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とつぜん対談 第126回 イノシシとの対談

 ここは神戸は六甲山の麓、区でいうと東灘区です。坂道です。この坂道を上がったところに保久良神社があります。この保久良神社の境内でその方と待ち合わせをしてます。
 ハーハー。あーしんど。やっと保久良神社に着きました。けっこう急な登り坂です。息が切れます。鳥居をくぐって、まずはお参りをしましょう。ん。横の草むらがガサガサ。イノシシさんが出てきました。

雫石 
 こんにちは。

イノシシ
 ブヒー。

雫石
 え、なんですか。

イノシシ
 ブヒー。ブヒブヒ。

雫石
 イノシシ語でしゃべられても判りません。

イノシシ
 なんの用ですか。

雫石 
 ちょっとお話を。

イノシシ
 ぼくなんかの話が面白いのですか。

雫石
 ぜひ。

イノシシ
 なんの話が聞きたいのですか。

雫石
 ここ神戸は大きな都市なのに街中で野生の動物のイノシシが見られる珍しいところです。なぜ神戸のイノシシは街中まで出てくるんですか。

イノシシ
 そんなこと、ぼくに聞いても判りません。ぼくたちは、ただ食べ物が食べたいだけです。

雫石
 街中にはエサになるもんが多いんでしょうね。

イノシシ
 ところで、最近、ハガキは出しましたか。

雫石
 え、なんですか。いきなり。暑中見舞いをなん枚か出しましたが。

イノシシ
 それにぼくの絵を描きましたか。

雫石
 暑中見舞いに干支の絵は描きませんよ。年賀状にはあなたの絵を描きましたが。

イノシシ
 なぜです。

雫石
 なぜって、昔からの習慣で。

イノシシ
 干支は正月だけのモノではないでしょう。今年、2019年は一年中ぼくの年でしょう。

雫石
 そうですね。

イノシシ
 干支ってなんですか。ことしはぼくの年でしょう。ぼくを大切にする年ではないんですか。お正月だけ、その年の干支の動物をちやほやするんでしょ。

雫石
 大切にしてるじゃないんですか。

イノシシ
 鹿は干支にないですね。ところが奈良の鹿は大切にされてます。ぼくは干支に選ばれたのに、鹿ほど大切にされてませんよ。

雫石
 奈良の鹿は神の使いだからでしょう。

イノシシ
 そうでしょう。だからぼくたちイノシシも神の使いになろうと、いろんな神社に行きましたが、断られました。

雫石
 失礼ながら、イノシシは鹿ほど頭が良くないからでしょう。

イノシシ
 バカにしないでください。ぼくたちはけっこう頭がいいんですよ。犬なんかより、ぼくたちの方が頭いいんですよ。鹿なんかバカですよ。

雫石
 でも、猪突猛進といって、イノシシって真っ直ぐにしか走れない単細胞じゃないんですか。

イノシシ
 じゃ、いまからぼくと競走しましょうか。ぼくがほんとに真っ直ぐにしか走れないかどうか。ぼくは曲がれるし急停止もできるんだよ。

雫石
 イノシシは人に危害を加えるんじゃないですか。

イノシシ
 そんなことはありません。ぼくたちは、ほんとは臆病でおとなしい動物です。人間がへんなことするから、思わず噛みついたりするんです。

雫石
 もっと、きみたちと仲良くしなくてはいけないな。

イノシシ
 別に仲良くしなくても、ぼくたちに干渉しなければいいんです。

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とつぜん対談 第125回 しゃもじとの対談

 ここはとあるお宅です。高級住宅地の大きなお屋敷ではありません。JRの駅から少し歩いた住宅地の建売住宅です。
 きょうの対談相手はここの主婦です。専業主婦でずっと家庭を守ってこられました。きょうの対談相手はおしゃもじさんです。

チャイム
ピンポーン

しゃもじ
 はい。どなた。

雫石
 雫石と申します。

しゃもじ
 まにあってます。

雫石
 セールスではありません。

しゃもじ
 ウチは先祖代々浄土宗です。それ以外の宗教はお断り。

雫石
 あ、いえ、先日電話でインタビューを申し込んだ者です。

しゃもじ
 ああ、はいはい。ちょっと待ってください。

カギ
 ガチャ。

しゃもじ
 どうぞ。

雫石
 おじゃまします。

しゃもじ
 こんなおばさんに何を聞きたいの。

雫石
 しゃもじさんは、ずっと専業主婦ですか。あ、どうぞおかまいなく。

しゃもじ
 そうです。独身の時は私立の女子高で体育の教師をしてましたが、結婚して退職してから、ずっと家にいます。

雫石
 働きたいと思ったことはありませんか。

しゃもじ
 わたしは社会とつながっていたかったので、先生を辞めたくなかったのですが、夫が家にいてくれといいましたから。

雫石
 この家は持ち家ですね。だんなさんの給料だけでローンは払えるんですか。

しゃもじ
 あんな安月給で、こんな家は買えませんよ。

雫石
 ではどうしたんです。

しゃもじ
 だんなの親と私の親から半分ぐらい援助してもらったんですわ。

雫石
 ですと、親からの干渉があるんではないですか。

しゃもじ
 私の親は、お金は出すけど口は出さない主義でいいんですが、だんなの親、特におばあちゃんが、孫、うちの息子を猫っかわいがり。すっかりひ弱な子に育ってしまいましたわ。

雫石
 お子さんは今は?

しゃもじ
 高校はなんとか卒業したんですが、大学には進学せずひこもっています。今も2階でゲームしてますわ。

雫石
 家と子供の将来、どっちが大切か考えなかったんですか。

しゃもじ
 おばあちゃんがどんな人か私は判ってましたから、私が働くから親からお金を出してもらわず夫婦でがんばりましょ。それに持ち家でなくても賃貸のマンションでもいいといったのですが。

雫石
 それでもダメだった。

しゃもじ
 はい。男は家ぐらい自分の家を持つべきだと、だんな親が強引にコトをすすめて。

雫石
 だんなは親に抵抗しなかったんですか。

しゃもじ
 ダメよ。ウチのんは。なんでも親のいいなり。

雫石
 それで孫がひきこもりになって、おばあちゃんはどうしました。

しゃもじ

 以前は、毎日のように来てたのですが、大学にも行かない孫、見捨てたようですわ。あの子のいとこ、だんなのお兄さんの長男が優秀な子で、国立大学の大学院生なんです。最近はその子になんやかんやと、ちょっかいかいてますわ。

雫石
 毎日、どんな暮らしですか。

しゃもじ
 べつに変わったことしてませんわ。朝6時に起きて、朝食のあと、7時にはだんなを送り出して、掃除、洗濯、買い物。お昼は弁当を三つ作ってあるの。それ食べるわ。

雫石
 弁当を三つ!

