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セッション


監督 デイミアン・チャゼル
出演 マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ

 前世紀、ニッポンに梶原一騎という人がおった。漫画原作者である。このおっさんが手がけた漫画のジャンルに「スポ根」モノというのがある。「スポーツ根性モノ」根性でスポーツの上達をめざすというお話。代表的なモノとして「巨人の星」「柔道一直線」「あしたのジョー」など。いずれも物語のコアは鬼みたいなコーチと根性でがんばる教え子の根性物語。そんな20世紀のニッポンの古典芸能といってもいいスポ根ドラマ映画がアメリカで創られるとは思わなんだ。
 アンドリューは音楽学校でドラムを学んでいる。一流のドラマーになる意欲と野心は充分。そのアンドリューに目をつけたのが学校一の鬼教官フレッチャー。
 このフレッチャー、教え子を絶対ほめない教師。「上達した」とは口が裂けても教え子にいわない。そんなフレッチャーに見込まれたアンドリュー、猛烈なシゴキに絶えながらドラムの猛練習。スティックを持つ手の股が裂けて流血。太鼓に血が飛び散る。それでもフレッチャーの猛シゴキは続く。手を出してアンドリューをビンタ。差別用語を連発して悪口雑言・罵詈讒謗・面前罵倒、手で口でアンドリューの全人格を否定する。別のドラム練習生をほめて、あて馬にする。もう、むちゃくちゃ。
 最後は、学校を辞めたフレッチャーと退学したアンドリューが再会。アンドリューはジャズフェステバルでフレッチャー指揮でドラマをたたく。この最後のドラムソロはすごかった。入魂の鬼気迫るドラム演奏。結局、フレッチャーは本心アンドリューのことをどう思っていたのか、よく判らぬまま映画は終わる。
 主人公はアンドリューだが、この映画はフレッチャーという特異な音楽教師を観る映画である。アンドリューはフレッチャーを際立たせるための触媒にすぎない。この映画でフレッチャー役のシモンズはアカデミー助演男優賞を受賞したが、本当は主演男優賞の方がふさわしい。またシモンズだけではなく、アンドリュー役のテラーも素晴らしかった。
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春の海の酒の肴


 もうすぐ春です。ここ神戸の春の使者は海からやって来ます。イカナゴです。これがないと神戸に春は来ません。稚魚の新仔はクギ煮にします。成魚はフルセといいます。フルセはさっとあぶって二杯酢で食べるとおいしいです。
 神戸のイカナゴ漁はまだ解禁されてません。試験操業は行われました。知り合いの漁師さん聞くと、不漁が予想されるとのことです。心配です。
 神戸は解禁されてませんが、近くのスーパーの店頭にフルセと新仔の釜揚げが並んでました。兵庫県外のモノでしょう。
 衝動買いしました。ついでにホタルイカも隣にあったので買いました。これは格好の酒の肴です。
 ホタルイカは酢味噌でいただきます。フルセはもちろん焼いて二杯酢で、新仔はかき揚げにしました。ひと足先に春を感じました。お酒は道灌です。
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タラのビール揚げ


 天ぷらのようで、天ぷらでない。べんべん。フライのようでフライでない。べんべん。それはなにかとたずねれば、あ、ビール揚げ、ビール揚げ、ビール揚げ、べんべん。
 ビール揚げである。中身は白身魚。今回はタラを使った。タラに塩こしょうして小麦粉をまぶす。衣をつくる。天ぷらは卵と冷水と小麦粉で衣を作るが、ビール揚げは、冷水の替わりにビールを使う。
さて、ビールでできた衣にタラをつけて180度ぐらいの油で揚げる。揚がった。皿に盛ってルッコラとレモンを添える。マヨネーズとケチャップも用意して、お好みでつけて食べる。サクッと揚がっておいしい。残ったビール?もちろん飲む。それだけじゃ足らんから、もう1本。 
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とつぜんSFノート 第76回

