラの中にたまってるもんをその堪忍袋の中にいれるのです。
 この夫婦、堪忍袋を作って、なにかあるとその袋めがけて怒鳴るんですな。
「この、ド甲斐性なし」
「この、無神経女あああ」
 すると二人ともすっきりして夫婦喧嘩もおさまりました。これが評判になって近郷近在から堪忍袋を貸してくれ。袋はみんなの悪口つげ口不平不満文句クレーム悪評呪いの言葉なんかを詰め込んでパンパンに膨れ上がってしまいます。
ようできた嫁と評判の若いおとなしげな伊勢屋のお嫁さんが堪忍袋を借りにきます。あんたみたいな、できたお人がなんぞ不満がおまんのか。嫁さんに堪忍袋を貸します。嫁さんは息を吸い思い切り堪忍袋に怒鳴りました。
「死ねえ、クソ婆あ」
 星新一の名作ショートショートに「おーい ででこーい」があります。ある村で不思議な穴が発見されました。とても深い穴です。若者が穴に叫びました。
「おーい、ででこーい」なんの反応もありません。石ころを投げ入れました。やはり反応なしです。
 そして人々はなんでもかんでも穴に放り込みました。使用済核燃料。機密書類、死体から都会のゴミ、古い日記。穴にはいくらでもモノが入ります。

 長屋のご夫婦、堪忍袋のおかげですっかり中の良い夫婦になりました。ある日久しぶりに堪忍袋の口を開けると、中から若い人の声が聞こえてきました。
「おーい、ででこーい」
 穴の村の村長さん。村役場の改築工事のさい、建設会社に便宜をはかって、まいないをもらいました。その証拠書類を穴にほかしに来ました。すると穴から若い女の声が聞こえてきました。
「死ねえ、クソ婆あ」

星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞ、ご覧になってください。

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とつぜん上方落語 第22回 貧乏花見

 まだ3月ですが、桜が満開でんな。いろんな人がお花見にくりだしております。落語でおなじみの裏長屋のみなさんは、お酒ならぬ「お茶け」かまぼこならぬ「カマゾコ」素麺やのうて「はそうめん」卵の巻き焼きの代わりに「こうこ」を持って桜ノ宮へんにやって来ました。「♪花見じゃ花見じゃ、ちょ
いとちょいと、こらこら……」あ、そのにぎやかなこと。
 この裏長屋のみなさんがお花見をしている桜ノ宮から環状線に乗って大阪まで。梅田で阪急電車に乗り換えて芦屋川。そこで降りてずずと山の方に向かうと、芦屋の六麓荘という街に着きます。大きなお屋敷が立ち並ぶお屋敷街です。
 その六麓荘の住人たちが話し合っております。
「良いお天気ざますね」
「そ、ざます」
「下々の者が行うお花見をわたくしたちもしませんこと」
「賛成ざます」
「では、今度の日曜ということで」
「どこでやるざます」
「手近なとこで芦屋川は」
「いっぱいじゃないですか庶民たちの花見で」
「あ、大臣につないでちょうだい」
「どこに電話してるんですか」
「国交省」
「あ、こんどの日曜、わたくしたち芦屋川でお花見ですのでよろしく」
「河川敷は国交省の管轄だから、大臣が忖度してくれますわ。これで場所取りはOKざます」
「芦屋川まで車で移動するのでしょう。道が混むんじゃないですか」
「あ、長官をお願い」
「警察庁に電話ね」
「あ、芦屋の六麓荘から芦屋川まで交通規制お願いね」
「これで道路は警察庁長官が忖度してくれますわ」
「イシグロ、イシグロ」
「はい奥様」
「こんどの日曜外出しますからロールスを用意しておいてね」
「わたくしは執事のイシグロにロールスを運転してもらいますが、あなたはどうされます」
「わたくしは運転が好きだからランボルギーニを運転していきますわ」
「おくさまは?」
「わたくしは久しぶりにデューセンバーグに乗ってみようかしら」
「こちらは」
「わたくし、ここは、ひとつ優雅に牛車で行くざますわ」