しゃもじ
 だんなのぶんと、私が食べるぶん、それから2階の息子のぶん。

雫石
 ひきもっている息子さんのぶんまで作ってるんですか。

しゃもじ
 部屋の前に置いておくの。私が食べ終わって2階へ行くと空の弁当箱がおいてあるわ。

雫石
 毎日、弁当を三つも。たいへんでしょう。

しゃもじ
 そんなことはないわ。今日のお弁当はこれよ。

雫石
 ご飯にコロッケが1個ころんとあるだけ。

しゃもじ
 そ。ご飯はパックのご飯をチンするだけ。コロッケはきのう買い物のついでに買ってきたモノ。

雫石
 夕食はどうしてます。

しゃもじ
 カレーと関東煮と手巻き寿司がローテーションよ。

雫石
 夕食は息子さんはいっしょに?

しゃもじ
 お皿に入れて置いておくのよ。あら、もうこんな時間だわ。ブブづけでもどうどすか?

雫石
 ははあ。もう失礼します。
 
 
 
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とつぜん対談 第124回 ヘルメットとの対談


今回の対談相手は、現場仕事ひと筋の方です。長年、重厚長大の製造現場で働いておられた方です。こういう現場で働く労働者の方々が今の日本を支えているのです。
 きょうの対談の相手はヘルメットさんです。

雫石
 こんにちは。

ヘルメット
 おう。ワシになんの用だ。

雫石
 ちょっとお話をお聞かせください。

ヘルメット
 ワシは見てのとおり古いヘルメットだ。別に面白おかしいことは知らんぞ。

雫石
 ヘルメットさん、かなり年季がはいってますね。

ヘルメット
 古いだけじゃ。

雫石
 もう何年ぐらい働いてるんですか。

ヘルメット
 さあな。50年は超えてるかな。

雫石
 ずっと現場ですか。

ヘルメット
 あたりまえじゃ。ワシに事務仕事ができると思うか。

雫石
 どんな現場でした。

ヘルメット
 いろんなとこ、渡り歩いたな。ビル建設、ダム工事、鉄工所、製鋼所、造船所。造船所が一番長かったかな。

雫石
 危険な職場ばかりですね。

ヘルメット
 まあな。

雫石
 今まで危ない目にあわれたことは。

ヘルメット
 何度かあるな。

雫石
 いちばん、危なかったのは。

ヘルメット
 そうじゃのう。地上6メートルのマンション建築現場じゃった。ワシは鉄骨の溶接作業をしておった。とつぜん雨が降り出した。雨の日の溶接作業は絶対にしてはいかん。すぐ作業を中止しようとしたが遅かった。感電して地上に落下した。

雫石
 どうなりました。
 
ヘルメット
 落ちたところにブルーシートを重ねてあったのと、電流が心臓を通らなかったので助かった。右手の小指は飛ばされたがな。


雫石
 あぶないところでしたね。

ヘルメット
 いろんな現場を経験すればそんなこともある。

雫石
 指がないといらぬ誤解を受けませんでしたか。

ヘルメット
 べつにヤーさんじゃのうても、ワシらの仲間にゃ指がないもんが多いぞ。

雫石
 やっぱり事故で。

ヘルメット
 事故もあるが、自分で指を飛ばすヤツもおるんじゃ。

雫石
 自分でですか?

ヘルメット
 事故で指を飛ばすと労災で金くれるんじゃ。会社からも見舞金がでる。それもろて休むんじゃ。で、金がなくなったら働きに出る。また指を飛ばして休む。それのくり返しじゃ。

雫石
 そんなことをすれば指がなくなるんじゃありませんか。

ヘルメット
 利き腕でないほうの親指と人差し指を残して、4本飛ばしたらしまいじゃな。

雫石
 そんなことまでしてお金もろて休んでなにしてるんですか。

ヘルメット
 焼酎かっくろうてパチンコしてるだけじゃ。

雫石
 お仕事はいまもしていらっしゃるんですか。

ヘルメット
 あたりまじゃ。ワシはまだ現役じゃぞ。

雫石
 へー、よほどお仕事が好きなんですね。

ヘルメット
 なにが好きなもんか。焼酎飲んで寝てるほうがよっぽどええ。


雫石
 もう引退してもいいでしょう。お金がないんですか。

ヘルメット
 ぜいたくせんかったら死ぬまでぐらいの金はある。

雫石
 ではなぜ働いてるんですか。

ヘルメット 
 なんでかなあ。ワシにもわからん。
 
 

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とつぜん対談 第123回 イカリとの対談

 ここは某国の領海です。確か、このあたりです。もう、かなり沖にでてきました。この海にその方は沈んでいます。今日の対談相手は海の底におられます。こういう場所の対談ですから海に潜らなくてはなりません。スキューバの道具を持ってきました。
 さて、潜水しましょう。7メートルの海底におられます。今日の対談相手はイカリさんです。

雫石
 こんにちはイカリさん。

イカリ
 はい。なんの用かな。

雫石
 少しお話させてください。

イカリ
 ワシは船から離れうち捨てられたイカリだ。ワシの話など面白くないだろ。

雫石
 いえ。イカリさんは海でのお仕事が長いんでしょう。ぜひ、お話をお聞かせください。

イカリ
 そうだな。ワシは海の仕事、それも船を係留させる仕事しかしたことがない。ワシはイカリだ。器用なことはできん。

雫石
 どんな船でした。

イカリ
 ワシは450Kgのイカリだ。そんなに大きな船ではない。

雫石
 貨物船ですか。

イカリ
 いいや。タグボートだ。

雫石
 タグボートというとどんな船ですか。

イカリ
 曳き舟だ。大きな船が入港したり出航したりする時、押したりして介添えする船だ。

雫石
 あなたがいた船はどんなタグボートですか。

イカリ
 春香丸という500tのハーバータグだ。働き者のいい船だった。神戸港で長年働いていたが、所属する海運会社が倒産して、中古船としてインドのムンバイに売られていった。

雫石
 ムンバイの船のイカリがどうしてこんな所に沈んでいるんですか。

イカリ
 ムンバイからさらにこの国の海軍に買い取られたのだ。

雫石
 海軍でタグの仕事ですか。

イカリ
 いいや。訓練用の標的だ。

雫石
 標的?

