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ダック・コール


 稲見一良     早川書房

先代笑福亭松喬享年62歳。稲見一良享年63歳。くしくもこの二人肝臓がんで早世している。60代前半で逝ったこの二人、これから、今から楽しみというときに亡くなった。先代松喬さんはいわば軽笑福亭ともいう軽妙洒脱な芸風。60代から70代にかけての先代松喬さんを見たかった。
 稲見一良はがんを発症して作家活動を始めた。少年の心を持った大人の作家であった。稲見一良の本格的なジュビナイルを読みたかった。
 年齢。女は通り過ぎる、男は積み重ねる。と、思う、小生は。女は年齢を通り過ぎる。40歳の女の中には10代や20代の女はない。男は年齢を積み重ねる。40歳の男は、10代20代30代の男の上に積み重なってできている。だから40代や50代の男の中には10代の男が残っているのだ。稲見一良は、その大人の男の中の少年を呼び起こしてくれるのだ。
 プロローグ、モノローグ、エピローグをはさんで六つの短篇が収録されている。
「望遠」社運をかけたCM撮影。日の出の決定的瞬間を撮影しなくてはならない。その時、貴重な鳥が飛んだ。千載一遇のチャンス。
「パッセンジャー」サム、鳥の群れとあう。ものすごい数の鳥の大群だ。きれいでおいしいハト。リョコウバトだ。
「密漁志願」癌を患い退職した初老の男。稼ぎの良い女房。豪華なキャンピングカーで毎日狩猟。素人狩猟で銃は使わない。おかっぱ頭の少年ヒロと友だちに。ヒロ、パチンコの名人。男、ヒロに弟子入り。「男爵の森」に侵入、そこの鴨をみんな密猟しようと計画する。ラストはうるっときた。
「ホイッパーウィル」マンハントもの。この作品集でいちばんハードボイルド。主人公は元442連隊の日系人。脱獄犯4人を追う。いずれも凶悪犯。3人は捕まえた。あと1人。この最後に残った脱獄犯。ナバホ族の酋長の流れをくむ勇者。大人しくもの静かな彼はなぜ脱獄したのか。人種差別するヤツ。しないヤツ。なんでもいいから動くものを撃ちたいヤツ。
「波の枕」漁師源三、船が火事で漂流。一枚の板にたどり着く。その板にはグンカンドリとオサガメが。人間と鳥と亀が大海原を行く。
「デコイとブンタ」俺は鴨のデコイ。いじめられっこ少年ブンタと会う。友だちになる。俺とブンタは遊園地の観覧車に乗る。
 いずれの作品も鳥が重要なモチーフになっている。たいへんに静謐にして叙情性の富んだ作品。男の子の宝箱のような作品集である。
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ガラケーを造ってくれ

 今は車を手放しているが、また車を持つとすれば、絶対にマニュアル車でないといや。ところが最近はほとんどオートマチックばかり。選択肢がたいへんに少ない。実に困ったことだ。
 車はまだいい。少ないとはいえマニュアル車があるから。もっと困るのは携帯電話だ。小生の電話はガラケーである。メールと通話しかしなのだからガラケーで充分である。ほんとは糸電話でもいいが、あれは糸がつながった所としか電話ができないから、しかたなく電話を持っている。
 今の携帯電話がダメになったら新しい携帯電話を買わなければいけない。ところが今はスマホしか選択肢がない。小生は携帯電話を持ちたいのであって、モバイル端末を持ちたいわけではない。現状は、そんな小生にもむりやりスマホを持たせようという。小生と同じように、スマホは不要、ガラケーが必要という諸賢もおられるだろう。ガラケー携帯電話の生産を望む。
 そういえば、小生、ずいぶん前にも同じようなことをいっていた。小生が初めて買ったパソコンはNECのPC-8801MR2-SRだった。これにユーカラだとかJAT-8801だとかを入れて文章を書いていた。しばらくしてワープロ専用機「文豪」が発売されてそれを買った。ユーカラより文豪の方が使いやすい。で、もっぱら文書作成は文豪でやっていた。
 そのうちワープロ専用機は絶滅。その時もワープロ専用機の生産継続を希望してた。とはいいつつも、今はこうしてパソコンで文章を書いている。なんだかんだいっててもオートマチックやスマホになれるかな?
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岸辺の旅