 さて、当日になりました。六麓荘の広場には、ロールスロイス、ランボルギーニ、デューセンバーグ、牛車といった車が並んでおります。ベンツ、BMWといった大衆車はみかけません。ここから芦屋川まで警察庁長官の忖度で交通規制がしかれております。これらの車しか通りません。
「さ、行くざます。ちょっと岩園町のひかりスーパーに寄ってちょっとお買物をしますざます」
「わたくし、スーパーなんかで買物したことないですわ」
「買物は執事のイシグロにやってもらいますわ」
 芦屋川に着きました。花見客でいっぱいですが、芦屋川の月若橋から大正橋の区画に赤い毛氈がひかれております。
「さ、座りましょ」
「まずはビールで乾杯」
「ん。このビールは?」
「ネイル・ブリューイングの『アンタークティック・ネイル・エール』」
「ふうん。ちょっとしたビールね」
「これ、イシグロ、どんなお酒を持ってきたの」
「はい。奥様、ウィスキーはダルモア・シリウスの58年もの。ワインはロマネコンティ1945。日本酒は十四代本丸秘伝玉返しなどを持ってきました」
「さ、乾杯もすんだし何か食べましょう」
「パンパン」
 イシグロが手をたたくと光頭の老人が来た。鮨職人のようだ。
「東京は数寄屋橋の『三郎」から小野三郎さんに来ていただきました。ネタは朝早く明石の漁師に漁に出てもらってとって来た魚です』
「ふうんお料理はお鮨だけ」
「いえ。日本料理の『はだ万』の花板さんを呼んでおります。ステーキは「はら皮のシェフに神戸牛を焼いてもらいます」
「ああ、もうお腹一杯。なにか余興が欲しいね」
「あ、あそこのルナホールで欅麦団治が独演会をやってますが」
「ふうん。たまには落語もいいわね」
「あ、欅麦朝事務所ですか。ちょっとお願いが」
「すぐ来るそうです」
 六甲山が夕陽に染まるころ、六麓荘の住人たちのお花見もめでたくおひらきになりました。みなさん、満足して帰っていったようです。


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とつぜん上方落語 第21回 はてなの茶碗

 京都は衣棚にお住いの金兵衛さん。10年前までは茶道具屋さんを営んでおられました。金兵衛さんは京都一の茶道具屋といわれておりました。京都一ということは日本一の茶道具屋ということです。茶道具屋の金兵衛さん、人呼んで茶金さん。茶金さんが「これは!」と指を差しただけで、なんでもない茶碗が10両にも20両にもなります。
 10年前、水のもれる茶碗を油屋さんが茶金さんの店に持ち込みました。いろいろあって、その水のもれる安物の茶碗が1000両になりました。次に油屋が水のもれる水壷を持ってきました。これは10万8000両になりました。
 それから、いろんな人が水のもれるいろんなモノを茶金さんのところに持ってくるようになったのです。
 電力会社が水のもれる原子炉を運び込んだ時はたいへんでした。烏丸通りを大型トレーラーでしずしずと運びましたが、衣棚通りには入れません。烏丸通りを交通規制して、そこにトレーラーを駐車して、茶金さんに烏丸通りにまで出てきてもらいました。加圧水型原子炉です。放射能もれを測定しましたが放射能はもれてません。原子炉の前に立った茶金さん。「これは?」と指をさしました。それを見ていたインドの電力会社のえらいさんが、2億7千万で買うといいました。売買契約がすんで、トレーラーが移動したあとを見ると、雨が降ったわけでもないのに水のもれたあとが道路に2ヶ所ありました。1ヵ所にはごく微量放射能の反応がありました。原子炉からの水もれのようです。もう1ヵ所はどうも、トレーラーのラジュエーターからの水もれだったのです。9年モノの中古の大型トレーラーが3600万で売れました。
 それから、茶金さんはたいへんに忙しくなりました。世界中から指さし依頼がやってきます。京都の茶金さんから世界の茶金さんになりました。
 先月はオランダに行ってました。オランダは国土の25パーセントが海面下の国です。水もれは国の重大な危機につながります。茶金さんは2年間オランダに滞在してオランダ全土の堤防防波堤を見て回りました。何ヶ所かで「これは?」と指をさしました。見たところ異変はないのですが、くわしく調べるとごくわずかに水もれが。放置しておくとたいへんなことになったところです。茶金さんがオランダを離れたあと、国際的な通貨市場でオランダの資産が4倍になっていました。それが茶金さんのおかげだと知られるのに時間はかかりませんでした。
 オランダから帰国すると、休む間もなく中国に出張です。中国政府の招きで、世界最大のダム三峡ダムの調査です。このダムはなにかと問題の多いダムで水質汚染もありますし、なにせ膨大な水量です。山崩れ、地すべりの原因ともなっています。万が一三峡ダムが決壊すれば下流の上海は壊滅。大きな津波が発生して日本も少なからぬ被害がでます。
 茶金さんが三峡ダムにやってきました。ダムの数ヶ所で「これは?」あぶないところでした。このままでは早ければ1年遅くとも3年以内にダムは決壊するところだったのです。茶金さんが中国を離れたあと人民元の値打ちが大幅に上がったのはいうまでもありません。
 こうなると茶金さん茶道具なんかやってられません。世界水もれ防止財団を設立して理事長になりました。副理事長はあの油屋さんです。世界中の水もれを防ぎ、なおかつ世界の景気を大きく引き上げました。これだけ世界平和に貢献しましたから、茶金さんがノーベル平和賞を受賞したのは当然のことです。
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とつぜん上方落語 第20回 三十石