 群馬県草津温泉。今はどうか知らないが、33年前は、関西からは遠かった。1982年5月。小生はこの遠い温泉街に星群の仲間と行った。小生も、仲間もべつだん温泉めぐりの趣味はない。
 今もそうだが、当時も貧乏人だった。旅費を安くあげるため関西から寝台特急で東京まで行った。8時間。上野で乗り換え、吾妻線の長野原まで3時間。えんえん12時間の旅行であった。吾妻線を走る列車の社内に浪曲が流れる。車内でだれかがラジオを鳴らしているのだ。
 なんの用で、こんな遠い草津くんだりまで遠征したのか。宇宙塵25周年記念大会が、この草津温泉であった。宇宙塵主宰者の柴野拓美さんには、われわれ星群の会はひとかたならぬお世話になっている。万難を排しても参加しなくてはならぬ。東京で行われた「宇宙塵20周年を祝う会」にも参加したし。
 長野原の駅を降りバスに乗る。このあたりは高原。いかにも高原という空気であった。20分ほどで草津温泉に到着。草津のシンボル湯畑が有る。その湯畑のすぐ前のホテル大東館が会場。聞くところによると、このホテルの若主人が熱心なSFファンで、自分のホテルを宇宙塵25周年イベントに提供したとか。
 ホテル内に入る。まずは柴野さんにごあいさつ。矢野徹さんたちはすでに到着されていてビールを飲んでおられる。
 会場の大広間に座る。参加者は100人ほど。小生たちのようなSFファン、作家、翻訳家といったプロも多数おられた。顔見知りの人とはあいさつを交わす。
 イベントが始まった。最初のプログラムは「第100回宇宙塵月例会」通常、宇宙塵の月例会は東京の目黒で行われるのだが、この時は25周年記念ということで草津温泉出張版月例会となった。ふだんの月例会なら参加者の自己紹介をするのだが、100人を超える参加者。プロの人の紹介だけがなされた。
 あと、「星雲賞ノミネート発表」パネルディスカッション「宇宙塵のSFファンダムに対する功罪」
 で、休憩。せっかくだから温泉に入る。大浴場で入浴。豊田有恒さんや高千穂遥さんと湯船であう。豊田さんとは何度かお会いしたこともあるし、言葉を交わしたこともあるが高千穂さんとは初対面。小生が風呂場で初対面のあいさつを交わした作家は、あとにも先にも高千穂遥さんただ一人。
 午後6時過ぎからイベント再開。「宇宙塵賞授与式」宇宙塵掲載作品コンテストで1位になった作者全員に賞状と記念品が贈られる。もちろん小生は宇宙塵の愛読者だった。このころの宇宙塵はなんと月刊で刊行されていた。この当時の宇宙塵の方が、今のSFマガジンよりよっぽどエライ。お名前と作品は知っていたが、実物を拝見するのはこの時が最初の人多数。旧知の人も何人かおられた。
 さて、イベントも終わって、夕食、そしてなにより楽しい宴会のお時間。
広間で車座になって酒を酌み交わす。小生たち星群がかたまって飲んでいると、輪の中の矢野さんが手招き。「おい星群、こっちに来ていっしょに飲め」古いSFファンはご存知の人もいるかと思うが、矢野徹さんのお酒はものすごく楽しい。小生たちは矢野さんにしこたま飲まされたのである。
 ものすごく楽しい一夜が明けた。少々ふつか酔いぎみ。二日目の最初のプログラム作家講演。だれが講演したのか失念した。いろいろ調べたが判らない。遠い記憶を探ると、たぶん豊田さんと眉村さんではなかったか。このあとクイズ大会があっておひらき。昼食を食べて草津をあとにする。上野までは来た時と同じルート。東京からの帰りは、さすがに新幹線を使った。帰りは小生たち星群と、どっかの大学のSF研究会の若いのといっしょの新幹線。大阪に着いた。ちょうどいい夕方。ちょっと一杯飲んで行こうということになった。大学SF研の若いのはびっくりしてた。「ええ、いまから飲むんですか」「そうや君もどや」「よくそんな元気が残っていますね」
 くたくたに疲れた若いのをほって、小生たちおじさんは夜の梅田に消えていったのである。
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王とサーカス


  米澤穂信      東京創元社

 太刀洗万智は新聞社を辞めた。新聞記者は辞めたが、ジャーナリストは辞めない。いま、ネパールのカトマンズに来ている。知り合いの雑誌社がアジア特集をする予定なので事前取材を兼ねての旅行だ。
 そのネパールで重大事件勃発。王宮で皇太子が国王、王妃、その他王族を殺害、自殺を計る。
 現地にいた太刀洗に、雑誌からこの殺人事件の記事作成の依頼が。彼女にとってフリーになって初めての仕事だ。早速、取材を開始する。泊まっている宿の主人のツテで、事件当日王宮にいた軍人に接触する。その軍人が殺される。死体の背中には「infomer」=密告者と読める傷跡が。
 ネタばれになるので、くわしくは書けないが、ミステリーにミスディレクションという手法がある。この小説はその手法がとられている。
 小生はSFものであって、ミステリーファンではない。そんな小生ではあるが、後半に入ったところで、真相は推理できた。当たっていた。だから、この小説のミスディレクションは成功とはいいにくい。
 それと、主人公の女性フリーライターの太刀洗万智。ジャーナリストとしての心得や、ジャーナリズムについて自問自答し、殺害された軍人や、同じ宿の日本人僧侶との問答によって、自分の仕事に真摯に向き合う真面目なモノ書きであることはよく判った。しかし、それだけ。彼女のキャラが立っていない。独特のクセや、仕事にこだわっていることは判ったが、それ以外にこだわっていること、など、キャラを立てる工夫が欲しかった。これじゃ、ただの女性フリーライターだ。ただじゃなくて、特異なフリーライターにした方が読者としては面白い。
 
