鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ウミオウム

2011-02-06 13:56:09 | 海鳥
Photo
All Photos by Chishima,J.
ウミオウム 以下すべて 2011年1月 北海道十勝沖)


 半月ほど前、十勝沖へ船を出してもらう機会があった。昨年4月より日本財団の助成を受けて毎月実施してきた調査だが、11月以降は時化のため欠航が相次ぎ、実に3ヶ月ぶりの船出であった。厳冬期としては稀に見る穏やかな海況で気温も高く、快適な観察条件の中、沿岸数㎞で卓越していたウミスズメが、沖合に向かうにつれてコウミスズメやハシブトウミガラスに取って代わられる等、冬の海上鳥類相を垣間見ることができた。
 やや沖合に達し、ウミスズメが減った頃、サイズが中型な点、上面が黒っぽく、下面が白いという配色はウミスズメと似るが、上面の黒みが強く腑に落ちない鳥が現れて来た。距離や凪とはいえ多少揺れがあるので、細かい特徴を観察するのは難しい。そこで、1羽を撮影して液晶画面で確認すると、画像は不鮮明ながら厚みのある扁平な嘴と、白い虹彩とその後方から伸びる白い飾り羽が顕著なウミオウムであった。これには驚いたがその後も続々出現し、まだ集計していないが、遠くて不明や除外扱いとして「今にして思えば…」というのも含めれば、50羽は優に下らない数と思われる。


ウミオウムの飛翔
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 多くの図鑑で稀な冬鳥や数少ない冬鳥とされるが思いのほか記録は少なく、昨年発行の「北海道東部鳥類目録」においても「11月下旬~3月に岬や海上で記録があり、少数が冬鳥として渡来するものと考えられるが、詳しい分布や渡来実態は不明。(中略)夏期の記録もある。」と曖昧な言及をせざるを得ない種であった。私自身は1~3月の北海道~三陸沖、6月の羅臼沖で観察したことがあるが、いずれも1~数羽程度で、これほどの数は初めてだった。図鑑類にも「単独か数羽で観察され、群れは作らない」とあるが、最大で15羽ほどの群れがいくつか観察された。また、5羽前後の小群はそれより多かった。


ウミオウムの群れ
15羽ほどの群れで、写真には9羽が写っている。
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ウミオウム
上の写真の一部を拡大したもの。4羽が写っており、最右の個体は目より下は波間に隠れている。
Photo_4


 今回の観察例が特殊なものなのか、実は毎年結構な数が飛来するのかは今後の調査を待たねばならないが、本種を確認することを困難にしている理由の一つに、飛び立ち距離の大きさがあるように感じられた。特に5羽以上の群れは警戒心が強いようで、まだ点のような距離で飛び立って船から離れてしまう(=遠距離・後方からの飛翔の観察になる)ことが多かった。船のすぐ傍で観察できたのは、単独で海上に浮いていた1羽だけであった(この個体も警戒して体を沈めがちだった)。


ウミオウムの群れの飛び立ち
これでもかなりトリミングしている。それくらい飛び立ち距離が大きい。「やや沖合」といっても陸地がはっきり見える程度の沿岸。
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 くわえて、他のウミスズメ類との識別である。上述の通り、飛んでいると中型というサイズと上面黒、下面白という配色から、ウミスズメと紛らわしい。ウミスズメの背の色は灰色であるが、逆光や曇天下、距離がある場合等にはかなり黒っぽく見え、このことが観察者に「中型で白黒のウミスズメ類はウミスズメ」という経験則を作らせている。ウミオウムの特徴である分厚い嘴や目後方の飾り羽は、角度や距離の条件が余程良好でないと、現場での目視は難しいと思われた。同属のエトロフウミスズメとは、体下面が白色な点で異なるが、飛翔シルエットが角度によってはエトロフ的に見えることがあり、逆光等色の見えない条件下では注意が必要と思われた。また、船の傍に浮いていた1羽は警戒して体を沈めていたため、体下面の白色が見えず、かなり近距離で嘴を確認するまでは「エトロフ?」と思っていたので、そのような場合も気を付ける必要があろう。一方で、非常に距離がある海上に浮いていたり飛んでいて、下面の白色が目立つような時には、白色が鳥を大きく見せる効果があるようで、ケイマフリやウミガラス類等の大型種と混同しそうな場合もあった。白黒どちらの部分が主に見えるかによって、大きさや配色の印象がかなり異なり、いろんな種に「化ける」のも、本種の識別を困難にしている可能性がある。


