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SFマガジン2018年2月号


SFマガジン2018年2月号 №725 早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 サイバータンクVSメガジラス ティモシー・J・ゴーン 酒井昭伸訳
2位 マリッジ・サバイバー     澤村伊智
3位 タイムをお願いします、紳士諸君 アーサー・C・クラーク&スティーブン・バクスター           中村融訳
4位 からっぽの贈り物 スティーブ・ベンソン 中村融訳

連載
先をゆくもの達(新連載) 神林長平
筒井康隆自作を語る♯5
「『虚人たち』『虚航船団』の時代」   筒井康隆
椎名誠のニュートラルコーナー(第55回)
岩石回廊               椎名誠
マルドゥック・アノニマス(第18回) 冲方丁 
忘られのリリメント(第6回)     三雲岳斗
マン・カインド(第3回)       藤井大洋
幻視百景(第12回)         酉島伝法
近代日本奇想小説史[大正・昭和篇](第34回) 横田順彌
SFのある文学誌(第56回)     長山靖生
アニメもんのSF散歩(第20回)   藤津亮太

オールタイム・ベストSF映画総解説 PART3
特集・「ガールズ&パンツァー」と戦車SF
アーサー・C・クラーク生誕100年記念特集

 なんだこの表紙はバカにしてんのか。SFマガジンはアニメオタク専門誌に変わったのか。知らなんだ。ワシはSF専門誌だと思っていた。だいたいワシはテレビアニメは観ん。よって「ガールズうんぬん」とかいうもんは観てない。観ない。興味もない。じゃによって特集は読んでない。とはいいつつも小説は読む。「サイバータンクVSメガジラス」は面白かった。これは拾いもんであった。
 半年にわたって掲載された「オールタイム・ベストSF映画総解説」やっと終わる。これで編集部のお好きな映像関係の企画をやり終えてご満足だろう。次から心を入れ替えて、まじめにSFをとりあげてくれ。
 ご覧になればお判りだろう。クラークの特集は欄外に小さく記してある。アニメや映画よりもクラークの扱いが小さいとは。嘆かわしきことこの上なし。
どうせなら、山ほども有る連載を一旦休止して、クラークの代表作「幼年期の終わり」か「都市と星」あるいは「宇宙のランデブー」「楽園の泉」といった長編をどーんと一挙掲載してみろ。
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反則でないワザを使ってなぜいかんのだ

 大相撲初場所はジョージア出身の栃ノ心の優勝で終わった。横綱白鵬は途中で休場した。小生は相撲はさして興味はないが、なんでも白鵬は立会いの張り手カチ上げを封印されたため調子が狂ったそうだ。かようなワザは横綱の品格にかかわるとかで、注意を受けたそうだ。
 これ、おかしな話である。張り手、カチ上げは別に反則ではないのだろう。白鵬が横綱だから文句をいわれたのだろう。平幕力士がかようなワザを使っても叱られないだろう。ランキングによって使うワザを規制するとはなんとも不思議なことだ。野球の投手が、チェンジアップだのフォークボールといった球を投げれば叱られるということなないだろう。
 それに相撲で立会いの変化や、引き技を使えば、ひんしゅくをかうわけで、これもおかしい。反則でないワザを使ってなぜいけない。そんなにダメなワザなら反則にすればいいだろう。
 かようなワザばっかりくり出して絶対に負けない横綱が出てきたら面白いのな。横綱遠州灘の登場が待たれる。
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この世界の片隅に