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料理関係の資料も整理する

 3月25日からセリーグ開幕。ありがたいことに、ここ関西では阪神タイガースの試合はほぼ全試合、地デジかBSで観られる。それからは月曜以外、帰宅後の夜の楽しみは、タイガースをテレビで応援することだ。
 小生はテレビではドラマは観ない。バラエティも観ない。定期的に観ているのは「すずらん本屋堂」「ブラタモリ」「美の壷」「上方落語の会」「日本の話芸」などだけ。だからプロ野球のシーズンオフは夜は時間が開いている。
 昨日は上方落語のDVDの整理をしたと書いたが、上方落語と同じく小生の趣味である料理関係の整理もする。
dancyu」「オレンジページ クッキング」「料理百科」などどいった雑誌の切り抜き、インターネットの料理関係のサイトをプリントアウトしたもの、「きょうの料理」「グレーテルのかまど」「おかずのクッキング」といった料理番組のホームページをプリントアウトしたもの。その他いろいろ。などなど、なんやかんやとバインダーやらファイルにほうりこんである。
 小生、もう20年以上料理を趣味としているから、たいていの料理はソラでできるが、参考でレシピを観たい時もある。そんな時は、目的のレシピをひっぱり出すのにいつも苦労していた。情報なんてものはストックして置くだけでは意味がない。必要な時にパット出せてこそ役に立つ情報といえる。いつか整理しなくてはと思っていた。で、料理関係の資料の整理も始めたわけ。
 これから阪神タイガースが始まるまで、原則として、火曜の夜は料理関係、木曜の夜は落語関係の整理をするとしよう。SF関係もあるのだが、こちらは、またそのうちに。 
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一生分の退屈しのぎ

 小生にはコレクション癖はない。本は読むが、蔵書といえるほどの本は持ってない。読まない本は買わない。買った本は必ず読む。だから積ん読をしない。読んだ本の再読もしない。だからときどき、古本屋に本を売りに行く。
 そんな小生がゆいいつコレクションしているのが、上方落語。DVDで保存してあるから、小生の猫額マンションでもコレクションできるのだ。特にブルーレイに替えてから、1枚のDVDに収録できる量が増えたので大助かり。
 今はプロ野球がないから、阪神タイガースを見なくてもよく、夜に自由時間が多く取れる。だから整理を兼ねて古いもの順に、落語コレクションを見て行く事にした。早速、一枚目を観た。ろくに分類整理をしていないので、たぶんそれが1枚目だろう。
 見たのは、桂米朝師匠の「地獄八景亡者戯」高座が始まる前に、小佐田定雄さんと師匠が対談しているが、お二人ともお若い。小佐田さんはまだ黒々と毛がある。米朝師匠は50代後半か60代前半か。テレビからの録画だが30年近い昔と思われる。このころはDVDなんてものはないからビデオテープへの録画だ。DVDに切り替えた時、たくさんあったテープを全部、お皿に移し変えた。
 こういう古いテレビの録画を見る時、CMが興味深い。映画は古いものでも見れるが、古いCMを見る機会は少ない。タバコのCMが入っている。昔はタバコのテレビCMが放映されていたのだ。今昔の感がある。
 こういうわけで上方落語のコレクションはあるし、SFマガジンは1967年9月号から1号欠かさずあるし、小生は一生分の退屈しのぎには困らないのだ。
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切られ与三郎