 カミガタ星雲第3肢の恒星ミヤコは七つの惑星を持っている。そのうち生命が存在する星は、第4惑星フシミである。
 惑星フシミは水もあり、大気、重力は地球型だ。太陽であるミヤコからの日射量も適当な量で、フシミはこの星域のハブ惑星となっている。ここから25光年離れた惑星イセ。そのイセにはカミガタ星雲のみならず、アンドロメダ星雲、銀河系など広く宇宙全域で信仰されているオイセサン信仰の中心地ナイグウがある。そのナイグウを参拝した人々は、フシミで旅の疲れをいやし、それぞれの故郷に帰っていくのだ。
 フシミ最大の空港チュウショジマ。その空港のホテルにはたくさんの人たちが集まっている。
「では宿帳に記載しますので、お名前をいってください。では、そちらのお方から」
「リック・デッカート」「キムボール・キニスン」「アナキン・スカイウォーカー」「ノースウェスト・スミス」「田所優作」「犬神明」「ジョン・カーター」
「そちらのお女中は」
「デジャー・ソリス」「クラリッサ・マクドゥガル」「青鹿晶子」
「そちらのロボットは」
「C3PO」「アトム」「ウラン」「R2D2」「T-2000」
 みんなはこのホテルで一泊。翌日、チュウショジマ宇宙空港には最新の恒星間旅客船「サンジュッコク」が係留されている。1000人の乗客を収容する、その白銀の「サンジュッコク」は太陽ミヤコの陽光を受けてメタリックに輝いている。
 乗客全員が乗りこんだ。船はこれより、航路ヨドを通り3度のワープを経て、カミガタ星雲第7肢の恒星オオザカの第3惑星ハッケンヤへと向かう。
「反重力ジェネレータースイッチオン」
「スイッチオン」
「浮上用意」
「ちょっと待って」
「スイッチオフ。浮上中止」
「どうした」
「女性が1人乗り遅れた。乗船は可能か」
「可能だ。出発を20分遅らせる」
「乗客の皆さんにお知らせします。出発が20分遅れます」
「どうしたんだ」
「なんでも女が1人乗り遅れたらしいぞ」
「あ、CAさん。ここ空いてますよ。その女性、この席にどうですか」
「おまえ、その女知ってるのか」
「ああ、さっきちらと見た。えらいべっぴんやで」
「さあ、この席にどうぞ」
「はいはい。親切なお方」
「うわあ。えらいおばあさんや」
 こうして乗客全員が乗り込んだサンジュッコクはふわりとその巨体を宙に浮かせた。フシミの衛星軌道まで来たサンジュッコクは、核融合エンジンに点火。2光年先のワープポイントまで一気に飛んだ。最初のワープ。実体化したのはヒラカタ星系である。実体化したサンジュッコクはこのヒラカタ星系でしばし停まる。船体のメンテナンスと乗員の休憩のためである。この時、もの売りの小型宇宙船がサンジュッコクに接舷。「くらわんか。くらわんか」とヒラカタの名物を売り歩くのである。
このあとサンジュッコクは2度のワープを経て、カミガタ皇帝タイコー陛下の治めるオオザカはハッケンヤまでの旅となる。 
サンジュッコク夢の通い路なかばでございます。 
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とつぜん上方落語 第19回 七段目