イカリ
春香丸はここの海軍の対艦ミサイルの標的になって沈没した。ワシはここに沈んでいるが船体は、ほれ、そこに沈んでいるだろ。
 

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とつぜん対談 第122回 耳かきとの対談

 きょうの対談相手は女性です。たいへんに美しい方と聞いております。この喫茶店で待ち合わせです。少し遅れてしまいました。目印にグレーのベレー帽をかぶっておられるはずですが。
 あ、おられました。紅茶を飲んでおられます。うう。お美しい。知性と品格。おちついた大人の女性の美しさです。耳かきさんです。

雫石
 おそくなってもうしわけありあせん。

耳かき
 いえ。わたくしも、ついさっき来たばかりです。

雫石
 あ、あのう。ここ、座っていいでしょうか。

耳かき
 どうぞ。ここは喫茶店です。わたくしにご遠慮なさることはありませんわ。

雫石
 は、はい。

耳かき
 どうしたんですか。なんか緊張なさってません?

雫石
 はい。あなたがあまりにきれいだから。

耳かき
 気にすることはありませんわ。わたくしも普通のおばさんですよ。わたくしになにを聞きたいのですか。

雫石
 はい。あのう。お住いはどちらですか。

耳かき
 夙川です。阪急夙川駅の少し北です。

雫石
 うわっ。いいところですね。ええしなんですね。1戸建てですか。

耳かき
 はい。

雫石
 夙川に1戸建て!すごいですね。お仕事はなにしてるんですか。

耳かき
 専業主婦ですわ。少しアルバイトはしてますが。

雫石
 ご主人の収入がすごいんですね。

耳かき
 そんなことありませんわ。ただのサラリーマンですわ。

雫石
 ただのサラリーマンが夙川に一戸建ては持てません。

耳かき
 一戸建てといっても小さなあばら家ですわ。

雫石
 そんなご謙遜を。うう、う。

耳かき
 どうなさいました。

雫石
 そんな、美脚を組んだら目のやり場に困ります。

耳かき
 あら、ごめんあそばせ。

雫石
 アルバイトってなにしてるんですか。

耳かき
 耳そうじ。

雫石
 え、耳そうじって?

耳かき
 お客さんの耳をそうじしてあげるんですわ。

雫石
 それだけでお金取るんですか。

耳かき
 はい。わたくしの耳そうじは評判がいいんですよ。気持ちがいいって。

雫石
 お客さんはどんな人ですか。

耳かき
 殿方がほとんどですね。

雫石
 へー。やっぱりあなたが美人だから。

耳かき
 そんなことわたくしは判りませんわ。わたくしがヒザ枕して耳をそうじしてあげると、殿方はたいそうお喜びになりますわ。

雫石
 ヒザ枕してくれるんですか。

耳かき
 はい。あなたもしてあげましょうか。

雫石
 うう、え、遠慮します。

耳かき
 遠慮なさらずに。サービスですのでお金はいりませんわ。

雫石
 いいです。いいです。

耳かき
 わたくしのヒザで耳そうじをしてあげるのでございますよ。気持ちいいことしてあげる。あ、これ、待ちなさい。

雫石
 うわあ。た、助けて。耳かきさんが耳かきを持って追いかけてくる。
 
 
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とつぜん対談 第121回 金満長者との対談

 おかしいなあ。ここで待ち合わせることになっているのです。もう、1時間以上待っているのですが来られません。今回の対談相手は大物だそうです。おいそがしいのでしょうか。
あ、来られました。あのでっぷりと太った人です。満面の笑みです。ゆったりゆっくり歩いてこられます。金満長者さんです。

雫石
 どうもはじめまして。雫石です。

金満長者
 ああ、きみが雫石くんか。なんの用かな。

雫石 
 ちょっとお話をうかがいたいと思いまして。

金満長者
 ワシになにが聞きたい。

雫石
 あなたは、たいそうお金持ちだそうですが、私ら貧乏人にはうかがい知れぬことをいっぱいご存知かと思いまして。

金満長者
 なんも珍しいことは知らんよ。ワシも人間じゃ。普通に生活しとる。

雫石
 個人資産はどれぐらいですか。億単位でしょう。

金満長者
 億?そんな貧乏やない。兆はあるじゃろ。

雫石
 兆!うへえ。なん兆ですか。

金満長者
 知らん。自分の財産を数えたことはない。

雫石
 それだけの財産をどうして築かれたんですか。

金満長者
 先祖から受け継いだものじゃ。

雫石
 あなたのご先祖は何してたんですか。

金満長者
 ワシもようしらん。なんでもじいさんから聞いた話では、鎌倉、足利、徳川の各幕府の影のスポンサーであったそうや。そういうわけで、これら三つの幕府が消滅した時、その財産を全部ウチが引き継いだそうだ。

雫石
 歴史の本には出てませんね。

金満長者
 あたりまえだ。ウチの家はおもてにはでん。

雫石
 それだけのお金ですと、いまの日本の経済にも影響するんじゃありませんか。

金満長者
 そうかも知れん。ワシが金を使うのをやめたら日本の経済は大打撃だろな。

雫石
 金満長者さんは、どんなお仕事をしているのですか。

金満長者
 へ、仕事?そんもん貧乏人がやることだ。ワシはそんなアホなことはせん。

雫石
 毎日なにをしているのですか。

金満長者
 別に、メシ食って、遊んで、酒飲んで、寝るだけだ。

雫石 
 どんなところにお住いですか。

金満長者
 日本に3ヵ所、アメリカに2ヶ所、アジアに2ヶ所、ヨーロッパに3ヵ所家があるな。

雫石
 今は。

金満長者
 日本じゃ。

雫石
 芦屋の六麓荘か東京の田園調布ですか。

金満長者
 そんな貧乏人がおる下町にはワシは住まん。

雫石
 へー。海外に行く時はどうしてるんですか。プライベートジェットですか。

金満長者
 何に乗るのか決めておらん。必要に応じていろんな飛行機をつこうとる。こないだ急いでリヒテンシュタインの家に行く時には、F22で飛んでいった。

雫石
 F22というとアメリカの最新鋭ジェット戦闘機ラプターですか。

金満長者
 そうじゃ。

雫石 
 操縦できるのですか。

金満長者
 ワシはできん。ワシはアメリカ空軍のスポンサーでもある。ワシ専用に二人乗りに改造したF22があるんじゃ。トランプに電話したらすぐ寄こしおった。ロシア製のMig31もある。プーチンにいって作らせた。それに、こんど家族で旅行する時のために三菱にいってMRJの特別あつらえを作らせとる。

