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透明カメレオン


 道尾秀介          角川書店

 最初にいっておく。この本、小生のお口にはあわなかった。道尾さんには悪いが、つまらなかった。小生、このブログでブックレビューする時は、原則としては「こんな面白い本がある。お勧め」という姿勢でブックレビューしている。読んだ本は極力、このブログでレビューするように心がけているが、たまにおもしろくない本を読んでしまうこともある。そんなときは、著者と出版社には悪いが「この本面白くない。お勧めしない」という。ただし、小生と同じ趣味思考の人にはという条件付でだ。小生は面白くなくても、面白い人もいるだろう。この本はそんな本である。
 主人公の職業はラジオパーソナリティー。声は良いが顔は悪い。ラジオの仕事が終わると、毎日、いきつけのバー「if」に寄る。「if」の客は常連だけ。主人公の恭太郎。キャバクラ嬢の百花さん。害虫駆除屋の石之崎さん。オカマのレイカさん、仏壇屋の重松さん。そしてこの店のママ輝美ママ。この店には毎夜毎夜、この6人しかいない。
 雨の降るある夜「if」に7人目の人物が飛び込んできた。若いきれいな女性。ずぶぬれの彼女はこういった「コースター」
 このずぶぬれ女ケイはカタキ持ちであった。父のカタキの悪徳産廃業者をやっつけたい。「if」の6人は、このケイのたくらみにいっちょかみすることとなった。
 これだけ見ると面白そうだが、小生はのれなかった。まず、このケイなる女。どうも得たいが知れない。父の仇を殺したいようだが、本気かウソ気かわからない。最後にそのへんは伏線回収がなされるが、そこに行くまでが退屈。このべっぴんのケイは恭太郎のマンションに転がり込んでくるのだが、二人はなにもなし。若い成人男女が同居しているのに、なにもなしとは、さすがに不自然じゃないか。ケイが「しようか」といっているのに。この恭太郎はインポテンツかホモか。どうもどっちでもないような。
 6人がケイのくわだてにのって少々ヤバイ橋を渡るのだが、なぜ6人が知り合って時間が経ってない赤の他人のケイにそこまで肩入れするのかわからない。
 いちよう悪役もいる。父のカタキの産廃業者だが、もひとつ悪役としての迫力を感じない。悪徳不法産廃業者はヤクザ同然、というかヤクザそのものである。真夜中、そのヤクザに素人が殴りこむワケである。こんなんありえない設定だ。命の危険があるはずだが、このヤクザ、どう見ても人殺ししそうにない。
 最後に登場人物の哀しい過去が披瀝されるが、どうもとってつけたようだ。あちこちにひっかけ、言葉遊び、駄洒落が仕掛けてあるが、不自然である。
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阪神、ピッチャーヘボ合戦を制する

首位攻防戦や。その初戦。藤浪がいきなり4点取られて、こりゃあかんわ思うた。でも1点かえしたら、また2点取られて、藤浪KO。あとは乱打戦というかもつれた試合というか、なんちゅうてええんやろ。ピッチャーヘボ合戦やな。藤浪もあかんけど成瀬もあかん。高宮もあかん。でもヤクルトのその後のピッチャーはもっとあかんかった。ろくにストライク入らへん。フルカウントにしちゃ押し出しで点くれより。結局、ピッチャーヘボ合戦で、岩本と安藤が良かったんが阪神の勝因やな。
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とつぜんSFノート 第69回

