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とつぜんSFノート 第90回

 ショートショート研究家の高井信さんが「日本ショートショート出版史~星新一とその時代~」を自費出版した。早速、注文して入手した。パラパラとめくったたが、書影も非常に豊富で、星新一がデビューしてからの日本のショートショートの出版史を、ていねいに紹介、記述してあり、たいへんな労作といえよう。これから、じっくりと読み、このブログで紹介したいと思う。
 今年は星新一がデビューして60年。日本のショートショート誕生が、星新一のデビューとするならば、今年は日本のショートショート還暦となるとのこと。
 小生もアマチュアながらショートショートを書き始めて、かなり時間がたった。つらつら遠い記憶をたどってみると、小生が生まれて初めてショートショートなるモノを書いて、外部に出したのはもう50年ほど昔だ。
「ボーイズライフ」という少年向け雑誌があった。その雑誌に「1000字コント」というページがあって読者の作品を募集していた。それに応募したのが、小生が生まれて初めて書いたショートショートである。この雑誌、1963年から1969年まで発行されているから、もう50年ほど昔である。どんな作品を書いたのかは、さすがに忘れた。
 そして1970年。大阪の毎日放送で深夜番組「チャチャヤング」が始る。ここで眉村卓さんがパーソナリティをやっていて、SF作家の眉村さんがパーソナリティということで、リスナーからショートショートが送られてくるようになった。それを眉村さんが、ていねいに評価し細かくランク付けして、優秀作は朗読される。小生も2度ほどか朗読してもらったことがある。朗読された投稿者には、眉村さんからサイン入りの著書が送っていただける。小生の蔵書の早川銀背の「時のオデュセウス」と日本SFシリーズ「かれらの中の海」の2冊は著者サイン入りだが、この時もらったもの。このショートショートのコーナーは番組の企画として定着し、人気コーナーとなった。
 そのうち和田宜久(海野久実)、SA(深田亨)、南山鳥27、妹尾俊之(西秋生)、小野霧宥、寺方民倶(岡本俊弥)柊たんぽぽ、といった常連が出てきた。谷甲州も甲州というペンネームで投稿していた。小生も、この常連の末席に加えていただいた。
 眉村さんに紹介されるのがうれしく、それがはげみとなって、せっせと投稿していた。あのころは週に1本はショートショートを書いていた。上記の人たちとは今も親交があり、40年以上交流が続いている。
 その後、小生はSF同人誌「星群」に所属して、ショートショートを書いている。そして、今は、ご存知のように、このブログに月に2回、ショートショートを書いている。思えば、もう50年近くショートショートを書き続けているわけだ。昔は、週に1本書いていたが、今は月に2本書くのが精一杯。ずいぶん長くショートショートを書いてきた。たぶん、これからも、ずっと書き続けると思う。
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トラキチ酒場せんべろ屋 第19回

「お、今夜はどないしてたんや」
「ちょっと病院へ」
「泌尿器科か。酒のんでもええんか」
「整形や。足のMRI撮ってもろとったんや」
「ふーん。で、どないやねん」
「ま、ぼちぼちや。ところで、阪神勝ったか」
「負けたわ」
「そっか。8連敗やな」
「そや。ほんまに、また負けたか8連敗や」
「こうなりゃ巨人を見かえしてやろやないけ」
「そやな。あいつら13連敗やゆうて自慢してたな」
「そや。20連敗ぐらいして、くやしかったら、これぐらい負けてみい。べろべろばーしたろやないか」
「おもろいやんけ」
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前立腺風雲録 第19回