監督 伊藤大輔
出演 市川雷蔵、淡路恵子、富士真奈美、中村玉緒、浦辺粂子、小沢栄太郎

 ♪いきなくろべい みこしのま~つに いきなすがたのあらいがみ しんだはずだよ おとみさん いきていたとは おしゃかさまでも しらぬほとけの おとみさん えーさおー げんやだな
 という春日八郎が歌ってヒットした「お富さん」もともとは歌舞伎の「与話情浮名横櫛」それを映画化したのがこの映画。
 ろうそく屋の総領養子与三郎。義理の親に実子ができたので、家督を継ぐことを遠慮。家を出て放蕩三昧の身の上となり、三味線の腕を生かして糊口をしのいでいる。
 江戸を出て木更津流れ着いた与三郎は、料亭の色っぽい女将お富とワリない仲となる。ところがお富は地元の網元のかこいもの。与三郎は全身を切られす巻きにされて海に。
 それでも生きていた与三郎は旅芸人一座に救われる。ここでも与三郎は女役者と男女の関係に。その女役者もヤクザの親分のめかけに。与三郎は親分を殺したとしてヤクザに追われる身。さらにはおたずね者として御用のスジにも追われる。
 凶状持ちのならず者として江戸に帰った与三郎は、ゆすりたかりに行った家でお富と再会。ここが有名な歌舞伎の名場面。

え、御新造(ごしんぞ)さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、
いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ。

しがねぇ恋の情けが仇(あだ)
命の綱の切れたのを
どう取り留めてか 木更津から
めぐる月日も三年(みとせ)越し

 このあと、与三郎は、なんと義理の妹とまで抜き差しならぬ関係に。と、与三郎は三人の女を不幸にしたわけだが、与三郎は自分から女にいい寄ったことは一度もない。この与三郎、女難というより、男難をふりまいている。女から見ればなんとも迷惑千万な男だ。
 原作が舞台劇の歌舞伎だからか、ちょっと引いた位置からのカメラで、二次元的な感覚で画面ができていて、舞台を見ているような映像であった。その映像が大変に美しかった。




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とり天丼


 天丼である。天丼というと、エビ、あなご、あるいは野菜のかき揚げなどが、ご飯の上に乗っかってることが多いが、きょうは違うもので、天丼をつくろう。鶏だ。鶏肉で天丼を作る。
 鶏の天ぷら。大分の郷土料理。それをご飯の上に乗せて丼物とする。鶏肉は胸肉を使った。もも肉の方がうまみが濃いが、胸肉のほうがさっぱりしているので、天ぷらのタネとしてはいいのではないだろうか。
 まず、肉に下味をつける。おろししょうが、おろしにんにく、薄口醬油、塩、こしょうを肉にまぶして、しばしおいておく。
 さて、しばし、たった。肉の水気をふいて、粉をまぶす。卵と冷水と薄力粉の衣をくぐらせ、油で揚げる。
 肉を揚げる前に丼つゆを用意しておこう。かつお、昆布出汁に味醂と醬油で味をつける。おっと、ご飯を炊いておくのを忘れてはだめ。炊き立てのあつあつご飯を丼鉢によそっておく。
 ご飯に丼つゆをかける。揚げたての鶏の天ぷらを乗っける。天ぷらにもつゆを少しかける。で、あとはかっこむだけ。
 小生、丼物でいちばん難しいのは、丼つゆの量だと思う。「つゆだく」とかいって、じゃばじゃばの丼を喜ぶムキもおられようが、小生は、あれは邪道だと思っている。丼物はご飯、具、つゆの渾然一体となった、丼鉢という小宇宙を楽しむモノである。
なにごともバランスが大切。それが、つゆばかり多いのでは、幻魔に侵食された銀河である。スターウォーズでもいっていたではないか。クワイ・ガン・ジンがアナキン・スカイウォーカーのことを、フォースにバランスをもたらす者と期待してたわけ。ところが、アナキンはフォースのダークサイドに囚われてオビ・ワンに負けて、ダースベイダーとなったわけ。つゆが不必要に多いということは、丼のフォースのバランスをくずしていること。ダースベイダーが吉野家にはいったら、きっとつゆだくと注文するだろう。これではいかんワケで、ベイダーはルーク・スカイウォーカーとの対決によって、ダークサイドから解放され、バランスの大切さに目覚め、ちゃんとした丼を注文するだろう。
フォースとともにあらんことを。 
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昼飲みセット