監督 黒沢清
出演 深津絵里、浅野忠信、蒼井優、小松政夫、柄本明

 ピアノ教師をしている瑞希のもとに、3年前に死んだ夫優介が戻ってきた。ずいぶん久しぶりね。この3年間、いろんなところに行ったよ。どんなとこ。きれいなところも行ったよ。これから二人で行こうか。
 こうして、瑞希は亡き夫優介と二人で旅に出ます。優介は死人なので運転免許がありません。二人で鉄道の旅に出ます。
 と、夫婦で優介の3年間の足跡をたどる旅にでるわけですから、ロードムービーといえるかもしれません。ロードムービーといってもこの此岸だけを旅しているわけではありません。優介は彼岸の人なので、此岸と彼岸を結ぶロードムービーなのです。
 瑞希は此岸の人です。優介は彼岸の人です。この二人が肩を並べて旅を続けます。道中、優介が接した人たちが順にでてきて、この夫婦はしばらくその人たちのところに滞在します。その人たちのところも、此岸と彼岸が入り混じっています。例えば、最初に行った新聞配達店の主人は本人が死んでます。でも本人は自分が死んでいることを知りません。次の中華料理屋では奥さんの妹が死んでます。
 この映画では死んでいる。生きている。此岸と彼岸はたいした意味はないのです。生きてる人は死んでる人に、死んでる人は生きている人に、心残りがあるわけです。その心残りがこの映画の駆動力といえましょう。
 此岸と彼岸。これらをぜええんぶ合せたモノを宇宙とするのなら、宇宙にも始まりがあり終わりがある。宇宙は有限なんですね。そのへんのことは、優介が、とある農村で村人を集めて理論物理の勉強会をやって教えているんですね。アインシュタインの相対性理論から定常宇宙説の解説をやっています。
 深津、浅野の主演二人がうまい。それに優介の愛人をやった蒼井優が怖い。妻瑞希との女同士の静かな対決。ニコーと笑った蒼井の笑顔が実に恐ろしい。
 タイトルの岸辺とは、此岸と彼岸の波打ち際の岸辺ということではないでしょうか。瑞希と優介の夫婦はその岸辺を旅するわけですね。
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きのこと木の実のスパゲッティ


 きのこやナッツ類は年じゅう売っております。いつでも食べられますが、やっぱり秋に食べるのがふさわしい感じですね。今朝は、そのきのこと木の実でスパゲッティを作りました。
 きのこはマッシュルームとしめじ、木の実はカシューナッツとくるみを使いました。
 まず、木の実は砕いておきます。フライパンにオリーブオイルを取って、にんにく、赤とうがらしを入れて点火します。ゆっくり加熱します。あわてるとにんにくが黒焦げになりますよ。オリーブオイルににんにくと赤とうがらしの香りと風味が移ったら取り除きます。さて、きのこを炒めていきましょう。きのこは量が多いように見えても加熱すればカサがだいぶん減ります。
 きのこに火が通ったら、ゆでたスパゲッティを投入しましょう。きのこの炒め時間とスパゲッティのゆで時間を調整してタイミング良くスパゲッティを投入しましょう。塩、こしょうし、少し醤油をたらします。砕いた木の実を混ぜ込んでお皿に盛ります。青ネギを散らしましょう。おいしい和風スパゲッティができあがりました。
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リヨン


 これはフランス料理である。フランスはロワール地方の郷土料理で、いわばフランスの豚の角煮だ。角煮というより角焼きだな。
 極めて、シンプルな調理で実に簡単。小生みたいなぶきっちょなおっさんができたのだから、あんたもできる。
  調理は簡単だけど、時間は必要だ。豚肉のかたまりを、食べやすい大きさに切る。肉はバラ肉を使った。塩、こしょうし、白ワイン、ハーブと一緒に保存袋に入れて一晩冷蔵庫で寝かせる。ハーブはタイムとローリエを使った。
 さて、一晩たった。調理にかかろうか。フライパンを熱し、肉の脂身を鍋肌に接触させる。フライパンに油はひかない。豚肉自身の脂で肉を焼くのだ。ゆっくり加熱していこう。おいしそうな焼き色がついてきただろ。このへんで白ワインを入れる。ワインを肉にからめつつ焼いていき、水分がなくなれば出来上がりだ。
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とつぜんSFノート 第106回