 六甲アイランド甲南病院の泌尿器科外来で診察を受ける。小生は外来患者ではなく入院患者なので、あまり待たされず診察室に呼ばれる。
 まず、常時留置カテーテルを抜かれる。ホッとする。1週間尿道に管を突っこまれたままで過ごしてきたわけ。なれはしたが、さすがに尿道に異物がないのは楽である。これでカテーテルは不要になったかといえば、そうではない。これからは自己導尿をしなさいとのこと。
自分でカテーテルを尿道に挿入して尿を出すのである。痛そう。写真が、その自己導尿用のカテーテルである。プラスチックのチューブにカテーテル本体が入っている。本体の直径は4ミリほど。やわらかい樹脂製であるが、これを自分で尿道に入れるのかと思うと憂鬱である。
はじめのうちは看護師がやってくれるとのこと。やり方をマスターしたら自分でしなくてはならない。そんなことをいつまでやる必要があるのか。できれば早々にやらなくてもいいようになりたいものだ。入院中のことだけだと思っていた。
「自己導尿、どれぐらいやらなくてはなりませんか」こう聞くと、医者は衝撃的なことをいった。
「一生」
「え!?」
「これからずっと自己導尿をやってもらわなくてはいけません」
「私は普通におしっこができない身体になったのですか」
「はい。あなたの膀胱は尿が溜まりに溜まって、パンパンになっていました。風船が膨らみきった状態でした。あと少し遅ければ破裂してたところです。そこから尿を抜いたのです。パンパンの膀胱がからっぽになりました。膀胱は弛緩しています。尿を排出するは力はありません」
「治らないのですか」
「治る可能性もあります。でも難しいです」
「つまり普通におしっこができなくなったのですか」
「今のところは。自己導尿で普段どおりの生活をしている人もけっこういますよ」
 小生は管を尿道に突っこまないと排尿できなくなってしまった。
「世界の盗塁王福本豊」さんが、国民栄誉賞を打診された時「そんなんもろたら、立ちしょんべんもでけへんがな」といったとか。小生は、国民栄誉賞をもろてへんけど、立ちしょんべんができない身体になってしまった。


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トラキチ酒場せんべろ屋 第18回

「おもやん。ビールやビール」
「アテ、そやな。唐揚げ、串カツ盛り合わせ、どて煮込み、パリパりサラダ、塩焼きソバ。とりあえずそれで」
「きょうも阪神負けたな」
「そやな」
「だいぶん深刻やで」
「なにが深刻やねん。たかが7連敗しただけやんか」
「ま、連敗することもあるわいな」
「なんか阪神ファンのあいだでは金本の監督失格という声も出てるけどな」
「なにをアホなことゆうねん。金本は2年後3年後を見据えとると思うでワシは」
「そやな、目先の1勝今年の優勝にしか目がいかんアホが金本批判を展開しとるけど、ワシはもっと長い目でみとるで」
「なんや新しい外国人野手を入れるらしいけど、金本は反対やったらしいで」
「ワシも金本に賛成や。そないなようわからん外国人に1塁守らせるぐらいやったら原口や中谷、大山に1塁守らせたらええんねん」
「金本にまかせとったら今年の優勝は無理やで」
「ええやん。今年は優勝せんでも」
「そやな。3年後4年後に優勝したらええねん」
「そやな。ワシもそう思うわ」
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破獄


 吉村昭 新潮社

 羽佐間清太郎。犯罪者である。傷害致死で無期懲役。犯罪者ではあるが、この男天才である。なんの天才か。脱獄の天才。どんな厳重な刑務所も、いつでもどこでも任意の時に脱獄できる。生涯で四度刑務所を脱獄する。
 一日に100キロ以上走る体力。手錠をねじ切り、土中深く刺さった土管をかかえて引き抜く腕力。壁をヤモリのように登り天井を伝って脱出する身軽さ。頭が通る隙間があれば身体全体が抜けられる柔軟性。どのようなモノからでも工具や合鍵を作る器用さ。一目見ただけで刑務所の建物の配置構造を見抜く観察眼と記憶力。どのタイミングで脱走すればいいか判断する戦略性。看守の心理を見ぬき、看守の弱点をつく人間操縦術。まさに脱獄をするためだけに生まれてきたような男である。
「規則を守れ」看守がいう。「いやだ」「なんとしても規則を守れ」「そんなことをいうと、あんたが担当のとき脱獄するぞ。あんたは職務怠慢で処罰されるぞ。それでいいのか」で、佐久間はほんとにその看守が担当のときに脱獄する。
 それまでの反省をふまえ、厳重極まりない警備をしても、佐久間は思いもかけぬ方法で脱獄する。 
 こんな化けもんみたいな脱獄王と、なんとしても脱獄を阻止したい刑務所側との知恵くらべ。佐久間を厳重に閉じ込め、特製の鍵穴のない特大手錠と足錠をはめる。常時手錠は後ろ。だから食事の時は犬みたい床の食器に直接口をつけて食べる。こういう「北風」派の刑務所長。また、手錠なし。独房にも入れず作業もさせる。運動も自由にさせる。こういう「太陽」派の刑務所長も。どっちが佐久間に有効か。
 脱獄王佐久間VS刑務所とうバトルもさることながら、刑務所という特異な観点から見た戦前、戦中、そして進駐軍治世下の日本が描かれる。特に食料の確保。食糧難である。食べるものがない。刑務所は囚人が最優先。看守たちは食べなくとも、囚人たちの食料はなんとしても確保しなくてはならない。
 食料事情を中心に戦中の日本の様子が紹介されているが、日本はミッドウェイ海戦敗北から、テニヤン島をアメリカに奪われ、B29による空襲がはじまるようになってからは、国としては完全に死に体。情勢挽回不可能。無条件降伏が遅すぎた。
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トラキチ酒場せんべろ屋 第17回