 関西ではあまり聞かないし、ワシもやったことがないけど、昼から酒が飲める場所といえば、そば屋ちゅうことになっとる。ワシはアル中やないさかい、昼から飲むちゅうことはないけど、ま、たまには昼でも飲みたいときはあるもんや。けんど、わざわざ、そば屋に出かけるのんはめんどうや。
 しゃあないから、家で昼飲みセットをしつらえたわけや。そばは京そば。つゆは常備しとる「かえし」で作った。あとは焼き海苔、いたわさ。わさびはチューブのんやのうて、本わさびをおろしたで。ほんまはサメの皮のわさびおろしを使こうたらええんねんけど、陶器のおろしでおろしたで。卵焼きは関西風のだし巻きや。
 さて、でけた。飲もか。酒は呉春や。
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恥ずかしくない

司会の総務部長が壇上に上がった。
「今年の社員旅行は特別です。今年は、わが中津電気創立50周年です。ですから社長のおはからいで、ここ、湯玉温泉にこのような豪華な旅行ができました。今夜は無礼講です。飲み放題食い放題カラオケ歌い放題です。思う存分飲んで食って歌って、うんと英気を養ってください。では、社長からひとこと、お言葉をいただきます」
「ええ、こうして創立50周年の旅行ができますのも、ここにおられる社員のみなさんのご尽力のたまものと、まずはお礼申し上げます。まことにありがとうございます。思い起こせば50年前、会長、私の父が吉田の地に、小さな配電盤工場をつくったのがわが社の始まりです。最初は工場用配電盤の修理などをやっていましたが、有線の通信機器の製造を手がけ、四葉電機通信機製作所さまに出入りするようになり、有線、無線、通信機器はいうにおよばず、光通信、衛星通信など、通信機器を主力とする総合電子機器メーカーとして、四葉グループでは確固たる地位を築いてまいりました。おかげさまでわが社は関西の四葉電機協力工場ではトップの位置におります。しかし、社員のみなさま、今年はわが社の曲がり角といえます。四葉さまも、西芝、JEC,月横、淀通などとの厳しい競走にさらされております。コスト削減は大命題です。これからも四葉さまのご要望に応え、わが社としても、さらなるコスト削減を実行しなければなりません。では、みなさん、今夜は思う存分お楽しみください」
 夕方の6時である。みんないいかげん、おなかも減っているしノドも乾いている。目の前の膳には山海の珍味がてんこ盛り。3人にひとつでしゃぶしゃぶの鍋が用意されている。ビールも並んでいる。ごくりとつばを飲みこむ音が聞こえる。あとは副社長が乾杯の音頭があるだけ。壇上に副社長ではなく総務部長があがってきた。
「ええ、いつもお世話になっている四葉電機通信機製作所外注管理課さまより、素晴らしい贈り物をいただいております。メッセージを読み上げます」
「中津電気のみなさん。いつもわが四葉電機の生産にご協力いただき、まことにありがとうございます。わが社は日本の通信インフラはわが社が支えているとの自負を持っております。どうか中津のみなさんも、そのような四葉の仕事をしていることのほこりを持って日々の業務に励んでください。ささやかですが、外注管理課有志で、この宴会に差し入れをさせていただきました」
 総務部長がその「差し入れ」を持ってきた。包み紙を開けるとサントリー・オールドが1本入っていた。
「どうもありがとうございます。このオールドはビンゴの景品とします。さて、そろそろ、乾杯といたしましょう。副社長お願いします」
「では、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます。えー、四葉電機さんのご発展と中津電気のいっそうの社業の発展を祈って、乾杯」
 みんなノドが乾いて腹が減っていた。待ちに待たされたわけだから、飲み食いは一気にヒートアップ。
てんこ盛りの膳は瞬時になくなり、しゃぶしゃぶにに取りかかる者多数。牛のしゃぶしゃぶである。牛肉を腹いっぱい食うなんてことはこんな機会でないとない。鍋にどっと肉を盛り込んで、山盛りにしている。それをろくにポン酢もつけずにほうばる。野菜もあるが見向きもされてない。宴会は瞬時に酒池肉林馬食鯨飲の修羅場と化した。
 酒もビールから日本酒、さらにはウィスキーと替わった。最初は上品にロックや水割りで飲んでいたが、面倒とばかりアイスペールにウィスキーを注いで飲んでいる。水割りじゃ薄まると、ビールや日本酒で割って飲む。それも薄いとスコッチをバーボンで割る。
 しゃぶしゃぶの鍋を持って縁側に出る。中の汁を庭に捨てる。その鍋にワインを入れてしゃぶいしゃぶする。こんな宴会、醸造家が見たら卒倒するだろう。
 新入社員が一気飲みさせられている。巨乳の女子社員の胸元に醬油をどばどば入れて、それに生の牛肉をつけて食う。
「おい、さっき風呂場をのぞいたら、もうちょっとで女湯が見えるぞ。なんぞ踏み台はないか」
 ビールケースをかかえて何人かが走っていった。部屋の四隅ではゲーゲーと小間物屋を店開き。いやがる女子社員に抱きつく、チューするボインをさわる。お尻をなでる。
「さあ、カラオケ大会です。最初はだれですか」
「ワシやワシや」
 社内1のトラキチといわれる男が上がってきた。
「ろっこうおろしに さっそうと そうてんかける にちりんの」
 歌詞が判るのはそこまで。あとはステージで泣き崩れた。
「うう、ワシが阪神日本一を見たのは30年前や。ワシ生きているうちに阪神日本一見れるやろか」
「見れん見れん。金本じゃあかんで」
「だれや。出て来い」
 トラキチの牙城たるこの会社では絶滅危惧種の巨人ファンの専務が出てきた。
「ボケ巨人ファンはすっこんどれ」
「なに、ワシは専務やぞ。お前はクビや」
「なにが専務や、このなんにもセンムが」
 専務は元四葉の資材部長で中津に天下り。仕事らしい仕事もしないので、なんにもセンムと陰口をたたかれている。
「このこの」
 本人もそれを気にしているらしく、泥酔状態でトラキチ男につかみかかった。
「お前なんかゴミやないか。中津電気は四葉のゴミ捨て場や」
「ああ、ケンカならよそで。今から社長が美声をご披露くださる」
「いよっ社長」
「大統領!」
「ごけごろし」
 女子社員がいっせいに席を立った。
「これ、後藤くん、どこ行く」
「ちょっとおトイレ」
 その時、おり悪しくトイレから帰ってきた女子社員がいる。ミス中津といわれている美人だ。
「おお、三玉くん。こっちこっち。給料倍にしたるで」
 社長が手招きした。三玉は逃げようとしたが、みんなに押さえこまれて無理やりステージに引きずり上げられた。
 社長はいやがる三玉の肩に手を回し、もう一方の手でマイクを握って歌いだした。
「こころの そこまでしびれるような といきがせつない」
「いよっ待ってました」
「十八番銀恋」
 社長はいつも女子社員を引っ張り上げて「銀座の恋の物語」をデュエットする。
 さて狂乱の一夜があけた。月曜日から中津電気の51年目がじまる。