 小生はSFファンだ。もうずいぶん長いことSFファンをやっている。そうだな、50年は超えているだろう。昨日今日のSFファンではない。小生はただのSFファンではあるが、今も新作を発表している現役のSF作家でも、小生より年長のSF作家は、眉村卓さんと筒井康隆さんのお二方ぐらいではないだろうか。
 小生がSFを読み始めたころはSFの地位はまだまだ確立されていなかった。SFマガジン創刊から、まだ10年経っていなかった。柴野拓美氏、矢野徹氏、福島正実氏たちの尽力によって、日本のSFはやっと巣から飛び立とうとする雛鳥であった。SFに対する世の偏見はまだ根強く残っていて、初代SFマガジン編集長で「SFの鬼」福島正実氏は、SFに対する偏見は絶対に見逃さなかった。そして、かような偏見を見つけると、こまめに的確に反論していた。その後、福島氏はあまりに妥協のない言動ゆえかSFマガジン編集長の職を辞し早川書房を去った。その後ほどなく福島氏は早世する。
 小生がSFファンになったころの日本のSFはかような状況であった。だによって、小生はSFファンとしての幼少期、SFは渡世の裏街道を行く日陰者であったのだ。
 それから幾星霜、日本のSFは諸先輩方の努力で、日本の文化文芸において確固たる地位を築いた。
 と、ここまで書いて、われながらオジンだなあと思う。いつまで、SFは日陰者との認識をもっているのか。リストラされいくつもの会社を渡り歩いた、お前が自分のことを日陰者と思ってイジケテいるのではないか。と、問われれば、少々、否定はしにくいかも知れない。
 ところが現実の日本のSFは、70年代に筒井さんがいった「SFの浸透と拡散」が充分に行き渡り、SFはことさらSFSFといわなくても、小説や漫画といった印刷媒体、映画、アニメといった映像媒体に、ごく自然に遍在している。今の若いもん(こんなことをいうのはオジンの証拠だ)はSFなんて意識していないのだ。ことさらSFを意識しなくても、ごく自然にSFが身の回りにあるわけ。
 こういう現代において、いつまでも大昔の認識を引きずって、「あ、これはSFだ」「これはSFでない」なんていってるワシら年寄りは老害といってもいいかも知れない。とはいいつつも、いまさら治せん。古狸は古狸のままSFファンをやっていこう。
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2018年の阪神タイガースをふりかえる

 今年の阪神タイガースのファンはまことに残念、かつくやしい想いをしていることだと推察する。ほんとにご愁傷様でございました。今シーズンの結果は、ご存知のごとくセリーグ最下位とあいなった。しかし、ま、セリーグは6球団しかないわけで、どこかが6位になるわけ。今年はたまたま阪神タイガースがなった。これがたまたまか、なるべくしてなった最下位なのかは、ファン諸賢の見解はそれぞれだろう。小生は、たまたまだと思う。今年は歯車の噛みあわせが悪かった。
 投打の噛みあわせ。ピッチャーが好投すれど打線が不発。打線が点を取ってもピッチャーがそれ以上に点を取られる。ピッチャー好投打線も機能、でもちょっとした守備の乱れでガタガタ。そういう敗戦が多かった。
 今シーズンの前半は、ピッチャー陣ががんばった。特にリリーフは特筆に価する活躍であった。6回までリードしていれば負けないという鉄壁のリリーフ陣であった。往年の輝きをとりもどした藤川、中継ぎに転向した能見、それに昨年ほどの神通力は薄れたが、やっぱり頼りになる桑原、そしてストッパーはドリス。こうしたピッチャーたちが敵の反撃を防いだ。
 先発は後半、少しバテたがそれでも阪神ピッチャー陣の柱メッセンジャー、岩貞、小野、才木たちが曲がりなりにもローテーションを回して、なんとかかたちを作った。シーズン後半、そのピッチャーたちに疲れが出てきたことが、今年の阪神タイガースの成績の大きな要因であることは間違いない。
 ピッチャーがいくらがんばっても点を取らなければ野球は勝てない。点を取るのが野手の使命である。野手たちはその使命を果たしかと問えば、果たせなかった。得点能力はリーグ最低、これでは最下位になって当然である。
 点が取れない。その最大の戦犯はおおかたの見方どおり、開幕四番を任されたロサリオであろう。日本のピッチャーの変化球にまったく対応できず、空振りをくりかえす。結局、ロサリオは2軍落ちとなり糸井が主に四番を務めた。
 得点不足はロサリオ一人の責任ではない。出塁はするが点にはならず、残塁を繰り返すばかり。あそこで、あと1本が出ていればなあ、と切歯扼腕した阪神ファン諸賢は多いだろう。
 金本監督3年目。金本監督はなによりも若手登用を心がけた監督であった。野手では、大山、中谷、原口、陽川、高山、江越、糸原たちが金本監督の薫陶を受けて試合に出たが、合格は糸原ぐらいだろうか。原口は代打で特段の存在感を見せ付けたが、キャッチャーとしては梅野に比べると心もとない。大山は、シーズン終盤になって打撃開眼かとおもわせる活躍をみせて、ケガした糸井に替わって四番に抜擢されたが、一時だけの輝きであった。
 ご承知のごとく最下位という結果をうけて金本監督は辞任した。結果としては失敗であったが、金本前監督の、若手の抜擢登用という方向は正しい。ただ、金本前監督の若いころと、今の若い選手とは少々違う。そこのところの齟齬があったのだろう。
 さて、金本知憲氏に代わって矢野燿大氏が阪神タイガースの新監督に就任した。キャッチャー出身監督は成功するという。矢野監督の手腕に期待しよう。さいわい、野手では糸原、大山、中谷、陽川といった未来のタイガースをになう若手も育ちつつある。特に大山には待望久しい生え抜きの四番打者としてぜひ定着して欲しい。巨人は岡本が四番打者として根付いた。大山も負けてはならず。外国人野手だがロサリオ残留もありえるとか。いいかも知れない。さすがに日本のピッチャーに慣れただろう。それにナバーロはぜひ残してもらいたい。確かに長打力は乏しいが3割バッターを手放すことはないだろう。
 投手も、小野、才木、高橋遥人、望月と若いピッチャーが台頭してきた、それに藤浪も復活しつつある。
 ところで、このブログの来年の「とつぜんタイガース」は今年の企画「トラキチ酒場せんべろ屋」と「西宮八園虎日記」を継続しようと思う。どうぞご愛読ください。

