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食べたくなる本


 三浦哲哉    みすず書房

 料理について書かれた本であるが、著者の三浦は料理人でも料理研究家でもない。比較芸術学科の准教授で映画評論家である。学者、評論家、研究者である。そんな三浦がなぜかような本を書いたのか。三浦は料理する。で、参考にいろんな料理本を読む。本として面白い本も多くあり、500冊近くの料理本を読んだとか。鉄也と哲哉、字は違うが同じてつや。鉄也も料理の本を読むが、なるほど、うまそやな、今度やってみよ。哲哉は料理本を分析、研究、評論してかような本を書くのである。ここらがSFファンで購買仕入れ屋と学者先生の違いである。
 本書は料理本を何冊も取り上げているが、料理本そのモノの紹介評論の本ではない。料理本の著者の料理に対する考え、こだわり、思想、取り組み方から、生き様までを紹介した本である。
 例えば、丸元淑生。家庭料理のベースは「だし」である。そのためにはかつお節を自分で削れといっている。「家庭料理は死ぬほどおいしくなければならない」
 有元葉子。おいしいものは身体に良い。オリーブオイルは身体に良い。と、いうことで高価なエキストラ・バージン・オリーブオイルを惜しげもなく使い揚げ物をする。常に整理整頓掃除清潔を心がけ、ひと仕事ひと片づけを厳格に実践。汚れ物を1分1秒も置いとくのはいや。
 高山なおみ、小林カツ代、ケンタロウといった料理研究家も紹介しているが、小生は特に、本書で丸元、有元「元」の字の二人が特に印象に残った。いわば、二人とも料理原理主義者といういうべき人で、余人の意見具申は聞く耳持たぬ狷介さを感じる。
 丸元はかつお節を使う時、大量に使う。みそ汁一杯分の出汁を取るのにてんこ盛りのかつお節を使う。「料理の鉄人」で道場六三郎も「命のだし」と称して大量のかつお節を使っていた。この二人に比して、京都の瓢亭の高橋英一さんは西京味噌のみそ汁を作るとき、昆布を使うが、できれば水だけで作りたいとおっしゃっておられた。小生は高橋さんに与する。
 有元さんのキッチンをテレビで観たことがある。きれい、清潔、整理整頓が完璧。小生はそれを観て、きれいというより殺伐とした印象を受けた。そこに人間は不在で冷たい機械が設置してあるようだ。それはあたかもキューブリックの「2001年宇宙の旅」とルーカスの「スターウォーズ」を想起した。両方の映画にも宇宙船の内部が出てくる。
「2001年」のディスカバリー号の内部は、ちょうど有元のキッチンだ。清潔、チリ一つない。比べて「スターウォーズ」のミレニアム・ファルコンの内部。うす汚れている。天井や壁面には配管がむき出し。ホコリが舞っている。どちらがリアルで生活感があるか?人間はどっちの方が生活しやすいか。
 有元葉子さんと丸元淑生さん、小生はできたらお近づきにはなりたくない。この二人が作った料理も食べたくない。著者の三浦氏はこのお二人の考え思想に是とも否ともいってない。しかし、小生は三浦氏の記述によって二人に対して拒絶反応を示した。
 この本、書名とは逆に「食べたくなくなる本」と小生は読んだ。