監督 片渕須直
出演(声) のん、細谷佳正、尾身美詞、小野大輔、潘 めぐみ、岩井七世

 小生は、この災害の多い国の国民をながいあいだやっているわけだから、けっこういろんな災害にあってきた。台風は毎年経験する。大きいのでは子供のころ第二室戸台風にあった。神戸市民だから阪神大震災でも被災した。しかし、かような自然災害は恐ろしく困ったものではあるが邪悪ではない。なぜなら自然災害は悪意がないから。ところが戦争は邪悪である。
戦争には悪意がある。低気圧は人を殺そうと思って台風になるわけではない。断層も同じ。殺意のある地震はない。彼らは揺れているだけ。たまたまその上にいた人が被害にあうだけ。空襲で飛来する爆撃機は邪悪である。彼らが落とす爆弾には殺意がこもっている。私の母は私と同じ西宮生まれで、三つの大きな災厄を経験した。大水害、大空襲、大震災。この中で一番恐かったは大空襲だったという。
広島の海苔づくりの家の娘すずさん。ボーとした娘であるが絵を描くのが好きないたって気のいい子。すずさん、みそめられて18歳で呉にお嫁に行く。夫は優しく姑もよくしてくれる。出戻りの小姑は少しきついが、姪はすずさんになつく。
 戦前のことである。戦局はだんだん悪くなる。配給制となり食料も乏しい。すずさん、いろいろ工夫してなんとか食べものをやりくりする。
 昭和18年、昭和19年。空襲が日に日に激しくなる。すずさんも姪を亡くし自分の右腕も失う。昭和20年。そしてあの日がやってきた。
 戦前戦中の話である。そのころの広島と呉のごく普通の庶民の生活を優しく描いている。表現された画面は美しく、主人公すずさんのまわりの人はみんないい人。これが時代が10年前後にずれていれば、ほんわかしたアニメで、それはそれで、なかなかな佳品になっていたと思うが、頭の上を爆撃機が飛ぶ時代としたことで、善意の人善意の街も、邪悪の黒いとばりが覆うことで、生活は時代の縛りから逃れられないことがよく判る。
 決して声だかに反戦を訴えている映画ではない。それだからこそ、よりいっそう戦争の邪悪さがよく判る。悪意のない爆弾はない。人を殺しモノを破壊する兵器だからだ。すずさんの姪を殺し彼女の右腕を奪った時限爆弾。この爆弾にたいへん邪悪なものを感じた。不発弾と思って安心していると、突然爆発。底知れぬ邪悪さ悪意殺意を感じる。
必見の映画だと思う。

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エビみそ


 なんもおかずがないとき、常備してるメシの友があると便利である。炊きたての白いメシにメシの友さえあれば、それで1食すますことができる。栄養的にはモンダイかも知れんが、それは、ま、別の食事の時に補充したらいい。
 今回は、そんなメシの友を一品紹介しよう。エビみそである。作り方はいたって簡単。用意するのは、エビと調味料だけ。今回はゴボウがあったのでそれも使った。エビは殻をむき、小エビならそのまま、大きなエビなら適当に切る。ゴボウも切る。
 エビとゴボウを炒める。エビの色が変わりゴボウが食べられるやわらかさになったら調味料を加える。味噌、酒、砂糖、それに隠し味にマヨネーズをちょっと入れた。少し煮ればできあがり。
 これを炊きたてのホカホカご飯にのっけて食べるとうまいぞ。
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マグロキムチ丼

 
 プロレスにタッグマッチという試合形式がある。2人(3人の時もある)が一組になって試合をする。リングに上がるのは1人だがタッチして交代で試合をする。
 名タッグとなると1+1が3にも4にもなる。山本小鉄+星野勘太郎、スタン・ハンセン+ブルーザー・ブロディ、ザ・ファンクス、ロードウォリアーズなどなど。
 マグロとキムチ。両方とも白いご飯にとってもよくあう。ほかほかの白いご飯に、醬油とワサビをつけたマグロを乗っけて食う。たまりませんな。キムチも白いご飯によくあう。
 そのマグロとキムチがタッグを組んだ。ここに稀代の名タッグチームが誕生したのである。白いほかほかご飯というリングの上で絶妙のタッチワークであなたの食欲をノックアウト。青ねぎとしそがセコンドにつき、ゴマがレフレーをつとめる。
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とつぜんSFノート 第97回