雫石
 食事はどうしるのですか。

金満長者
 きのうの夕食はすしを食った。東京から小野三郎を呼んで握ってもらった。

雫石
 趣味はなんですか。

金満長者
 映画じゃ。

雫石
 どんな映画ですか。

金満長者
 ワシはスターウォースのファンじゃ。以前、ルークスがもうスターウォースを作らんといいおった。それでワシがテズニーにこれでどうにかせえと金をだしてやった。それからテズニーで作るようになったんじゃ。

雫石
 へー、テズニーでスターウォースを作るようになったんは、そういうことだったんですか。

金満長者
 そうじゃ。

雫石
 しかし、それだけお金があるということはどうなんでしょう。私ら貧乏人には想像もつきません。

金満長者
 いっしょじゃ。あんたらがカップヌードルを食べるのも、ワシが数寄屋橋三郎のすしを食うのも。

雫石
 いっしょじゃないでしょう。

金満長者
 いっしょじゃよ。カップヌードルはいくらだ。120円ほどじゃろ。ワシにとっては120円も120億もいっしょじゃ。

雫石
 ところでジャンボ宝くじを1枚買ってくれませんか。

金満長者
 いくらだ。

雫石
 300円です。

金満長者
 で、それ当たったらどうなる。

雫石
 3億円です。

金満長者
 3億円だしたらかんにんしてくれるんか。

雫石
 いいえ。3億円くれます。

金満長者
 いらんいらん。3億ぽっちり。当たったらあんたにやる。

雫石
 ありがとうございます。
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とつぜん対談 第120回 7月との対談

 きょうの対談の相手は7月さんです。え、いま、1月じゃないの。わざわざ7月さんを呼ばなくても、1月さんなら、ここにおられるじゃないですか。と、思われるかも知れません。わたしも最初は1月さんをお呼びしました。でも、現役の月さんです。どうしても時間が取れない。と、いうことで7月さんに来ていただきました。

雫石 
 どうも、お忙しいのによく来てくださいました。

7月
 いやあ、わたしはヒマですよ。冬場はヒマなんです。

雫石
 あなたはいつの7月ですか。今年の7月さんではないんですか。

7月
 はい、わたしは去年の7月を担当しました。ことしの7月はどうかわかりませんが。

雫石
 すると去年2018年の7月はあなたが担当でしたか。

7月
 そうです。

雫石
 やっぱり。なんだか暑く感じます。

7月
 う~ん。あれから半年たってますが、まだ冷めてないのでしょう。

雫石
 しかし、あなたは暑かったですね。

7月
 そんなこといわれても、わたしも苦しかったのですよ。

雫石
 え、あなたが暑いのではないんですか。

7月
 わたしは月ですよ。時間です。わたしが暑いのではなく、たまたまわたしの担当のときに高気圧がワザしたのです。

雫石 
 へー。月って担当制なんですか。

7月
 そうですよ。わたしは夏の担当です。実はわたし担当を変えてもらおうと上司にお願いしてるのです。

雫石
 夏はいやなんですか。

7月 
 別に夏はいやではないんですけどね。同僚がイヤなんです。わたしの両隣に座って仕事してるんですがね。そいつらとはウマがあわなくて。

雫石
 両隣って。

7月
 6月と8月ですよ。

雫石
 なんであの二人がイヤなんですか。

7月
 6月はじめじめじとじと。ブチブチ文句ばっかりいっていっこも仕事しません。はっきりせんヤツです。

雫石
 8月はカラッとしてるのではないですか。

7月
 あいつはすぐカッとなる。手を出す。暴力ふるいます。こないだなんか、わたしと取っ組みあいをしました。

雫石
 で、願いは叶えられそうですか。

7月
 わたしは夏を担当してずいぶんになります。わたし以外のモノが夏をやるとむちゃくちゃになるでしょう。

雫石
 ことしの夏はむちゃくちゃだったではないですか。地震に猛暑、豪雨、台風。

7月
 地震と台風はわたしじゃありませんよ。

雫石
 豪雨と猛暑はあなたでしょう。

7月
 確かにひどい豪雨と猛暑でしたたが、わたしだからあの程度だったんです。なれてないモノだったらもっとひどいことになってましたよ。

雫石
 そんなあなたが担当を外れたいのですか。

7月
 はい。こんどは春か秋をやりたいなあと思っているんです。

雫石
 しかし新人が夏をやるとひどいことになるんでしょう。

7月
 だいじょうぶです。わたしがしっかり伝授しますから。

雫石 
 では、ことし2019年の7月担当はあなたではないかも知れないんですね。

7月
 そうなるかも知れません。

雫石
 今年の夏が心配だなあ。
 
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とつぜん対談 第119回 白熱電球との対談

 どうもなんとも臭いところです。暗くて寒いです。ここはとある公園にある公衆便所です。海のきわにある公園の片隅にポツンとある公衆便所。海から吹く風が冷たいです。昼間は子供とおかあさんや、犬の散歩をする人が時折訪れますが、こんな冬の夜にこんな公園に来る人はいません。
 その公衆便所にボーと小さな灯りが灯っております。今回の対談相手は、その灯りを点しておられる方です。白熱電球さんとの対談です。

雫石
 こんばんは。

白熱電球
 こんな年寄りになんか用?