 SFファンなる人種は、他の文芸のファン諸賢に比べて、群れ集うことが好きなようである。これは日本のSFファンだけではなく、外国のSFファンも同じ。大は世界規模の「世界SF大会」小は同人誌の合宿まで。地球上のSFファンはなにかというと、集まってワイワイ騒ぎたがる。
 小生は独身のころ、文化住宅の一室を借りて1人暮らしをしていた。で、毎週土曜日日曜日ともなると、近郷近在のSFファンどもが小生の部屋にやって来る。もちろん連中は泊まっていく。夜中までワイワイ騒いでいるから、文化住宅の管理人によく叱られた。「ここは山の中の一軒家ではありません」で、それならばというんで、本当に山の中の一軒家を借りて、思う存分大騒ぎをしたことがあった。1985年、神戸で第11回SFフェスティバルが開催された。実行委員長は不肖私がおおせつかったが、その時の合宿所が摩耶ロッジだった。摩耶ロッジを一軒丸ごと借り切って、200名を超えるSFファンどもが夏の夜一晩大騒ぎしたのである。日本冒険小説協会会長の内藤陳さんは本大会も来られる予定だったが、よんどころない事情で合宿だけでも、と義理堅い方である。この写真はその時のもの。
 この時もそうだったし、SF大会などSFのイベントは、本大会もさることながら、ほんとうに楽しいのは合宿である。終電や明日の会社を気にすることなく、同好の士と一晩飲めや歌えやの大騒ぎ。こんな楽しいことはない。
 その合宿に特化したイベントがある。毎年、出雲で行われている。雲魂(うんこん)である。最後の「ん」をとばさないように。SFのコンベンションは愛称に「コン」とつくことがよくある。大阪でSF大会をやれば、大阪の大(だい)に「コン」をつけて「ダイコン」神戸のSF大会なら神(しん)にコンでシンコンというぐあい。で、出雲の雲にコン、コンに漢字を当てはめて雲魂(うんこん)ということだ。
 このイベントの中心人物でかつ雲魂の名づけ親は、昨年惜しくも亡くなった畏友石飛卓美である。
 最近はごぶさただが、昔は毎年秋になると出雲に行った。愛車ホンダ・インテグラを駆って中国道を走る。三次インターで54号線に乗り換え。あとは9号線で出雲まで。大阪から出雲まで600キロを6時間で走るというムチャもした。「おかげさまブラザース」を聞きながら、お仲間とのドライブは楽しい。
 出雲に着くと、上半身裸にチェーンを巻いて、ビール缶片手の、できあがった石飛さんが迎えてくれる。あとは長時間ドライブの疲れもなんのその、飲めや歌えやのどんちゃん大宴会。翌日は二日酔い頭を振りたてて、松江城、島根ワイナリー、日御碕などの島根観光。もちろん松平不昧公のお膝元だから松江名物のおいしいものもいただく。とはいいつつも貧乏なSFファンだから宍道湖の七珍」なんでぜいたくなものは食べない。「ぼてぼて茶」ぐらいは食べた。もちろん出雲そばもいただく。
 ある年、なつかしのフォーク大会というのをやった。一部屋に集まって60年代70年代のフォークソングを大合唱。フォーククルセダース、高石とも也、岡林信康。「友よ~」「あのすばらしい愛をもういちど」「イムジン川水清く」
ギターは石飛さんが弾いた。そこにいるのはみんな同世代。一晩歌いつくした。燃えつきた。真っ白になった。快感。いやあ楽しかった。
 若いころの楽しい思い出である。石飛さんももういない。あの世でまたアレをしましょう。石飛さん。楽しかったね。
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きょうのヒーローもまたまた江越

 今年の前半戦の打の福の神は間違いなく福留やった。ええとこで打ってくれた。で、いまのところ後半戦の救世主は江越やろな。打率は低いが実にええとこで打ってくれる。今日かて同点ホームランに勝ち越しツーベース。
 こりゃ待望久しい日本人長距離バッターの登場か。江越がこのままの調子で成長していくと、相撲の日本人横綱より先に阪神の日本人長距離バッターの方が先やで。
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人はなぜ本の貸し借りをするのだろう