 小生たちSFファンの活動の基盤は本を読むことだろう。映画や漫画アニメばっかり観て、本をまったく読まない者はSFファンとはいえない。SFファンと本の関係は不可分の関係なのだ。
 SFファンは本を読む。だからSFファンには蔵書家が多い。故野田昌宏氏や石原藤夫博士はその頂点であろう。水鏡子のように個人で2000万もかけて書庫を作った人もいる。ハヤカワの銀背コンプリートとかSFマガジン全巻揃いとかを持っている人は少なくないはず。
 以上のように本をためこむSFファンも多いが、小生はかようなコレクション癖はない。SFマガジンは1967年9月号№98から最新号まで全巻そろえているが、他の書籍類は必要最低限しか保管していない。小生は、本は読むために買う。読まない本は買わない。買った本は必ず読む。
 書棚は2本しか持っていない。40年以上SFファンをやっている者としてはたいへんに少ない。この2本の書棚がいっぱいになれば、整理して不要な本は処分する。
 読む本は必ず買っている。図書館で借りることはない。いつまで読めという期限を決められて本を読みたくない。また、人から借りた本を詠むこともない。読む本は必ず自分の本である。そういえば、小生のSF関係の友人はいずれも長いつきあいの人が多い。みなさんとは40年以上のつきあいだ。小生、その長いつきあいの多くの人と、本の貸し借りをしたことは一度もない。
 本の購入は新刊書店に足を運ぶ。ネットでも買えるが、やはり実際に紙の本を手にとってみたい。書店の棚を見て歩くのは本好きにとってはなによりもの娯楽である。古書店にもときどきは行く。古書店でも本を買うが、著者が知り合いの場合、その本は古書店では買わない。必ず新刊書店で買う。古書店でその人の本を買っても、その人には1銭もお金は入らないだろう。
 電子書籍もいいが、いまのところ導入する考えはない。小生のように蔵書をしない者は本の置き場に困ることもないだろう。それにあれは決済はクレジットだろう。小生、ネットでのクレジット決済はやはり不安である。ネットでモノを買うこともあるが、必ず代引きかコンビニ決済にしている。
 と、いうわけで本代にはけっこうお金を使う。小生はギャンブルは宝くじをときどき買うぐらい。服やファッションにも不頓着。お酒は飲む。本代と酒代を節約すれば、そう金は使わない男だと自分では思っている。
 
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寒い

 ううさむ。さむおまんな。天気予報のねえちゃんがこの冬一番の冷え込みといっておったが、そのとおりや。落語の「鉄砲勇助」やないけど、ほんま「おはようが凍る寒さ」やで。
 この寒さがワザしたんか知らんけど、めずらしく、ワシ、寝坊してしもた。午前4時が定刻の起床時刻やのに、布団から出たんは4時半。30分も寝坊してしもた。で、うがい手水に身を清め、朝食の後、6時には家を出る。
 自転車で駅まで行くのやけど、この時が一番寒い。厚手のジャンパー、マフラー、手袋、カイロ、マスクという最強耐寒装備でも寒い。
 駅に着く。電車を待ってる時間はいつもは本を読んでるけど、今朝は両手をポケットに入れて小さく縮こまっているから本を読めない。電車の中で本を読む。JRから地下鉄に乗り換える。地下の駅に入るとほっとする。あったかい。地下鉄の中はもっとあったかい。いつまでも地下鉄に乗っていたいけど、そんなわけにもいかん。
 会社に着いた。午前7時。屋外に設置してある温度計を見ると氷点下4℃。CEタンクの点検とバルブの開放をやって自室に入ると、部屋の中は氷点下3℃。ダイキンくんを動かして、輻射式のストーブと温風器のスイッチを入れる。なかなか温まらない。
 こんな寒い日は散歩はお休み。とっとと帰ってホットウィスキーでも飲もう。
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奇想天外 復刻版