 上方落語には芝居噺というジャンルがおます。だいたいが登場人物が芝居、今でいう歌舞伎が大好きで、「七段目」などは日常生活すべてが芝居になってしまうわけですな。
 上方落語は歌舞伎、浄瑠璃、講談など、他のジャンルの古典芸能をネタにした噺がおおおますが、歌舞伎、芝居だけはちょっと敬意を持っているようですな。講談や浄瑠璃などは、少しからかってバカにしてるのかなと思えたりするのですわ。
 それはそれとして、ここに登場するのは芝居やのうて昔の東映映画が大好きなサラリーマン。これが健さんや鶴田のオジキならば、先代桂春蝶師匠の「昭和残侠伝」ですが、この人はもう少し新しい。文太アニイや、山守のおやっさん、「仁義なき戦い」が大好きというご仁。きょうもきょうとて、おかしげな広島弁をしゃべって「仁義なき戦い」ごっこにひたっておます。
「広田くん。ひさこめ電機の見積もりでけたんか」
「まだですけん。もうちいと待ってつかあさい。それにわしゃ広田やのうて広能ですけん」
「バカいっとらんと広田くん。そんなこっちゃ土井商事に負けるぞ」
「あん外道に好きにさせんぞ。ワシがとっちゃりますけん」
「もう、ええかげんにして仕事せえ仕事」
「山守のおやっさん。いっとくがのう。あんた、ワシらがかついどる神輿やないの。組がここまで大きゅうなるまで誰が血をながしとるんぞ。神輿が勝手に歩く、ゆうんなら歩いてみいや」
「私は山守ではない。田中や。組と違うて会社や」
「ゆうとくがの。狙われるもんより、狙うもんの方が強いんじゃ。そがな考えしとるとスキできるど」
「はいはい。ひさこめ電機の件はもういい。サカイにやらす」
「サカイのてっちゃんは土井の外道にとられたんぞ」
「わかった。わかったから営業にでえ。君たち営業マンは注文とってなんぼや」
「ワシらうまいメシ食って、マブいスケ抱くために生まれてきとるんじゃないの。そがいなこと営業でできますかいのう」
「うんと注文とってきたら給料も上がるぞ。ごじゃごじゃゆうとるとクビだぞ」
「おやっさん。ゆうときますがのう。弾はまだ残っとりますけん」
「ええから、はよ外回りに行け」
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とつぜん上方落語 第18回 胴乱の幸助

「おお、割り木屋のおやっさんが帰ってきたで」
「おやっさん、どやった。首尾は。手打ちでけたんか」
「あたりまえや。ワシをだれやと思うとるねん。胴乱の幸助やで」
「で、北の三代目はどうした」
「おういこっちや」
「うわ。大きなトレーラーがなん台も。なんやこれ、おやっさん」
「最初のトレーラーのは火星14や」
「火星14つうと北のミサイル」
「これ、どないしたんや」
「金さんがワシにくれたんや」