後方からのウミオウム・飛翔
白黒の中型ウミスズメで、ウミスズメと見誤りやすく思えた。
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側面からのウミオウム・飛翔①
三角形の頭部や胸から腹にかけての膨らみのシルエットは、エトロフウミスズメと似るが、胸から後方は明瞭に白色。角度や距離の関係で、嘴や飾り羽は不鮮明。
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側面からのウミオウム・飛翔②
嘴や飾り羽がある程度わかる。翼下面全体が黒いのは、広い白色部のあるウミスズメと異なる。
Img_9850


ウミオウム2羽の飛翔
角度の関係で顔はあまり見えない。
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 本種のいわゆる「冬羽」に関する情報が乏しいのも、観察例が少ない要因かもしれない。今回の観察では体下面の白色は、夏羽同様胸までのものから前頚や喉の下まで及ぶものまで様々であった。また、上面の色も炭のように真っ黒な個体から、やや灰色みをおびるものまで個体による差が大きかったが、これらが齢や性に関係あるのか議論するには、まだまだ観察が必要である。


ウミオウム
冒頭写真と同じ個体。白色部は胸までで、顔~首は全体が黒い。
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4羽のウミオウム
上での群れ写真の一部を切り抜いたもの。体下面の白色範囲が広く、顔にまで及んでいる個体も。白色部が広く、上面の色もやや灰色がかっているせいか、遠目にはずいぶん大きく見えた。
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 図鑑によっては、本種が他のウミスズメ類よりも海上高くを飛翔するとされるが、今回の、また過去の観察経験からも、確かにコウミスズメに比べれは高いかもしれないが、ウミスズメやエトロフウミスズメ等の中型種やケイマフリ等の大型種と比べた場合には、特に高くを飛翔する印象は抱いていない。
 一緒に乗船した友人からは後に、「しかしデジカメってすごいね。海上調査に革命が起きた感がありますな。カメラが出せれば…。ヒゲ(注:シラヒゲウミスズメ)が出てもわかりそうですな。ライフリストは増やせませんが。」とのメールを受け取った。ライフリストを増やせるか否かは別として、その場で画像を確認でき、必要があれば後にパソコンで明るさやシャープネス等を補正可能なデジタルカメラは、海上での鳥の識別やそのための情報収集に非常に有用なツールであるといえる。いつどこにどんな鳥がいるといった基本的な情報すら十分にない冬の海上の厳しさと、そこにある魅力を再認識した厳冬の一日であった。


ウミオウム
冒頭写真と同個体。体は沈み気味だが、下尾筒白が目立つ。背の一部は灰色がかる?
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(2011年2月6日   千嶋 淳)



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2 コメント

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これは興味深いですね・・・ (kura)
2011-02-06 17:23:37
これは興味深いですね・・・

今までウミオウムのイメージは喉までしっかり黒い感じでしたが、
実際は意外と白っぽいですね。
特にしたから2枚目の写真は、一見するとウミスズメに見えます!
この感じだと、大型フェリーではかなり見落としそうですね・・・

大間航路でも狙えるかも!?と思いました!
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kuraさん、こんばんは。 (ちしま)
2011-02-07 22:34:52
kuraさん、こんばんは。
これまでは「下面の白いエトロフ」的な印象だったのですが、今回多くの個体を見てみて意外とウミスズメとかぶる部分があるなと思いました。
苫小牧沖から尻矢崎沖にかけての太平洋では、フェリーでも何度か観察しているので、大間航路でも十分可能性あるのではないでしょうか。
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