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蒼茫の大地、滅ぶ


 西村寿行   講談社


 国産のパニックSFとしては、小松左京の「日本沈没」と双璧をなす作品といっていいだろう。
「日本沈没」は第1部は日本列島がなぜ沈没するかの地球物理学的シュミレーションが主たる眼目で、それがこの作品をハードSFとしても優れたモノとしている。
「日本沈没」は日本列島が海に沈むという話だったが、この「蒼茫の大地、滅ぶ」は大陸から飛蝗の大群が東北地方に飛来。東北の農作物をはじめ植物をすべて食べてしまう。青森、岩手、秋田、山形、宮城、福島の東北6県が壊滅するという話だ。
「日本沈没」では列島沈没のメカニズムを、当時の最新のプレートテクトニクス理論でシュミレーションしたわけだ。それに比べて「蒼茫の大地、滅ぶ」では、なぜ飛蝗の大群が飛来したのか、そのへんのメカニズムは具体的には記述されてない。作者、西村にとっては飛蝗飛来の理屈よりも、それによって、人々はどう考えたか、どう動いたか、どう生きて、どう死んだかを書きたかったのであろう。
 西村寿行は情念の作家だ。西村にとって人を動かすエネルギー源は、食物ではなく、怨念、愛憎、執念なのだ。
 大陸から飛蝗の群がやってきた。青森県に着陸した。飛蝗。バッタである。別に東宝特撮映画に出てくるような巨大なバッタではない。ただのトノサマバッタだ。ところがその飛蝗の群、幅10キロ長さ20キロ総重量2億トン。青森県の緑という緑はすべて食いつくされ、県内は荒野と化した。被害は青森だけではとどまらず、東北六県に拡大。東北地方の農業は壊滅。米、野菜が無くなった。影響は1次産業だけではなく、東北の2次産業3次産業も大きな被害を受けた。
 この事態に中央政府はどうしたか。政府のある関東を守ろうとした。飛蝗の群は東北を食べつくすと関東にもやってくるだろう。しかも、今の飛蝗は卵を地中に産む。それが来年の春には孵化する。今度は幅100キロ長さ100キロ以上、総重量140億トンの超大群になる。
 政府は東北の備蓄米を関東に移そうとする。東北人に死ねというのか。中央政府は東北を切り捨てたのだ。立ち上がったのは青森県知事野上高明。強力なカリスマ性を持った稀有な政治家野上を中心に東北人たちは団結して中央政府と戦う。そして、野上は東北6県の日本国からの独立を宣言。奥州国が建国された。
 西村寿行独特の熱気を帯びた文章で綴られたのは、いにしえより中央に食い物にされ、隷属をしいられ、ないがしろにされてきた東北人の魂の叫びだ。
 
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クロストーク


 コニー・ウィリス     大森望訳      早川書房

 豪腕。女性を呼ぶにはいささか失礼ないい方かも知れないが、コニー・ウィリスは豪腕作家だ。彼女はたいへんな腕力の持ち主である。
 EEDという手術を受ければ、なんの器具も機器も使わずに、人と意思を伝え合うことができる。テレパシーといってもいいかも知れないが、テレパシーとは少し違うようだ。ウィリスはそのへんの違いは明確には書いてなかった。
携帯電話会社に勤めるブリディ。彼女には恋人がいる。社内一のイケメンで有能エリート社員のトレントだ。トレントと心と心で直にコミュニケーションを取りたいと思い、EED手術を受けようとする。
 ところが伯母さん、姉、妹といった親族は大反対。さらに社内一の変人といわれるCB・シュウォーツもなぜかブリディの手術に猛烈に反対する。
 かような反対を押し切ってブリディは評判の名医ドクター・ヴェリックの手術を受ける。麻酔からさめると「人の想い」が直接ブリディの脳内にどっと飛び込んできた。それは最愛の彼氏トレントの想いではない。なぜトレントとコミュニケーションが取れずに、替りにこんな人の想いが私の頭に入ってくるんだ。
 と、こういうのが話の発端。こんなネタだと凡庸な作家なら30枚程度の短篇、せいぜい100枚ほどの中篇にしかならないだろう。ところが豪腕ウィリスはその腕力でもって、ハヤカワ版で上下2段組700ページの大長編に仕立てあげてしまうのだから、たいへんな腕力だといえよう。
 では、なぜ 「人の想い」が直接脳内に届く。これだけのネタでこんな大長編になったのだろう。それはそこ、ウィリス女史の得意技、ドタバタ、すれ違い、行き違い、思い違いのつるべ打ち。だいたいが、主人公のブリディがアホで鈍感。せんでもええことをして騒動を大きくする。それに社内一のおしゃべべり女「雀のスーキ」「雷のスーキ」のスーキとか、過保護ママの姉のメアリ・クレア、クレアの娘で過保護の被害者で頭脳明晰性格勝気の姪のメイブ、社内一の変人CBなどがからんでくる。
 さまざまな出来事で読者の興味をつなぐ。麻酔から覚めたブリディ。どうもおかしい。ところが執刀医のドクター・ヴェリックがどこにおるかわからん。
 そうこうしているうちに、余計な「想い」がどんどん頭に流れこんでくる。ベッドに寝てられん。病室を抜け出し院内をウロウロ。看護師さんに見つかればしかられる。ウィリスお得意の病院内のドタバタさわぎ。
 それでもなんとか退院。「雀のスーキ」に見つかりたくない。伯母や姉妹にも見つかりたくない。で、どこに車を停めよう、とうろうろ。これだけで数ページ読ませる。こんな具合で気がつけば700ページ読んでいた。恐るべしコニー・ウィリス。
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鳩男