「本の雑誌」今月号は「人はなぜ本を返さないのか?!」という特集。本の貸し借りに関する企画。こんなテーマの特集を企画するなんて、いかにもこの雑誌らしくて面白い。
 小生は、今まで本の貸し借りはしたことがない。家族での本の貸し借りはあるが、家庭外の本の貸し借りはない。小生、自分で読む本は、原則として自分で買う。人から借りた本を読んだことはない。読んでいて、ページの隅を折るし、汚してはいけない。気を使って本を読むつもりはない。また、図書館で借りることもない。期限を切られて本を読むのはいやだ。
 小生は本好きだ。小生の友人たち。SFファンのお仲間も、もちろん本好きである。SFファン仲間とは、40年来の友人という、非常に長いつきあいの友人知人も多い。これだけ長いつきあいの友人とは一度も本の貸し借りをしたことはない。
 本の貸し借りはないが。進呈したことはある。阪神大震災。本棚が破壊されて本が収容できなくなった。交通機関が動くようになってから、SFお仲間を何人か自宅に呼んで、蔵書の半分ぐらいを彼らに進呈した。
 人に本をやったことはあるが、人に本を貸したことはない。借りたこともない。読んで面白ければ人に勧めるし、人から勧められることもある。それであっても本の貸し借りはしない。 
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中日、谷繁さんの記録に花を添えられず

 谷繁選手兼監督の3018試合出場の偉業達成の試合や。さぞかし中日は勝ちたかったやろ。ところが先発山井が大乱調。3回6失点で早々にOK。で、阪神の点はこの3回の6点だけ。山井がひっこんだあとに出てきた4人のピッチャーにおさえこまれて追加点取れず。谷繁の懸命のリードでリリーフピチャーががんばっとるうちに、じわじわと4点とって阪神をおびやかしよる。けんど、安藤、福原、呉昇桓が見事なリリーフで2点差を守る。中日の実力はやっぱそこまでか。谷繁さん、記録も作ったことやし、兼任をそろそろやめはったらどうだす。
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知りすぎていた男


監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジェームス・スチュアート、ドリス・デイ

 サスペンス映画は2種類に分類されるのではないか。巻き込み型と巻き込まれ型。前者は主人公が主にプロで、自分の仕事を達成するために周囲を騒動に巻き込む。観客はその様子を観て楽しむわけ。007なんかがこのパターン。後者は主人公が一般の普通の人で、騒動に巻き込まれる。普通の人が犯罪、陰謀、悪だくみに巻き込まれて、どう解決するかを観てたのしむ。
 この映画は典型的な巻き込まれ型サスペンス映画。主人公は、妻と子供を連れてモロッコ旅行中の医者ベン・マッケンナ。
 ベンはバスの中であいそのいいフランス人と知り合う。そのフランス人と食事の約束をするが、なぜかフランス人は食事の誘いを断る。ベンたち家族だけで食事に行く。そこで老夫婦と知り合う。その翌日ベンは、殺人現場に出くわす。被害者の最後を看取ったベンは被害者から伝言を受ける。
 こうしてベンと妻のジョーは、暗殺事件に巻き込まれていく。息子のハンクも誘拐され、にっちもさっちもいかなくなる。元歌手だったジョーは、行方不明のハンクへのメッセージとして歌を歌う。この歌が、「ケセラ・セラ」歌を歌い終わるまでにハンクは見つかるか?
 ドリス・デイが大変に健康的でチャーミング。
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鉄板イタリアン


 名古屋メシである。名前もこんな名前でスパゲッティではあるが、イタリアではない。名古屋である。イタリアには行ったことはないが、たぶんイタリアに行っても、こんなスパゲッティは食べられないだろう。イタリアでは食べられないが名古屋では食べられる。
 まず、スパゲッティナポリタンを作る。このナポリタンというのも、たぶんナポリに行っても食べられないと思う。用意するモノは、もちろんスパゲッティ。具は、ウィンナーソーセージ、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームだ。まずスパゲッティをゆでる。パスタ料理のパスタはゆでてすぐ調理すべきだが、ナポリタンはゆでてしばらく置いておく方がいい。オリーブオイルを少しふって置いておく。
 ウィンナーなどの具を炒める。ケチャップを入れて味つけ。ケチャップも少し焼いた方がおいしい。ここに置いておいたスパゲッティを入れる。で、スパゲッティナポリタンができた。これを鉄板の上に盛る。南部鉄のステーキ皿を使った。これを火にかけ、溶いた卵を注ぎ入れる。卵がお好みのかたさにかたまればできあがり。最初はお上品にスパゲッティに卵をからませつついただき、あとはガーと全部かき混ぜて食べる。名古屋である。
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たことかぼちゃの煮物