2018年阪神タイガースMVP

投手 岩田稔
 該当者なしといきたいが、あえて岩田を推す。岩田の活躍は1型糖尿病患者の大きな励みになる。ぜひ、がんばってほしい。 

野手
 糸井嘉男
 結局ベテランに頼らざるをえない。大山が成長して糸井の座を奪い取って欲しい。
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今宵もウィスキー


 太田和彦編        新潮社

 田村隆一、景山民夫、山田風太郎、山本周五郎、開高健、山口瞳といった昭和な人たちの酒にまつわるエッセイが17編。
 小生は酒は日本酒、ビール、ウィスキーしか飲まない。このうちウィスキーが一番好きかな。バーの小説を書いてるくせに、バーではあまり飲まない。家飲みがほとんど。ウィスキーグラス片手に上方落語or阪神タイガースを観ている時が至福の時間である。
 そんな小生が本書を読んだ。正直、期待はずれであった。ウィスキーそのものがテーマの中心にあり、ウィスキーが前面/全面にでたエッセイはなかった。これらの人たちの生活、活動、想い出の中に、小道具の1つとしてウィスキーが出てくるわけ。小生はウィスキーそのものにまつわるアレコレを期待して本書を読んだのであるが、期待はずれであった。
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日本のプロ野球よ気概を持とう

 アメリカのプロ野球ロスアンゼルス・エンゼルスの大谷翔平が、新人賞の候補になっているとか。このことに関して日本のプロ野球関係者は憤慨しなくてはいけない。新人賞というのだから、なんの実績もない選手が対象なんだろう。だったら大谷の日本での実績は無視するのか。たしかにアメリカのプロ野球界では実績はない。だから新人賞の対象になるというリクツなのだろう。
 逆を考えたらどうだろう。日本のプロ野球に来た外国人選手も、当初は日本ではなんの実績もないんだから、日本の新人賞の対象にするべきではないのか。マット・マートンやジェフ・ウィリアムスは阪神に入団した当初から新人王にあたいする活躍をした。でも、新人王には候補にもならなかった。大谷はなぜ新人王候補で、マートンやジェフはなぜダメなのか。
 だいたい、なぜアメリカで1番を決めるのはワールドシリーズで、日本一は日本シリーズなのか。日本で活躍した選手をなぜ唯々諾々とアメリカに行かせるのか。なぜアメリカで戦力外の選手を「助っ人」などといって喜んで迎え入れるのか。
 日本のプロ野球関係者はもっと気概を持って欲しい。アメリカで活躍した選手が、日本のプロ野球にあこがれてやってくる。そういうプロ野球に育ててやろうという気概をなぜ持てない。だいたいが大リーグとかメジャーとかいうのも気にくわない。だったら日本のプロ野球は小リーグか、マイナーか。
 それでなくても日本はアメリカの属国のような立場に甘んじているのだ。せめてプロ野球だけでもアメリカなにするものぞという気概を持とうではないか。
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トラック野郎 故郷特急便