深田亨 チャチャヤング・ショートショートの会

 畏友、深田亨のショートショート集である。思えば深田さんのショートショートに接してから、半世紀近い年月が流れた。小生も深田さんも眉村卓がやっていた深夜ラジオ番組チャチャヤングのショートショートコーナー卒業生である。当時から優れたショートショートの書き手であったが、年月を経て円熟味を増していまや名人芸といってもいい。
 このように、深田亨はショートショート作家としては大ベテランといっていいだろう。深田さんの作品は、いままでチャチャヤング・ショートショート・マガジンなどで散発的に読んでいたが、これだけまとまって読むのは初めてである。
 深田ショートショートが65編納められている。いずれも、斬新なアイデア、切れ味の鋭いオチ、といったショートショートのお手本のよう作品。また、お手本から少し外した「異色」なショートショートも。多彩なショートショートが楽しめる作品集となっている。

  オンデマンド出版です。ご注文はこちらからKindol版もあります。
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SFマガジン2019年6月号


SFマガジン2019年6月号 №733    早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 ピュア                    小野美由紀
2位 ムジカ・ムンダーナ              小川哲
3位 かわいた風                  横田順彌 
4位 鬚を生やした物体X     サム・J・ミラー 茂木健訳
5位 大喝采                    横田順彌
6位 博物館惑星2・ルーキー 第七話 一寸の虫にも 菅浩江
7位 讃州八百八狸天狗講考             琴柱遙

連載

小角の城(第53回)            夢枕獏
椎名誠のニュートラルコーナー(第65回)
巡回軌道                 椎名誠
マルドゥック・アノニマス(第25回)    冲方丁
マン・カインド(第8回)          藤井大洋
幻視百景(第20回)             酉島伝法

追悼・横田順彌
栗本薫/中島梓 没後10年記念小特集
「天冥の標」完結記念小特集

 先般亡くなった横田順彌の追悼特集である。横田氏は小生たちの年代のSFファンにとって少し上のSFファンである。小生から見れば先輩のSFファンだ。
 横田氏はいわゆる「ハチャハチャSF」に代表されるドタバタSFを書くSF作家。古書収集家。明治文化研究家。そして小生はこれが横田氏のいちばんの功績だと思う日本の古典SFの発掘、紹介、研究。と、いったプロとしての活動もさることながら、SFファンダムにおいてファンジンを発行しSF大会に関わり、SFファン同士の交流友好を楽しむファンダムファンとしての横田氏を小生はあこがれ尊敬していた。関西のファンダムの片隅に生息している小生にとってSFファンのお手本のような存在が横田順彌氏であった。あらためてご冥福をお祈りする。
 追悼企画は、横田氏の作品2本。シリアスなモノと明治モノ。できれば「荒熊雪之丞」モノも1本は入れて欲しかった。あとは追悼エッセイ、著作目録、ブックガイド。追悼企画としては過不足ないモノである。
 今月号は短篇が7編。これだけ短篇が掲載されていれば合格である。しかも、どの作品もなかなかのモノ。いちおう順位をつけたが、どの作品も1位といってもいい。
 1位にした「ピュア」初お目見えの作家だが、なかなかの「女性」作家だ。女は妊娠するため男を狩って食う。女性作家にしか書けない作品ではないだろうか。鈴木いずみを思い出した。彼女がまだご存命ならこういうSFを書いていたかもしれない。「おんな」としての情念感情を描く女性作家ならではのSFだ。小生は鈴木いずみのファンであった。亡くなった時はさみしい想いをした。鈴木いずみ没後33年。33年ぶりに後継者が現れたかな。        
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プロジェクト・シャーロック 年刊日本SF傑作選