 朝礼である。
「えー、みなさん、おはようございます。きょうから中津電気も51年目に入ります。わが社の社員はどこに出してもずかしくない人ばかりです。どうか中津社員であることをホコリに思って、これからもお仕事にはげんでください」
 みんな神妙に社長の訓示を聞いている。そしてホコリを持って仕事をめるのである。


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高速神戸 新開地


 この駅には神戸を走るJR以外全部の鉄道が集結している。阪神、阪急、山陽、神戸の4私鉄が乗り入れているわけ。だから、この駅から、有馬、京都、奈良まで電車で行くことが可能だ。いわば神戸のハブ駅といってもいいだろう。
 この新開地は、神戸を代表する歓楽街。庶民的な娯楽供給地だ。ボートピアといった競艇の舟券売り場もあるし、大衆演劇の劇場もある。今となっては絶滅危惧種の映画館ともいえる名画座もある。さらには、大阪は天満にある、上方落語の常設寄席繁昌亭が、ここ新開地に建設が計画されている。上方落語ファンの小生としてはたいへんに楽しみである。新開地に早く繁昌亭ができて欲しい。
 小生の高校は湊川にあった。新開地のすぐ近くである。だから、高校生の小生がよくこのへんをウロウロしたものだ。最近はそんなことはないが、昔は、夜間、ご婦人が一人で歩くことをためらうような所もあったが、最近はそんなことない。ヤの字のつくそのスジのお兄さんたちもよく見かけた。歩くのにちょっとしたコツがいる場所だったが、今は安心して歩いてもいい。
 小生が高校のころは、この新開地に聚楽館という映画館があった。確か、今、ラウンド1がある場所にあったと記憶する。この映画館で「大脱走」や「ミクロの決死圏」などを観た。
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モナドの領域