 明石の良いタコが手に入りました。ゆでタコではありません。生のタコです。さて、どうしましょう。ゆでてたこ焼きや、きゅうりとあわせて酢の物、あるいは天ぷらもいいですね。
 うん。煮物にしましょう。冬ならば大根と煮ますが、今は夏なので夏が旬の野菜といっしょに煮ましょう。かぼちゃです。かぼちゃとタコの煮物です。
 まず、タコの処理をします。タコを塩でもんでぬめりを取ります。そして、すりこぎかめん棒、木の棒でタコをたたきます。タコがやわらかくなります。やわらかくしたタコを切って鍋に入れます。水と酒を注ぎます。タコからおいしい味が出ますので昆布やカツオ節などのダシは必要ありません。強火で煮てアクを取ります。砂糖、味醂、醤油で味付けして落としフタをして40分ぐらい煮ます。タコやイカといった軟体動物は中途半端に加熱するとかたくなります。最低40分はじっくりと煮ましょう。タコを煮ている途中でかぼちゃを加えます。どの時点でかぼちゃを入れるかはお好みしだいです。でも、かぼちゃは煮すぎると形がなくなってしまいます。そして大切なことは、煮て火を止めたらしばらく置いておくことです。煮物はさめていく段階で味がしむものです。
 かぼちゃの甘みにタコの旨みが加わっておいしゅうございます。
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阪神 西灘


 阪神電車の西灘駅である。ところが、この駅があるここは、西灘という地名ではない。ここは神戸市灘区都通である。いや、そもそも西灘という地名の場所は神戸市内にない。だから「西灘」が名称になっている施設は、神戸市内には小生が知っている限りでは、この阪神電車西灘駅、西灘小学校、西灘公園、西灘幼稚園、西灘保育所など。いずれも灘区の西の方にある。だから「西灘」というのだろうか。
 西灘があるのだから、東灘があるのだろうか。ある。小生が住いおるここが神戸市東灘区である。いまでは東灘区は神戸市の一番東の区であるが、東灘は神戸のオリジナルメンバーではない。神戸市灘区と芦屋市の間は兵庫県武庫郡といった。その武庫郡の五つの村、本山、本庄、御影、魚崎、住吉は神戸市になるとは決まっていなかった。芦屋市になる。神戸市になる。甲南市として独立した市になる。いろんな意見があったが、結局、神戸市になって東灘区となった。その神戸市東灘区は昭和25年に発足した。だから東灘ができても、灘は灘のままで西灘区とはならなかったのである。
 そういうわけで、この駅の名称の「西灘」は、灘の西部にある駅ということであろう。西の灘ではなく、灘の西なのだ。だったら阪神電車の場合、灘区の東よりの駅に「東灘駅」はあるかというと、ない。この西灘駅から、東の駅は、大石、新在家、石屋川だ。御影は灘区ではなく東灘区だ。
 こいうことを考えると、この駅は阪神電車「灘」でもいいと思う。現にJRには灘駅がある。ところが阪神電車西灘駅はけっこう古いのである。今は阪神本線の駅だが、昔は阪神電車は国道2号線を走る路面電車を持っていた。「金魚鉢」のニックネームの阪神電車国道線の駅として西灘駅ができたのは昭和2年。東灘区よりずっと前である。ではなぜ阪神電車はその駅を「西灘」としたのだろう。阪神電車国道線に「東灘」駅はない。なぜ素直に阪神電車灘駅としなかったのだろう。省線(JRを昔はこういった)の灘駅があったからかな。ところがJR灘はこの阪神西灘の西である。だったら阪神電車国道線西灘駅は「東灘」といった方がわかりやすい思うのだが、そこは、それ、親方日の丸の国鉄に負けまいとする民間企業阪神電車の意地かな。
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藤浪152球完投完封。江越先制ツーラン。