 大森望・日下三蔵編             東京創元社

 吉例、年刊日本SF傑作選、11冊目である。なんせSFマガジンが隔月刊となり、なおかつ連載偏重主義なので国産の短篇SFに飢えているSFもんにとってはありがたいアンソロジーである。選りすぐりの17編の国産短篇SFが楽しめた。収録作は次の17編。

ルーシィ、月、星、太陽   上田早夕里
Shadow.net       円城塔
最後の不良         小川哲
プロジェクト・シャーロック 我孫子武丸
彗星狩り          酉島伝法
東京タワーの潜水夫     横田順彌
逃亡老人          眉村卓
山の同窓会         彩瀬まる
ホーリーアイアンメイデン  伴名練
鉱区A-11          加藤元治
惑星Xの憂鬱        松崎有理
階段落ち人生        新井素子
髪禍            小田雅久仁
漸然山脈          筒井康隆
親水性について       山尾悠子
ディレイ・エフェクト    宮内悠介
天駆せよ法勝寺       八島游舷

 今年は眉村、筒井の両ベテランから中堅、新鋭、元新鋭、伝説の作家までバラエティ豊かなメンバーのくり出す、多彩なSFを満喫。日本SFの豊穣さが良く判るアンソロジーとなっていた。
 印象に残った作品を上げてみよう。
「ルーシィ、月、星、太陽」プルームの冬で旧人類絶滅。上田が書き継いでいる「オーシャンクロニクル」シリーズの最新作。
「プロジェクト・シャーロック」名探偵のAI開発。だったら名犯人のAIがあってもいいんでは。
「彗星狩り」酉島宇宙SF。ただの宇宙SFやないで。漢語満載。
「逃亡老人」死を意識した老人。眉村老人私SF。
「山の同窓会」女性は卵を産む。同窓会がある。私はまだ卵を産んでない。
「鉱区A-11」この作品だけ漫画。ロボット3原則モノ。小惑星。ただ1人の人間が射殺されている。他にこの惑星にいるのはロボットだけ。
「階段落ち人生」新井の私小説か。と、思わせるところが新井の腕。
「髪禍」異様なホラーである。
「天駆せよ法勝寺」仏教用語で構成された仏教スペオペ。読んでいて、やられた感いっぱいの快作。むかし、おかげ様ブラザースというバンドがあった。彼らの曲で「宗教戦隊ブッダマン」というのがあった。この曲をノベライズする時はぜひ八島にやってほしいものだ。

 残念なことにこのシリーズも今年出る刊で終わりと大森がSFマガジンで書いていた。まことに残念。大森、日下、ご両所にはまことにごくろうさまでしたとねぎらいと感謝の言葉を送りたい。
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鼠 鈴木商店焼打ち事件


 城山三郎           文藝春秋

 かって神戸に、三井も三菱も凌駕する日本一の巨大商社があった。稀代の大番頭金子直吉率いる鈴木商店である。
 大正時代、米の値段が急騰した。米騒動勃発。だれかが米を買い占めて米の値段を上げている。だれだ。鈴木商店だ。鈴木商店は暴徒の焼き打ちにあった。
 はたして米価急騰の犯人は鈴木商店か?鈴木商店はほんとうに米を買い占めていたのか。作者城山は、存命中の鈴木商店関係者にていねいに取材して、焼き打ち事件の真相にせまる。
 当時の鈴木商店の天敵といっていいのが大阪朝日新聞。鈴木商店は時の政権と密接な関係があった。寺内内閣の大物閣僚である後藤新平と金子直吉とは個人的な親交があった。これが大阪朝日にとっては気に入らない。大阪朝日新聞は鈴木商店の不正(と大阪朝日は思っている)を連日報道。これが民衆の怒りに火をつけた。
 もちろん、城山は大阪朝日の関係者にも取材。大阪朝日のほんとうの意図はなにか。この大新聞社の背後になにがいたか、いなかったか。
 この鈴木商店がいかに大きくなり、焼き打ちにあい、そして消滅したか。鈴木商店は金子直吉の独裁といっていい。「お家さん」鈴木ヨネは金子を全面的に信頼して店の経営を任せる。金子もヨネに忠誠を尽くす。
 この独裁者金子にゆいいつブレーキをかけられるのは有能な実務家西川文蔵。金子は土佐出身。金子の周りは土佐派ともいうべき派閥ができ、これが守旧派。また西川の周りには神戸高等商業学校出身者が集まる。これが、いわば改革派。西川は若くして亡くなる。もう金子の暴走にブレーキをかける者はいなくなった。
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戦前の大金持ち