山口雅也編著        南雲堂
 わお。奇想天外だ。うう、なつかし、うれし。日本で唯一のSF専門誌と称するSFマガジンの劣化がとまらず、SF専門誌としての義務も責任も放棄したいま、あの奇想天外誌の復刻は干天の慈雨か荒野の泉か。
 表紙のイラストが懐かしの楢喜八。さっそくページをめくってみよう。目次のレイアウトも第2期奇想天外のものだ。
 「奇想天外」編集主幹の曽根忠穂さんへのインタビュー。第1期は福島正実、小鷹信光が編集顧問につき、第2期は小松左京、星新一、筒井康隆がアドバイザーについた。などなど、小生のような古狸SFファンにとっては興味深い話がいっぱい。
 短編小説もいっぱい載っている。H・F・エリス、ロッド・サーリング(あのロッド・サーリングである。ミステリーゾーンの)、エヴァン・ハンター(エド・マクベイン)、ヘンリー・カットナー、マック・レナルズ&オーガスト・ダーレス、鈴木いずみ、フィリップ・ホセ・ファーマー、そして大和眞也(「カッチン」再録)どうだ、この陣容、いかにも奇想天外じゃないか。懐かしさに涙ちょちょぎれるとはこのことだ。
 そして、最後にあの伝説の、第1回奇想天外SF新人賞選考座談会。新井素子を強力に推す星新一VS新井の文章についていけない小松左京&筒井康隆。結局、星さんの熱心さに小松、筒井ご両所が譲歩。星さんの慧眼である。その後の新井素子の活躍はご存知のとおり。
 このようなうれしい復刻版を世にだしてくれた山口雅也氏には感謝と慰労の言葉をささげる。こういう企画が次にあるのなら、編集はぜひ、永遠のSF少年で、奇想天外出身の山本弘氏にやってもらいたい。
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曜変天目茶碗とMI6


 21日の日曜日、「チャチャヤング・ショートショート・マガジン」5号の寄稿者が集まった。一杯やりながら合評会をしようというわけである。
 大阪は梅田の待ち合わせ場所の大定番、紀伊国屋書店の前で午後6時に集合。D・Dハウスへ移動。地下の炉辺焼き居酒屋にはいる。生ビールで乾杯。つき出しが出た。豆のたいたんの妖女であった。このつき出しの器の底を見てびっくり。ごらんのとうり、曜変天目茶碗ではないか。現存する曜変天目茶碗は三個だけ。いずれも国宝。(なんでも鑑定団の四個目はどうもあやしい)うーむ、この店はつき出しの器に国宝級のモノを使うのか。おそるべしD・Dハウスの炉辺焼き八角。桂米朝師匠の十八番「はてなの茶碗」ではないが、店にかけあって、この器を大枚はたいてあがなおうと思ったが、万が一ニセモノだったらいけないのでやめた。ビールのあと八海山と新政を飲んで、いろいろ食って作品の批評をしあって店を出る。
 2次会はいつものMI6の秘密基地。曽根崎のザ・ブラーニー・ストーンという店。ビルの6階というあまりよく判らない場所にあるお店だが、これがなかなか面白い。本格的な英国風パブで、生バンドが演奏してるし、ビリヤードがある。スタッフも客も外国人が多いから、小生たちはあそこはMI6のたまり場に違いないといっている。フィッシュ&チップスをアテにラフロイグとボウモアを飲む。
 ハッと気がつくと11時を過ぎていた。帰宅は12時。久しぶりにたくさん飲んだ。満足。で、翌日はちゃんと4時に起床。6時前には家を出た、まじめに出勤したのである。
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バーフバリ 王の凱旋


監督 S・S・ラージャマウリ
出演 プラバース、プラサード・デーヴィネーニ、アヌショカ・シェッティ

 映画は見世物である。見世物は、うんと派手でにぎやかな方が面白い。本作はインド映画である。それでなくとも派手でにぎやかなインド映画の中でもこの映画はいちだんとパワーアップしている。
 映画だからいちおうストーリーはある。王位継承権をめぐるいさかい。そのいさかいに負けた王子の放浪の旅。旅先での小国の美しい姫との出会い。王の横恋慕。そして結婚。嫁と姑の確執。家来の裏切り。これらのストーリーは破天荒な画面を次々にみせるためのレールといっていいだろう。
 インド映画であるから、もちろん歌って踊る。本作は歌踊りよりもアクションがメインディシュだ。手をかえ品をかえ、次々とさまざまな大チャンバラを見せてくれる。アクションだけではない。後半、王子が婚約者の美しき姫を故国に連れていくのだが、川を帆船で航行する。このシーンがたいへんに美しい。帆をいっぱいに張った船が空を飛ぶ。空飛ぶ帆船である。ともかくはじまってから終わるまで、全篇を通じて異様なパワーでおしまくる映画である。理屈はいらん。文句があるか。これを喰らえ。そして圧倒されてひれふせ。
 ローアングルの笠智衆が「紀子はまだ帰らないのか」などという、おとなしい映画もいいが、映画の本質は見世物ということを考えると、本作の方が映画の王道を行っているのではないか。
 めちゃくちゃ面白かった。満腹である。ごちそうさん。ゲップ。
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オールドパーをホットで飲む