 筒井康隆   新潮社

 筒井さんご本人の弁によれば、「わが最高傑作にして、おそらく最後の長編」とのことだが、筒井さんの年齢を考えれば、「最後の長編」というのは、そうかも知れないが、「最高傑作」というのは、いささか疑問だ。この作品が、「俗物図鑑」や「虚航船団」よりも上とは思えぬ。
 読み始めて、まず感じたこと。これはベテラン手だれの筒井さんが書いた小説だから、納得して読み進められたが、作者名を知らずに、読んでおれば「なんじゃいな、これ。素人かいな」と思うであろう。そういう書きっぷりであった。これは、はたして筒井さんがボケて下手になったのか、筒井さん一流のテクニックなのか判らぬ。後者であることを願う。
 冒頭は、猟奇的な事件から始まる。若い女性の片腕、続いて片足が発見される。捜査に当たったのは美男の警部。
 バラバラ事件の現場近くのパン屋。美大生がアルバイトしてる。その美大生が人間の片腕そっくりのパンを焼いた。このパンが評判を呼び、たいへんな売れ行き。このパン屋の常連に美大の教授がいる。この教授に異変が。人のことをいい当てる。初対面の相手の名前を正確にいい当てる。アドバイスを求める者には的確なアドバイスを与える。
 そして教授は「ワシはこの身体を借りているだけ」といいだし、登場人物も作者も、それをGODといいだす。
 GODを崇拝する人は増える。あたかも新興宗教の教祖のようになる。ようするに、このGODとなんぞやと、筒井さんはいいたかったのか。
 いわんとすることは、判らぬではないが、もひとつ未消化な感じがせぬでもない。小生には、大変に失礼ではあるが、年寄りのくりごととしか読めなかった。
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スターウォーズを愚考する

昨年の暮れ、「スターウォーズ エピソードⅦ フォースの覚醒」を観た。12月28日の映画レビューで書いたとおり、エピソードⅦは第1作目のエピソードⅣの焼き直しであった。
 小生、このシリーズの大ファンだ。今までの7作すべて映画館で観て、先行6作のDVDも持っている。うすれゆく記憶をたどれば、1作目は大阪は梅田のOS劇場、2作目は神戸の阪急会館、3作目はSFのお仲間と梅田の阪急プラザ劇場で観た。初期三部作を観た映画館はぜんぶ今はない。
 そんなわけで、7作目を観たのを契機に6作を観なおした。製作順ではなく、ジョージ・ルーカスの構想どおり、エピソード1から順番にエピソードⅥまでを観た。いろいろ気づいた点もある。帝国軍の兵士。年代が古い時代はドロイドの兵士だったのが、年代が新しくなると人間の兵士となる。EP3で、中央指令センターがやられると、全兵士が動かなくなることの反省からか。EP4でオビ・ワンがR2-D2やC3-POと会った時。オビ・ワンはこの2体のロボットとは旧知の間柄だったはず。それが初対面のようだった。そのC3-PO、製作者はアナキンだろう。だったらダースベイダーになつくはずだが、ルークになついているのが不思議。とまあ、重箱の隅つつきはいくらでもできるが、全体的な印象としては大変に娯楽性に富んだ映画シリーズである。
 ご承知のように、このシリーズ、EP1~EP3までの主役がアナキン・スカイウオーカー。EP4~EP6の3作の主役はルーク・スカイウオーカー。いうまでもなく、アナキンとルークは親子である。このシリーズを父と子の相克の物語と見ることができる。
 ここで、二つの父と子の物語を引き合いに出す。「美味しんぼ」と「巨人の星」である。ここに三組の父と息子がいる。アナキン・スカイウォーカーとルーク・スカイウォーカー。海原雄山と山岡士郎。星一徹と星飛雄馬。
 アナキンはジェダイであったが、シスのダークサイドにとらえられて、ダースベイダーとなり、共和国を裏切り皇帝の僕となった。息子ルークは最後のジェダイとなって帝国と戦う。二人が戦うのはフォース。アナキン=ベイダーは親子の情に負けて皇帝を倒して、自らはルークに倒される。死の直前、皇帝の僕ダースベイダーからルークの父アナキン・スカイウォーカーになる。
 海原雄山は偉大な芸術家である。芸術のために母を犠牲にしたと士郎は思っていた。二人が戦うのは料理。二人は料理人ではない。調理実務はしない。いかなる料理をプロデュースするかが勝負。料理のセンスとコンセプト、知識の勝負。偉大な芸術家の父と一介の新聞記者の息子。勝負にならないようだが、息子士郎は父への対抗心と意地でけっこういい勝負をする。この父と子は和解する。
 星一徹は幻の史上最大の名三塁手といわれた選手だったが、戦争で身体を壊して球界を去る。しかし野球への未練を断ちがたく、自分が果たせなかった夢を息子飛雄馬にたくして英才教育をほどこす。そして飛雄馬は巨人のピッチャーとして球界にデビューする。そして父一徹は敵中日ドラゴンズのコーチとして息子飛雄馬に立ち向かう。そして、飛雄馬はおかしげな魔球の投げすぎで腕を壊してしまう。
 こうして見ると、健康な精神の親子はアナキンとルーク親子だけだな。山岡士郎はマザコンでファザコン。星一徹は息子コンプレックス=サンコンだ。いずれにしても、この三組の親子、なんらかのモノに囚われているワケ。スカイウォーカー親子はフォースに。海原親子は料理に。星親子は野球に。戦いの舞台は銀河、キッチン、野球場と大きい小さいはあるが、構造は同じなのだ。
 ところで、このスターウオーズシリーズで最大の謎がある。アナキンの父でルークの祖父はだれなのか。母で祖母はEP1に出てきたシミ・スカイウォーカーだけど、アナキンの父についてはシミは何も行ってなかった。もし、これから造るEP8とEP9が大当たりしたら、エピソードマイナス3~マイナス1が造られるかも知れない。そうなるとアナキンの父親。仮にシムラとしておこう。(ルーカスは黒澤の崇拝者)シムラ・スカイウォーカー編ということになる。
整理してみよう。
スターウォーズ エピソード-3 フォースの誕生
             -2 シスの勃興
             -1 ジェダイの集結
      以上、シムラ・スカイウォーカー編