  出口治明編          小学館

 7人の大富豪を紹介している。

 革命プロデューサー 梅屋庄吉
 蕩尽王 薩摩治郎八
 初もの喰い狂 大倉喜八郎
 山林王 土倉庄三郎
 相場の神様 山崎種二
 真珠王 御木本幸吉
 庭園日本一 足立全庚

 この7人、いずれもとんでもない大金持ちであるが、ただたんに多くの財産を持っていただけではない。彼らが、いかなる手段で、その財を築いたのか。そして、そしてその財産をどのようにして使ったのかそれが紹介してある。たんなる立身出世物語ではなく、常人でははかり知れない発想の持ち主ばかりである。
 梅屋庄吉は稼いだ財産の全てを孫文の辛亥革命の支援に使った。薩摩治郎八は3代にわたって築いた財産800億円をすべて散財して無一文になった。薩摩にとって散財は自己表現であった。
 大倉喜八郎は戦争をビジネスチャンスとして大きくなった。しかし、大倉の財閥は三菱三井のように後世に残らなかったのはなぜか。大倉は組織をつくらなかったからだろう。
 土倉庄三郎は終生山林事業者であり続けた。そんな土倉のもとには明治政府の元勲たちが足しげく通う。土倉は彼らを惜しみなく支援する。
 山崎種二は「売りのヤマタネ」と呼ばれ、相場の神さまといわれた。
 御木本幸吉は「世界中の女性の首を真珠でしめてご覧にいれる」と明治天皇にいい放つ。「ミキモト」というブランドを世界で確立するマーケティングを展開した。
 足立全康は生き方、金の使い方そのものがビジネスの教科書となる。
 この7人、ただたんに大金を持っているというのではなく、文化的なことにも、支出を惜しまなかった。それが後世に伝わる貴重な財産となっている。山崎のヤマタネ美術館は優れた日本美術の美術館で、足立の足立美術館は日本一の庭園。また薩摩は藤田嗣治の支援者であった。
 彼ら、昔の大金持ちは、みんな「志」があった。
 
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星夜航行


  飯嶋和一           新潮社

 小生は「始祖鳥記」しか読んだことがないが、読書人の間では「飯嶋和一に外れなし」という評価だそうだ。確かに「始祖鳥記」はめっぽう面白い小説であった。では、この「星夜航行」はというと、残念ながら外れであると小生は思う。超大作で大力作ではあるが、小説として面白かったかと聞かれれば、うんとはいいかねる。
 主人公、沢瀬甚五郎は父が一向宗に与して主君徳川家康に弓を引いたがために逆臣の遺児として育つ。祖父から馬術、鉄砲、剣術をしこまれ立派な武士となる。
 馬術の腕を見込まれ、家康の嫡男三郎信康の小姓に取り立てられる、ご存知のように信康は父家康と折り合いが悪く、武田に密通しているとの疑いで切腹させられる。甚五郎に良くしてくれた小姓頭の石川修理亮も追い腹を斬って殉死。甚五郎は徳川家ではたいへんに悪い立場になったわけ。徳川家にはおれない。甚五郎は武士をやめて商人に転身する。
 呂宋助左衛門の知己を得て、薩摩で海の商人として独り立ちする。その後、甚五郎は博多に店を移し、そこで伴侶も得て、呂宋と博多を行き来し海の商人として成功する。
 と、主人公の沢瀬甚五郎は元武士の商人として活躍するのだが、上巻の後半から下巻のほとんどには、甚五郎はときおりしか出てこない。この大部の小説の多くを費やして書かれているのは、豊臣秀吉の朝鮮出兵。秀吉は明=大陸を四国や九州と同じ次元で考えていた。だから日本を平定したように大陸をも平定しようとする。通り道の朝鮮には属国となり、兵と食料、朝鮮王室からの人質の提供を命じた。もちろん朝鮮はそんな命令には応じられない。戦争となる。
 秀吉の朝鮮出兵。これは日本、朝鮮、明三国に不幸しかもたらさない。日本の諸大名、朝鮮王室、明国皇帝、三国の人民、すべての人にとって大迷惑。
 この朝鮮出兵のくだりの実質的な主人公は秀吉軍第一軍総大将小西行長といってもいい。元堺の商人だった行長は、できるだけ早期にこのばかばかしい戦を終わらせるために、さまざまに策略を巡らす。それがかえって泥沼の長期戦となる。また、ハト派の行長とタカ派の加藤清正の確執もある。
 朝鮮に渡った秀吉軍の将や兵は、ほとんどの者は喜んで行ったわけではない。日本に領地、領民、家族を残して嫌々行ったわけだ。権力者太閤秀吉の命令には従わなくてはならない。その者の中には、朝鮮軍の捕虜になったり、自ら投降した者も多数いた。それらの日本人は降倭隊と呼ばれて秀吉軍と戦った。長い戦乱を経験した日本の武士は、戦略戦術や鉄砲の製造技術や使用方法を朝鮮軍兵士に教え、自らも勇猛に戦った。その降倭隊に非常に有能な元徳川家の者がいる。それが沢瀬甚五郎だ。          
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SFマガジン2019年4月号