「こんばんは大将」
「お、雫石さん。めずらしいな。ワシの店に来るのは。あんたはアニキの店海神の常連やろ」
「うん、ちょっと西宮市役所に用があってな。ワシ西宮が本籍地やから」
「ふーん」
松本のトメさんにたまにはせんべろ屋にも顔だせゆわれてな。ところで阪神きょうも負けたな」
「そや6連敗や」
「大昔、じいさんが、また負けたか8連隊、勲章9連隊ゆうとったけど、そのデンでいうとまた負けたか6連敗やな」
「また古いこと知っとるな」
「いつまで負けるねんやろや」
「なあに6連敗やないの。ちょっとぐらい連敗したからゆうでガタガタゆうことあらへん。7連勝したらええんや」
「またああ、大将。広島に追いつくどころかDeNAにおいつかれるで」
「追いつかれたら追い抜き返したらええんや」
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たこつぼのオーナーになった

 明石のタコは梅雨どきの今が旬。とくに半夏生のころの明石のタコは絶品とされている。この明石のタコ。伝統的な漁法にたこつぼを使った漁法がある。そういうわけで、小生もたこつぼのオーナーとなった。
 明石の江井ヶ島漁協がたこつぼのオーナーを募集していたので応募した。5940円支払うとたこつぼ1個のオーナーとなれる。7月下旬から8月下旬にかけて4回引き上げ、タコが獲れていれば送ってくれる。
 明石のタコも昔に比べて漁獲量が減っているそうで、1回のたこつぼ引き上げでタコが入っている確立は10パーセントから20パーセント。私のたこつぼで4回タコが獲れるかも知れないし、まったく獲れないかもしれない。4回とも獲れなくても、タコ1匹は送ってくれる。ううむ。楽しみである。
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トラキチ酒場せんべろ屋 第16回

「なんかむしむしすんな」
「そやな。湿度高いんかな。なんかすっきりせんな」
「むしゃくしゃするなあ」
「おもろないな」
「なんやろな。このイライラは」
「なんか、こう、スコッーとすることないんやろか」
「ないなあ」
「どっかに、ええ話ないやろか」
「あるかいな。そんなもん」
「ワシら貧乏人はなにを楽しみ生きていったらええねん」
「そんなもんあらへん」
「そしたら、どないしたらええんや」
「がまんや」
「いつまで、がまんしたらええねん」
「そんなことワシに聞いても知るかいな」
「そやけど、お前、がまんゆうたやんか」
「がまんするしかあらへんやろ」
「しゃあないな」
「ほんま。しゃあないわ」
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ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー


監督 ギャレス・エドワーズ
出演 フェリシティ・ジョーンズ、ディエゴ・ルナ、ドニー・イェン

 わおぅ。おもしろい。このシリーズの最高傑作第1作エピソード4に匹敵する傑作ではないだろうか。
 お約束の「遠い昔、遥か彼方の銀河系で」の字幕が画面に流れる。で、あと、つらつらと事の成り行き、来歴、物語の顛末が記された字幕が流れて、頭の上をでかい宇宙船が飛んで、チャーンチャチャチャチャーンチャンというジョン・ウィリアムスのスターウォーズのテーマが流れる。もう心ウキウキワクワク。え、あの音楽が流れない。故事来歴の字幕もない。いきなり本編が始まる。
 かように最初に肩透かしを食らわせておいて、物語はだんだん面白くなる。エピソード4で、レイアがデススターの設計図を持っていて、オビワンに助けを乞い、ルークがXウィングファイターを駆ってデススターの弱点にプロトン魚雷を命中させてデススターを破壊したが、だれがデススターの設計図を盗み出したのか、デススターになぜ弱点があるのか。
 この二つの疑問に答えたのが、本作。主人公はデススターを設計した帝国の科学者の娘。娘のオヤジは帝国に忠誠をつくしたわけではない。そのオヤジは行方不明。母は帝国軍に殺された。娘ジンは反乱軍の女戦士として生きていた。
 帝国が究極の大量破壊兵器デススターを完成させつつある。大義のため、こいつを破壊する必要がある。
 あとは、小生の大好きな冒険活劇のパターン。少人数が敵地に乗り込み、決死の冒険をおかして目的を達成する。ジンはならず者(ローグ)たちとともに帝国に侵入する。
 で、設計図は手に入り、あの人に手に届くわけ。最後にチラとその人が出てくる。背中が映りこちらを向いた。この瞬間、エピソード3とエピソード4がつながったわけ。しかし、どうして撮影したのだろう。あの人がこんなに若いはずがない。それにもうお亡くなりになっているだろう。お亡くなりといえば、あの懐かしきモフ・ターキン総統が出てくるがピーター・カッシングも亡くなっているはずだが。
 ちょうど、このころ、ルークは惑星タトウィーンでおじさんの手伝いで農業。オビワンはタトウィーンで隠遁生活。レイアは元老院議員。ヨーダはダゴバで隠遁生活。ハン・ソロはジャバに借金して海賊稼業。そしてダース・ベイダーはシスの暗黒卿となって数年。一番強かったころ。実際、この映画のダース・ベイダーが一番強く見えた。このころのベイダーなら、オビワンもルークもかなわないだろう。
 この映画の反乱軍はいわば帝国から観ればテロ組織である。ジンたちがやっていることはテロである。銀河帝国のように圧倒的な力を持つ敵と戦うにはテロしか選択肢がないのではないか。となるとトランプ大統領が銀河皇帝(そんなええもんかいのう)ということになるな。アルカイダやタリバンが反乱軍となるわけだ。 
スターウォーズファンとしては、観ておくべき映画である。フォースとともにあらんことを。
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トラキチ酒場せんべろ屋 第15回

「おもやん。ビールや、ビール」
「どうしたん、きーこう。えらい機嫌悪いやんか」
「おもろないな。なんや阪神は、ええとこなしで広島に負けたやんか」
「え、あて?なんでもええ。唐揚げ、それでええ」
「しゃあないわな。攻走守、すべてにおいて広島の方が上やからな」
「ヒットは阪神の方が多いねんで」
「野球はヒット打ちゲームちゃうで、点取りゲームや。ヒット30本打っても0点やったら負けるねんで。ヒット1本でも1点取ったら勝つねんで」
「わかっとう。なんかむしゃくしゃするなあ。おもやん、ビールまだか」
「おもやんに当たったらあかんがな。ほらビールきたで」
「ごめんな。おもやん」
「さ、乾杯」
「なんに乾杯や」
「きのうの雨に乾杯や」
「きょうも雨やったらよかったのにな」
「んぐんぐんぐ。ぷふぁあ。阪神負けてもビールはうまいな」
「お、トメさん、どや就職は」
「お、せーやん久しぶり。知り合いに教えてもろた代書屋が、うまいことリレキショー書いてくれてな。うまいこといったわ」
「どこいっとたんや」
「鎌倉や」
「鎌倉に若い女の子の代書屋がおってな。多部未華子によう似たかわいい代書屋がおってな。そこで書いてもろたリレキショーが良かったんや」
「へー、あのおっさんの代書屋は」
「そら、おっさんより若いかわいい女の子の方がええやんか」
「阪神の話はどうなったんや」
「もうええやん。阪神は。トメさん、あんたもいっしょに飲も」
「そやな。就職いわいや」
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エビチリパスタ