 オールドパーである。上等のウィスキーの代名詞のような酒である。ジョニ黒が社長の酒ならば、オールドパーは宰相の酒といっていいかも知れない。なんでも吉田茂や田中角栄が愛飲したとか。竹下登が創政会を立ち上げた時は、田中のオールドパーの飲酒量が増えたとか。
 例によって、封を開けて最初の一杯はストレートで飲む。たいへんにまろやかで香りもいい。寒いから2杯目はホットで飲む。きんかんの甘露煮を1個グラスの底に沈める。お湯を注ぐ。お湯の割合は1対3。オールドパーを50cc入れたからお湯は150cc入れる。湯温は80度ぐらいがいいだろう。シナモンのカケラを入れて香りをだす。こんな上等のウィスキーをホットなんてもったいないかも知れないが、これはこれで温かくてたいへんにおいしい。  
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牛もつ鍋

 
 冬である。冬には鍋を食うべし。これは国会で青島幸男が決めたのだ。さて、どんな鍋にしようかな。おや、なんや、なんでこんなところにプロレス漫画があんねん?

肉だ。肉だ。お前は肉になるのだ。丸いお鍋のジャングルに~。今日もお肉が乱れ飛ぶ。ルール無用の牛肉に、正義のキャベツをぶちかませ。
行け行け、昆布だし。昆布だしでしょううゆ味。
 牛もつ沈む鍋の底。ほえる味醂、酒、砂糖の無法者。6センチに切ったニラをひるがえし。仕上げにうどんを入れてやれ。行け行け、小腸。牛の小腸。
 たぎるヤカンの湯の中に、今夜もお酒がとびこんだ。チロリの中の池田呉春。とびきり熱燗飲んでやれ。行け行け呉春。熱燗の呉春。
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アドバイス