監督 鈴木則文
出演 菅原文太、愛川欣也、原田大二郎、石川さゆり、森下愛子

 なんか気分が落ち込んでいる、深刻な映画や重い映画を観る気にならず。気軽に観れてアハハと笑ってすごせる映画が観たい。そんな時は寅さんトラだ。今回はトラさんにしよう。トラック野郎故郷特急便。シリーズ10作目。最終作である。
 今回、桃次郎が惚れるマドンナは二人。ダブルマドンナである。お話のパターンはいつものとおり。桃次郎がマドンナにひと目ぼれ。だから女の頭上でお星さまキラキラは2回ある。もちろん、桃次郎とどつきあうライバルも出てくる。そして最後は、定まられた時間に目的地に到着しないといけない。一番星号、ボロボロになりながら爆走。
 マドンナの一人は売れないドサまわりの歌手。いつか華やかなステージに立つのが夢。もう一人は食堂で働いている女性。病気の母親を介護している。
 ライバルはトラック運転手だが土佐闘犬のブリーダー。トラックの助手席には犬を座らせている。このライバルの親父が二人目のマドンナの隣人で、息子の嫁は彼女しかないと思っている。
 ジョン・フォード西部劇の伝統を汲む、酒場の殴りあいもちゃんとある。さらにはハリウッドコメディーの必殺技パイ投げもある大サービス。
 相棒ジョナサンの病気自殺騒ぎ、二人のマドンナの周辺のドラマ。これだけ多く要素を詰め込みながら、この時間に納めて散漫は印象を受けなかった。見事な脚本である。
 
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サンマのフライ


 サンマです。いまが旬でございます。週に一度はご飯のおかずにサンマをたべています。塩焼きにすることが多いですね。香ばしく焼けたサンマに大根おろしを添えて、すだちを絞って、おしょうゆをちょっとたらして、サンマの身を箸でとって、ほかほかの白いご飯とともにいただく。たまりませんわ。
 サンマは塩焼きが定番でございますが、竜田揚げにしてもおいしいし、つみれにしてもおいしいです。すき焼きというのもぜひものでございますわ。
 きょうはサンマをフライにしました。アジのフライがおいしいのですから、サンマもフライにしてもバチがあたりませんわ。
 で、食べました。う~ん。微妙。おいしいことはおいしいです。でも、アジのフライと比べると、アジの方がおいしゅうございます。サンマはあぶらがいのちです。あぶらののったサンマはおいしいですね。あぶらのないサンマは江戸落語の「目黒のサンマ」の殿様が食べるさんまみたいにおいしくもなんともありませんわね。
 ところがフライにすると、サンマのあぶらのにおいが少しきになります。フライの衣の中でサンマの身が加熱されることで、匂いが強調されるのでしょう。
 サンマのフライ。工夫すればおいしくできそうです。また、やってみますわ。
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モンキーショルダーを飲む


 今回はブレンデッドスコッチを飲みましょう。モンキーショルダーです。2005年に発売になったという大変に新しいスコッチです。スコットランドはスペサイドの三つの蒸留所のモルトがブレンドされています。
 ティスティンググラスに注ぎます。色はご覧のように薄くもなく濃くもない中庸な琥珀色です。香りはフルーティーないい香りです。口にふくみましょう。アルコールっ気はあまり感じません。やさしいウィスキーといっていいでしょう。飲みます。たいへんにスムースです。飲みやすいです。
 ところでボトルの肩に猿が3匹とまっています。だからモンキーショルダーというのですが、この名前の由来がおもしろいです。
 ウィスキー造りは重労働です。職人さんは肩がこります。イギリスでは肩がこることを肩に猿がいるようだ、といいます。スコットランドのウィスキー職人さんが肩に猿をとまらせて造ったウィスキーだからモンキーショルダーというのだそうです。
 イギリス人のセンスは日本人とは違いますね。日本酒を造る杜氏さんも肩がこったり腰が痛くなったりするでしょう。だからといって、肩こり正宗だとか、純米大吟醸腰痛とかいう名前のお酒はないでしょう。
 後ろはこれから飲む予定でストックしてあるボトルです。右から、サントリー山崎、モンキーショルダーの蔭で見えませんが、バーボンのブラントン、サントリー知多、アイラモルトのボウモア12年です。右から順に飲んでいきます。
 