 麻婆パスタに続く、四川+イタリアンの第2弾。エビチリパスタである。エビチリはおいしいな。ワシが大好きな中華料理や。プリプリのエビにちょっとピり辛なソース。そのまま食ってもうまいし、ホカホカのご飯にのっけて丼にしてもうまい。だいたいやなあ。(むかし、こんなことゆうおっさんがおったな)白いごはんにあうもんは、麺パスタにもあうんや。両方とも炭水化物やしな。
 エビチリはいつものワシのエビチリや。パスタはショートパスタがええやろ。ペンネを使うた。うん。けっこうイケるやんか。
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卵白あんかけ炒飯


 今日のお昼は炒飯です。普通の五目炒飯ではなく、ちょっと豪華な炒飯にしましょう。豪華といっても見た目だけです。お金はあまりかかってません。
 まず、普通の炒飯を作ります。具は焼豚とネギです。焼豚は私の手作りです。ハムメーカーが出している市販のできあいの焼豚は、もひとつ私の口にはあいません。簡単です。豚バラ肉のかたまりを醬油と味醂で煮ます。片側30分、ひっくりかえして30分。このとき八角を入れておけば本格中華の香りがします。これを一晩おいといて、調理する直前に魚焼きグリルに入れて軽く焦げ目をつければOKです。
 さて、炒飯ができました。卵白あんにかかりましょう。卵白をときほぐします。卵黄は炒飯に使いました。低温の油に卵白を流し入れます。全部入れないで。卵白がフワッとしてきたら取り出します。別鍋に塩、砂糖で味をつけたスープを入れ火にかけます。そこに卵白を入れ、水とき片栗粉を加えてとろみをつけ、残りの卵白を回しいれて、お皿に盛った炒飯にかければできあがりです。
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前立腺風雲録 第18回

 大腸からの出血は止まった。憩室は一段落したといっていい。主治医の見立てである。毎日のようにおこなっていた大腸の内視鏡もしなくなった。治療の主眼は消化器から泌尿器へと移ったのである。
 常時留置カテーテルが尿道に挿入されたままだ。当初は痛く気持ち悪かったが、二、三日もするとなれた。尿は尿袋に自動的に溜まる。看護師が定期的にそれを捨てに来る。捨てる時、尿量も計る。
 尿量が減っている。不自然な状態だという。カテーテルを交換してから順調に尿が出るようになった。どうもカテーテルが詰まっていたらしい。カテーテルは入れっぱなしの時は違和感はあるが痛みはさしてない。ところが入れられる時は痛い。トラブルなく入れっぱなしの状態が続いて欲しい。
 尿の出が順調なのが二日ほど続いた。その日、午後から尿量が極端に減少した。夜になると、ほとんど袋に溜まらなくなった。下腹が張っているような気がする。深夜、これはまともじゃない。というので当直の医師がポータブルのエコーを持ってベッドまで来てくれた。エコーをかける。「コアグラ」が膀胱内のカテーテルに詰まっている。との診断。急きょ、カテーテルを抜く必要がある。その医師と看護師2人。3人がかりでゆっくりとカテーテルを抜く。大きな「コアグラ」ようするに血のかたまりが出てきた。そのあと大量の尿が。カテーテルが尿道か膀胱の内壁に触れて出血して、それがかたまったらしい。
 また、詰まるといけないので、もう少し太いカテーテルにしましょう。太めのカテーテルを入れられる。さすがに痛い。痛かったが、その後はコアグラが詰まることはなく、尿の出は順調になった。
 1週間たった。泌尿器科の受診。8階の病室から1階の泌尿器科外来まで、看護師が連れて行ってくれる。泌尿器科の受付で、小生を連れてきてくれた病棟の看護師から泌尿器科外来の看護師に引き渡される。そこでしばし待たされる。平日の午後ではあるがけっこう外来の患者が多い。小生のように、入院中の他科の患者も何人かいた。小生のように複数の疾病で入院している人はめずらしくないのだな。
 診察室に呼ばれる。常時留置カテーテルを抜かれる。これからは自己導尿しなさいといわれる。
 自己導尿。自分でカテーテルを尿道に突っこんで尿を排出するのである。なんか痛そう。それは、どれぐらいの期間やるのですかと聞く。衝撃的なことをいわれる。
 