 ええ調子や。若いもんの活躍でがっちり首位固め。阪神先発は21歳の藤浪。152球で完投完封。ピンチらしいピンチは3回の満塁だけで、12奪三振被安打5の完封。まことにあっぱれ。
 打つ方は22歳江越。2試合連続のホームラン。こないだは貴重な追加点やったけど、今日は先制で試合を決めたツーランホームラン。しかも今日は守備固めで大和と交代ではなく試合終了までセンターを守った。阪神のセンター争いがおもしろくなってきた。
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一球

 甲子園球場。阪神タイガースVS神戸ドルフィンズ。セリーグ最終戦。同率首位の両チーム。勝った方が優勝です。
 9回の裏。1対0でドルフィンズがリードしている。ツーアウト満塁。マウンドにはドルフィンズの守護神木崎。フルカウント。あと1球でドルフィンズ球団創設以来の悲願の優勝を実現します。
 阪神のバッターは代打の神様椎山。サインがなかなか決まりません。木崎首を振ります。まだ振ります。キャッチャー緑川マウンドに行きます。相談がまとまったようです。木崎投げました。椎山打ちました。大きい。入りました。代打逆転サヨナラ満塁ホームラン。阪神タイガース優勝。ドルフィンズ悲願達成ならず。

「あれから20年だ」
「木崎さんは野球には未練はないんですか」
「ないね」
 木崎はその年に任意引退。ここS市で保険の代理店をやっている。事務所に電話一つ置いて、客から受けた保険の契約を保険会社に取り次いでマージンを稼いでいる。
「オレのことを憶えている人もいて、草野球に誘われることもあるが、オレはもう野球のボールを持つのはイヤなんだ。マスター、オレのボトルはまだあるな」
「あります」
 鏑木はブラックニッカのボトルを見せた。まだ半分ほど残っている。
「おかわり。ロックで」
「今年は阪神と巨人の一騎打ちになりそうですね」
「そうか。野球の話はやめよう」 
 鏑木は心ないことをいったと反省した。木崎はS市生まれだ。現役のときの自宅は神戸にあったが、引退してS市に引っ越してきた。独身の木崎は市内のマンションに事務所兼自宅を持っている。駅前のかなり古いマンションだ。
 神戸大阪のベットタウンとして人口が増えているS市。新築のマンションも多い。かなり高級なマンションもある。しかし木崎のマンションは老朽化した格安といわれるマンションである。保険の顧客を回っているのも中古の軽自動車で回っている。
 木崎が海神の常連になったのは5年ほど前からだ。有名な野球選手だったから鏑木は木崎のことを知っている。しかし、木崎は自分が野球選手だったことを忘れたいようだ。野球の話はしない。客で木崎のことを知っていて声をかけてくる者もいるが「他人のそら似」といってとぼけている。鏑木もそんな木崎を思いやって極力野球の話題はしないように気をつけていた。今晩はうっかりしていた。
「安い中古車が欲しいんだ。軽でいい。今の車はさすがに寿命なんだ。どっか適当な中古車屋しらないか。鏑木さん」
「わかりました。ウチの常連で修理工場やってる人がいますから、その人に聞いてみましょう」
「頼むよ。できるだけ安い中古でね」
 神戸ドルフィンズの守護神といわれた男だ。かなりの年俸をとっていたはずだ。それが木崎は金に困っている様子だ。ここ海神で飲む酒はいつもブラックニッカ。スコッチやバーボンは飲まない。