SFマガジン2019年4月号 №732   早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター

1位 折り紙食堂 エッシャーのフランベ   三方行成
2位 戦車の中               郝景芳 立原透耶役
3位 無重力的新世界            高島雄哉
4位 ミサイルマン             片瀬二郎
5位 半身の魚/必殺!/二つ折りの恋文が  草上仁
6位 たのしい超監視社会          柞刈湯葉
7位 野生のエルヴィスを追って       石川宗生
8位 書夢回想               円城塔
9位 一〇〇〇億の物語           樋口恭介
10位 アトモスフェイラ・インコグニタ ニール・スティーヴンスン 
                      日暮雅通訳
未読 サーペント              飛浩隆
未読 銀翼とプレアシスタント(抄)     上田早夕里
未読 大進化どうぶつデスゲーム       草野原々

連載

小角の城(第52回)             夢枕獏
幻視百景(第19回)             酉島伝法

「ベスト・オブ・ベスト2018」と銘打って「SFが読みたい!2019年版」上位作家の特集である。この企画は毎年やっているが、表紙を見て今どき感を感じたしだい。ごらんのようにカタカナはニール・スティーヴンスンだけ。では外国人はスティーヴンスンだけかというとそうではない。もう一人外国人がいる。郝景芳は中国人。いま、中国SFが元気である。カタカナ名前の外国人作家でここで取り上げるべき作家は他にもいると思うのだが。
 そいうわけで、今月はなかなか読みごたえがあった。ただ、せっかくだから全作書き下ろしの読み切り短篇でまとめて欲しかった。長編の冒頭だけなんて中途半端なことはやめてほしい。  
 それぞれの作品はバラエティに富んでいて、読んでいて楽しかった。では、印象に残った作品を簡単ながら少しレビューをしよう。
「戦車の中」俺と雪怪は小型機械車とあう。ヤツの中には人間が入っているのか。
「書夢回想」本、書店、図書館。円城塔としては判りやすい。
「無重力的新世界」11人の芸術家を乗せてシャトルは月へ飛ぶ。芸術家たちには月に着くまで新作を制作すべしという課題が。
「野生のエルヴィスを追って」野性のエルヴィスは絶滅危惧種。家庭で飼われている愛玩用のエルヴィスもある。
「一〇〇〇億の物語」長すぎる。つまらん。
「たのしい超監視社会」総監視の全体国家の話。
「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」メシを食いに食堂へ。主人は料理しないで折り紙ばかりしている。なんとも不条理なのがいい。
「ミサイルマン」この忙しいのにンナホナが出社しない。外国人労働者雇用管理責任者の俊輔が彼の宿舎に行くと。
「半身の魚/必殺!/二つ折りの恋文が」ショートショート3編。「半身の魚」が面白かったかな。あと2篇はどうということない。           
「アトモスフェイラ・インコグニタ」つまらん。小生はスティーヴンスンとは相性が悪いようだ
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天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと


小川一水          早川書房

 このたびめでたく完結したシリーズの9作目である。8作目は4年前に読んで、この9作目は積ん読になっていたのだが、10作目が出て完結したので、読んだしだい。
 完結ひとつ手前の作品である。落語会でいえばトリ前。広げに広げた大風呂敷をたたもうという意志は判る。いくつか並列しているエピソードが、なんとか収斂しようとしているのも判るのだが、まだまだとっ散らかっている感じ。これをどうおとすのか10巻目をそのうち読もう。
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上方らくごの舞台裏


 小佐田定雄          筑摩書房

「枝雀落語の舞台裏」「米朝落語の舞台裏」に続く「舞台裏」シリーズ3冊目。いちおうこれで完結とのこと。
 いやあ、面白かった。上方落語ファンなら愛おしくて、両手でそっと抱きながら読みたい本である。
 38席の上方落語の演目と、それにからめながら落語家を紹介していく。
「青空散髪」「網船」「有馬小便」「いかけや」「浮かれの屑より」「おごろもち盗人」「お玉牛」「鬼あざみ」「貝野村」「掛取り」「軽業」「近日息子」「丁稚蔵」「稽古屋」「滑稽清水」「皿屋敷」「質屋芝居」「死ぬなら今」「昭和任侠伝」「善光寺骨寄せ」「高尾」「蛸芝居」「田楽喰い」「天王寺詣り」「電話の散財」「野崎詣り」「初天神」「ふぐ鍋」「堀川」「豆屋」「みかんや」「深山隠れ」「大和閑所」「遊山船」「夢八」「弱法師」「ろくろ首」「山名屋浦里」
 だいたいは、小生が知っていて聞いたことのある噺だが、知らない噺もある。紹介される落語家は、六代目笑福亭松鶴、三代目桂春団治、五代目桂文枝といった四天王から、二代目桂歌之助、桂吉朝、六代目笑福亭松喬といった物故した落語家たちである。
 このうち、「有馬小便」はそれまで知らなかった。神戸はさんちかの古本市で落語のCDが出ているのを発見、そのうち三代目春団治のもあった。見ると「寿限無」「平林」「有馬小便」の3席が収録。衝動買い。小生の落語コレクションの中でも珍品である。
網船」六代目松喬の最後のテレビ。小佐田さんも書いてあったが2013年7月21日にNHK「日本の話芸」に出演した。小生も見た。大病を患いげっそりやせておられた。丸顔の先代松喬師匠が別人にようになっていた。痛々しくて見ていられなかった。テレビ放送された上方落語は必ずDVDに保存しているのだが、さすがにこの先代松喬師匠の「網船」は残せなかった。元気なころの先代松喬師匠の噺はたくさん保存してある。
 先代桂歌之助師匠の「善光寺骨寄せ」小生も何度か生で観た。また弟子の当代歌之助さんのも観た。先代歌之助師匠は落語会やると大きな惨事事故事件が起こるので「死神歌之助」と呼ばれていたが、小生の古いSF関係の友人で先代歌之助師匠ほどではないが大きな出来事を呼ぶ男がいた。その男がある大きなSFイベントの実行委員長をやったとき、大きな台風がやってきた。そのごいろいろあったが、極めつけは彼が結婚した時、式の翌日阪神大震災が起きた。交通網寸断の中なんとか空港までたどりついて新婚旅行に旅立った。
 落語家ばかりではない。本の後半には裏方のお囃子さんを紹介されているのが貴重だ。ともかく小佐田定雄さんの上方落語に対する愛情がいっぱい詰まった本である。上方落語のファンなら読まずばおれないだろう。
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蘇える金狼