雫石 
 お話をうかがいたいと思いまして。

白熱電球
 わたしはこんな便所で灯っているだけの電球よ。わたしの話なんか聞いても面白くないよ。

雫石
 こちらで仕事始められて長いんですか。

白熱電球
 さあ、いつからかしら。忘れたねえ。

雫石
 あなた1人で、この便所の明かりを点しているのですか。

白熱電球
 以前は、3人の電球で照明してたけど、2人とも死んで、わたし1人生き残ったの。

雫石
 補充はされないんですか。

白熱電球
 こんな便所、というかこんな公園、ちかぢか閉鎖されるのよ。ここは市が管轄してる公園なの。こんな貧乏な市、無駄なお金は使わないのよ。

雫石
 この公園なくなるんですか。

白熱電球
 この前の海は昭和の時代は海水浴場があって、にぎわったのよ。この便所は海水浴場の脱衣場に併設された便所だったんだけど、海水浴場もなくなって、小さな公園が残って、この便所も残ったわけ。

雫石
 ここは何になるんですか。

白熱電球
 マンションになるそうよ。市がこの土地を売ったんだわ。ちょとでも赤字市政を助けたいそうね。

雫石
 公園がなくなれば近隣住民は困るのでは。

白熱電球
 こまりゃしないわよ。自治会は喜んでるわ。この便所の掃除や管理はここの自治会がやってるの。市はなんにもしないわ。トイレットペーパーも自治会のお金で買ってるみたい。それに少し離れた所に新しい公園ができるのよ。そこのトイレは、便所じゃないのよトイレよ、灯りはLEDよ。

雫石
 そういえば近ごろの照明はLEDが多いですね。

白熱電球
 そうよ。いまや蛍光灯さえ時代遅れ。わたしなんて過去の遺物だわ。

雫石
 私は白熱電球が好きですね。あたたかいじゃないですか。暖色系の光で。LEDは冷たい感じがします。

白熱電球
 それにわたしなんかよりLEDの方が明るいでしょう。

雫石
 そうですね。

白熱電球
 それにわたしは熱いのよ。火事の原因になるわ。

雫石
 LEDでもちゃんとした器具を使わないと危険ですよ。

白熱電球
 でも、わたしの熱も役に立つのよ。LEDは鶏の卵を温めてヒヨコにできないけど、わたしはできるのよ。

雫石
 それに縁日の夜店の明かりはやっぱりあなたでないと風情がでません。LEDじゃあかるすぎて。

白熱電球
 そういってもらえるとうれしいわ。では、そろそろお別れね。フッ。

雫石
 あ、白熱電球さん。ああ。きえた。わっ真っ暗だ。


 星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。


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とつぜん対談 第118回 穴あけパンチとの対談

 
この会社だ。今回の対談の相手は、ここの社員さんです。女性です。この会社、戦前からある会社で、小さいけれど歴史のある会社です。その人は事務員さんだそうです。さて、入っていきましょう。うわっ木の廊下だ。ギシギシ音がします。ずいぶんと年季の入ったオフィスです。ええと、あ、おられました。なんかこわそうなおばさんです。

穴あけパンチ
 堀川くん、この伝票ダメ。課長のハンがないでしょ。

雫石
 あのう。

穴あけパンチ
 あ、ちょっと待って。天野くん、出張の精算まだでしょう。早くしなさい。

雫石
 すみません。

穴あけパンチ
 ちょっと待ちなさい。金谷くん。年末調整の書類は?税金の払い戻しいらないの。

雫石
 あのう。

穴あけパンチ
 ちょっと待ちなさいっていってるでしょう。椿さん。なんですか、この納品書は。単価のない納品書は納品書ではありません。ただの送り状です。送り状を私に回さないでよ。大洋産業に電話してとっとと納品書を出させなさい。今日中に納品書を出さないと、支払いは来月回しになるといいなさい。これ、なに泣いてるんですか。

雫石
 こまったな。お忙しいようなんで、こんどにしましょうか。

穴あけパンチ。
 うん、あんただれ。

雫石
 お電話をさしあげた雫石といいますが。

穴あけパンチ
 ああ、そうだったわ。で、なんの用?

雫石
 お話をうかがいたいのです。お時間はいいですか?

穴あけパンチ
 いいわ。ここではなんだから応接室に行きましょう。

雫石
 お忙しいところをすみません。

穴あけパンチ
 いいのよ。ほんと、わたしがいないとここの総務は回らないのよ。

雫石
 あなたは大ベテランの事務員さんですね。

穴あけパンチ
 そうなるかしらね。ずいぶんこの会社で働いているけど。

雫石
 あのう、失礼ですが、いあゆる「お局さん」ですね。

穴あけパンチ
 別に失礼ではないわ。じっさい、わたし、お局なんだから。

雫石
 ずいぶん長いこと事務仕事やってるんですね。

穴あけパンチ
 そうねえ。わたし、書類に穴を開けてとじるのがメインで、穴あけ仕事を20年やってきたけど、最近は総務の仕事全般をやらされているの、疲れたわ。

雫石
 最近は穴あけ仕事はあまりやらないのですか。

穴あけパンチ 
 なんか知らないけど、ペーパーレスとかで、なんでも必要なことは電子化するから、書類に穴を開けてファイルにとじるなんてことはあまりしないの。

雫石 
 これからどうするんですか。

穴あけパンチ
 どうしましょうかねえ。なんだかんだで気がつけば40半ばの大年増。事務の大ベテランとなったけど、独身の大ベテランにもなったわ。どっかにいい男いないかしら。

雫石
 私の友人で50を遥かに超えているのに独身の男が何人かいますが。

穴あけパンチ
 ちょうだい。どれでもいいから、ちょうだい。わたしが穴を開けたげる。
 
 
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とつぜん対談 第117回 カラーコーンとの対談

 今日の対談の相手はカラーコーンさんです。カラーコーン。ほらよく工事現場なんかに置いてある赤い円錐形のもの。これです。これ。そのカラーコーンさんがこの商店街の奥でお待ちです。しかし、この道、ずいぶん前に工事は終わっているはずなのに、どうしてカラーコーンさんがいるのでしょうか。
 あ、おられます。ずいぶんボロボロになったカラーコーンさんが1つポツンと立っておられます。

雫石
 こんにちは。カラーコーンさん。

カラーコーン
 ・・・・・・・・・・。

雫石
 あれ、どうしたのかな。カラーコーンさん。

カラーコーン
 ん。だれじゃ。ワシをおこすのは。

雫石
 お休みのところを申しわけありません。ちょっとお話を。

カラーコーン
 こないだ電話くれたんはあんたか。こんなうち捨てられたカラーコーンになんの用だ。

雫石
 なぜ、あなただけがこんな所に。

カラーコーン
 忘れられたのじゃ。工事が終わった時仲間はみんな引き上げられて、次の現場に行ったのにワシだけ置いて行かれたのじゃ。

雫石
 なぜですか。

カラーコーン
 ワシを見れば判るじゃろ。

雫石
 そういえば失礼ながら、ずいぶんボロボロですね。下の四角いツバなんか半分以上ちぎれているじゃありません。元は赤だったんでしょう。キズとほこりで灰色じゃないですか。お仲間はどうだったんですか。