 眼があったというのかな。こっちは単眼、あっちは複眼なので不思議なことだが、私にはそう思えた。
 その時は少し酔っていたことは確かだ。最終のバスも出たあと。駅から家まで歩けば三十分はかかる。タクシーに乗ってやろうと思ったが、あいにく一台も停まってないし、きれいな月の夜だ。酔い覚ましに歩いた。
 いつもはバスで通り過ぎるこの道だが、歩くと、けっこう自然が残っている。
 里山を切り拓いてできた新興住宅地である。通勤に二時間近くかかる。こういうところだから私でもマイホームが持てたのだろう。
 ご他聞にもれず、子供のころの夏休みの自由研究は昆虫採集だったが、昆虫のことなど大人になれば、すっかり忘れている。
 そんな私でも、そいつが甲虫類であることぐらいは判る。ようするにカブト虫の仲間だ。元昆虫少年のなけなしの記憶をたどっても、そんな甲虫は知らない。でかい。大人の握りこぶしぐらいだ。日本で最大の甲虫はカブト虫だ。そいつは、あきらかにカブト虫よりでかい。だれかが飼っていた外国産の甲虫が逃げ出したモノか。
 イチョウの木の根元にごろんと転がっているそいつが、首を上げてこちらに顔を向けた。視線が合った。複眼のヤツの視線はどの視線かわからないが、ともかく私にはそう感じた。
「オレヲ、ツレテカエレ」
 そういっているように「感じ」た。拾って持ち上げた。思ったほど重くない。バックに入れた。中でおとなしくしている。
 以前、飼っていたセキセイインコの鳥カゴが物置にあるはずだ。
 午後十二時過ぎの深夜だ。妻はもう眠っている。彼女をおこさないように、静かに物置の中を探す。あった。鳥カゴ。とりあえず、そいつを鳥カゴに入れた。
 その時、ふと気がついた。オレはこいつを飼おうとしている。昆虫なんかに興味のないオレが。なぜなんだろう。
「なあに、この虫。気持ちわるいわ。どうしたの」
「きのう帰りしなに拾ったんだ」
「こんな大きな虫イヤだわ。捨ててよ」
「めずらしい。虫なんだ。大クワガタなんかなん万円で売れるんだぞ」
 欲をからめて妻を説得して、飼うことにした。
 手間のかからない虫である。なんでも食べる。きゅうりの端っこ、にんじんの皮、魚の内臓、鶏肉の切れはし。何を入れてもむしゃむしゃとよく食べる。手がかかることは、黒い仁丹のような糞を掃除して捨てることぐらい。
「ごちそうさん。では行って来る」
 朝食をすませて、着替えをして玄関に行こうとしたら、カゴの中のそいつと目があった。
「ヤメロ」そいつはそういった。いや、こんな虫がものをいうはずがない。私がそう感じたのかもしれない。
 靴を履いていると妻がそこに座った。
「あなたのいいようにしてください。貯金もまだ有るし」
 会社が早期退職者の募集を始めた。対象は四十五歳以上。私は四十九歳だ。妻のいうとおり貯金もある。子供がいないから夫婦でしばらくは食べていける。でも私は迷っていた。ついさっきまでは。やりかけている仕事に未練もあるし、会社には愛着もある。でも、もう決めた。退職する。なぜ、こう決心したのか判らない。何かが私の心を動かしたのだ。
「退職届けにハンコを押してきたよ。わずかだが退職金に割り増しがつくよ」
「出かける」
「あら、どこへ」
「ハローワーク」
「ゆっくりなさったらいいのに」
「いや、早く次の仕事を見つけなきゃ」
 私もしばらくはゆっくりするつもりだった。ところが、昨夜、夜中にトイレに立った時、あいつがいった。
「ツギノシゴト。ハヤクミツケロ」
 ハローワークで何件か求人検索をした。これはと思うのを二件見つけた。
「チカクガイイ」
 結局、近くの食品会社に内定をもらった。ここなら自転車で通える。
「あなた。お願い。あの虫捨てて」
「なぜだ」
 私があいつのアドバイスで動いていることは妻にはいってない。
「なんか、気持ち悪いわ」
 夜中にトイレにたった。
「アノオンナヲ、コロセ」
 台所に行って包丁を持ち出した。妻が寝ている寝室に入った。包丁をふりかざした。

                      
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とつぜん上方落語 第20回 三十石

 カミガタ星雲第3肢の恒星ミヤコは七つの惑星を持っている。そのうち生命が存在する星は、第4惑星フシミである。
 惑星フシミは水もあり、大気、重力は地球型だ。太陽であるミヤコからの日射量も適当な量で、フシミはこの星域のハブ惑星となっている。ここから25光年離れた惑星イセ。そのイセにはカミガタ星雲のみならず、アンドロメダ星雲、銀河系など広く宇宙全域で信仰されているオイセサン信仰の中心地ナイグウがある。そのナイグウを参拝した人々は、フシミで旅の疲れをいやし、それぞれの故郷に帰っていくのだ。
 フシミ最大の空港チュウショジマ。その空港のホテルにはたくさんの人たちが集まっている。
「では宿帳に記載しますので、お名前をいってください。では、そちらのお方から」
「リック・デッカート」「キムボール・キニスン」「アナキン・スカイウォーカー」「ノースウェスト・スミス」「田所優作」「犬神明」「ジョン・カーター」
「そちらのお女中は」
「デジャー・ソリス」「クラリッサ・マクドゥガル」「青鹿晶子」
「そちらのロボットは」
「C3PO」「アトム」「ウラン」「R2D2」「T-2000」
 みんなはこのホテルで一泊。翌日、チュウショジマ宇宙空港には最新の恒星間旅客船「サンジュッコク」が係留されている。1000人の乗客を収容する、その白銀の「サンジュッコク」は太陽ミヤコの陽光を受けてメタリックに輝いている。
 乗客全員が乗りこんだ。船はこれより、航路ヨドを通り3度のワープを経て、カミガタ星雲第7肢の恒星オオザカの第3惑星ハッケンヤへと向かう。
「反重力ジェネレータースイッチオン」
「スイッチオン」
「浮上用意」
「ちょっと待って」
「スイッチオフ。浮上中止」
「どうした」
「女性が1人乗り遅れた。乗船は可能か」
「可能だ。出発を20分遅らせる」
「乗客の皆さんにお知らせします。出発が20分遅れます」
「どうしたんだ」
「なんでも女が1人乗り遅れたらしいぞ」
「あ、CAさん。ここ空いてますよ。その女性、この席にどうですか」
「おまえ、その女知ってるのか」
「ああ、さっきちらと見た。えらいべっぴんやで」
「さあ、この席にどうぞ」
「はいはい。親切なお方」
「うわあ。えらいおばあさんや」
 こうして乗客全員が乗り込んだサンジュッコクはふわりとその巨体を宙に浮かせた。フシミの衛星軌道まで来たサンジュッコクは、核融合エンジンに点火。2光年先のワープポイントまで一気に飛んだ。最初のワープ。実体化したのはヒラカタ星系である。実体化したサンジュッコクはこのヒラカタ星系でしばし停まる。船体のメンテナンスと乗員の休憩のためである。この時、もの売りの小型宇宙船がサンジュッコクに接舷。「くらわんか。くらわんか」とヒラカタの名物を売り歩くのである。
このあとサンジュッコクは2度のワープを経て、カミガタ皇帝タイコー陛下の治めるオオザカはハッケンヤまでの旅となる。 
サンジュッコク夢の通い路なかばでございます。 
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23年前はありがとうございました