大藪春彦      角川書店

 大藪のサラリーマンものである。サラリーマンものといっても東宝の「社長」シリーズや源氏鶏太の小説のような、お気楽なものではない。松田優作主演、村川透監督で映画になったからご存知のムキも多いだろう。
 経理の真面目社員の朝倉哲也。地味でおとなしいサラリーマンであるが、実は野望に燃える狼である。朝倉の会社は腐っている。社長をはじめ重役どもが会社の金をババして私腹を肥やし贅沢三昧。朝倉はそいつらの弱みを握り小ワルを呑み込む大ワルになるべく悪事を重ねる。
 車に銃に食いモノ。いつもながらの大藪ワールドであるが、このたび再読して判ったのだが、大藪春彦という作家は、とても律儀で生真面目な文章を書く人だ。主語、述語、動詞と日本語の文章の基本に則った文章を大藪は書く。
 朝倉は銃身で冬木の後頭部を殴りつけた。京子はヘロイン入りのタバコに火をつけた。と、かならず誰が、何を、どうした、と、記述している。朝倉は殴った。という省略はしない。大藪の文章には必ず主語述語動詞があるのだ。大藪春彦の小説は、お子さまには不向きだが、子供が正しい日本語の文章のお手本にするには、大藪の文章は良いお手本になるだろう。
 主人公朝倉は人の車を盗む人の家に侵入することがよくあるが、そのときのために、先端をつぶした針金を2本いつもズボンの折り返しにかくしているのだが、それを必ず描写する。
 朝倉は先端をつぶした針金をズボンの折り返しから出してコロナのドアを開けた。朝倉はコロナを盗んだ。とは決して書かない。誰が何を使ってどうやったのか律儀に書く。大藪の文章は判りやすいのだ。
 ひとつだけ不思議な描写がある。朝倉がトヨタのパブリカでカーブを曲がるシーン。ヒール&トゥーを使うのだが、つま先でアクセルを踏んでかかとでブレーキを踏むとあるが、逆である。マニュアル車に乗っている人ならわかると思うが、こんなことは不可能。ヒール&トゥーはつま先でブレーキを踏みつつかかとでアクセルをふかすワザである。まさかあの大藪がそんなことを知らないはずがない。大藪のかん違いであろう。また、大藪の担当編集者なら、こんな基本的なドライビングテクニックを知ってるはず。なぜ訂正されなかったのか不思議である。
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関西弁事典


真田真治監修     ひつじ書房

 小生、兵庫県は西宮の生まれで、三つの時から神戸在住。生まれも育ちも現住所も関西である。関西以外に住んだことはない。阪神タイガースファンで上方落語好き。こういうわけだから、関西弁なるものを勉強してやろうと、この本を読んだしだい。
 事典となっているが、事典的な要素は巻末に少しでているが、実質は学術書である。関西弁の概説から、地域別ジャンル別の各論まで、学術書としての体裁の本だ。ところどころにコラムがあって、読み物としてもおもしろいようにしてあるが、関西弁に興味のない人が読めば退屈である。小生は、興味深く読んだ。
関西弁研究の貴重な本ではあるが、ひとつ不満が。監修者の真田先生や、執筆者の諸賢は上方落語に知識がないのか興味がないのか、上方落語については、初代桂春団治に少し触れているだけで、あとは漫才や新喜劇を話題にしていた。こういうことならさけて通れないはずの桂米朝師匠にはまったく言及していなかった。上方落語ファンとして大いに不満である。
 とはいえ、関西弁の基礎を知るにはかっこうの本である。ずっと座右に置いておくべき本である。
 
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佐武と市捕物控


石ノ森章太郎          宝島社

石ノ森章太郎は日本の歴代の漫画家の中で屈指の職人ではないだろうか。オリジナリティということでは疑問だが。特にSFではハインラインなどから着想を得ていることもあるが、読者を喜ばせる技術はピカイチの漫画家ではないだろうか。プロ中のプロの漫画家といえよう。
優れた漫画を創出するのに必要な技術は二つあるのではないだろうか。ストーリー物語を創る技術と、画を描く技術。この双方が伴って初めて優れた漫画といえよう。石ノ森はその二つの技術に優れているが、この作品の場合、とくに画を描く技術が目を引く。手塚治虫が開発した映画的手法を、この「佐武と市捕物控」でさらに高みに上げた。動かない漫画ではあるが、ダイナミックな動きのある映像として観ることができる。あたかも市川崑監督の映画を観ているようだ。ときおり杉浦日向子を想い起こさせるシーンもあるが、それは石ノ森の漫画だからご愛嬌というものだ。
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