カラーコーン
 みんなきれいだったぞ。新品でこの現場に仕事に来たからの。ワシだけが古いカラーコーンだったんじゃ。

雫石
 それじゃ、置いて行かれたというより、捨てられたんじゃ。

カラーコーン
 そうかも知れんな。

雫石
 しかしこの商店街、だれも通りませんね。

カラーコーン
 よく見ろ。シャッターばかりじゃろ。ここで商売してる店はもう1軒もない。あそこの2階にポツンと灯りがついとるじゃろ。あそこにばあさんが一人住んどるだけじゃ。

雫石
 そんな商店街をよく工事しましたね。

カラーコーン
 昔はここもにぎわったもんじゃ。ここでつき当たりになっとるが、以前は駅に通じる道があったんじゃ。

雫石
 駅?駅なんかなかったですよ。

カラーコーン
 昔はH電鉄の急行停車駅があったんじゃ。それが北の方に大きな町ができて線路がそっちを通ることになって、こっちの駅は廃止になったんじゃ。それにその町に大きなショッピングセンターができた。だれもこんな商店街にはこんわ。

雫石
 工事ってなんの工事だったんですか。

カラーコーン
 駅へ行く道を拡張してきれいなレンガを敷き詰める工事じゃった。

雫石
 工事は完成したんですか。

カラーコーン
 中止じゃ。半分できたところで駅廃止の報が入ったのじゃ。

雫石
 そんなことは工事始める前に判らなかったのですか。

カラーコーン
 さあ。市とH電鉄の連絡が悪かったんじゃろ。それに年度末じゃっかたから市の建設課も予算を使い切りたっかたんじゃろ。

雫石
 それから、あなたは、このさびれた商店街のどんづまりで一人で立ってるんですか。

カラーコーン
 そうじゃ。

雫石
 さみしくないですか。

カラーコーン
 べつにさみしくはない。

雫石
 毎日なにしてるんですか。

カラーコーン
 ワシの仕事は交通整理じゃ。人がここを通らんようにするのが仕事じゃ。

雫石
 だれも通らないでしょう。こんなシャッター商店街のつき当たり。

カラーコーン
 そんなことはワシは知らん。人が通ろうが通るまいが、ワシはここに立っておるだけじゃ。こら、そこに足を入れたらダメじゃ。工事中じゃ。

雫石
 工事は中止でしょう。

カラーコーン
 あくまで中止じゃ。工事は完成したわけではない。いつ再開するか判らん。まだ工事中といってもいい状態じゃ。

雫石
 すみません。工事中でした。それではお仕事がんばってください。
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とつぜん対談 第116回 台風との対談

 今日の対談相手は、私の地元神戸におられます。おられるというより、落ちているといった方がいいでしょう。その方は先日、はるか南方から神戸にやって来て大暴れした方です。
 台風さんです。なんでも市役所の南がわ東遊園地におられるとか。あれ、台風は去ったのではないかと、思われるかも知れませんが、台風の芯はまだ神戸におられるそうです。

雫石
 東遊園地にやってきました。このへんにおられるはずですが。

台風
 おおい。ここだよ。

雫石
 あれ、確かに声が聞こえました。どこにいるのだろう。

台風
 ここだよ。ここ。

雫石
 あれ、こんなところに小さくて丸いモノ。目玉が1つ。鬼太郎のオヤジを小さくしたようなもんが落ちている。ん、声が聞こえる。こいつがしゃべってるんだ。こいつが台風か。

台風
 はい。ぼくです。ぼくが台風です。

雫石
 台風って?台風は確かに先週、神戸に来たが、北のほうへ去って、もう消滅したはずやけど。

台風
 ああ、あの雨と風はぼくの服です。ぼくは、たいてい陸地に上陸すると服がぬげるのです。

雫石
 だったらなぜ先に上陸した四国ではなく神戸で服がぬげた。

台風
 いちがいにいえません。上陸してもぬげないときもあるし、海の上でぬげるときもありまあす。ぼくの場合、神戸に上陸した時ぬげました。

雫石
 だったら、お前が台風の本体か。

台風
 はい。そうです。

雫石
 台風って、南の海で発生する空気の渦ではないのか。

台風
 違います。南の海で、海面のタンパク質が固まってぼくができるのです。だいたい2センチほどの丸い玉なんですが、ぼくは大型に育ちました。4センチあります。

雫石
 しかし、おどろいたな。台風が手のひらの上に乗っかるなんて。だったらなんであんな暴風雨になるんだ。

台風
 ぼくは空気の服を着ます。裸じゃ寒いからどんどん空気を着こみます。そうしているうちに、ぼくに向かって空気が流れ込みます。

雫石
 それにしても、なんでお前は毎年毎年日本に来るんだ。お前のせいで大きな被害をこうむるんだ。もう来るな。

台風
 ごめんなさい。ぼくも来たくて日本に来てるんじゃありません。ぼくは自分では動けないんです。

雫石
 しかしお前は狙ったように日本に来るじゃないか。

台風
 ぼくは高気圧のへりに沿って動いているんです。ぼくの意志ではありません。

雫石
 だったら高気圧が悪いのだな。

台風
 はい。でも、ぼくがこういったことはないしょにしてください。

雫石
 なんでだ。

台風
 高気圧は強いんです。高気圧に取り囲まれるとぼくは動けません。

雫石
 それにしても憎たらしいヤツだな。こないだの4日はワシ、会社休んだんだぞ。こうしてやる。ピシッ。

台風
 痛ああい。

雫石
 お、目からでたのは、それは涙か。台風も泣くのか。

台風
 泣きます。ぼく、とっても弱いんです。

雫石
 なにが弱いもんか。お前は最強の台風といわれてたぞ。

台風
 だから、あれはぼくがまとっている服ですって。ああ。うう。

雫石
 どうした。なんだか小さくなったぞ。

台風
 お別れです。

雫石
 ああ、仁丹ほどの玉になった。

台風
 さようなら。

雫石
 消えた。
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とつぜん対談 第115回 夏の高気圧との対談

 暑いですね。今年の暑さは異常ですな。この暑さ、8月いっぱい続くそうです。今回は、この暑さの元凶、夏の高気圧さんに来ていただきました。

雫石
 どうも。しかし暑いですな。

高気圧
 そだね。

雫石
 そだねって、ああた。他人ごとですな。この暑さ、ああたがワザしてるんでしょう。

高気圧
 そうだ。この暑さ、ワシのしわざである。

雫石
 なにをしたんです?
高気圧
 別になにもしとらん。

雫石
 ウソ。なにもせんとこんなに暑くならないでしょ。

高気圧
 ことしはワシは二つになってだけだ。チベット高気圧と太平洋高気圧の二つだ。

雫石
 なんで、そんないじわるするんですか?