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トラキチ酒場せんべろ屋 第14回

「ははは。大笑いやな」
「なにが?」
「きょうの阪神の試合や」
「え、きょう、阪神試合あったんか」
「あったやんか。見てへんかったんか」
「見てたで。サンテレビで」
「セリーグ再開やんか」
「え、あれ試合か。ワシは広島の打撃練習かと思うたで」
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ミスターけしごむの仕事

「おはようございます」
「あ、杉谷さん、おはようございます。もう、いいんですか」
「勝手しましてすみませんでした。熱も下がりましたし、もうだいじょうぶです」
 杉谷は自分のデスクに座った。一週間ぶりである。インフルエンザで寝こんでいたとのこと。
 課長の大北は、この年上の部下に妙に気を使う。他の課員にはあれこれ指示を出すが、杉谷には指示は出さない。杉谷以外にも年上の部下はいるが、杉谷だけは特別扱いだ。かといって課長は杉谷をえこひいきしているのではなさそう。シカトしているのでもない。昼食や飲み会にも課長は杉谷も忘れず声をかける。
「金目電機です。けしごむ三ダースお願いします」
 出入りの文房具屋にけしごむを発注した。社内で使うけしごむの在庫管理と仕入れ。これが杉谷の仕事だ。肩書きは金目電機総務部総務課用度係係長。係長ではあるが部下はいない。
 日がな一日、社内の各所を回って、けしごむの在庫をチェック。といっても、けしごむなんてものはそんなに多量に消費するモノではない。月に一度発注するだけで充分間に合う。
 杉谷の担当はけしごむだけ。ボールペンや鉛筆などの文房具、プリンター用紙、カセットインクなどのパソコンのサプライ用品はあつかわない。ほんとうにけしごむだけである。こんな杉谷に「ミスターけしごむ」のニックネームがついたのは自然なことだ。
 関岡は営業部員。営業部と総務部は隣どおし。大北と関岡の席は背中合わせだ。二人は課長とヒラだが同い年同期入社だ。
「お疲れ」関岡と大北はグラスをあわせた。 会社から地下鉄でひと駅向こう。駅裏の狭い路地のつきあたりに、その居酒屋がある。会社の近くにも適当な居酒屋はあるが、そこは金目電機の社員が多く来ている。他の社員を交えた酒席ならば二人はその居酒屋を使う。二人だけであう時は、ひと駅先のこの居酒屋で飲む。
「今度はなんだ」大北が聞いた。
「きのう、四葉に納めたホーム監視用テレビなんやけどな。えらい欠陥があることが納品後にわかった」
「どんな欠陥だ」
「撮影範囲が狭い」
「どういうことだ」
「カメラの首が三〇度しか回らない。ほんとは一二〇度回るはずだ」
「それでは三分の一しか映せないじゃないか」「で、四葉にはばれたか」
「ばれてない。明日四葉の映像監視システム課の検収を受ける」
 四葉電機は製品を納品しただけでは、納品書に受領印を押してくれない。四葉が預かっているというかたちだ。受領書がないと請求書を受け付けてくれない。支払いも先延ばしになる。しかも製品は四葉の敷地内にあるから保管料を請求してくる。一刻も早く受領印をもらう必要がある。そのためには四葉電機の検収を受けなくてはならない。
「何が悪いんだ」
「カメラ取付台の首のベアリングの受け金具が仕様とは違うものが取り付けられている」
「受け金具の納品先は」
「作本金属」
「作本のミスか」
「発注ミスだ」
「発注者は」
「資材購買課の高来」
「明日までに処置は可能か」
「可能だ。受け金具を交換するだけだ。十五分もあればできる」
「で、どうする」
「会社としてはこのミスを無かったことにしたい。発注ミスの購買、それをそのまま取り付けた工作課、それを見逃した品管。購買課長、工作課長、品質管理課長、三人ガン首そろえて俺に頼みに来た。社長の耳に入れたくないそうだ」
「わかった。ミスすりゃけしごむで消せばいいんだ」

「課長、勝手しました」
「もういいんですか。杉谷さん」
「はい。腰痛もだいぶんマシになりました。私、阪鉄電車の呉影から通勤してるのですが、あの駅のホームの監視用カメラ、わが社製ですね」
「ミスターけしごむ」五年後には自分の会社を消してしまった。
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