 カラン。カウベルがなった。ドアが開いた。足音がして、木崎に近寄ってくる。トン。ウィスキーのボトルが置かれた。バーボンだ。ワイルドターキーだ。
「お前、バーボンが好きだったな。マスター、ロックにしてやってくれ」
「緑川」
「久しぶりだな。吉崎さんが亡くなった」
「知ってる」
「告別式は明日だ。お前も参列するだろう」
 吉崎勇之助。あの時の監督だ。緑川も吉崎も木崎と同じ時期に球団を去った。神戸ドルフィンズは、結局、あの時の2位が最高で、そのあと5位が一度あっただけでずっと最下位であった。もともと不人気球団だったが、観客動員数は減少の一途。親会社も球団身売りを模索したが、買収する企業はなく、10年前に消滅した。少数の選手は他球団に移籍したが、ほとんどの選手は引退した。
「いやだ。オレがどの面下げて、そんな場に行ける」
「あしながおじさんはもういいよ」
「なんのことだ」
「お前、オレの娘の教育資金を出してくれていただろう」
「知らん」
「とぼけてもムダだ。オレにだけではないだろう。おい。入って来い」
 男が3人入ってきた。
「塩沢、荒川、赤城」
 いずれも、元神戸ドルフィンズで野球とは縁を切った男たちである。
「女房が白状したぞ。オレが癌で入院した時、金を出してくれただろう。おかげでオレは命拾いした。お前はオレの命の恩人だ」
「塩沢、再発は」
「6年たった。もうだいじょうぶだ」
「あの時の大量注文があったからオレの会社は立ち直った。おかげでオヤジから継いだ荒川鉄工をつぶさずにすんだ。あれ、本当の注文主はお前だろう」
「白状しろよ木崎」
「なんのことだ。赤城」
「お前はみんなに金を出していただろう」
 ワイルドターキーのロックをひと口飲んだ木崎は、目を伏せた。4人の視線を避けている。
「もう気がすんだろう木崎」
 緑川がいった。 
「あの時、オレはマウンドに行って、空振りを取れるフォークを投げろといった」
「あの日のオレのフォークは安定してなかった。ワイルドピッチになる可能性があった。同点になったかも知れなかった」
「お前は、まかせろといったな」
「そうだ、オレはストレートを投げた」
「そしてお前は打たれた」
「そうだ。あのオレの1球が球団をつぶし、みんなを路頭に迷わせた」
 塩沢が木崎の尻をポンとたたいた。ちょうどピンチにマウンドにかけより三塁にもどる時のように。
「お前だけではない。あの日の4回、オレの打球がもう少し伸びていたら」
「いいや。あそこでオレがバントを決めていたら」
 荒川がいった。赤城もいう。
「そもそもオレがエラーしたから満塁になったんだ」
「キャッチャーにもいわせてくれ。オレのキャッチングがうまければ、お前は安心してあそこでフォークを投げていたはずだ。お前にストレートを投げさせたのはほんとはオレだ」

 甲子園球場。今シーズン初めての阪神VS巨人戦。始球式が始まる。この始球式は元阪神タイガース代打の神様椎山勇次郎氏の発案尽力によって実現した。20年前神戸ドルフィンズという球団があった。今日の始球式はその神戸ドルフィンズの守護神といわれた木崎進氏が務める。なおキャッチャーは緑川義弘氏、一塁荒川信一氏、 二塁赤城宗助氏、三塁塩沢哲郎氏、この日のために元神戸ドルフィンズの選手が集まった。そしてバッターは代打の神様椎山勇次郎氏。
「木崎、投げました。大きな落差のフォークボール。椎山空振り」

 木崎は乞われてS市立S高校野球部の監督を引き受けた。今年の夏、生徒たちを率いて、再び甲子園に行った。 
 
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桂文之助独演会の切符を買った

 会社の帰りしな三宮のプレイガイドに立ち寄る。桂文之助独演会の切符を買う。
 9月12日新神戸オリエンタル劇場にて。この落語会えらい人気だそうで。立ち寄ったプレイガイド割り当て分は、あと少しだった。S席3000円。A席2000円。S席を買う。落語会でS席3000円というのは安いのではないか。普通、ホールの落語会のS席なら5000円か4000円だ。例えば8月16日にサンケイホールブリーゼで行われる、桂米朝追善米朝一門会はS席5000円だ。
 文之助独演会。出演はもちろん桂文之助さん、桂出丸さん、桂鯛蔵さん。文之助さん「地獄八景亡者戯」をやらはるそうな。これは楽しみ。文之助さんの「地獄八景亡者戯」どんなんやろ。NHKの「上方落語の会」で、今度、米團治さんが「地獄八景亡者戯」をやらはる予定。文之助さんと米團治さん、二つの「地獄八景亡者戯」が楽しめる。
 楽しみにしていたマグリット展には行ってきた。次はこの落語会が楽しみ。トシ取るとこういう近い未来に楽しみごとを設定するのが、生きるハリになるもんじゃ。ケホケホ。9月12日が楽しみじゃわい。 
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阪神、ひさびさの快勝で首位?!