 あれから23年か。もうふた昔以上もの時間が流れていった。1995年1月17日午前5時46分。私の住いおる神戸は巨大な災厄に襲われた。1995年1月17日午前5時45分は平和な冬の早朝であった。14、15、16と三連休があけて、今日から仕事だという朝である。早起きの私は起きていた。布団の中で目を覚まし、さて、布団から出ようかと思っていた時、突然、ドーンと下から突き上げられた。ふわっと身体が浮いたような気がした。次の瞬間、上下に激しくゆすぶられた。
 大きな不幸である。私も阪神大震災で、知っている限りでは5人の知人を亡くしている。この大震災は大きな災厄不幸であることは間違いないが、こういう巨大な不幸の中で人の優しさ善意に触れたのも事実である。
 地震直後、私は家族を連れて近くの小学校に避難した。小学校の体育館には多くの避難民がいた。私たちの家族もなんとかスペースを確保して腰を落ち着けた。隣はフィリピン人のご一家だった。このフィリピン人のご一家がたいへんに良くしてくれた。あとから来た私たちに場所をあけてくれた。子供に食べ物を分けてくれた。
 翌日、私は大阪に向かった。もちろん電車は動いていない。尼崎まで歩いた。そこからは阪神電車が動いていた。大阪まで出て食べ物やその他必要なモノを仕入れて神戸の避難所まで帰ってきた。私が留守中のことを聞くと、フィリピン人ご一家が、小さかった子供の遊び相手になってくれ、大変に助かったとのこと。
 翌日、神戸市北区に住む弟が来た。北区は地震の被害はなかった。老母と子供を弟に託し、私たち夫婦は大阪に出た。私が入手し切れなかったモノの調達と洗濯と、それから入浴もしたい。大阪市内の宿はどこもいっぱい。泉佐野に空いた宿があった。その夜はそこに泊まり洗濯し、久しぶりに入浴もした。翌日、泉佐野から大阪までは電車で、大阪から尼崎までは電車が動いていた。そこから先は電車は不通。国道2号線を夫婦二人でとぼとぼ歩いて神戸に向かっていた。後ろから来た車に声をかけられた。「あんたたちどこまで行くんだ」「神戸です」というと「俺も神戸だ。乗ってけ」
 神戸まで乗せてもらった。お礼をいうと。手を振ってさっさと行ってしまった。ありがたかった。おかげで大変に助かった。
 23年前のあの地震。確かに大きな不幸ではあったが、人の優しさ善意が身をもって知った体験でもあった。あのフィリピン人ご一家と、国道2号線の車のおじさん。あらためてお礼をいいます。23年前はどうもありがとうございました。
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