スターウォーズ エピソード1 ファントム・メナス
             2 クローンの攻撃
             3 シスの復讐
      以上、アナキン・スカイウォーカー編

スターウォーズ エピソード4 新たなる希望
             5 帝国の逆襲
             6 ジェダイの帰還
     以上、ルーク・スカイウォーカー編

スターウォーズ エピソード7 フォースの覚醒
              8 皇帝の復活 
              9 銀河大戦
     以上、レイ・スカイウォーカー編

 で、全12作。うう、もしこれが実現したら、ぜひ12作一気に観たい。あと何年後かな。そのころ12作一気みする体力があるかな。
 フォースとともにあらんことを。   
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Uボート


監督 ウォルフガング・ペーターゼン
出演 ユンゲル・ブロホノフ、ヘルベルト・グレーネマイヤー

 潜水艦モノ映画もいろいろある。「眼下の敵」「クリムゾン・タイド」「海底二万哩」など。その中でも、この映画は最高傑作といっていいだろう。
 第2次世界大戦当時のドイツのUボート乗組員は4万人。そのうち3万人が戦死したとか。ものすごく過酷な任務だったのだ。どう過酷だったのか。たっぷりと、しかも大変にリアルに第2次世界大戦当時の潜水艦内部の様子を、この映画は見せてくれる。
 お話そのものは単純なモノだ。軍港を出港した1隻のUボート。任務は敵国の貨物船を撃沈して、敵の補給路を断つこと。しかし、敵も駆逐艦が護衛についている。爆雷攻撃を受ける。だいじょうか?
 映画を観る時は、主人公たちに感情移入して観る。カモシカが主人公なら、ライオンが迫ってくるとヒヤヒヤする。ライオンが主人公なら子育てのためにカモシカが捕れるよう応援する。これがヘタな演出なら、しょせん他人事、ヒヤヒヤも応援もしない。この映画の場合、艦長をはじめUボート乗組員たちが主人公。監督のペーターゼンが、ものすごくうまい。
 出港して何日も何日も大海原を航行してるだけ。いいかげん嫌気がさしてくる。やっと敵を発見。敵艦撃沈。目の前で死にゆく敵兵たち。敵駆逐艦に発見される。爆雷攻撃を受ける。
 70年前の潜水艦である。最新のそうりゅう型潜水艦や原潜ではない。ローテクである。「潜航」と号令がでると、どどっと走って艦首に固まる。艦首に重しをかけて艦首を下げる必要がある。「浮上」となると艦尾に走る。そんな潜水艦が爆雷を受ける。かろうじて逃げてもソナーが探ってくる。敵が放つソナーの音が死神のささやきのよう。できるだけ深く潜航しないと逃げられない。設計上の最大潜航深度は90m。200mを超える深さまで潜る。水圧で艦の各部がギシギシ音がする。あちこちから水が噴き出す。火災も起こる。なんとか敵は通り過ぎた。浮上できるか。排水タンクをブローする。200mを超えた深度計の針が動かない。
 たいへんな緊張感に満ちた映画である。潜水艦の戦いの恐ろしさ、というかある意味戦争そのものの恐ろしさを描いた、反戦映画の傑作といえる。
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