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とつぜん上方落語 第29回 七度狐

 ここにございますのは大阪の気のあいました、喜六、清八の二人づれ。お伊勢参りの旅の途中でございます。道中、ハラが減って、とある煮売り屋に入りました。酒は水くさい酒やのうて酒くさい水しかおません。食べもんは、みんな売りもんやない。この二人、食い逃げして、逃げる途中で、イカの木の芽和えのすり鉢をそのへんの草むらに投げ捨てました。それが、そこにいたキツネの頭に当たりました。このキツネ、七度キツネという、一度アダされると7へん仕返しをするという悪いキツネです
 それから、時代はぐっと下がって、ここはとある病院のデイルームです。
「おい、あの看護師さん、知ってるか」
「石原さとみに似たべっぴんやな」
「うん、べっぴんや。べっぴんやけどワシの担当看護師になってもらいとうないな」
「なんでや」
「あの看護師はな、七度看護師ゆうねん。1度気にくわんことがあると七度意地悪するんや。ほれ、あそこにおる竹内さん。あろうことか七度看護師のお尻をさわりよった」
「で、どうなった」
「採血の注射、なんども失敗された」
「どんなふうに」
「プスと針刺して、痛いか痛いか。痛いぞ痛いぞ。痛いか痛いか。痛いぞ痛いぞ。と何度も何度も。それから竹内さん、懲りて2度と看護師へのセクハラせえへんようになった」
「ふうん」
「あんたと同室の中川さんな。こっそり病室でタバコ吸うとんのを七度看護師に見つかった」
「そら中川さんが悪いな」
「中川さん、頭から水かけられた。あら、スプリンクラーが感知したのだわって」
「907号室の長谷川さんな。時間を守らん人やねん。3時から胃の内視鏡ですからね。というのに病室におらへんことがたびたび」
「ああ、あの人、内視鏡はつらい、ゆうとったわ」
「で、七度看護師がどんな手品使ったんか判らんが、長谷川さんの胃の内視鏡する先生、この病院で一番ヘタな先生になったんや」
「ふうん。長谷川さん苦しんだやろ」
「ゲーゲーゆうてたいへんやったんやて」
「ひじの手術で入院しとる河合さんな。2軍やけどプロ野球のピッチャーやねん。まだひじを動かしたらあかんと主治医がゆうとんのに、こっそり病室を抜け出して投球練習しとる。今年あかんかったらクビやゆうてな。それを七度看護師に見られた」
「で、どうなった」
「血圧測定の時、間違ったふりして手術のあとにコンと血圧の道具のカドを当てよった」
「どうなった」
「痛くなって、しばらくおとなしくしとった。結局それが良かったんやけどな」
「そんな看護師やのになんでクビにならへんねん」
なんでも院長のコレやちゅう噂やで。それに彼女が担当した患者は予想より早く完治して退院しよる。それに七度看護師が担当した患者で死んだ人は一人もおらへん」
「ふうん」
「おい、あれ、あの小さいじいさん。あれをだれか知ってるか」
「しってるで、有名やん。この病院一番のモンスター患者」
「うん。この病院の看護師のケツはみんなわさったった。セクハラし放題。ナースコールせんと、四六時中大声で看護師を呼ぶ。食事がまずいゆうて厨房にどなりこむ。研修医に診察させたら、こんな若僧にワシを見せるんかと院長室にまでおしかける。同室の人とはしょっちゅうケンカ。夜中にイアホンなしでテレビを見る」
「そや、そのモンスター患者がこの階の病棟に移ってきた」
「すると」
「そや。七度看護師VSモンスター患者。どっちが勝つ。あんた、どっちに賭ける」

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親切な老人

女性が一人改札の前でおろおろしている。バックの中を手で探ったり、服のポケットをパタパタたたいている。たいへんに困っているようす。
「あのう、これ落としましたよ」
 老人が後ろから声をかけた。見事な光頭の老人だ。手には定期券を持っている。
「あ、そうです。どうもありがとうございます」
 老人は定期券を手渡すと立ち去ろうとした。
「あのう、お礼を」
「いや。いいんです」
「そんなわけにはいきません。昨日買った六ヵ月定期を失くすところだったんです」
「電車が来ますよ。行きなさい」
「でも」
「いいんですって。商売でやってることなんですから」
「は、商売?」