高気圧
 ワシは別にいじわるなんかしとらん。たまたま二つの高気圧が重なっただけじゃ。

雫石
 それが日本列島の上空だったんですよ。迷惑千万です。

高気圧
 そんなことワシは知らん。ワシは気象現象だ。お前ら人間が地球に出てくる前からおるんだ。

雫石
 ああたのせいで多くの人が熱中症になって倒れてるんですよ。

高気圧
 だから、そんなことは知らんとゆうとる。

雫石
 この暑さいつまで続くんですか。

高気圧
 そのうちワシもここをどく。10月ごろになりゃ涼しくなるじゃろ。年の瀬だ大晦日だ正月だというころにゃ暑くはないぞ。35度越えの年末年始ちゅうことはないから安心せい。

雫石
 そんな。いまが暑くて困ってるんです。

高気圧
 そんなにワシがイヤか。なんならワシがここからどこうか。

雫石
 ああたがどいたら、どうなります。

高気圧
 この時期にワシが日本の上空からいなくなったらどうなるか。試しにどいてみようか。

雫石
 どうなります。

高気圧
 台風がなんぼでも日本を直撃するぞ。ワシがおるから台風はあないなコースを取るのじゃ。

雫石
 それでも台風は来ますよ。

高気圧
 たまたまワシのへりの都合で日本に上陸する台風もある。

雫石
 そんなあ。全部の台風を防いでくださいよ。

高気圧
 うるさいヤツだな。暑いの台風はイヤだのと。

雫石
 あれ、怒った。高気圧にも感情があるんですか。

高気圧
 あたりまえだ。

雫石 
 高気圧が機嫌が悪くなるとなにになるんですか。

高気圧
 低気圧になるんじゃ。
 
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とつぜん対談 第114回 古時計との対談

 カンカン照りの陽射しは木の葉がさえぎってくれるから、暑さはマシだが、なんせヤブ蚊が多い。あ、かゆい。また刺された。身体のあちこちがかゆくてたまりません。あ、見えてきました。林を抜けた先に古い洋館が建ってます。
 今回の対談相手は、この洋館の中におられます。ギギギギー。古びた扉を開けて中に入ります。うわっ。クモの巣だらけだ。あ、おられました。あのつき当たりにおられます。古時計さんです。


雫石
 こんにちは。

古時計
 ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。

雫石
 あの。古時計さん。こんにちは。

古時計
 ボーン。ボーン。

雫石
 あのう。ボーンだけじゃわからないんですが。

古時計
 ボーン。ボーン。

雫石
 あのう。

古時計
 わかっておる。トシは取ったが耳はちゃんと聞こえておる。今は午前9時じゃろ。九つボーンを鳴らさなきゃならんのじゃ。ワシの大事な仕事じゃ。

雫石
 へー、まだ現役なんですね。

古時計
 あたりまえだ。ワシはまだまだ元気じゃ。

雫石
 この家の人は?

古時計
 みんな亡くなった。

雫石
 するとこのお屋敷は廃屋なんですね。

古時計
 おこるぞ。ここは廃屋じゃない。こうしてワシがこの屋敷を守っておる。

雫石 
 守ってるとおっしゃいましたが、具体的にはなにしてるんですか。

古時計
 この屋敷の時の流れはワシが司ってるんじゃ。

雫石
 こんなだれもいないお屋敷で。

古時計
 たしかに、今はだれもいないが、いつ、だれが、この屋敷の主人になってもいいように、ワシが時間だけを動かしているのじゃ。

雫石
 このお屋敷の時間はあなたが動かしてるんですか。

古時計
 そうじゃ。ワシがこうして時間を動かしているから、この屋敷がこうして21世紀の今の世にあるんじゃ。

雫石
 このお屋敷はもともとどなたのお屋敷だったのですか。いつ建てられたのですか。

古時計
 建てられたのは明治41年。清野兵太郎公爵の別邸として建てられたのじゃ。

雫石
 では、その清野公爵がずっとお住いで。

古時計
 そうじゃ。公爵は一昨年亡くなられた。138歳じゃった。

雫石
 138歳!そんな人がおられたんですか。

古時計
 そうじゃ。ワシはこの屋敷ができた時にここに掛けられた。この屋敷で行われたことはすべて見て来た。

雫石
 このお屋敷でそんなにいろんなことがあったのですか。

古時計
 清野兵太郎公爵は一般には知られていない人物だが、明治以降の日本の真のフィクサーともいうべき人物じゃ。

雫石
 清野兵太郎公爵。私も知りません。

古時計
 明治、大正、昭和、平成と4代を生き、この日本を影から動かしてきたお方じゃ。

雫石
 へー。

古時計
 日本の大きな決めごとはすべて、この屋敷で決められてきたのじゃ。

雫石
 そんなお屋敷の時間を司っていたのですね。あなたは。

古時計
 そうじゃ。例えば、先の第二次世界大戦の日本の無条件降伏は昭和二十年の御前会議で決まったとされているが、本当は、その前年、清野公爵が時の東条内閣の閣僚全員をこの屋敷に呼んで決めたのじゃ。

雫石
 へー。そうですか。

古時計
 1972年。田中角栄がこの屋敷に来た。日中国交回復を清野公爵に相談するためじゃ。

雫石
 このお屋敷は日本を動かしていたんですね。

古時計
 そうじゃ。そして屋敷の時間を動かしていたのはワシじゃ。

雫石
 あなたが止まるとどうなります。

古時計
 ワシはもうすぐ止まる。見ておれ。

雫石
 あ、どうしたんですか。ああ、振り子が止まった。うわっ、天井からホコリが落ちてきた。壁にひびが。あぶない逃げよう。

雫石
 ああ、お屋敷が崩れ落ちた。うん。なんだこの揺れは。うわっ大きな地震だ。

 南海トラフ大地震、富士山大噴火。そして鬼島カルデラの大噴火が同時に起こった。日本の時間が止まった。
 
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とつぜん対談 第113回 ほうきとの対談

 先月はちりとりさんとの対談でした。と、いうわけで、今月はそのちりとりさんとは長年の相棒、ほうきさんに来ていただきました。ほうきさんも、ちりとりさんと同じく長年、日本のプロ掃除で活躍されてきました。