 胴乱の幸助。割り木屋のおやっさんのゆいいつの趣味はケンカの仲裁。丹波の山奥から天秤棒に天保銭2枚くくりつけて大阪へでてきた。それから、働いて働いて、いまの身代を築いた。働くことしか能のない、おやっさんの道楽がケンカの仲裁。
 ワーとケンカしてる間に割って入り、「待て待て。お前らオレをだれか知ってるか」「あ、割り木屋のおやっさんでんな」「胴乱の幸助はんでんな」
 で、近くの小料理屋に連れて行って、胴乱から金だして(胴乱、財布というか小さなバック、昔バスの車掌さんが前にぶら下げてたアレ)、酒飲ませて料理食べさせて「このケンカオレに預けるな」「もうケンカするなよ」
 で、このおやっさん、人呼んで胴乱の幸助。
 大阪じゅうケンカを探して歩いてます。人のケンカがないと犬のケンカの仲裁から、浄瑠璃の架空のケンカの仲裁に京都にまで出張します。
 で、近畿関西いちえんのケンカはひととり納めた。相撲協会と貴乃花のケンカも納めて、日馬富士と貴ノ岩のふたりを改めて呼び出して、改めて仲直りさせた。こうして、割り木屋のおやっさん、日本中のケンカを仲裁してしもて、日本にケンカは無くなった。
 そんな胴乱の幸助はん、あの二人をほっとくわけがありません。北の金さんとメリケンのトラちゃんです。
 おやっさん、もろこしの習さんに話をつけて、もろこしに金さん、トラちゃんを呼びつけます。
「お前ら、オレをだれか知ってるな」「割り木屋のおやっさんでんな」「ミスター・コースケか」
 金さんは苦労知らずの三代目ボン。トラちゃんはしょせんは不動産屋のオヤジ。胴乱の幸助とは人間の出来が違います。胴乱から50兆ドルほど金を出して「これで、このケンカ、オレに任せるか」
「はい」「YES」
「金、ミサイルと核をオレにわたせ」「トラ、空母をオレに預けろ」
 割り木屋のおやっさん。胴乱の幸助が本年度のノーベル平和賞に決まったけれど、おやっさん、辞退しよった。
「ワシはそないなもん欲しくてケンカの仲裁してんのんと違う」
 
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とつぜん上方落語 第17回 猿後家


 べんちゃら。関西弁でんな。おべっか、ゴマすりのことでおます。そういや、植木等の歌でゴマスリ行進曲ちゅうのんがおましたな。
 この、「猿後家」という噺には、べんちゃらで食ってる男が出てきます。さる大店の後家はん(あ、しもた。ゆうてもたワシあかんわ)、ダンナを亡くしたあと、お家はんとしてお店を切り盛りしてます。これがごっつい有能なお家はんで、お店は繁盛してます。
 この、お家はん。ごっついべっぴんです。うしろから見たら。で、前に回ったら、このお家はん、猿みたいな顔してるんですな。本人もそれをえらく気にしてます。
 このお家はんのお店へ出入りしとる男がおるんですな。こいつがお家はんにべんちゃらいうんです。小野小町かてるての姫か、はたまたクレオパトラか楊貴妃か。うんとこさべんちゃらゆうて、お家はんのご機嫌を取る。そうなるとお家はんも気分ええさかい、なんぼか包んで渡す。このおっさん、それで生活しとるわけでんな。で、あるとき、ついうっかり「サル」とゆうてもた。お家はん怒らしてしもて出入り禁止。なんせ、お家はん、「サル」といわれるのんをごっつい気にしてる。「サル」とつく言葉は禁句なんです。そやからワシは冒頭で「さる大店の」ゆうたんはあかんのや。ワシも出入り禁止や。「さるすべり」とか「村田巨人をさる」もあかん。「このぐんにゃりした時計だれの絵や」「ダリや」「え、だりや」「だれや、やろ下手なしゃれゆうな。さるバドール・ダリや」こえもアウト。
 で、この男反省して、こんどは充分気をつけて、伊勢参りした時の話しをお家はんにした。お伊勢さんだけの話をすりゃええもんを、奈良に立ち寄った話しをしおった。これがあかん。この写真の池のことをいいおった。猿沢の池。
 しかし、まあ、なんですな。やっかいなお家はんですな。この家はんにべんちゃらゆうときの、ええ参考書がおます。筒井康隆はんの「残像に口紅を」や。あれは一つづつ文字が消えていき、その文字を含む存在そのものが世界から消えていくという話やった。
 このお家はんにべんちゃらゆうとき「さ」「る」を消してゆうたらええねん。すると「猿」はこの世に存在しないわけ。で、「猿」から進化した人類も消えるわけで、みいいんないのなったとさ。めでたしめでたし。




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