 男が一人たばこ屋の前でたたずんでいる。携帯電話を出して困惑した顔でにらんでいる。
「どうしました」
 老人が声をかけてきた。ハゲ頭だ。
「会社に大事な電話しなければならないんです。うっかり携帯が電池切れで。たしかここに公衆電話があったはずですが。ないんです」
「それはお困りですね。これをお使いください」
 老人は自分のスマホを貸してくれた。
「はい。小林です。課長。双葉産業から注文が取れました。すぐヒウラに発注してください。あ、そうですか良かったです」
「ありがとうございました。タッチの差でヒウラの工作機械の確保ができました」
「よかったですね」
 小林の目には男の頭がいっそう輝いて見えた。
「お礼させてください。とりあえずそこの喫茶店に」
「いや。いいです」
「そんなわけにはいきません。おかげで五百万の取り引きが成功したのですから」
「ほんと、いいんです。商売でやってるんですから。私」

 夕暮れ。山の中の道。両側はうっそうとした森。赤いセダンが停まっている。車体が少し傾いている。その横で若い女がおろおろ。
 向こう方に光が二つ見える。車のヘッドランプのようだ。軽自動車が停まって、老人が降りてきた。頭に月光が反射している。
「どうしました」
 少し離れたところから声をかけてきた。山の中で見知らぬ男と二人。若い女性なら身の危険を感じるシチュエーションだが、その老人は危険の「キ」も感じさせない。
「パンクしちゃって」
 最近の若い者には自分でタイヤ交換できない者も多い。
「キーを貸してください」
 老人はトランクを開けてスペアタイヤを取り出し、タイヤを交換した。
「これでだいじょうぶです。スタンドでパンクしたタイヤを修理してもらったらいいです」
 老人は軽に乗り込もうとした。
「あのう、ありがとうございました。あとでお礼させていただきます。お名前と住所をお教えください」
「いいんです。気をつけて行きなさい」
 頭を輝かせながら軽の運転席からほほ笑んだ。
「でも、」
「いいんですって。これも商売ですから」
 そういうと老人は軽自動車を発進させた。
「商売って?」

「ありがとう。あの赤い車どうしたの」
「買い替えたの」
「あら、咲江、そこ毛が抜けてはげてるわ」

「小林君。飲んでくれ。きみのおかげでわが課は社長表彰を受けた。ん、きみ、髪の毛、えらい薄くなったな」 

「清美、定期忘れてるよ」
「ありがとう。おかあちゃん」
「あんた髪の毛少なくなったね」

 老人が庭の植木に水をやっている。はげ頭に薄く毛髪がはえている。
「おじいちゃん、なんか毛が生えてきたね」
「おじいちゃんは、人に親切だから神様のごほうびよ」
 数日後、老人の頭はふさふさになった。
「なんか、最近、若はげの人、多くなったような気がするね」 

星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。

星群88号発行。購入お申込みはこちらまで。                  
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三日月をけずる


服部誕 書肆山田

右から二番目のキャベツ」から1年ぶり。詩集である。小生は詩を読む習慣はないが、この本は楽しく読めた。
 詩集といいつつも、いかにも詩詩とした詩ではなく、エッセイともショートショートともいっていいから、詩アレルギーの小生にも読みやすかった。
 著者は芦屋市の出身。芦屋で育った。著者と知遇を得て40年以上経つ。小生と著者はチャチャヤング卒業生。あのころは別のペンネームで芦屋から投稿していた。芦屋といっても北のいわゆるお屋敷まちではなく、南の方である。阪神電車の打出駅の近く。
 と、いうことで、本書には打出、宮川、第2阪神国道(43号線)、鵺塚、おさるの公園などが出てくる。小生は神戸は東灘の住民、芦屋と市境を接している区である。だから上記あげたところは散歩圏内である。地元民意識が刺激されて興味深い。
 阪神大震災を題材としている作品もいくつかある。上の芦屋の南部は大きな被害を受けた地域だ。小生は東灘で震度7を経験した。これらの作品は大変に共感を受ける。
 この詩集、私詩の詩集といってもいいだろう。次の著作が楽しみである。
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