きょうは朝から雨が降っておった。昼には止むやろ思うたけど、一日中雨降り。こりゃ、今夜の甲子園は中止やなと思うとった。巨人先発は、何人かおる阪神の天敵投手ポレダ。こりゃ中止になった方がええと思うた。
 で、会社から帰ってメシ食ってテレビつけたら試合やっとう。しかも阪神が勝っとう。苦手ポレダから点取ったんか。取ったんやな。1回いきなり新井の走者一掃の3点タイムリー。
 点、この3点だけでなかなか追加点取られへん。例によってチャンスは作るけどタイムリーが出えへん。と、思うとったら6回ルーキー江越のホームランで待望の追加点。
 いやあ。今日は久々に阪神快勝といってええやろ。先発能見は崩れそうになりながらもなんとか持ちこたえたし。呉昇桓はちゃんと3人でしめたし。良かった良かった。
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フォークリフトのワザ

 人がやっていると簡単そうに見えるが、経験を積んだプロはそれなりのワザを駆使して仕事をしているのである。
 小生は資材購買仕入れ業務は30年やっているプロだ。こういう仕事だから必要だからフォークリフトの運転もする。だから小生はフォークリフト専業のプロではないが、長年やっているからそれなりのワザを持っている。
 同じ製品を造っている工場なら、仕入れる材料も同じで、定められたパレットに乗って納品されるだろう。だから、そんな工場のフォークリフトの運転は、基本的なワザだけで仕事ができるだろう。ところが小生の勤める工場は、一品生産の工場である。いろんな形状のモノが納品される。だからフォークリフトもいろいろなワザを使わなければ荷降ろしはできない。
 行儀良くパレットに乗っている荷物。これは基本ワザで降ろせる。パレットにフォークの爪を差し込んで、少し持ち上げ、フォークリフトをバックさせる。荷を下げて所定の位置に降ろす。
 パレットに乗ってはいるが、トラックの荷台の向こうの方にある場合。こういうときは必殺2段すくいを行う。フォークの爪の先をパレットのへりにひっかけて手前に引く。いったん荷を降ろして、あとは基本ワザと同じ。
 爪が届かない場合。ワイヤーをパレットにひっかけてフォークリフトで引っ張って手前に引き寄せて降ろす。
 荷物がパレットに乗せられていないでバラ積みの場合。空のパレットをトラックの荷台に上げて、その上に荷物を乗っけて基本ワザで降ろす。
 荷物が重量物で人力で持てない場合。荷物の下にすきまがあれば、そこに爪を入れて、すきまを大きくして枕木を噛ませる。そこに爪を入れて降ろす。
 パレットに乗ってはいるが、パレットの爪差込口がこっちを向いていないときもたまにはある。積み込みもフォークリフトで積むのだから、こんなことはないのだが、フォークでなくクレーンで積んだ場合にはこういうことになる時もある。そんな時は、ワイヤーで引っ張ったり爪の先で突いたりしてパレットの向きを変える。
 バラの重量物で、どうしてもフォークリフトですくえない荷物もある。そんな時はしかたがない。クレーンで降ろす。クレーンがふさがっていて使えない時もある。そんな時はフォークリフトで降ろす。フォークリフトをクレーンとして使うのである。ワイヤーなりスリングベルトなりを、荷に玉掛けして、それのアイをフォークの爪の先にひっかけて吊り上げるのである。こういうことをやるには玉掛けの資格が必要だが、小生はフォークリフトの免許とともに玉掛けの資格も持っている。
 小生が会社で使っているのは三菱の3トンのフォークリフト。最大で3mまでマストが上がる。これだけの吊り幅があれば、たいていのモノは吊れる。
 ま、こういうワザを使いながら毎日仕事しています。ようはトラックの荷台を見て、安全に(人間にも荷物にも)荷を降ろすには、どんなフォークリフトワザを使えばよいか判断することである。
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