雫石
 ようこそおこしくださいました。

ほうき
 いやいや。

雫石
 先月はちりとりさんに来ていただいて、お話をうかがいました。

ほうき
 そうか。なんかいってたか。あいつ。

雫石
 ほうきは寿命が短く一人前になる前に寿命がつきるとおっしゃってました。

ほうき
 寿命がつきるといっても死ぬわけではない。現役を引退するということじゃ。

雫石
 そうだと思いました。あなたはおいくつですか。

ほうき
 ワシか。ワシは81じゃ。

雫石
 お元気ですね。

ほうき
 まあな。しかしワシの頭を見てくれ。すっかりすり減って、まるぼうずじゃろ。

雫石
 そうですね。ちりとりさんは今でも週に一度は仕事に出ておられるとか。

ほうき
 あいつはちりとりじゃから年取っても仕事ができるんじゃ。わしらほうきは年とったらダメじゃ。

雫石
 いまは完全にご隠居ですか。

ほうき
 ときどき、テレビ局からプロ掃除の解説を頼まれる。

雫石
 どうですか。最近の若いほうきは。

ほうき
 だめだね。掃除の基礎ができとらん。基礎ができとらんのに、ゴミ掃除ばかりしたがる。

雫石
 え、ほうきはゴミ掃除するのが仕事じゃないんですか。

ほうき
 最近は、ついこの前高校を卒業したようなほうきが、プロのゴミ掃除の場にたってゴミ掃除をする。基礎ができてないから、早々にシュロをすり減らして引退するんじゃ。

雫石
 ではどうしたらいいんですか。

ほうき
 素振りじゃ。

雫石
 ほうきの素振りってどうするんですか。

ほうき
 シュロを地面につけずに振るんじゃ。1000回2000回振るんじゃ。ワシら若いころは毎日1000回素振りしてた。

雫石
 すごいですね。

ほうき
 ワシがプロに入ったころは、3年はゴミを掃除させてもらえなかった。3年たって、初めて2軍の掃除場でちりとり相手にゴミ掃除させてもらったんじゃ。

雫石
 最初はどんなんでした。

ほうき
 そうじゃな。ワシのデビューはお寺の境内の掃除じゃ。秋のころじゃった。落ち葉がいっぱいじゃ。

雫石
 その落ち葉を掃除したのですね。

ほうき
 そうじゃ。最初はなかなかちりとりに落ち葉が入らんのじゃ。

雫石
 掃除できましたか。

ほうき
 ダメじゃった。先輩に助けてもろた。
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とつぜん対談 第112回 ちりとりとの対談

 今回の対談は、その道ひとすじの大ベテランの方です。仕事というモノはどんな仕事でもたいへんなモノです。簡単な仕事なんてありません。ひとつの仕事を長い年月にわたり勤められ、極められるのは尊敬に値するものです。今回は、そんな仕事の達人というよりも人生の達人といっていい方にお話をうかがいます。

雫石
 お忙しい中を、よくいらしてくださいました。

ちりとり
 いやあ。ワシはもう隠居じゃ。

雫石
 では、お仕事はもうしておられないのですか。

ちりとり
 こんな年寄りの仕事がええという奇特なご仁がまだおってな、週に一度は仕事にでとる。

雫石
 ちりとりさんのお仕事は、やっぱりお掃除ですか。

ちりとり
 そうじゃ。ワシは掃除しか知らん。

雫石
 そのお掃除のお仕事はなん年やっていおられるのですか。

ちりとり
 う~ん。そうじゃな。もう、かれこれ50年になるかな。

雫石
 50年も。すごいですね。

ちりとり
 ワシは、ご覧のように金属製の三つ手ちりとりじゃから、大事に使えばなん年でももつんじゃ。

雫石
 いままで、どんなとこを掃除してきましたか。

ちりとり
 いろんなとこを掃除してきなあ。

雫石
 特に印象に残っているところは?

ちりとり
 そうじゃなあ。刑務所を掃除したこともあったな。

雫石
 刑務所のゴミはやっぱりほかとは違うんですか。

ちりとり
 刑務所の庭には、「後悔」「恨み」「反省」がようけ落ちとるな。

雫石
 へー、そうですか。刑務所によって違うのですか。

ちりとり
 そうじゃのう。やっぱり「恨み」がようけある刑務所はワシらもつらい。「反省」が多かったら、ワシらとしても掃除のしがいがあるもんじゃて。

雫石
 週に一度だけ掃除に行ってるところは、どんなところですか。

ちりとり
 病院じゃ。そこの理事長とは長いつきあいでな、そこは呼吸器疾患の患者さんが多い。ワシの掃除でないと細かいホコリが残ってダメなんじゃ。

雫石
 掃除というとちりとりさんだけではできないんではないですか。ほうきも必要でしょう。

ちりとり
 もちろんじゃ。じゃがほうきは寿命が短い。一人前になる前に寿命がつきることが多いんじゃ。

雫石
 しかし、実際に床を掃くのはほうきではないですか。

ちりとり
 ほうきはみんなワシのリードで掃除をするんじゃ。

雫石
 へー。じゃ、いろんなほうきと組んで掃除をしてきたんでしょうね。どんなほうきが印象にのこっていますか。

ちりとり
 そうじゃなあ。お掃除甲子園という高校生の掃除大会があるんじゃ。そこで春夏連覇をなしとげた超高校級というほうきがおったんじゃ。

雫石
 はいはい。覚えてますよ。プロに入って大いに期待されたほうきでしょう。

ちりとり
 そいつと組んで野球場の掃除をしたんじゃが、ぜんぜんゴミをワシに入れないんじゃ。そいつが掃除すると掃除にならんのじゃ。

雫石
 どうなりました。

ちりとり
 頭を丸めて出家しおった。

雫石
 ほうきが頭を丸めると何になるんですか。

ちりとり
 ただの棒になるんじゃ。

雫石
 棒になってどうなりました。

ちりとり
 どうなったかのう。
 
 
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