All Photos by Chishima,J.
(コミミズク 以下すべて 2008年1月 北海道十勝管内)
陽は少し前に沈んだが、残照が仄かな茜色の世界を作り出している。うっすら雪を纏った砂丘の奥には、細波の一つも無く凪いだ海。その海で昼間賑やかだったクロガモの「ヒー、ホー」もすっかり止み、周囲は穏やかさと静寂に包まれている。砂丘で朽ちかけている、いつかの木杭の上に佇むコミミズクが1羽。否、佇んでいるというのは人間の勝手な解釈で、実は全神経を集中させて餌のネズミが移動する音を探ろうとしているのが、頻繁に顔の向きを変えていることからも窺える。
前方から別のコミミズクが飛んで来た。杭にいた個体の目付きが鋭くなり、「ギャァー」という警戒声が発されると、新参者はあっけなくUターンして去った。しばし後、同じ方向から今度は1頭のキタキツネがとぼとぼと歩いて来る。杭の上のコミミズクは、只でさえ大きく黄色い目を見開き、注目しているが、キツネはそれを知ってか知らずか、相変わらず低速で、ほの暗い砂丘を近付いて来る。コミミズクの背後を通り抜けた直後、強力な視線を感じてか、キツネはその歩を止めた。2つの肉食動物の眼差しが交差した瞬間は、おそらく数秒だったのだろうが、見ていた私にはとても長く感じられた。キツネが何事も無かったように歩き始めると、この空間を支配していた緊張は瓦解し、コミミズクも探餌を再開した。
出会いの一部始終(コミミズク・キタキツネ)
コミミズクは気にしているが、この時点ではキタキツネはまだ見ていない。
4つの瞳がじっと見つめ合う、緊張の瞬間。
キタキツネが歩き出し、緊張が解れた。
不思議な出会いから数分、ネズミの気配を察知したのか、あるいは飛翔しながらの探餌に切り替えるのか、コミミズクは杭から飛び立って、灰黒色の夜の帳が降りかけている原野に消えた。先刻のキツネも、今頃雪中のネズミに向かって跳躍しているのかもしれない。
飛び立ち(コミミズク)
(2008年1月9日 千嶋 淳)